虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。

  • iOSアプリ 虹ぶら AppStoreで無料配布中
  • 立ち向... のスレッド詳細

    削除依頼やバグ報告はメールフォームにお願いします。 個人情報,名誉毀損,侵害等について積極的に削除しますので、メールフォームより該当URLをご連絡いただけると助かります

    22/08/07(日)01:15:10 No.957507772

    立ち向かい、見つめ合い、夕焼けは朝焼けに色を変えた。 星のすみかに息する場所を移して、空の上から下を見つめる。 ああ、この世界はきっと、壊されるために存在している。 なら、ボクは。いましめもとうぜんもぶっ壊して。 早く、さ。大人になろうって、そう思うよ。 遠く遠い幸せに、さよならばいばい終わりを告げて。 ボクらは一歩前に進んで、やがてこどもにさよなら出来たなら。 そのあと出来た亜麻色の傷は傷のすべてを舐めて癒やして。 それからどうか、ボクを慰めて――

    1 22/08/07(日)01:16:08 No.957508048

    「あむ……」  これまでずっとボクは……いや。それまでずっとの方が正しいか。  ボクには信じているものがあった。あったんだ。そう、過去形で。 「はぐ……」  ボクには前に出るだけの才能と賢さと華やかさがあるってことを、心底から。信じて疑わなかったんだ、誰も否定しなかったってのもあるだろうけど。まあたぶん、いわゆるところの才能ってやつがあったんだ、ボクには。努力の必要とか練習の大事さとかは前提条件としてあるにせよ、ボクがやることなすことは大体全部上手くいった。それをパパやママ、友達に先生が応援してくれたりするもんだから、楽しさや嬉しさが相乗効果になっていってさ。前向きに取り組んでいたんだ、さまざまなことに。走って踊って歌って学んで。その都度褒められていくたびに自分の価値を自覚した。

    2 22/08/07(日)01:16:28 No.957508156

    「ん~……」  才能のあるものこそ、檜舞台に上がらねばならないのよ。親戚のおばさんがいつかに言ってくれたある種のおまじないが、ずっとずっと心の中の大事なところに突き刺さっている。物事に絶対はない、だからこそ勝ち方を極めたい。尊敬する会長がどこかのインタビューで語っていた言葉は、ボクを成り立たせる土台の基部に組み込まれている。  結果ってのはどこまでも冷酷なヤツで、事実だけしか教えてくれないものだ。その代わりとしてなのか、結果如何ではあるけれど勝者には必ず権利が、実力を誇るための機会と大義名分が与えられる。だからボクは結果さえ伴えば大口を叩くのは構わない、むしろそうするべきだとさえ思っている。 「……はぁむ……」  だけど、守りごともある。増長だけは決してしない。慢心はいつかボクの足を引く。王子様を気取りながら冷静に周りを俯瞰して、自分の明日を主観する。いつでも最高の勝者であれるように、ボクはボクを戒め続ける。けれど、そこまで徹底していてもなお。レースに付き物な仄暗いモノたちは、ボクの想いを知ることもなく、土足でもってずかずかと入り込み、ボクの心を踏み荒らす。 「あぐっ……」

    3 22/08/07(日)01:17:05 No.957508375

     不調、思うように伸びない足、痛み、嫌な軋みがふくらはぎを貫く、ああ、またやっちゃったらしい。信じていた拠り所が形を失い崩れていく。胸のあいだから抜け出ていく複雑な想い、熱く熱く燃えようとする魂はやがて体力を失って、溜め息じゃなく褪せた涙になって外側へ出ていく。才能の山を抱えながら、一年。一年、かれこれもう長い時間が経つ。そうさ、前は向けているけれど、ボク自身が持ち得ていた、水の豊かな入り江はもう涸れた。その代わりに、ボクは別の源泉を手にしていた。 「おいしい、テイオーちゃん」  噛まれた腕から透明な糸が引く。肺と舌がつくりだした熱っぽい文字列が、肘の裏側をなまめかしく這いずり回る。一秒と半分遅れて奥歯を噛み締める。 「……マヤノ」  手入れも忘れられたような学園の一角、古びた資料と煙たい埃で山積みになったこの倉庫内で、ボクは。世間が騒ぐほど愛ってものは晴れ間にないことを、躾のなっていない犬みたく腕に噛みついてくるマヤノから知る。 「うう~……」  今の呻きはボクのじゃない。マヤノが立てる喜びの吐息。ボクが痛がってるのを分かってるくせに、この子の目はずっと嬉しそうなままだ。

