ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
22/07/21(木)21:10:09 No.951565709
イラついた時。ランニングをしたい時。気が向いた時に訪れるいつもの場所。 高台から街を見下ろす事ができる小さな広場。そこで周囲に人がいないことを改めて確認し、天に向かって緩やかに息を吐く。 息は細やかな雪の結晶を纏い、螺旋を描き空へと延びていく。 月の輝きも星の煌めきも見えない夏の夜空へと延びていく。 そうして力の暴走を抑えるために必要な量の冷気を吐ききった。今日の調整はこれで終わりだ。 大事なルーティンだった。この作業を怠りもし力が暴走した場合、眼下に広がるあの街ですら一夜で地上から消し去るほどのエネルギーが放たれる危険性があることを本能が告げていた。 だから、たまにこうやって人目につかないよう外に出ては季節に応じて火だの冷気だのを吐いている。 誰の為にもならず、誰に必要ともされない虚しい力のために。
1 22/07/21(木)21:10:39 No.951565927
「すごい。ここら一帯が冬みたいだ、タイシン」 出てきても良い頃合いだと思ったのだろう。背後から歩いてきた男がアタシを気遣うように小さな声で呟いた。 昨年の秋のこと。落ち葉焚きをする際にいつもの癖で油断して火を吹いてしまった。その一部始終を見ていたトレーナーが今日は一緒だった。 この力のことがバレてしまった当時は後悔した。 化け物だと思われることも、距離を置かれることも覚悟した。……でも。 「とても涼しいな、タイシン！」 ……でも。アタシのトレーナーは変わってる。だから、アタシ達の関係は何も変わらなかった。
2 22/07/21(木)21:11:00 No.951566076
「今日はこれで終わり。……なにその顔。まさか、本当にアレをやるつもり？」 「頼めるかな、タイシン」 「……そんな事に意味なんてない。今まで人に対して『これ』を向けたことなんてない。アタシが力の加減ミスって、もしアンタが死んじゃったらどうすんの？」 「絶対に大丈夫！心配ない！俺は、タイシンをもっと知りたいんだ！」 学園に居る時と同じ。レースの時と同じ。いつもと変わらず自信たっぷりにこの男は答える。 目の前に立ったトレーナーは、その真っすぐすぎる瞳で、笑顔を浮かべながらアタシの返事を待っている。 なぜか、拒絶することができなかった。シッポを巻いてこの場から逃げだすこともできなかった。 きっと、アタシ自身、何かが起こることを、何かが変わることを、期待しているのかもしれない。
3 22/07/21(木)21:11:20 No.951566241
でも、言葉は続かなかった。やっぱりバカげてる。 「俺はいつでもいいぞ！」 ……うるさい。そう、心で思っただけのつもりが、つい口を開き、声を発してしまった。 瞬間、弱めの冷気までが言葉と共に口から漏れだした。 あっ。 無数の白い粒子に覆われた冷気はトレーナーの顔、口元にめがけ瞬時に飛び出し、そして、直撃した。 まずい。
4 22/07/21(木)21:12:01 No.951566525
近距離で正面から冷気を浴びることになったトレーナーは、一瞬体をのけぞらせ、身体を震わせた。でもすぐに穏やかな表情を見せて、無事をアピールするようにサッと右の親指も立ててみせた。 アタシを安心させるために。ちがう。アタシのことはいい。 その肌に、顔に、直に触れて無事を確認したかった。 ふたりを隔てている１歩半ほどの距離が邪魔だった。足が動き出す。そのまま前へと歩み出た。驚いている様子のトレーナーを気にすることなく、顔に向けて両手を伸ばす。 その大きな頭を小さな掌でつかまえて、ぐいっと自分の体へと引き寄せる。そうして、全身で彼の体温を確かめた。………暖かい。生きてる。 「タイシンありがとう！涼しかったぞ！」 「うるさい」 アタシはそれだけ言うのが精いっぱいで、流れ出る涙を隠すのに必死だった。
5 22/07/21(木)21:13:02 [s] No.951567008
オワリ 夏のタイシンブリザードを書きました
6 22/07/21(木)21:13:39 No.951567293
ウワー！119番って何番だっけ！
7 22/07/21(木)21:14:15 No.951567557
タイシンブリザード怪文書ありがとう！！
8 22/07/21(木)21:15:10 No.951567944
ブリザードで一歩半の距離を詰めるのか…
9 22/07/21(木)21:15:26 No.951568077
タイシンブリザード文書はじめてみた