22/08/21(日)12:48:23 よくあ... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1661053703718.jpg 22/08/21(日)12:48:23 No.963055763
よくある話だった。 テイエムオペラオーさんに憧れて、トゥインクルシリーズを走ることを夢見て、運よく中央の門をくぐることができた。 だけど入学して気づかされた周りのレベルの高さ。 我武者羅に走り続けてきたけど上とは全然縮まらない差。 何とかデビューにこぎつけて、デビュー戦は11人中9着。 その翌月に挑んだ未勝利戦では4着になんとか滑り込んだ。 初勝利が見えてきたそんなタイミングでケガをした。 リハビリを続けたけど足の違和感が取れなかった。 それに加えて故障の恐怖で強く足を踏み込むことができなくなった。 思い切り走ることができないウマ娘にトゥインクルシリーズに居場所はない。 たった2戦を走ってステージで歌うこともなく私はトレセン学園を去ることになった。 私にとっては人生を揺るがす死んでしまおうかと考えるぐらい辛い出来事だった。 だけど世間から見ればどこにでもある本当によくある話だった。
1 22/08/21(日)12:49:08 No.963056012
出戻ってきた私を両親は暖かく迎えてくれた。 弟も何も言わなかった。 私もレースについてはもう話したくなかった。 だからシューズやウェア、これまでの映像記録もすべて処分した。 匿名でやっているSNSもレースに関するキーワードは片っ端からミュートにした。 だけどここまで情報を遮断しても実際の人付き合いのなかでレースの話になることは逃げられない。 だから人に会いたくなかった。 昔の友達にも会いたくなかった。 人の目が怖かった。 だからと言って引きこもっているわけにもいかず、通信制の高校に編入した。 通信制でも最低限度の投稿義務は人付き合いを避けたい今の私からすればぴったりだった。 私はただただ勉強に明け暮れた。
2 22/08/21(日)12:49:38 No.963056193
そんな生活を送ったせいか私はそれなりの大学に入ることができた。 その頃には傷口もかさぶた程度になり、過去の話をされても笑って流すぐらいにはなった。 全日制の大学に通い、レースとは関係のないサークルにも入った。 そこで友達もできたし初めての恋人もできた。 その恋人とは就職を機に別れてしまったが、大学の時の友達とは今でも付き合いがある。 そして今の私はごく普通の中小企業に勤めるただの会社員だ。 一時はどん底だった私も引退から時が経って大分まともな人生になった。 デスクワークが中心でレースどころか走ることすらロクにしていない。 現役当時から比べるとすっかりだらしない体になったがそれでも充実した日々を過ごせていた。 だから、もう当時を振り返ることすらなくなっていった。 「先輩って、トレセンとか行ってたんですか?」 飲み会の場で新人の子にそう言われるまでは。
3 22/08/21(日)12:50:01 No.963056321
引退以降で出会った人にこういうことを聞かれるのは何度かあったが、その時は言葉を濁してきた。 幸いこれまで会った人は察してそれ以上突っ込んで聞いてくる人はいなかった。 「先輩の名前で検索したらWikiに名前があったんですけど、これ先輩ですか?」 だからこうやって無神経にずけずけと聞いてくるタイプとは初めて出会った。 怒りの前に会ったことのないタイプを前に驚きが勝ってた。 「……そうだけど」 「やっぱり! 先輩もトゥインクルシリーズ走ってたんすね!」 「ちょっと、あまり大きな声で言わないで。職場ではあまり話してないんだから」 「あ、スンマセン」 「それにその聞き方はデリカシーなさすぎ。Wikiに私の名前があるなら私が大した成績残してないのは知ってるでしょ?」 「あー……そのー」 「いまさら口ごもる?」
4 22/08/21(日)12:50:43 No.963056546
過去のことを話すのは本当に久しぶりだが、思ったより嫌悪感はなかったし胸を痛めることもなかった。 もう10年以上経ってるんだから傷はすっかり塞がっていたのかもしれない。 なら振り返ってみるのも悪くないだろう。 「2回レースに出た後怪我しちゃってね。リハビリしたんだけど結局駄目だったんだ」 「そうだったんですか……」 「Wikiにはそこまで書いてないよね? でもよくある話よ、こんなこと」 「ホントすみません、答えにくいこと聞いちゃって」 「そんなに謝らなくていいから」 少々無神経な後輩だが悪人ではないのだろう。 落ち込むそぶりを見せる後輩を前に話題を変えるため昔の記憶を掘り起こす。 そうすると当然真っ先に思い出す名前があった。
