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22/07/11(月)01:02:32  日の... のスレッド詳細

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22/07/11(月)01:02:32 No.947837146

 日の暮れたトレセン学園のとある一室で、一人の男がノートPCと睨み合っていた。彼はとあるチームを率いるトレーナーであり、今後のローテーションとトレーニングプランを練っているのだ。  定時はとうに過ぎているが、彼の能力でチームの高いレベルを維持するためには何かしらを切り詰める必要が有り──彼にとって真っ先に削れるものは、自分の時間だった。 「ふぅ……」  一息付いて、画面から目を離し天井を仰ぐ。部屋の壁にはジャパンカップや宝塚記念、有馬記念や天皇賞などの格式高いレースの優勝レイが飾られている。  これだけのGⅠタイトルを複数所持していても、上には上がいるトゥインクル・シリーズでは慢心などできない。リギルやスピカのような強豪チームに食らい付くには日々の研究が必要不可欠だ。トップチームのウマ娘が化け物であるならば、トレーナーもまた怪物揃い。 「もっと、突き詰めないと……」  彼は目頭を揉むと、再びPCと向き合う。日付が変わるまで彼の腰が持ち上がることはないだろう。 「Hey、トレーナー⭐ 24時間残業かな?」  彼女──オベイユアマスターがいなければ、の話だが。

1 22/07/11(月)01:03:19 No.947837354

 勢い良く開かれたトレーナー室のドア。打ち切られる彼の思考。  ドアが壁にバウンドする音に、彼は反射的に背筋を伸ばし、目を見開き、瞬きを何度も繰り返して──深々と溜息を吐くと、ぐったりと椅子の背もたれに背中を預けた。 「……もう残業じゃないだろ、それ」 「そう? ユーの頭の中はいつもトレーニングでいっぱい。ホリデイもロスタイムだらけなんじゃないかな?」 「む……」  ウインクをしながら指を突きつけて来るオベイユアマスターに、トレーナーは口を噤む。返す言葉も無いとはこのことである。 「だけどユーはサラリーマンじゃない。戦士じゃなくてトレーナー。今のユーに必要なものは、休息と……コレだね!」 「うーん……おっ!?……とと」  相変わらずわざとらしい言葉遣いだなぁ──と、呑気に思っていたトレーナーはオベイユアマスターが放り投げてきた物への反応に一瞬遅れた。肩にぶつかり取り落としそうになったそれを慌てて胸でバウンドさせ、何とか手の中に収める。 「……これ、栄養ドリンク?」 「効き目は保証するってさ☆」  それ自体は、何の変哲もない透明の水筒──だが、その中身の蛍光ピンクの液体が彼の警戒心を際立たせた。

2 22/07/11(月)01:04:46 No.947837742

「あー……こういう時は確か……『Hey!heyheyhey!トレーナーの、ちょっといいトコ見ってみたい☆』!……だったかな?」 「どこで覚えたんだそんなの……まあいいや、南無三!」  舌をペロリと出してサムズアップするオベイユアマスターに、覚悟を決めて液体を一口に流し込むトレーナー。  喉をどろりと通り抜ける感触が、背筋を震わせた。 「……甘っ! なにこれめっちゃ甘い!」 「Wow!……で、どうかな?」 「いや、どうって……お?」  溶け切らない砂糖水を一気飲みしたような喉越しの悪さ。更にトレーナーの脳裏に蘇るのは以前オベイユアマスターに故郷の味だと言ってプレゼントされた水色のケーキ。1ホールの砂糖とクリームの塊を、更に一口大に凝縮したような甘さの暴力が喉を通り抜けていくが── 「なんか、頭がスッキリしてきたような」 「……oh、リアリー……?」 「……オベイさん?」 「HAHA、ジョークジョーク☆」  不思議と、疲労で鈍くなっていた頭のキレが戻ってくるのを感じる。  イタズラっぽく笑ってみせるオベイユアマスターに、トレーナーは敵わないと再び溜息を吐いたのだった。

