ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
22/07/19(火)22:31:26 No.950914472
なんて大嘘つきなんだろう。結局、この3年間で走ったのはマイル以下の距離ばかり。元はと言えば中距離以上を走ろうとするとすぐにスタミナ切れを起こしてしまう私が悪いのであるが。それでも3年間、彼はいずれ長距離まで制覇できると私に語り続けていた。 だけど、度重なるトレーニングと勉強で、とっくに結果は分かっていた。私は生粋のスプリンターだ。中距離以上のレースに耐えられるような体ではない。それに、1200mを3回走ったって、長距離を走ったことにはならない。そんなこと、私にだって分かる。それでも彼を信じて、いや、信じているように見せかけて3年間走ってきたのは、私を騙しているという罪悪感を抱えながらも前を向いて私を支え続けているトレーナーさんと離れ離れになることが模範的な学級委員長でいられなくなることよりも辛かったからだ。
1 22/07/19(火)22:32:09 No.950914799
どうしようもなく拗れてしまった私達の関係。私もトレーナーさんを騙し続けているし、トレーナーさんも私を欺きながら共に過ごしている。きっとどこかで、どうしようもない終わりが訪れるのだろう。そのことを思うと、もう模範的な学級委員長で居られなくてもいいとすら思ってしまう。だけどきっと、そんなことを考えてしまうようになってしまった時点で、模範的な学級委員長であるサクラバクシンオーはいなくなってしまったのだろう。残ったのは、大好きな人と離れたくないがために道化を演じている滑稽なウマ娘だけである。 そうして迎えた4月、私は契約更新の書類を提出しにトレーナー室へ向かった。当然、契約は継続だ。あの人以外のトレーナーなんて、考えたくもない。 「おはよーございますッ!今日も1日、模範的な学級委員長ロードをバクシンしていきますよ!………トレーナーさん?いらっしゃいますか!?」 どうやらトレーナー室には私一人のようだ。彼は会議にでも出ているのだろうか。
2 22/07/19(火)22:32:48 No.950915093
ふと、トレーナーさんのPCが目に入る。おそらく仕事用のものだ。………とても模範的とは言えないが、知的好奇心を満たすために行動することは学生として間違ってはいないだろう。 幸いにもパスワードは掛かっていなかった。さて、なにか模範的ではない写真の1つや2つ、保存してはないだろうかとファイルを探していると、トレーニング内容と記されたファイルを見つけた。 ………きっと、私が見てはいけないものだ。そう学級委員長としての理性は告げる。だけど、私はもうとっくに不良ウマ娘の仲間入りを果たしていたらしい。気づいたらそのファイルを開いていた。 坂道トレーニングやスタートダッシュの練習、テンポ走などの短距離用のトレーニングが並ぶ。しかし、次のページには中距離用のスタミナトレーニング、そして私のトレーニングタイムと距離がいくつも並べられていた。 "少しずつスタミナが付いてきている。今年度は中距離の重賞出場も視野に入れるか"………その他にもトレーニング予定には私の中距離レース出場を見据えた情報がビッシリと書かれていた。 「あ、おはようバクシンオー……先に来てたのか。」
3 22/07/19(火)22:33:10 No.950915266
そうしているとトレーナーさんが戻ってきた。……彼の真意を確かめなければならないだろう。 「トレーナーさん!契約を更新したいのですが、その上で是非とも聞いておきたいことがあります!」 「もちろん!なんでもいいぞ!」 「トレーナーさんは私が………いずれ天皇賞や有馬記念といったあらゆるレースを……制覇できると信じていますか?」 「もちろんだ!スピードを極めたバクシンオーなら必ず取れると信じてるからな!」 即答だった。私の目をまっすぐに見て、自身の目も輝かせながら……まるで既に私の勝利が見えているかのように。 なんてことはない。嘘つきなのは私だけだったのだ。口では模範的であるためにすべてのレースを制するなんて言っておきながら、トレーニングをやっていくうちにどこかで諦めて、トレーナーさんだって分かっているはずだなんて勝手に決めつけて。彼は最初から私を信じてくれていたのだ。そして、私のために努力を続けていた。
4 22/07/19(火)22:33:42 No.950915519