5 22/08/21(日)12:51:21 No.963056767
「悪い思い出ばかりじゃないよ? デビュー戦一緒に走ったメンバーに凄い子が居てね」 「へぇ」 「向こうはデビュー前から凄い実力者って噂されててね。私は負けるもんかって頑張って走ったけど」 あのレースは今でもはっきり思い出せる。 必死に食らいつこうとするのに絶望的に話されていく差。 結局2着とは2バ身差、私とは実に2.2秒の差を付けられた。 「ホントに強い子でね。結局弥生賞まで無敗で。皐月賞は2着だったんだけど……ダービー、勝ったんだその子」 私がリハビリに足掻いてた頃だったから悔しさもあったけど、同時に誇らしい気持ちもあった。 私を鮮烈に抜き去っていたあの子は本当に強い子だったんだって胸を張って言える。 「たった2戦だけど、後のダービーウマ娘と一緒に走れたのはいい思い出かな」
6 22/08/21(日)12:51:51 No.963056942
ここまでこうやって落ち着いて話せるようになった自分にはちょっと驚いた。 もう大丈夫かもしれない。 ミュートしっぱなしの設定を解除するのも、スポーツニュースを一切見ないようにするのも。 もしかしたらもう大丈夫かもしれない。 そんなことを思っていると後輩は少し考えてから口を開いた。 「先輩。もしかしてその人ってマカヒキさんですか?」 「おっ、よく知ってるね。もう結構前のダービーウマ娘だけど」 「俺、レース好きでよく見てますから」 「君の年齢だとあの子がダービーウマ娘になったのって結構ちっちゃい頃だよね? よく覚えてるね」 「えっと、先輩?」 「?」 「マカヒキさんだったらこの前の春天に出てたじゃないですか。覚えてるもなにもないですよ」」 「……えっ!?」
7 22/08/21(日)12:52:41 No.963057196
「マカヒキちゃん引退してなかったの!?」 思わず大きな声が出た。 近くにいるほかの同僚が驚いた顔をしているような気がするが、そこまで気が回らない。 「えっ? 先輩同期なんですよね? むしろ何で知らないんですか?」 「あっ、えっと、引退してからレース関連のニュースとかSNSとか見ないようにしてたから」 「あー……なるほど」 「それよりマカヒキちゃんの話! 私と同い年だから年齢的にはもう……」 「そうですね。俺もダービーウマ娘がこんなに長く走っているのなんて見たことないです」 そう、トゥインクルシリーズどころかドリームトロフィーリーグすら引退してもおかしくない年齢だ。 たまに重賞取ることを諦められず走る人が居ないわけではないが、ダービーウマ娘では聞いたことがない。 何でまだ走っているんだろう。 なぜそこまで走れるんだろう。
8 22/08/21(日)12:53:14 No.963057390
私は飲み会後に家に帰って徹底的にマカヒキちゃんの経歴を調べてみた。 ダービー後、渡仏してニエル勝を勝利し、凱旋門に行ったけど結果は残せなかった。 ここまでは私もギリギリトレセンに居たから知っている。 それ以降は何かが崩れたように結果が出せていない。 ここ最近は掲示板にも入れていない。 ミュートを解除したSNSで彼女の名前で検索していると厳しい言葉が並んでいた。 『みっともない』 『早く引退しろ』 『ダービーウマ娘の名が泣く』 私が憧れたあの子への厳しい声に思わずアプリを閉じた。 そんな声が聞こえているのかはわからないけど、そんな彼女は次の京都大賞典に出るようだ。 いくつかのインタビュー記事を読んでみると引退する気はまだ無いようだ。 何故まだ走るのか、の問いに対しては曖昧なことしか言っていなかったが。
9 22/08/21(日)12:54:00 No.963057677
京都大賞典当日、マカヒキちゃんが出走すると聞いて私は久しぶりにレースの生放送を見ていた。 出走前に観客に手を振るマカヒキちゃんは私の当時の思い出より大人になっていた。 だけど、彼女に注目する人は少ないようだ。 有力な子が居ないこのレースで人気は9番人気。 無理もない、最近全く勝っていないんだから。 何故私はテレビをつけてしまったんだろう。 私が憧れた彼女の落ちぶれる姿を見て留飲を下げたかったのか? テレビを消そうか悩んでいる内に、スタートが切られる。 もうここまで来てしまったら、見守るしかないだろう。 人気上位の子が先行に付けてマカヒキちゃんはそれを追う形になった。 実況でもその名前は軽く触れられて流されていく。 最終コーナーを回る。 先行に付けていた上位の子たちが抜け出した。 マカヒキちゃんはその後ろに付けて完全に壁になっている。 終わった、そう思った。