3 22/07/11(月)01:05:55 No.947838025

「ありがとう、オベイさん」 「オフコース!……同じ窯のメシ? それとも一つ屋根の下?……とにかく、ユーとミーはそういう仲だからね!」  彼にとって、オベイユアマスターにこうして助けてもらうのは初めてではない。  チームとして結果を残してこれたのも、彼女の的確なサポートあってこそだ。 「ああ、うん……オベイさんも、無理しないでくれよ」 「モチロン! 自分のことは自分がよくわかってるからね!」 「……ここぐらいでなら、そのキャラやめても大丈夫だけど?」 「!……それこそオフコースだよ。エンターテイナーは楽屋裏でも楽しむものだから」 「そっか。まあ、いつでも頼ってくれて──ん?」  トレーナーがオベイユアマスターから視線を外し再度PCに向き直ると、違和感を覚えた。  何やら視界がピンクがかっている。部屋中がネオンライトで照らされているような。光源はどこかと探れば── 「……オベイさん、これ」 「……wow……」  ──薄っすらと、自分の肌が光っていることに気が付いた。

4 22/07/11(月)01:07:25 No.947838403

「……あの栄養ドリンクの出所だけど」 「Agnes Tachyon!」 「やっぱり!」  ネイティブな発音を聞けば、彼の脳裏に浮かぶアグネスのヤバい方。見た目の怪しい液体という時点で察するべきだったと後悔するが、後悔は先に立たず発光はすぐに収まらず。 「いやあ、効き目は保証するって言ったけど……ね?」 「ね、じゃない! 一体どうしたら……ぁ?」  トレーナーはぼんやりと発光しながら勢いよく立ち上がり、オベイユアマスターに詰め寄る。そして、そのまま──ぐらりと身体を傾けて、彼女にもたれかかった。  程なくして聴こえてくる寝息の音。薄っすらと光っているという外見を除けば、オベイユアマスターに寄り掛かって寝落ちしているような状況である。 「……だから言ったでしょ。君に必要なのは休息だって」  夢の世界に旅立ったトレーナーを優しく受け止めたオベイユアマスターは、静かに呟く。

5 22/07/11(月)01:08:22 No.947838618

 トレーナーにとってオベイユアマスターは共に歩んできたパートナーであり、チームメイトであり、何度も助けられてきた掛け替えの無い存在。  ──そしてそれは、オベイユアマスターにとっても同じこと。 「スマートではないけど許して欲しい。こうでもしないと君は止まらないだろうから」  数分して彼の発光が収まると、オベイユアマスターはトレーナーを抱き上げてソファまで運び、そのまま眠る彼の頭を膝に乗せた。 「ジャパンカップを制した膝の寝心地はどうかな? ワールドクラスの嗜好品だよ?……なんて、聞こえてるはずもないか」  トレーナーからの返事は寝息のみ。  その返事をもって、オベイユアマスターマスターは彼の髪や頬、耳をゆっくりと、優しく撫でていく。指から伝わる彼の体温に、彼女の口角は緩やかに上がっていく。

6 22/07/11(月)01:09:16 No.947838808

「起きたら君は怒るかな?……いや、許してくれるだろうね。優しいから」  オベイユアマスターはトレーナーの性格を知り尽くしている。  このチームが出来上がる前。彼と共にジャパンカップを乗り越えてから、彼のことは誰よりも知っている。 「……そんな、君の前だから。あの仮面は外せない」  ワイルドジョーカー。一度切りの切り札。徹底的に相手を調べ上げ、徹底的に己のカードは伏せる戦法。  オベイユアマスターの『いかにも』なキャラクターは、ただ一度の勝利の為に作り上げた仮面。周囲を欺く為の手段に過ぎない。  そのただ一度の切り札を、唯一無二の切り札に昇華させ、真っ向勝負で怪物達と渡り合う力を手に入れられたのは──彼と共に歩んできた道のりがあったから。

7 22/07/11(月)01:09:30 No.947838866

「まだ、覚悟が出来ていないんだ」  トレーナーもオベイユアマスターの素顔は知っている。仮面を纏うのに費やした努力も、武器を手に入れる為に積み上げた山のような研鑽も。 「君に、この顔を見せるのは」  その彼が、唯一知らない彼女の顔。  それは、アメリカンなウマ娘でも、勝利に全てを捧げる策略家でもなく。 「……もう少し、後でもいいかな?」  一人の、恋する少女だった。

