22/07/15(金)00:17:58 子供の... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1657811878741.png 22/07/15(金)00:17:58 No.949130834
子供の頃から走ることは大好きだった。走破タイムとか、レースの勝敗なんかは二の次で、みんなと一緒にレースを走り抜ける感覚がたまらなく好きで、楽しかった。それはトレセンに入った後も変わらない。むしろ、トレーナーくんと出会い、楽しみは増えていった。好きに楽しく走ってくれればいい、なんて私に言ってくれるトレーナーはこの学園では彼だけだった。トレーナーなのに、名誉だとか賞金にまるで興味がなさそうな彼はおそらく変わり者なのだろう。そのくせ、私がレースに勝つと子供のように目を輝かせて、カッコよかった、走る姿が楽しそうで俺も嬉しいよなんて言って。いつのまにか、私の走る理由はどんどん増えていった。もちろん、一番は楽しく走ることだけど。レースに勝てばトレーナーくんの笑顔が見れる。賞金も、引退したあとにトレーナーくんと一緒に使おう、海の近くに一軒家を建てるのもなかなか良いだろう。なんて考えるようになっていた。……もちろん、まだ付き合ってるわけではないけど。
1 22/07/15(金)00:18:20 No.949130970
トレーナーくんとデートを重ねてきたし、家にも何回も遊びに来てもらっている。どうせなら彼から告白してほしいけれど彼はそういうことに鈍そうだし、やっぱり私からアタックしていかなきゃね。今度また、映画にでも誘わなくちゃ。後輩ちゃんに聞いたロマンチックで胸キュンな恋愛映画がいいだろう。 「トレーナーくん!今度の日曜日、空いてる?」 「いや~すまないな。日曜日はグラスと用事があって1日空いて無いんだ」 最近、予定が合わないことが増えた。とは言っても、担当が二人に増えたのだ、仕方がない。 怪物二世……新しくトレーナーくんの担当になったグラスちゃんは世間でそう呼ばれている。その並外れた才能や模擬レースでの活躍で、人々は彼女の走りに私を見出したようだった。そんな彼女がトレーナーくんの担当になるとは奇妙なめぐり合わせか必然か。私にわかっているのはどうやら二人はデビュー前から面識があったらしいということだけだった。
2 22/07/15(金)00:19:35 No.949131396
グラスちゃんはデビューして間もない。シューズ選びや怪我をしないための指導、クラシックの計画など必然と私よりも割かなくてはいけない時間は多くなるだろう。 「すみません、マルゼンさん。私のほうが先にトレーナーさんと約束してしまいまして……」 「気にすることナッシングよ、グラスちゃん。大事な時期だし、思いっきりトレーナーくんに頼りなさい!」 「いや、一緒にゲームセンターに行くだけだからそんなに真剣な用事というわけでは……」 「あらあら、いつの間にかそんなに仲良くなってたのね~。お姉さん、ちょっと妬けちゃうかも」 大事な時期だ、とは言ったものの最近やけに二人の距離が近い気がする。それこそ私が嫉妬してしまうほどに。彼女がトレーナーくんを見る目にも、信頼以上の感情があるような気がしてならない。可愛い後輩にこんなことを思うなんて、先輩失格かもね。でも、どうしてもトレーナーくんを盗られるかもしれないという思いが拭えない。彼女のほうがデビューが遅い分、きっと私が引退したあとも彼女は走り続けるだろう。その時、彼女の隣にいるのはトレーナーくんだ。そう思うと、まだ先の話のはずなのに気分が沈んでしまう
3 22/07/15(金)00:19:56 No.949131517
