虹裏img歴史資料館

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22/08/21(日)00:18:06 どうし... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1661008686621.png 22/08/21(日)00:18:06 No.962903366

どうして、こうなったのだろう。 今日は、いつもと同じただの月曜日なはずだった。会社に出勤して、家に帰る。もう当たり前になったそのサイクル。ただ、今日は偶然にも定時で上がれて、ご飯でも食べて帰ろうかと思案している私の目の前に、その少女が現れるまでは。 「――先輩ですよね?」 私が、昔、競争ウマ娘だったときの名前。それで呼びかけられて、思わず足を止めてしまった。とっくに、10年も前に捨てたその名前を知っている人は、もう私の周囲にいないはずだった。 それでも、私は知らない、そんな名前じゃないと押し通せばよかったのだ。しかし、妙に確信をもったその表情につい、言葉を返してしまった。 「その名前は、もうとっくに捨てたのよ」

1 22/08/21(日)00:18:39 No.962903584

「どうして、ここがわかったの」 いただきます、とお行儀よく手を合わせた少女―ジャックドールに、私は問いかけた。彼女の目の前にはモンブラン、私の前にはいちごのショートケーキ。 競争ウマ娘としてG1を勝てなかった私は、怪我で引退をしてしばらくは学園の中で働いていたが、それもやめ、関係のない会社に就職していた。ウマ娘としてではなく、普通に働ける会社に拾ってもらえたのはなんとも幸運だったというほかない。それももう随分と前の話で。ただそのときに黙って姿を消したものだから、学園では行方不明という扱いになったはずだった。G1を勝っていない私のことなど他人様が覚えているわけもなく当然私のウマ娘としての名前など会社の人は知らないし、競争ウマ娘としての知り合いは今の私の居場所など知らない。はずなのに。 「秘密です。強いて言うなら、気合?」 「……気合で見つかるのは、少し困るのだけれど」 「大丈夫ですよ。私、トレーナーにも誰にも先輩のこと話してないので。私しか知りません」 そういって私の目の前にいる美少女は、にっこりと笑った。

2 22/08/21(日)00:19:02 No.962903736

今年の金鯱賞ウマ娘。ジャックドール。グッドルッキングウマ娘として取り上げられるほどの美少女だとは聞いていたが、なるほど生で見るとたしかに、彼女の姿は美しかった。やや金色がかった明るい茶色の綺麗な髪は、さぞやレースの中じゃ映えるだろう。整った、まさしく美少女という言葉が相応しい少女を見つめていると、思わず絆されそうになる。ケーキを食べたらさっさと帰りなさい、貴方もうすぐ札幌記念でしょう。そう伝えれば、「私のレース知っててくださったんですね!」と無邪気な声を上げた。見た目通り愛らしく可愛らしい、いい子だ。私も手を合わせて、ケーキを切り崩しにかかる。 「ところで、私。聞きたいことがあって来たんです、ホー……」 「悪いけど、その名前はもうとっくに捨てたのよ。私はもうそんな名前のウマ娘のことは知らない」 それでも、この可愛らしい少女相手でも、許せないことはある。ピシャリと言い放ったが、ジャックドールは怯むことなく困ったように肩を竦めた。結構強くいったつもりだったのに、メンタルが強い。

3 22/08/21(日)00:19:29 No.962903921

「じゃあ、先輩。先輩に聞きたいことがあるんです」 「別に貴方の先輩じゃないけれど」 可愛らしい顔して案外頑固だ。やや呆れて文句を返すもジャックドールはそれを黙殺して、私の目をまっすぐに見た。 「先輩の勝った、毎日王冠の話を聞きたいんです」 毎日王冠、その言葉を認識して、私は反射的に押し黙った。 そのレースは、私の最後の栄光だった。 私の競争ウマ娘時代で、一番大事な思い出。 私が一番強かったレース。 「……いやだけど」 いきなり現れたと思えば、随分な仕打ちをしてくれる。苦々しく拒否の言葉をはけば、美少女はほんの少し思案するように首を傾げた。 「どうしても聞きたいなら、トレーナーに聞いて。私に聞かないで」 「トレーナー、先輩のことだけは絶対に教えてくれないんです」 ああ、やっぱりそうかと納得した。そうでなければそもそも、私のところまで来る必要はない。腫れ物のように扱われるのは癪だが、黙って立ち去ったのはこちらだ。あの人が、いなくなった私のことを軽々しく話すとも思えなかった。

4 22/08/21(日)00:19:53 No.962904097

「なら、貴方に話す価値もないってことよ。忘れなさい」 結局そういうことなのだ。競争ウマ娘としての私は、結果を出せなくて、だからこうして競争ウマ娘としての経歴を捨てて生きている。話は終わりだ、とショートケーキにフォークを突き刺す。ジャックはもうすぐレースなのだからこんなくだらない話で引き止めないで、はやくトレセンに帰さなければならない。さっさと食べて、といって目線をそらすと、 「そんなことはないです」 やけにはっきり、彼女はそう言った。 「だって、言ってたんですよ、パパレさんのトレーナーさんが。トレーナーが今まで担当したウマ娘の、すべてのレースの中で、一番すごいのは先輩の毎日王冠だって」

5 22/08/21(日)00:20:16 No.962904247

フォークに力を加えると、ケーキの底のタルト生地が割れるサクッという音がはっきりと耳に届いた。パパレさんと呼ばれるウマ娘を脳内で検索して、そのトレーナーに辿り着いて、すぐに腑に落ちた。トレーナーの大親友と称される彼は、私もダービーのときに担当してもらっていて、よく見知った存在だった。そもそも私の話題を振るのは、彼の親友ぐらいなものだろう。懐かしい名前だ。いつのまにか彼は日本を代表するトレーナーにまでのし上がっている。私にとってはもうとっくに、テレビの向こうの人だった。 「あの人、ダービーのとき私の担当だったから。贔屓目で見てくれたんでしょう」 ジャックドールの視線が痛いくらいに降り注でいて、耐えきれなくてそっと目を伏せる。ひとかけ、ケーキを口に運んだ。