8 22/07/11(月)01:10:13 No.947839006

 ──だが、オベイユアマスターは知らない。  トレーナーが知らずとも、その顔が既に周りに知られていることに。 「うわー……オベイさん、ほっぺ突っついたりしてる……意外と大胆だなー……」  ドアの隙間から、こっそりと二人の様子を伺うメジロパーマー。 「だ、ダメダよパーマーさん……二人きりにしてあげないと……」  そう言いつつも、興味津々にトレーナー室の中をチラ見するライスシャワー。 「じっくり……コトコト……今はまだ、ダメ」  虚空を見つめながら、何かを捕まえるような動作をするマンハッタンカフェ。  普段の注意深い彼女であれば気付くことができた三人の存在を、トレーナーの寝顔に夢中になるが余り見落としてしまった。

9 22/07/11(月)01:11:33 No.947839334

 オベイユアマスターはチームメンバーにとっても頼れる存在であり、その観察力を以って皆を支えていた。  ある時、ライスシャワーが落ち込みそうになれば── 『ど、どうしよう……ライスがみんなのドリンクを零しちゃったせいで……!』 『No!……アレは元々不安定なバランスで固まっていた。私達の誰かが言っても同じ結果になっていた……だからユーのアンラックが原因ではない』  ある時、パーマーがパリピとして羽ばたこうとすれば助言をくれてやり── 『Incomplete!やるならperfectに!……恥ずかしいって? 中途半端は余計に恥をかくことになるよ。本当に』 『う、うん! わかった!……けどオベイさん、なんかキャラ違くない……?』 『……気のせいってヤツだよ』  ある時、マンハッタンカフェ絡みのオカルト現象にはトレーナーと共に一晩中抱き合って耐えて── 『※※※! これがjapanese horror!? トレーナー! マンハッタンカフェはなんて!?』 『か、カフェからは朝までひたすら耐えてって、とにかくドアに返事もしないでって──ヒィッ!? 今窓から音した!?』

10 22/07/11(月)01:11:55 No.947839414

 ──とにかく色んなことがあったが、彼女達と一緒に乗り越えてきたのだ。  仕事に全力を捧ぐトレーナーが気付けないことも、思春期の少女の嗅覚は逃がさない。   「こ、このままほっぺにキスとかするのかな……?」 「あ、あわわわ……!」 「……摘み食いもダメ。今は我慢して」  そしてこの後、余りにも進展が遅い為に、三人が結託してトレーナーとオベイユアマスターの仲を進めようと企むのだが──それはまだ、彼女の知る由もなかった。

11 <a href="mailto:s">22/07/11(月)01:13:20</a> [s] No.947839733

数日前に立ってたスレ見てから『トレーナーの前だと恋する少女になっちゃうので仮面を外せないオベイさんに気ぶるチームメンバー達』みたいなラブコメが浮かんでこんな話が読みたいなって思うんですけどどこかに続き落ちてないですかね

12 22/07/11(月)01:14:10 No.947839920

一瞬えっ!?数年単位で仮面外さないおベイさん!?ってなったけどいいねぇ…

13 22/07/11(月)01:14:56 No.947840090

(ずっとほんのり光ってるトレーナー)

14 22/07/11(月)01:16:48 No.947840504

この3人ではちょっと頼りないんじゃねえかなぁ…

15 22/07/11(月)01:18:07 No.947840804

なんですかライスパーマーカフェが他人の恋愛には弱いって言うんですか そうだね

16 22/07/11(月)01:21:09 No.947841498

チームメイト相手だと素が出てるのいいよね…

17 22/07/11(月)01:21:34 No.947841595

毎年の国際競走でアメリカの旧友たちが最初にパーマー達に聞くのは 「進捗どうですか?」だという

18 22/07/11(月)01:23:05 No.947841937

>なんですかライスパーマーカフェが他人の恋愛には弱いって言うんですか >そうだね 自分の意中の相手は絶対彩ファンタジアするタイプだとは 思うけど どうにも他人の話は…パーマーなら…でもこの子も性根は優しいお嬢様だしな

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