ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
22/07/31(日)00:32:43 No.954940469
静かにドアが開いて、部屋に女が入ってくる。 女は部屋の鍵をかけると、靴を脱いで暗い廊下抜けてリビングへと向かう。 リビングはカーテンが閉め切られ、間接照明がぼんやりと照らしていて薄暗い。生活感は感じられない。 カチカチと時計の針が動く音と、空調の駆動音が静かに空気を震わせる。 女が身につけていた斜めがけのポシェットを外し、ハンチング帽、コートを脱ぐとヒトには無い毛量豊かなウマ耳と尻尾が現れる。 無敗でクラシック三冠を達成し、さらに春と秋のシニア三冠を足して九つの冠を戴く、トレセン学園の生徒会長、<皇帝>シンボリルドルフだった。 ルドルフは、リビングをあとにして寝室へと向かうと、1人で寝るには広すぎるクイーンサイズのベッドの上に、胎児のように体を丸めて横になった。 『今駅に着いたからあと15分くらい』 ルドルフの携帯端末にトレーナーからメッセージが入る。 15分。今のルドルフにとっては、永遠のように感じられる15分だった。
1 22/07/31(日)00:33:48 No.954940927
嗚呼、彼を迎えに行けば良かった。迎えに行って、彼を抱き上げて走れば5分と時間をかけずにこの部屋に帰ってこれただろうに。 その場で、私がありとあらゆる欲望を抑えつけることができればの話、だけれども。 仕方がない。だって、もう、あの事件以来3ヶ月と彼に逢っていないのだから。 あの事件。慎重さも、用心深さも足りないトレーナーとウマ娘が、関係を持っていたことがウマ娘の両親に発覚し、トレセン学園に通報された事件。 ウマ娘の両親は激怒していたものの、これが表沙汰になることを嫌った。ウマ娘の両親はすでに娘の将来の相手を見繕っていたから内密にしたかったらしい(いずれは発覚するだろうに)。 表沙汰になることを嫌ったのは、トレセン学園も同じだった。 これ幸いとトレーナーを病気療養というお決まりのカバーストーリーのもと自主退職させ、そのウマ娘を別のトレーナーのチームへ移籍させた。 処分に随分と差がついているが、そこは大人と子供の差。辞めさせられたトレーナーも承知の上の話だろう。
2 22/07/31(日)00:34:35 No.954941255
とにかくにも、私たちもほとぼりが冷めるまでしばらく逢わないようにしようと言って2ヶ月が経過した時だった。 トレーナー君に1ヶ月間の地方への出張辞令。おかげで昼間にすら会う事ができなくなってしまった。 これには流石に堪えた。彼が学園に居れば、夜は逢えなくても、昼間は何かと理由をつけて会って出かけたりすることが出来るのだから。 あの事件から3か月、ほとぼりが冷めたと言えるのかどうか怪しい中で、私の中で我慢が利かなくなりつつあった。もっとも、それは彼も同じか。 『8時には東京に着くから、あの部屋で』 そんなメッセージを、彼の方から送ってきたのだから。
3 22/07/31(日)00:35:32 No.954941608
ルドルフは、この逢瀬のためだけに借りた部屋に独りで居るとき、学園のある理事に言われた言葉を思い出すことがある。 生徒会長としてあの事件の収拾に関わった時に言われたものだ。 「皆がルドルフさんとトレーナーさんのように、理想の関係であればよろしいのですけれどもね」 理想の関係、か。それは、そうであろう。昼間の私たちは、世間の目に理想的なウマ娘とトレーナー、ただそれだけの関係として映るように努力し、演じてきたのだから。
4 22/07/31(日)00:36:30 No.954941966
トレーナーとは、夢を掲げたウマ娘を、その夢が叶うよう彼女たちを導く存在だ。 時にウマ娘と同じ目線に立ち、時に大人の目線で叱咤激励し、共に喜び、共に泣く。本来はそれだけの関係だ。そこに、ベッドを共にする事は含まれていない。 私たちも、そうであったはずなのに、どこで理想の関係が崩れたのだろう？ トレーナーとウマ娘ではない、2人の男女でありたいという、彼の欲望を、否定も拒絶もせずに、受け入れてしまった時か。 いや、彼の欲望なんて言ったけれど、結局、私も、同じ穴の狢(むじな)にすぎなかったのだ。 他ならぬ私自身が、この人目を憚った危険な夜の逢瀬を楽しんでいるのだから。 昼間の私たちしか知らぬ人々には、夜の私たちは想像もつかないことだろう。
5 22/07/31(日)00:37:57 No.954942545
