22/06/30(木)17:14:16 遠く... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1656576856179.jpg 22/06/30(木)17:14:16 No.944185918
遠くで木々の倒れる音がする。ダークエルブン・フォレストレンジャーは足を止めた。 相棒のティエ・チュアンが不安そうに振り向いて、二人で目を見合わせる。銃を構え直し、周囲を警戒する間にも、音は一定のリズムで響き、徐々に近づいてくる。 足の裏に、重い振動が伝わってくる。もう間違えようはない。巨大な、二足歩行する何かが、森の木々を押しのけ、ひしぎ潰して、こちらに向かってくるのだ。 ダークエルブンはこの音と振動を知っていた。かつてこれと同じものに遭遇して、仲間を失い、ただ一人生き延びた恐怖を知っていた。すくむ足を必死に動かして遠ざかろうとするが、一歩ごとに重く、大きくなる振動が、シダの葉群を揺らす。覚悟を決めてティエ・チュアンと二人、太いホウオウボクの幹に背をあずけてライフルを構えた。
1 22/06/30(木)17:14:27 No.944185967
震える銃口の先、緑の木々のあいだから、途方もなく巨大なチタンの歯を並べた、家ほどもある顎がぬっと現れた。 そして、その上から、白い翼のバイオロイドが身を乗り出し、ぱたぱたと手を振って何事か叫んだ。 「お騒がせしてごめんなさーい。このタイラントさんは大丈夫でーす」
2 22/06/30(木)17:14:48 No.944186028
密生する熱帯樹の太い幹を、枯れ草のようになぎ倒して、巨大な鋼の恐竜がグアムの密林を進む。その背に乗っているのは、まるで大きな浮島に乗って、緑の海をゆくようだ。 むせかえるほど濃い緑の匂いを吸い込んで、スノーフェザーは何度目かの深呼吸をした。故郷の匂いだ。 「くふふ、快適快適! やはりジャングルクルーズというのはこうでなくちゃいけませんよねえ!」 Mr.アルフレッドはすっかり上機嫌だった。身長3メートルを越す巨体の彼も、タイラントの額の上にちょこんと腰かけている姿はおかしいくらい小さく見える。 「どうです皆さん、楽しんでいますか? ひとつ、BGMでもかけましょうか」 「ありがとうございます。十分、楽しんでおりますよ。こんな高さから森を眺めるのは初めて。葉ずれの音と鳥の声が、何よりの伴奏です」 フェザーの隣に座る生命のセレスティアが、プラチナ色の髪を心地よさそうに風に遊ばせながら答えた。
3 22/06/30(木)17:15:02 No.944186072
「これ以上騒音を増やすとか、やめて下さい。金蘭さんが苦しんでいるのが見えないんですか」 反対隣のバニラが、底光りのする眼差しでアルフレッドを睨みつける。その隣で、分厚いクッションの上に座っている金蘭はさっきからしきりに肩を上下させて深呼吸をしていた。金蘭モデルの五感の鋭さはスノーフェザーも聞き及んでいる。ジェネレーターの駆動音が尻の骨に響いてくるタイラントの背の上は、彼女にとってさぞ辛いだろう。 「わかりました、わかりましたからそうやってすぐショットガンを持ち出すのやめてくれませんか! せめてと思って特製のクッションとイヤーマフをご用意したじゃありませんか!」 「ありがとうございます。振動は……少々、こたえますが、眺めは素晴らしゅうございますね」 青白い顔で、それでもにっこり笑ってみせた金蘭に、アルフレッドは特大のハートマークを顔面ディスプレイに浮かべた。
4 22/06/30(木)17:15:13 No.944186109
「んーっ! ほんっといい風!」 アルフレッドのすぐ側に、褐色の肢体がふわりと舞い降りる。アクロバティック・サニーはこの小旅行が始まってからというもの、通り過ぎる木々の梢を捕まえては飛び移り、くるくると回転したりジャンプしたりひとしきり遊んでから飛び戻ってくるのを繰り返していた。 「サニーさん! 大変恐縮ですけれども気をつけて下さい。汗にも有機成分が含まれているんですからね」 「あっははは、ごめんねおじさま」 陽気に笑って、サニーはフェザー達のいる腰骨のあたりへ駆け戻ってくる。陽光の申し子のようなその容姿に反して、彼女が本当はとても繊細で思い悩みがちな性格なのをフェザーは知っているが、そのフェザーから見ても、今のサニーの笑顔は心からのそれだと思えた。つごう五人のバイオロイドと一人のAGSを乗せても、タイラントの背中には十分な余裕がある。
5 22/06/30(木)17:15:24 No.944186151
「その喧しいスピーカーをシャットダウンしろ、ガラクタ。人間の命令でなくば、この我が貴様らごときに乗り物扱いなど許すものか」 憤懣やるかたない、という調子の声音が尻の下から響いてきて、フェザーは思わず首をすくめた。先ほど遭遇したパトロールの二人の、肝をつぶした顔が思い出される。大丈夫だったかしら。 「ガラクタとはご挨拶ですね! 私は貴方の生みの親の兄弟機、つまり貴方にとっては伯父も同然。後ろの二人のように、おじさまと呼んでくれても構わないんですよ?」 「呼ばぬわ!!」 満腔の怒声にタイラントのボディがびりびりと震え、全員の体がちょっと浮いた。 「おじさま、それくらいに……あ、あの、タイラントさん、すみません乗せていただいてしまって。重ければ私、飛びますから」 「ふん」 不機嫌そうに鼻を鳴らして、タイラントは樹海を進む。「バイオロイドの五人や十人、小虫も同じよ。背に乗ろうと乗るまいと何も変わらぬ」
6 22/06/30(木)17:15:48 No.944186240
長くなったので続き fu1210765.txt
7 22/06/30(木)17:32:08 No.944189646
愚痴愚痴言いながらもみんな乗っけてるハッピー可愛いな…
8 22/06/30(木)17:36:15 No.944190626
ロバート…あいつも狂ってさえいなければ…
9 22/06/30(木)17:40:55 No.944191700
こういうアフターの幕間的な話好き
10 22/06/30(木)17:44:03 No.944192443
復刻でロバートとアルフレッドの笑い方が一緒だと気づいてこれは書かねばと思いました まとめ fu1210764.txt
11 22/06/30(木)18:25:35 No.944202648
いつも素晴らしい小説ありがとう どれも情景が目に浮かぶようで好き
12 22/06/30(木)18:42:48 No.944207415
>オルカのリーゼに初めて会った時は驚いた。 むちwww