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22/08/26(金)22:25:45 飛行機... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1661520345433.jpg 22/08/26(金)22:25:45 No.965076323

飛行機が雲を抜けたのが、ぱっと輝いたオレンジでわかった。窓から差し込んだそれは、アタシの膝の上で気だるげに広がったブランケットに軟着陸した。 アタシは、そんな光につられて窓を覗いてみる。抜けたばかりの雲海は、日の当たるところだけが同じ色で透き通っていて、遠く水平線に沈む太陽の気高さを引き立てていた。 「綺麗」 アタシは思わずひとりごちた。海外旅行にはよく行くから、飛行機に乗る機会はかなりある。少なくとも、同年代の人たちに比べて多いはず。しかし、ここまで綺麗な夕陽を見た記憶はない。

1 22/08/26(金)22:25:56 No.965076403

そうしてみると、パイロットという職業が人気な理由も、ちょっとだけわかる気がする。 そう、ここは地上から遠い。 「ほんとだ」 ほど近くで囁かれた聞き慣れた声に、アタシは驚いて振り返った。トレーナーの顔だ。目と鼻の先にある。 ごくりと唾を呑んだ。 まるで少年のように無邪気な顔で、小さな客室窓を覗いている。どこかで見たことのある笑顔だ。いつだったか、思い出せない。 一方のアタシは、びっくりするくらい火照り出して、息をするのもやっとだ。 男の人がこんなに近い距離にいたことなんてないんだから、当然。 そう、当然。

2 22/08/26(金)22:26:10 No.965076506

そんなことを考えていると、アタシの鼻腔を爽やかな香りがくすぐった。いい匂いだ。香水の匂いか、下ろしたてのスーツの匂いか、はたまた、この人自身の匂いか、わからない。思考が鈍い。 頭がぼんやりとしていることにようやく気づいたアタシは、深呼吸して、息を整えようとする。 ダメだ。 むしろ、匂いがたくさん入ってきて、いつまでも落ち着きそうに無い。それに気づかないんだから、やっぱり思考が鈍っている、とどこかで冷静なアタシが言う。 ふと、トレーナーが視線をアタシに移した。 アタシも見ていたから、目が合った。トレーナーの顔。二人並んで座った、雲の上の世界。 今まで溜め込んできた知識の中で、似たようなシーンは一つしかない。

3 22/08/26(金)22:26:25 No.965076602

その先を思い出す前に、アタシはぶんぶんと頭を振って、さっきまでの思考を振り払おうとしてみる。きっと違う、と、アタシの心が言っている。しばらく前からずっと、何かを否定しようとしていた。何かは、わからない。わかりたくない。 ただ一つ、わかっているのは、たどり着いて仕舞えば、動悸の意味がわかれば、この関係は終わってしまうということ。それだけは、不思議な確信があった。 トレーナーがさっと体を引いたのがわかった。きっとアタシが頭を振ったのと、同時だったと思う。 同時なら、嬉しい。

4 22/08/26(金)22:26:42 No.965076730

「ごめん。年甲斐もなくはしゃいじゃって」 「いい」 「さすがに、いまのは無遠慮……」 「だから、気にしてない」 と、アタシはトレーナーの言葉を遮った。こんなのは真っ赤なウソだ。未だ鳴り止まない心臓こそが答えだった。でも、どうしても嫌な感じはしない。むしろ……。 「やっぱり、ごめん」 トレーナーが言った。その言葉に、アタシは窓を向きながら頷いた。窓が薄く背中の景色を反射していたけど、トレーナーの表情までは見えなかった。 これは、意味のない謝罪だと思う。気を遣っているのだろうか? そう思って、アタシが口を開こうとしたその時だった。 アタシの体が椅子から離れたのは。

5 22/08/26(金)22:26:56 No.965076821

あまりに激しい揺れに、思わず悲鳴をあげる。 両手で肘掛けを握っていないと、椅子に座ることすら難しいくらいの揺れだ。 機体が乱気流にでも突っ込んだのだろうか? 体が窓側に振られて、アタシは両膝にぐっと力を入れた。目もぎゅっと閉じて、下唇を噛む。 飛行機には逃げ場がない。不安も襲ってくる。落ちたらどうしようと、そんなはずもないのに、そう思わずにはいられない。 そうやって、しばらく揺られていると、機内にアナウンスが響いた。耳を絞っているせいか、何を言っているのかよく聞こえなかった。

6 22/08/26(金)22:27:13 No.965076928

「大丈夫?」 はっきりとしたトレーナーの声。 アタシは頷いた。これも、強がりのウソだ。 機体の揺れは、先ほどよりも激しくなってきた気がする。子供がどこかで泣き始めた。いや、ずっと前から泣いていたのかもしれない。 ひときわ大きく機体が揺れた。 体が揺れるままに振り回される。 内臓がぐっと持ち上げられる、鳥肌の立つような感覚に、思わず、隣にあったモノをぎゅっと掴んだ。 掴んだそれがびくりと震える。 柔らかい。あたたかい。 これは腕だ。 トレーナーの。

7 22/08/26(金)22:27:32 No.965077072

「ごめん!」 トレーナーの腕を掴んだことに気づくのが、かなり遅れた。恥ずかしくて、申し訳なくて、アタシは手を離そうとした。 離せなかった。 アタシの手を、誰かの手が重ねられたことに気付いたから。 ずっと大きくて、ゴツゴツしていて、ほんの少しだけ高い体温が優しく移ってくるのがわかる。 アタシは、ゆっくりと顔を上げた。 「大丈夫だ、ドーベル」 トレーナーはじっと見つめながら口を開いた。 堪えきれないほど、胸が締め付けられて、アタシは手に力を込める。 どうして、この人はそうなんだろう。

8 22/08/26(金)22:27:51 No.965077214

あの模擬レースでも、 初めてG1を走った時も、 その、いつでも。 いつも、見てくれていた。 いつも、声を聞かせてくれた。 耳がじんじんする。 手のひらに、暖かさがじわじわと広がる感触。 トレーナーがアタシに笑いかけた。アタシは、目を閉じて、その肩に、頭を乗せてみる。 あぁ、なんて心地いいんだろう。 今までけたたましく聞こえていたエンジン音も、泣き声も、ずっと遠くへ行ってしまって、今は、心臓の鼓動しか聞こえなくなってしまった。

9 22/08/26(金)22:28:11 No.965077348

「大丈夫」 アタシは声に出して言った。 返事はない。 機体は揺れているけれど、問題はない。 つまり……。

10 22/08/26(金)22:28:43 No.965077599

アタシは気づいてしまった。 さっきの夕陽を見たときの顔は、アタシがレースを走るその時、いつもみせてくれる笑顔だった。 全て、わかってしまった。 自分にウソをついていたこと。 ずっと、ずっと、思っていたこと。 思い出したシーンと、その先のこと。 アタシは、 この人のことが。 それに気づいた時、 身体がふわりと浮かんだ気がした。 機体が揺れたからなのかは、分からなかった。

11 22/08/26(金)22:48:57 No.965085765

甘酢っぺぇ…

12 22/08/26(金)23:05:48 No.965092721

これちょっと不穏だけど大丈夫なの…?

13 22/08/26(金)23:09:16 No.965094302

クソっ...ジレってえですわね...私ちょっと行ってメジロにしてきますわ

14 22/08/26(金)23:26:43 No.965101472

メジロ観光の無人島ツアー導入とかであってくれ

15 22/08/26(金)23:29:54 No.965102584

ファイナルシリーズの流れにはなってくれるなよ…

16 22/08/26(金)23:32:41 No.965103579

なんてこったもう助からないぞ

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