10 22/08/21(日)12:54:41 No.963057918
「えっ!?」 外側に僅かに空いた隙間から集団を捌き抜け出した。 だけど先頭からは2バ身は空いている。 残り1ハロンを切っている、間に合わない。 そう思った瞬間に見せたその末脚。 あの時私が憧れた足がそこにあった。 『大外マカヒキ、ダービーウマ娘も来た!』 実況が興奮気味にしゃべっている。 カッと胸が熱くなった。 レース引退と共に失われいた現役時代の熱い気持ち。 それが一気に蘇ってきた。
11 22/08/21(日)12:55:19 No.963058154
「頑張れ……」 じりじりと先行の2人に迫る。 「頑張れ」 すさまじい歓声が聞こえる気がするが、耳に入ってこない。 「頑張れ!」 私は気づけば喉が潰れそうな勢いで叫んでいた。
12 22/08/21(日)12:55:31 No.963058230
『アリストテレスかマカヒキか!? 勝利成ったかマカヒキ!?』
13 22/08/21(日)12:56:12 No.963058454
目の前の光景が信じられなかった。 G2とはいえ、現役勢相手にロートルのウマ娘が勝ってみせた。 どう考えても勝てる状況じゃなかったし、l勝てるメンバーでもなかった。 でもマカヒキちゃんは勝ってみせた。 テレビの中ではマカヒキちゃんがインタビューに答えている。 『私はダービーウマ娘です。ここに至るまでたくさんの人にたくさんの思いを託されてここに来ました』 『私を信じてくれる人が居ます。私に期待してくれる人が居ます』 『何より私は私に期待しています。自分がまだまだ走れるって信じています』 『だから、私は走り続けます。応援、よろしくお願いします』 私はそのインタビューを見て、本当に久しぶりに泣いた。 私のことなんて覚えていないだろうし、私に対して言ってくれているわけでもないのはわかっている。 それでも嬉しかった。 私が為せなかった思いも背負って走って食ている気がして。
14 22/08/21(日)12:56:35 No.963058597
「やばっ、そろそろ行かないと」 あの京都大賞典から少し時間が経った。 何かが大きく変わったわけでもない。 マカヒキちゃんは変わらず厳しい成績だし、私も相変わらずの企業勤めだ。 ただ、あれから私はマカヒキちゃんの応援を続けている。 当時の同級生とも連絡を取り始めた。 そしたら引退した同期が中心となってマカヒキちゃんの応援団が結成されていることを知った。 団長はサトノダイヤモンド、結婚して子供もいるというのに精力的に活動しているようだ。 私は迷わず加入し、あれからマカヒキちゃんのことを追っかけ続けている。 今日もこれから札幌まで遠征だ。 きっと向こうは私の存在なんて気づいていないかもしれないけど、それでいい。 沢山の思いを背負って走ってくれているなら、私はその姿を見守りたい。 彼女が本当に走れなくなるその日まで、私は応援し続けよう。 いつか彼女が目指す場所にたどり着けると信じて。
15 22/08/21(日)12:57:06 No.963058777
終わり マカヒキ複勝買ったので勝利祈願
16 22/08/21(日)13:00:30 No.963059925
良いものをみた…
17 22/08/21(日)13:08:06 No.963062428
お辛い話かと思いきやまさかのマカヒキファン…
18 22/08/21(日)13:08:43 No.963062625
すごくいい話だ… ありがとう
19 22/08/21(日)13:11:10 No.963063422
良かった
20 22/08/21(日)13:12:06 No.963063754
美しいものを見た
21 22/08/21(日)13:18:53 No.963066089
>団長はサトノダイヤモンド だと思ったよ!
22 22/08/21(日)13:21:06 No.963066863
https://db.sp.netkeiba.com/horse/2013105319/ モデルはナディールかな? 成績一緒だしジョッキーはリュージだし
23 22/08/21(日)13:43:43 No.963074733
マカヒキが京都大賞典を勝った時のマカヒキ応援団の脳汁ヤバそう