「マルゼン、なにか大事な用事だったのか?それともどこか調子が悪いのか?」 いけない、考え込んじゃったせいで彼を心配させてしまった。こういうときは走ってスッキリするに限る。 「ごめんなさい、全然大丈ブイよ!そんなことより、ちょっと走ってきてもいいかしら?」 「でしたら私もご一緒させて頂いても良いでしょうか~?」 「お、併走トレーニングか。そういえば二人で一緒に走るのはこれが初めてだな。だけどマルゼンは速いぞ。あんまり無理をしないでくれよ、グラス」 「トレーナーさん、私はもちろん勝つつもりで走りますよ。マルゼンさんも、手加減は無しでお願いしますね」 グラスちゃんはそのおっとりとした振る舞いとは裏腹に負けず嫌いだ。きっと本気で私を追いかけてくるだろう。思いがけず並走することになったけど、楽しめそう。
4 22/07/15(金)00:20:38 No.949131720
「距離は1600メートル、ふたりともしっかりストレッチをしてから走ってくれよ」 グラウンドにつくと早速私達はストレッチを始める。この間に、色々と探りを入れてみてもいいかもしれない。 「最近グラスちゃん、トレーナーくんと仲がいいわよね~休日に一緒に遊んだりしてるのかしら?」 「えぇ。もともとデビュー前から悩みを聞いてもらったり、一緒にお散歩をしたりとお世話になっていて、担当になってからはより親しくさせてもらっています。まだまだマルゼンさん程ではありませんが……」 「そうね~……私ももっと、トレーナーくんと仲良くなりたいって思っているけど」 「噂に聞くとマルゼンさんはトレーナーさんをよくお家に招いていらっしゃるんだとか、お二人はお付き合いでもされてるんですか?」 「いや~ん、詳しいのね、グラスちゃん。……まだ付き合ってはないわよ」
5 22/07/15(金)00:21:01 No.949131834
「そうですか~。それでは、私も負けられませんね」 そう言うグラスちゃんの目は青い決意の炎に燃えていた。 ………残念、杞憂じゃなかったか。まぁ、トレーナーくんが無自覚ウマ娘たらしの気があることは一緒に過ごした3年間でなんとなく感じていた。きっと彼女も、デビュー前から一緒に過ごすうちにそんな彼に惹かれていったのだろう。だけど、彼とずっと一緒にいたのは私だ。思いだって彼女には絶対に負けない。グラスちゃんには悪いけど、これだけは譲るつもりはない。 「………そろそろ、走りましょうか。」 「そうね、心も体もイイ感じに温まってきたわ」 「私は世間から怪物二世と呼ばれています。みんな、私とマルゼンさんの走りを比較していますけど……必ず"私"の走りに塗り替えてみせます。世間の評判も、トレーナーさんの記憶も」 「あらあら、それじゃあ私は更にそれを塗り替えていかなくっちゃね」 「二人とも準備はできたか?計測始めるぞー」
6 22/07/15(金)00:21:40 No.949132052
準備は万端だ。トレーナーくんの掛け声と同時に二人は走り始める。グラスちゃんの作戦は差しのようだ。一瞬だけ彼女を一瞥した後、すぐに全力で速度を上げていく。おそらく、生まれてはじめてだろう。自分の楽しみのためでなく、相手をただ叩き潰すために全力をもって走るというのは。彼女には私の影も踏ませるつもりはない。この先どんなに彼女が速くなろうとも、絶対に追いつけないくらいの鮮烈な走りを見せてやらなくちゃ。彼女がこの先、どんなに活躍しようとも、トレーナーくんが私の走りを思い出してしまう程に。 ……走り終えたあと、珍しく私は息もできないような状態で横たわっていた。なんだかトレーナーくんが私のタイムを見て驚いているようだが、そこまで意識が回らない。結局、私とグラスちゃんの差は大体5バ身……10バ身は引き離そうと思っていたが流石は怪物二世、デビューしたてなのにここまで追いつかれるとは、彼女の勝利への執念が為せる技だろうか。しかし、圧倒的な勝利であることに変わりはない。きっと今日の走りはトレーナーくんの脳裏にも焼き付くだろう。そう思うと笑みが溢れる。
7 22/07/15(金)00:22:03 No.949132180
