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22/07/16(土)22:03:28 花火が... のスレッド詳細

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22/07/16(土)22:03:28 No.949766722

花火が見たいと思った。 てのも、今は夏合宿で砂浜トレーニングするんだけど、そん時に他の娘が「今日トレセンの近くで花火やってるんだって」と話してるのを聞いたから。 こっちじゃ夏祭りはやってるけど、去年とおととしで花火を見た記憶はない。そりゃあ、夏合宿終わって帰ったりした時にイツメンとかダチと見に行くことはあったけど……見たいと思ったのはあたしのトレーナーと。 夏合宿が終わっても終わってなくても、トレーナーはずっと忙しそうにしてる。休ませてあげたり、息抜きさせてあげたいけど、かえって余計なお世話なんじゃないかと思うと誘う勇気が、言葉が出ない。 「いっしょに花火見に行こうよ」ただその一言だけで良いのにさ。 「はぁ……」 モヤモヤしたキモチはため息にまじって口から出ていく。何度かくり返せばモヤモヤが無くなるのかと思えば、そうじゃない。おかげでトレーニングにも身が入らないってーか、どっか上の空ってやつ。

1 22/07/16(土)22:04:19 No.949767232

「調子が良くないのかジョーダン? 休憩するかい?」 「……そーする。何か飲みもんくれね?」 「あぁ分かった」 クーラーボックスから冷えたタオルと、それよりは冷えすぎでもなく温くもない良い具合のスポドリを渡される。初めは冷たいのが飲みたかったからどうかと思ったけど、冷えすぎた飲み物はかえって体に悪いとからしい。まー、もう3年にもなればなれたもんだ。 「大丈夫か?」 「うん。ちょいバテただけだから」 「そうか。んー…………よし。今日はここまでかな。無理をするわけにもいかないしね」 「りょー」 ほてった体の熱をうばって、冷たくなくなったタオルを返してパラソルの下で寝転がる。 ブルーシートのそれはまだ汗ばむ肌に引っ付いてくる。体が濡れてないと分からないくらいの弱い風も、今なら心地良い。 その心地良さに一先ずモヤモヤした物の事は忘れ、あたしは目を閉じた。

2 22/07/16(土)22:05:15 No.949767686

それから時間が過ぎて夜の7時。夕飯のカレーに満足したあたしの体は昼間の太陽の光を浴びまくったおかげでねむねむ。それでもあわよくばって期待して花火大会とかの情報を調べてみたけど、結果はダメだった。 そもそも、ここの辺りじゃ花火大会なんてやってるとこがなかったし。 「ジョーダン。私他の娘の部屋に行くけど一緒にどお?」 「んー、ごめんパス。あたしちょっと疲れててさー」 「そっかー。じゃあ私行ってくるから鍵閉めないでよね」 「ったりまえ~。心配すんなってのー」 同室の娘が部屋を出ていく。5人部屋のハズのここは今あたしだけ。他の4人は今の娘と同じで他の部屋に遊びに行った。 敷かれた自分の布団に寝転がってスマホをいじくる。 LANEにはトレーナーからのメッセージは来ていない。……何期待してんだろあたし。花火が見たいとか伝えてないし、当たり前の事じゃん。分かりきってたでしょ。 「……バカみてー……」

3 22/07/16(土)22:06:26 No.949768229

あお向けになった布団はエアコンの風のおかげでヒンヤリとしている。……このまま寝るか。 ピロン 「っ!」 その音はLANEの、トレーナーからのメッセージの音だ。起き上がってスマホのパスをソッコーで入力して、通知でトレーナーからのメッセージを確認する。わざわざアプリで見ないのは、すぐに既読がつくのをさけるため。すぐに既読がつくとか、メッセージをずっと待ってたみたいに思われるし、それがハズい。 ともかく、トレーナーからのメッセージは── ◆ 「お、来たなージョーダン。こっちこっち」 「どーしてもって言うから来ただけだし。てかここ浜辺じゃん。花火大会とかここら辺でやってないでしょ」 「そうだね。だからジョーダンは満足出来ないかも知れないけど……小さな花火をしようかと思ってね」 トレーナーからのメッセージは花火を見ないかといったものだった。あたしが調べた限りだとここら辺で花火大会なんてやってなかったけど、どうするつもりなのかギモンに思いつつもトレーニングに使っている浜辺にやって来た。