    4 22/08/07(日)01:17:48 No.957508587

    比喩でもなんでもなく分かる、ボクの目の前で尻尾が揺れているから。ふんふんとカワイクも荒い鼻息が、腕の産毛にまで伝わってくるから。腕から痛みがずれる。親指の付け根に臼歯が挟まり、続いて犬歯が突き刺さる。鈍くて新鮮な痛みが、色んなところで脈打っている。血は出ない。まだ出ていない。思うにボクらはまだ冷静らしい、加減と程度は出来ている、らしい。あくまで自分の認識でしか無いから、不確かな推量でしか物事を紡げない。そういうのってすこぶる不便だと思えてならなくて、身体がまた少し強張る。 「ここもっ……」  マヤノの好物は腕と肩、あとふくらはぎ。好き嫌いってのはどんなものにも存在しているらしくて、なんでかボクのからだも同じだそうだ。ここは美味しい、この場所は固い、あの辺は苦い、とか。現在進行形で噛まれている二の腕は曰く、マンダリンオレンジみたいな甘酸っぱい味がする、らしい。よく分からないけど。

    5 22/08/07(日)01:18:28 No.957508791

    「ぐっ、う……」  シトラスの香りなんて一つもしない腕を噛まれて、ちょっとだけ視界がうるむ。ボクらは腐ってもウマ娘だ。諸所にあふれる力の全部が、フツーのヒトを遥かに上回っている。肌も肉も柔くてもろい。噛み切れる脂身を弄ぶような雰囲気と感覚で、二度三度にわたって甘く痛烈に噛まれるのは、その、まだちょっと怖い。 「まぁだ……」 「……はい、マヤノっ! もーおしまい!」  いつもの感覚が背中の筋にほとばしる。これ以上は、あの、上手く表現できないんだけど、その。なんとなく良く、ない。恐怖映像を想像したタイミングで、マヤノの耳近く、藤色がきれいな冬服の二の腕あたりを強めに叩く。 「もっと……だめ?」  ハニーシロップじみた、とろんとした瞳で首を傾げられたって、ボクの意志はわずかにも揺らがない。頬を膨らますマヤノを押しのけて、ボクはまくり上げていた袖を元に戻す。 「だめ。授業遅れちゃうよ?」  本業の合間に過ごす蜜月。うーん……蜜月なのかな、これって。誰に聞いているのかも分からない疑問は、結局答えられることもなく。積み上げられた古い本とわら半紙の隙間に逃げ込んでいく。

    6 22/08/07(日)01:19:09 No.957508978

    ポケットからコンパクトを取り出して、リボンとか諸々がズレていないかを確認する。よし、大丈夫。スカートに付いた埃を払って、パイプ椅子に座るマヤノへと手を差し伸べる。するとこの子は、ちっちゃい子がイヤイヤするみたいに頭を振って、恨みがましげな瞳をボクに向ける。 「やーだぁ……」 「こらっ、もうさせてあげないよ?」  いつもこんな感じだからもう慣れた。諦めてボクの手を取るまで、換気用なのか明り取り用なのか分からない、天井近くの窓へと目をやる。背の高い樹木の、枯れかけたような色に染まった葉っぱが見える。楽しい夏はいつの間にか過ぎてて、美味しい秋も気付けば終わっていた。来たんだ、ジャパンカップも終わって、有マがすぐ目の前に迫ってきた、冬が。衣替えも終わったとはいえ、長袖をまくれないのは結構ツラい。授業中とか暑いんだよね、割と。弊害は体育とかトレーニングとかでも起きている、汗かいてもジャージ脱ぎたくなってもさ、気楽にシャツ一枚になれないんだ。あーあ、良く分からない運命のいたずらに茹だっちゃいそうだ。