なんて情けない話だろう。どうしようもない自分への嫌悪や信頼を裏切った申し訳無さで胸がいっぱいになる。そんな私をトレーナーさんはじっと見つめる。顔に出てしまっていただろうか。彼に心配される資格なんて私には無いのに。 「なぁ………バクシンオー、意味がわからないかもしれないけど……少し話をしていいか?」 「…………はい?」 「実を言うと俺………バクシンオーの担当をするまでは自分に自信がある人間とかでは無くてさ、ましてや学級委員長とかとは全然縁がない生活を送ってきてたんだ」 「その………それはなにかレースと関係が……?」 「レースというより、今までの3年間に関わる話かな。最初は俺、学級委員長に相応しいトレーナーであろうと演じてるような部分があったんだ。君にスピードを極めようなんて言っちゃったりしてね。でも、君と一緒に3年間を過ごして、それも悪くないと思うようになってきてね。」 「今のトレーナーさんは偽りの姿ということですか………?」
5 22/07/19(火)22:34:35 No.950915885
「うーん、いや、そうとも言えるしそうじゃないとも言えるんだけど………要するに、大事なのは何を演じるかじゃなくて、なんのために演じるかだと思うっていうか……"本当の自分"なんてその人にしか分からないからさ、多かれ少なかれみんな他人の前では何かを演じてるだろうし……」 トレーナーさんは、私の心までもお見通しなのだろうか。だとしたら……彼は今、私を慰めてくれているのだろうか。 「とにかく、俺が言いたいのは君が立派で模範的な学級委員長で、それに俺も助けられてるってことだ!よっ!史上最強の学級委員長!」 結局いつものように私を褒めてくれるトレーナーさん。私も、また目指していいのだろうか。信じてくれるトレーナーさんのために、模範的な学級委員長を……この先も演じ続けていいんだよ、そう背中を押されている気がした。 「ハッハッハッ!えぇ!えぇ!私は学級委員長ですよ!何を仰っているかはよくわかりませんでしたが!」 最後にあと少しだけ、背中を押してほしい。完璧な学級委員長でいるために、わがままを1つ、聞いてほしい。
6 22/07/19(火)22:34:58 No.950916067
「トレーナーさん…………私が走れなくなったとしても、それでもあなたは私に付いてきてくれますか?」 「それはもちろん!君のバクシンロードに付き合うって約束もしたしな!」 「なるほどッ!私と一生を添い遂げると!そうトレーナーさんは仰るのですね!それではこれからも共にバクシンしていきましょう!早速長距離を見越したスタミナトレーニングに行きますよ!バクシンバクシーンッッッッッッッ!!!!!」 返事を聞く前にトレーナーさんの手を取って走り出す。キッチリ告白した後の触れ合いなら純異性交遊なので模範的にもセーフでしょう!なんと言っても私は模範的な学級委員長ですからね!さぁ、模範的でより良い明日に向かって、バクシンバクシンバクシーンッッッッ!!!
7 22/07/19(火)22:35:52 No.950916490
なんだかんだ二人とも根っこの部分でものすごいバカやってるだろうなと思って書きました
8 22/07/19(火)22:37:12 No.950917117
この委員長…重い!
9 22/07/19(火)22:37:55 No.950917425
そうそうこういう関係がいいんだよ 分かってんじゃねぇかとりあえず保存して100回くらい読むわ
10 22/07/19(火)22:40:08 No.950918398
ずっと青春しててほしい
11 22/07/19(火)22:40:51 No.950918718
眩しい
12 22/07/19(火)22:45:16 No.950920749
良いバクシンだ…
13 22/07/19(火)22:48:58 No.950922408
いい…覚悟ガンギマリのトレーナーと心の底では重い委員長の組み合わせ…最高だ!
14 22/07/19(火)23:04:10 No.950929211
寝る前に素晴らしい物を読ませてもらった 明日の目覚めはきっとバクシンだろう
15 22/07/19(火)23:04:39 No.950929439
でもこのバクシンは悪い子だからうそつきなんて言いませんよ
16 22/07/19(火)23:07:47 No.950930925
>でもこのバクシンは悪い子だからうそつきなんて言いませんよ >なんて大嘘つきなんだろう。
17 22/07/19(火)23:16:18 No.950934640
バクトレは嘘つき…ではなく 真実に向かって歩いている途中なんだ
18 22/07/19(火)23:35:19 No.950942640
素晴らしい
19 22/07/19(火)23:35:50 No.950942835
嘘から出る真はある あるのだ
20 22/07/19(火)23:38:13 No.950943782
バクシンだってそこまでバカじゃないから色々分かってるよね…分かった上でわざとノセられたフリしてるけどやっぱ短距離の子はステイヤーに憧れとか嫉妬とか色んな感情持ってないわけないよね…