4 22/07/16(土)22:07:34 No.949768789

「ここでは花火をやっていいと許可ももらっていてね。ジョーダン、昼間トレーニングで疲れてそうだったから、こう言うのでもやって楽しめないかなと思ったんだ。本当は花火大会に連れていきたかったんだけど、すまないね」 「……ホント、アンタって……」 「何だって?」 「何でもねーっての。てか手持ち花火とかマジおひさで、くやしーけどテンションあがるわ。ほれーはよはよ」 「そう言ってくれて嬉しいよ。ちょっと待ってくれ。今ロウソク点けるから…………ほい」 ロウソクの柔らかい光があたしとトレーナーを照らす。 手渡された花火の先っちょをロウソクの火に当てて……火花が勢いよく出てくる。 シューっと花火の音と、昼間のうるささがウソのように静まり返った砂浜にかかる波の音がとても心地良い。 袋から取り出された花火は2人で使う分には結構な量で、色んな色や音があった。 トレーナーも大人のクセにはしゃいで、2本同時に花火を使って変なダンスとかしてる。そーいうのってむしろ危ないからって大人が止める側だろうに。

5 22/07/16(土)22:08:15 No.949769147

そんなんで2人ではしゃぎながら色んな花火を使って、いよいよ残ったのは線香花火。折角だからとお決まりの勝負とかしながら線香花火もたくさん使って、残り2本になった時、あたしは妙なさみしさを感じた。 空に上がる花火じゃなかったけど、トレーナーと2人きりでの花火大会がこれで終わってしまう。そう考えると最後の線香花火に手がのびなかった。 「ジョーダン?」 「……終わっちゃうなーって。意外と楽しかったけどさ、こうして最後の線香花火を見るとあっという間だわ」 「そうだね。だからこそ、最後まで楽しもうよ。最後は勝負とか関係なしに、ゆっくり眺めたいな」 「さんせー。そうするわ」 最後の線香花火に火をつける。 先っちょが焼かれて丸まってきて、だんだんと丸いオレンジの玉になってくる。そしてロウソクの火も消えて暗くなったそこに小さな、とても小さな花火が花を咲かせる。 ふとトレーナーの顔を見てみれば、眉間にシワがよった真剣な顔とかじゃない、優しい顔で自分の線香花火の行く末を眺めていた。

6 22/07/16(土)22:08:50 No.949769433

線香花火の寿命はあっという間に来てしまう。キレイな花火を見せてくれたそれは、最後はあっけなく光をうしなって、あるいは地面へ落ちていく。 それはあっという間に輝かしい3年を送ってきたあたしのようで、光を失って落ちていくそれは……いずれ来るトレーナーとの別れを意味しているように感じた。 あたしは今後どうしていきたいんだろう。 トゥインクルシリーズを文字通り走り抜けて、その先は? いつものようにゴールしてそれで終わりじゃない、あたしの人生は今後どうしていくのだろう。 走り抜けたその先に、あたしのとなりにはトレーナーが居てくれてるのだろうか。それとも── 「あ。落ちちゃった……ジョーダンのは落っこちずにそのままくっついてたね。凄いや」 うっかりトレーナーの顔を見すぎていたみたいで、折角の最後の線香花火はいつの間にか燃え尽きてただの黒いカタマリになってしまっていた。 結局答えは出ないまま、小さな2人だけの花火大会が、終わる。

7 22/07/16(土)22:11:00 No.949770570

線香花火を2人でやるシチュエーションは散々見てきたでしょうけど、それでも良いものですよね

8 22/07/16(土)22:11:28 No.949770834

風情があるなあ

9 22/07/16(土)22:43:45 No.949787241

甘いなぁ

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