6 22/08/21(日)00:20:26 No.962904306

「それだけじゃないです。ウオッカさんがトレセンに来たときに聞きました。あの日のウオッカさんは本当に調子が良くて、負ける気なんて全くしてなかったのに先輩に差されたって。めちゃめちゃ強いウマ娘だったって」 「お世辞を言ってくれただけ」 もう一度、ショートケーキのタルト部分を強めに砕く。どうしても私は、顔をあげることができなかった。今目を合わせたら、彼女に何を言ってしまうかわからない。渦巻く、酷い言葉たちをぐっとケーキとともに飲み込んだ。私のコンプレックスと、ジャックドールはなんの関係もない。 「だから先輩。私は、まだ先輩のレースを超えられてないんです。トレーナーの一番のレースになれてない」

7 22/08/21(日)00:20:40 No.962904389

甘いはずのショートケーキの、味が消えていく。貴方にはチャンスがあり、私にはない。ほんの小さな過去の栄光さえ、数年も経てば消えてしまう。 「だから、私は貴方の毎日王冠がどんなレースだったか、知りたくて」 「毎日王冠は所詮G2なの」 つい、口が滑った。まずいと思って、口を噤む。聞こえていなければいいと願ったけれど、ジャックドールはきちんと聞き取ってしまったようで、目を丸くして私を見た。

8 22/08/21(日)00:21:08 No.962904545

「……重賞ですよ」 そうね、でもG2なんてなんの意味もないの。その言葉を飲み込んで、咀嚼する。今から私が吐くのは、呪いの言葉かもしれなかった。私と、トレーナーが散々苦しめられたそれを、この子にまで背負わせる必要なんてまったくない。まったくないのだけれど。 「G1を、勝たなきゃだめよ」 絞り出した声が思いの外震えていて、唇を噛んだ。額に手を当てて、目を閉じる。 「貴方は、きっと勝てる力があるから。勝てる力があっても勝てないのがG1だけれど、それでもジャックドールはG1を勝たなきゃいけない。G1を勝たなきゃ、」 果たして、目の前の少女はどんな表情をしているのか。見たくはなかった。私がプレッシャーに押し潰されて、最後まで勝てなかったG1レース。部外者が勝てというのは、簡単だ。勝つのは全く、簡単じゃないのに。それは私が一番よくわかっていることで、勝てそうなのに勝てないねと揶揄されることがどれだけきついかは私が一番身をもって知っていることで。それなのに今私は、呪いを押し付けようとしていて。

9 22/08/21(日)00:21:22 No.962904632

「……わかりました」 明るく、凛とした声が耳に届く。ジャックドールは、声も美しいのだなとこのとき初めて気がついた。凛々しくて、自信に満ち溢れた声。そのあまりの気品に、ほんの少し気圧されてしまった。 「私はG1を勝ちます。勝ったら、また先輩に会いに来ていいですか」 G1を勝てるなんて、そんな夢物語を本気で思ってる頃は私だって強かった。私は自分が弱かったつもりはないけれど、それでもG1では勝てなかった。だから、ジャックドールはまだ知らないだけなのだ、G1を勝つのがいかに大変なのかを。 そう思うのに、でもとよぎる。でも、もしかしたら。もしかしたらジャックは、私と違ってG1のプレッシャーなんてものともしないのかもしれない。G1ウマ娘という選ばれた存在になれるのかもしれない。どうせなれるわけないのだから、と切り捨てることだけは私には出来なかった。 「好きにして」 G1勝ったら会いに来るだなんておんなじことを言って別れたトレーナーは、まだ私を見つけてくれてはいないけれど。だから、こんな約束、本当に期待してはいないのだけれど。久々に夢を、一緒に見てあげてもいいかなとは思った。

10 22/08/21(日)00:22:51 No.962905186

こんな幻覚を私は読みたいんです 明日はジャックドール君単勝1万円入れてきます おそ松さまでした これにて失礼します

11 22/08/21(日)00:27:27 No.962906959

>明日はジャックドール君単勝1万円入れてきます !掛かり

12 22/08/21(日)00:28:17 No.962907262

今気づきましたが日付まわってたのでもう今日ですね…

13 22/08/21(日)00:31:44 No.962908604

ハッピーエンドでいいんだよね!? そうじゃないと寝れない

14 22/08/21(日)00:33:40 No.962909402

>ハッピーエンドでいいんだよね!? >そうじゃないと寝れない G1勝てればハッピーエンドです!私は勝てると思ってます!勝て!

15 画像ファイル名:1661011647096.png 22/08/21(日)01:07:27 No.962922324

キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!

16 22/08/21(日)01:10:53 No.962923467

ウワーッお手書きありがとうございます!

17 画像ファイル名:1661012205291.png 22/08/21(日)01:16:45 No.962925404

キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!

18 22/08/21(日)01:18:09 No.962925912

美少女だ...

19 画像ファイル名:1661012590625.png 22/08/21(日)01:23:10 No.962927605

もう先を越されてた…

20 画像ファイル名:1661012648206.png 22/08/21(日)01:24:08 No.962927922

手癖で一部が強調されてしまったボツです

21 22/08/21(日)01:27:09 No.962928741

美少女がたくさんだ ありがとうございます

22 22/08/21(日)01:31:06 No.962929931

ハゲニイの代表馬になってくれ

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