    7 22/08/07(日)01:20:13 No.957509314

    「だってえ……」  でも一番の問題はボクにある。イヤイヤを示すように尻尾を振られたって困る。そう、ボクは困っている、だけ。止めてとも嫌だとも告げられて居ない。袖に縋ろうとするマヤノをぺいっ、と追い払ったらボクは立ち上がる。それからマヤノに向かって手を差し伸べた、今日はまだ噛まれていない方を。 「わかった?」  甘えようとするとき、マヤノはいつもよりもだいぶ幼くなる。いつもの立ち居振る舞いを忘れたような緩みっぷりはなんというか、おっきな妹って感じだ。ボクが立てばマヤノの意識も切り替わる。歯を立てるんじゃなく、手を取ってすっくと立ち上がる。まあ、ものすごく不満げな表情で、だけど。 「ほら、お直しするよ。ここずれてるなあ……動かないでね」 「……テイオーちゃんってマメだよね?」 「そう? これぐらいフツーでしょ?」  服についた埃を払い、歪みの付け足されたリボンを正常な位置に戻してやる。 「マヤノだって身だしなみには気を遣ってるじゃん」 「んー……まあそんな感じ、かなぁ?」 「はは、なんで自信無さ気なのさ。よし、おっけー! 大丈夫だよー」 「ありがとー、後ろ、マヤもやったげるね!」

    8 22/08/07(日)01:21:18 No.957509666

    「はーい、お願いしちゃうね」  自分じゃ見えないスカートの裏、背中のあたりとかを叩いて貰いながら。手持ち無沙汰なボクは、焦れたような痛みの残る自分の手、いいやネイルのあたりに視線をやった。どう隠したらいいだろう。漫画のキャラよろしくでハンカチでも巻いてみようかな。いや、流石に怪しすぎるかな。 「はいっ、服装チェックよし! カクニン、おねがいしまーす!」 「ふんふん……うん、大丈夫。ありがとね、じゃ行こっか?」  隠しきれない場所に付けられた刻印を擦りながら、ボクらは秘密の部屋を後にした。そうだなあ、傷痕には湿布かガーゼでも貼っておこうか。些細な怪我っぽく装っておけば、手袋をしたり包帯を巻くよりは誤魔化しが効くはず、突っ込まれにくいだろう。それにいつも通りなら、痛みが引くころには肉の弾力によって痕は無くなっている、はずだから。ティーンのポテンシャルにお祈りしよう。お昼休みまであと一時間と半くらい、授業はあと一コマある。それぐらいあれば、きっとボクは元通りに戻る、はずだけど。二時間ちょっとも満たないうちに、この傷痕がバレてしまわないかってことだけには、いつも通りほんの少し不安があった。

    9 22/08/07(日)01:23:40 [s] No.957510459

    書いてたらハチャメチャに長くなったので分割して投げさせて下さい 大体毎日このへんの時間に投げる予定…

    10 22/08/07(日)01:26:15 No.957511322

    テイマヤが少し爛れて倒錯した雰囲気出すのは珍しいかもしれない 好き…

    11 22/08/07(日)01:28:10 No.957511924

    軽い気持ちで見たら内容が濃すぎる…

    12 22/08/07(日)01:31:44 No.957513100

    少しですかねコレェ 怪文書がじわじわ復活してきて嬉しいぞ

    13 22/08/07(日)01:32:16 No.957513261

    濃厚なテイマヤの予感…

    14 22/08/07(日)01:35:31 No.957514395

    助かる

    15 22/08/07(日)01:52:11 [s] No.957519940

    アホほど重めだけど楽しんで頂ければ幸い… 大体30000とんでいくつかって感じなんで1週間ぐらいで投げきりたい

    16 22/08/07(日)02:03:25 No.957523187

    なそ