夜半前の静まり返った部屋に、インターホンの音が鳴り響く。 ルドルフは起き上がって、モニターを確認すると、エントランスに帽子をかぶった男が映っていた。顔までは確認できない。 「着いたよ」 トレーナーの声だった。 ロックの解除をすると、自動ドアが開いてトレーナーの姿が消える。 あと、何分。たとえ裸であったとしても、快適な室温の中でぶるりと体が震える。 ルドルフは廊下の壁に、もたれかかってトレーナーの到着を待っていると、再び、インターホンが鳴る。 念のためにドアスコープを覗くと、トレーナーの顔が見えたので、鍵を開けて迎え入れる。 3ヶ月ぶりの逢瀬、シンボリルドルフを呼びつけた男は、仕事で来たとでも言わんばかりの無表情を顔に貼り付けていた。
6 22/07/31(日)00:38:58 No.954942969
「おかえり、トレーナー君」 私が待ち焦がれた彼は、返事もせず無言のまま扉を閉める。鍵が閉まるガチャリと音が部屋に響き渡る。 「トレーナー君？」 どうして、何も言ってくれないのだろう。何かあったのだろうか。 彼は一歩踏み出すと、ふらりと崩れ落ちるように私を抱きしめてきた。 彼が耳元で「ルナ」と呟く。私の頭に、顎を乗せたり、鼻をこすりつけてくる。 存在を確かめるように、力強く抱きしめてきて、私の身体は彼の腕の中にすっぽりと収まってしまう。 負けじと、強く抱きしめ返す。ゴツゴツとした胸板を通して、彼の鼓動が私の体を震わせる。でも、何かが違うな。ああ。 「すこし、痩せたんじゃないかトレーナー君」 「そうかもしれない」
7 22/07/31(日)00:40:08 [owari] No.954943423
トレーナーはルドルフを抱きかかえ、寝室にあるベッドに下ろすと、組み敷くように見下ろした。彼女の手首はトレーナーの手によってベッドに縫い留められる。 ベッドが2人分の体重を受け止めながら、ゆっくりと沈み込んでいく。 トレーナーが、ルナと呟くと、ルナと呼ばれたルドルフはトレーナーの名を呼び返す。 綺麗だ、トレーナーが言葉を返すと、顔をゆっくりと近づけて、ルナの三日月のような流星と、トレーナーの前髪が、静かに触れ合った。
8 22/07/31(日)00:42:32 No.954944357
湿度とは違うけどしっとりしてるな
9 22/07/31(日)00:45:06 No.954945332
ベッドシーンは！？
10 22/07/31(日)00:45:16 No.954945384
普段許容されてる世界ばっかり見てたけどそうだよな普通タブーだよな…
11 22/07/31(日)00:47:17 [s] No.954946154
>普段許容されてる世界ばっかり見てたけどそうだよな普通タブーだよな… 別にモラルに目覚めたわけでもなく Stevie WonderのPart-Time Loverを聞いてたら思いついた
12 22/07/31(日)00:51:10 No.954947722
しっとりもしてるけどドロッともしてるな背景が…
13 22/07/31(日)00:53:30 No.954948584
禁止されてるからこそ燃え上がるやつだ…
14 22/07/31(日)00:58:27 No.954950422
>時にウマ娘と同じ目線に立ち、時に大人の目線で叱咤激励し、共に喜び、共に泣く。本来はそれだけの関係だ。そこに、ベッドを共にする事は含まれていない。 そうだね
15 22/07/31(日)01:01:27 No.954951587
本人たちはバレてないと思ってるけど実はバレてそう
16 22/07/31(日)01:03:21 No.954952394
>本人たちはバレてないと思ってるけど実はバレてそう 世の中バレないようにやれよバカ！ってのもよくある
17 22/07/31(日)01:04:08 No.954952708
ルドルフは立場もあるので件の子とは比べられないくらい混乱を引き起こすからな…
18 22/07/31(日)01:14:28 No.954957017
良い…確かめるように抱き合うところ特に良い…好き…
19 22/07/31(日)01:20:49 No.954959566
前髪と前髪が触れ合うのは実質挿入
20 22/07/31(日)01:33:36 No.954963810
ホントはダメだけどこっそり付き合ってズブズブハマっていくの良いよね…
21 22/07/31(日)01:40:17 No.954965902
会長はこういうの絵になるから良いよね…
22 22/07/31(日)01:43:16 No.954966788
めっちゃいい…全部いい…