レースを楽しく走れた喜びではなく、恋のライバルを完膚なきまでに叩きのめしたことによる悦び。想い人の記憶に自分を焼き付けていく快感。健全とは言えないが、また一つレースを走る目的が増えた。 息を整えて体を起こす。グラスちゃんの方を見ると、さっきと変わらぬ闘志の宿った目で私を見つめいていた。……そう、まだ全然諦めてないって感じね。うかうかしていたら、いつか私は追い抜かれてしまうだろう。でも、絶対にそうはさせない。何度挑んでこようと、あなたを超えてあげる。あなたが走り続ける限り、私も"怪物"であり続ける。私が走り続ける限り、トレーナーくんの中でのあなたは、ずっと"怪物二世"のままだ。 ただ、勝負は走ることだけでは無い。この先、クラシックレースやシニア期をトレーナーくんと彼女は駆け抜けていく。ウマ娘にとってその期間はは黄金期とも呼ばれる特別な期間。グラスちゃんとトレーナーくんは私と同じように色んな経験を共にしていくことになるだろう。だから、そちらでも私は負けられない。今まで以上に、トレーナーくんとロマンチックな体験をして、メロメロにしてあげなくっちゃ。 レースはまだ、始まったばかりだ。
8 22/07/15(金)00:22:28 No.949132333
………………………………………………………………………………………… 「グラスちゃんが本気で来るって言うから、お姉さんもつい盛り上がっちゃった☆」 いや、盛り上がっちゃったという理由だけでは到底出せないタイムである気はするが……とにかく、併走して見てわかったが二人はお互いにいい影響を与えあっているようだ。かなりの差をつけられて敗北したとはいえ、グラスのタイムも自己ベストだ。 トレセンに来た当初は、年下の異性とどのように接したらいいかもわからず距離感を測りかねていたが最初に担当したのがマルゼンスキーで良かった。彼女とクラシック、シニアと駆け抜けていくうちに二人で外出なども重ねていき、ウマ娘との適切な距離感というのも掴めた。そのお陰で、新しく担当することになったグラスワンダーとも良好な関係を築けている。 「そうそう、トレーナーくん、来週の日曜日、ゲームセンターに行くんだったら私も一緒に行ってもいいかしら?」 「私は構いませんが………最新のゲーム機などがたくさん置いてあるゲームセンターはマルゼンさんのご趣味に合うでしょうか………」
9 22/07/15(金)00:22:44 No.949132461
「イヤねぇ、グラスちゃん。私はナウいもの大好きなのよ?」 マルゼンスキーと並走をした子の中にはその実力差から、今まで通り接することができず他人行儀になってしまうウマ娘もいるが、どうやらグラスにはその心配は無用のようだ。いつの間にか、冗談を言い合うような仲になっているみたいだし。 この先、彼女たちはお互いに高めあっていくのだろう。おそらく公式なレースで共に走るのはまだまだ先だろうけど、二人ともこの先が楽しみだ。 「せっかくだから、二人でゲームのスコアで競い合ったらどうかな。勝者には僕がなにか用意するよ」 レースはまだ、始まったばかりだ。
10 22/07/15(金)00:23:11 No.949132612
長くなっちゃった すみません
11 22/07/15(金)00:25:06 No.949133258
許すよ…
12 22/07/15(金)00:25:18 No.949133325
いいものだ 欲を言うと続きが気になる
13 22/07/15(金)00:26:39 No.949133747
トレーナーさんはクソボケが過ぎるので?
14 22/07/15(金)00:29:13 No.949134521
渡したくなくて欲が出てくるのいいね…
15 22/07/15(金)00:29:55 No.949134713
>「せっかくだから、二人でゲームのスコアで競い合ったらどうかな。勝者には僕がなにか用意するよ」 無意識で焚き付けてやがる…
16 22/07/15(金)00:36:27 No.949136780
今まで走るの楽しい!トレーナーくん喜んでくれるの嬉しい!だったのが例え恋敵といえど競争相手叩き潰すのに喜び覚えるマルゼンさんは美しい
17 22/07/15(金)01:09:23 No.949146199
まだまだ競り合いが見たいわ!
18 22/07/15(金)02:35:34 No.949160519
そういう意味では本当に対戦できる相手にようやく巡り会えたんだねマルゼンさん