22/07/03(日)00:53:41 昔から... のスレッド詳細
削除依頼やバグ報告は メールフォーム にお願いします。個人情報、名誉毀損、侵害等については積極的に削除しますので、 メールフォーム より該当URLをご連絡いただけると助かります。
22/07/03(日)00:53:41 No.945011701
昔から、朝はあまり好きじゃなかった。眩しすぎる太陽は星の光を侵食していって塗りつぶしてしまうから。あの子と私の繋がりを、その強すぎる光で焼き切ってしまうようで。 今日の天気は鬱陶しさを感じるほどの晴れ。空を見ても雲ひとつ見当たらない。ここ数日は雨が続いていたから今日は久しぶりにきれいな星空が見れそうだ。今日はあの鬱陶しい覇王も遠征で居ないため、今夜は一人で星を見ることになるだろう。………なんだか寂しさのようなものを感じてしまうのは、私があの騒がしさに慣れてしまったからだろうか。以前、トップロードさんから言われたことを思い出す。 「みんなで星を見に来る時のアヤベさんって、なんかこう……楽しそうでいいですよね!」 私としてはもう少し静かに見てもいいぐらいだと思っていたけど(特にオペラオーは)それでもかけがえのない友人と一緒に星を見ることが、私にとって大切な時間になっているのは間違いがないようだった。……いい加減、毎回勝手な伝承を語るのはやめてほしいけれど。 そんなことを考えながらトレーニング室で外出届を書いていると、珍しくトレーナーさんから提案があった。
1 22/07/03(日)00:54:33 No.945011998
もちろん断る理由はない。急にそんなことを言い出したのは、いつもは私達4人で星を見に行っていることを気遣って遠慮していたからだろうか。 トレーナーさんからの提案を快諾したあと、一度寮に戻って天体観測の準備をする。明日は休日だから朝まで星を眺められるだろう。何故かカレンさんは私がトレーナーさんと一緒に星を見ることを知っているようで、なぜ知っているか聞いてもニヤニヤするばかりで答えてくれなかった。 準備ができたら寮を出てトレーナーさんと合流する。星がよく見える丘まで登っていく。やはりウマ娘とヒトでは体力も違うようで、少し苦しそうなトレーナーさんに合わせて私もいつもよりゆっくり登っていく。いつもはどんなことがあっても私に着いて来ようとするトレーナーさんと歩幅を合わせて一緒に歩いていくのは、不思議と嬉しいと感じるものだった。 いつもの場所に到着したら、二人でベンチに腰を掛けて、星を見上げる。
2 22/07/03(日)00:55:12 No.945012246
星を見ながら、色んな話をした。トレーナーさんは眠りが浅いので夜更しが苦手で私の担当になるまではあまり夜空を観察することが無かったこと、今ではプラネタリウムや本で勉強して星座のことを少しずつ覚えていること、その中でもさそり座の2等星、【シャウラ】が好きだということ。 どうして好きなのか、と尋ねたら1等星の【アンタレス】を見守るように尻尾から眺めているようだからと照れくさそうに笑った。 「ちょっとカッコつけすぎたかな?」 「恥ずかしがることないわ、素敵だと思う。」 私の話もたくさんした。トレーナーさんと出会ってから知ることができたたくさんのこと、いつもお世話になっているカレンさんにどうやってお礼を言えばいいのか悩んでいること、最近はいつも4人で星を見ているがトレーナーさんも遠慮せずに参加してほしいこと、いつも私についてきてくれるあなただけど……たまにはこうやって二人で一緒にゆっくり過ごすのも悪くはないということ、そうやって話しているうちに彼が目を擦り始めた。
3 22/07/03(日)00:55:50 No.945012471
もう東の空から朱い光が星を呑み込んでいく頃。夜ふかしが苦手だと語った彼はこくり、こくりと眠そうに頭を揺らす。 「今日は休日だし少し寝たらどうかしら。」 トレーナーさんは返事のような、寝言のような声を出しながら、私の肩に頭を乗せた。少し自分の体が強ばるのを感じる。だけど気持ちよさそうに寝ている彼を動かす気はしなかった。 ………こうして見ると、なんだか子供のようだ。朝日に照らされて明瞭になっていく彼の横顔を眺めていると、こんなに優しく彼を照らすなら、私と彼を優しく温めてくれるなら、朝も嫌いになれないな、と思ったのだった。