22/06/29(水)23:12:31 泥の主従 のスレッド詳細
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画像ファイル名:1656511951394.jpg 22/06/29(水)23:12:31 No.943995561
泥の主従
1 <a href="mailto:1/4">22/06/29(水)23:42:58</a> [1/4] No.944006492
『セイハイセンソウ!セイハイセンソウ!』 「知ってるよ。大声で言うな」 自室の一角、窓から飛び込んで帰宅した赤い鳥が、物々しい単語を連呼する。 「現にアイツに令呪が出たわけだしな。ったく、何で俺じゃなかったんだか……」 無造作に髪をかき上げる。その目線の先には何も無かったが、何でもない何かを確かに睨む。 『カナデ、シンパイ!シンパイ!』 つい勢いで頭を叩きそうになるが、視線で刺すのみに止める。怜にとってはその発言が、それだけ癪に障ったと言うことだが。 「……まさか。ただ、あいつも台杜の魔術を学ぶ1人だ。それが聖杯を手にしたとなれば、家の名は無論上がる」 『ゴウリテキ!スナオジャナイ!』 「感情でモノを考えるのは魔術師じゃない」 そうだ。合理的に考えて少しでも手数が多い方が台杜家のためというだけの事だ。感情で考えるならば、とっくに自分はここを逃げ出しているだろう。 強盗事件も、8年前の聖杯戦争も、そして今回も。全て自分の与り知らぬところでやってくれればどれだけ良かったか。 鳥がグエエと喉を鳴らす。それに合わせてもう一つ、大きめのため息が漏れた。
2 <a href="mailto:2/4">22/06/29(水)23:43:22</a> [2/4] No.944006637
「ああどうしたことか……とんでもないことになったぞ……」 「落ち着いてあなた。慌てたってどうにもならないわ」 脇腹に浮き出た真紅い紋様。それを見るなり硬直して、後にあたふたとその場を回り始める2人の大人。 この2人が私の魔術の師で、幼馴染の両親だ。 「あの子には伝えたのよね?」 「それは、はい。いつものように、渋い顔をされてしまいましたけど」 この事を伝えた時の彼の顔を思い出す。見せた時には目を見開いたが、直ぐに普段の冷たい視線に差し代わった。 彼はもうずっと私を見てはくれない。私の前に現れる時に常用している眼鏡を外すのは見ないぞという宣言だろう。 「あいつも男の子で、それでいて魔術師だ。花奏ちゃんに酷な事をしているのは叱らねばならん事だが、今回は私たちが支援する。だからどうかあいつを責めんでやってくれ」 「誰が、誰を責めるって」 リビングの入り口から声がする。振り返ると、そこには"彼"──台杜怜が立っていた。 「怜、くん」 「なんで俺が花奏に責められなきゃならない。そんな権利がお前にあるか?こっちが責めたいくらいだ、違うか」 「やっぱり、今からでも」
3 <a href="mailto:3/4">22/06/29(水)23:43:47</a> [3/4] No.944006791
「が、それはしない。聖杯はお前を選んだ。俺じゃない。この家の未来も、聖杯戦争の勝利も。俺の肩にかかっちゃいない。お気楽ここに極まれりさ」 「そこまでに……」 「父さんと母さんもだ。台杜の魔術を学んだ他人の子。彼女に一枚噛んでるポーズでも見せとけば、聖杯の栄誉は台杜家のもの。花奏の親は聖杯なんて知りもしない」 淡々と口を開く。その目も口も、薄ら笑いを浮かべるように吊り上げられる。 「それでも、いいよ」 「だ、そうだ。了解を得たんだ。これで『聖杯戦争の勝者は台杜の魔術師です』って声を大にして言って問題ない。良かったな?」 「怜。後で話がある」 「──はいはい」 怜の父親は俯きがちに、握った拳を振るわせていた。 言葉に詰まった彼の母がこちらに歩み寄る。 「その……無理は、しちゃダメよ」 「しますよ。じゃなきゃ手に入らないでしょう」 「3人で楽しますよって通告はした。ハイエナされる事分かってて頑張ってくれるんなら、俺は手放しに喜ぶさ」 「うん。私、聖杯持って帰ってきます。待っててね」 露悪的に笑う彼。けれどそれすら、私が見た久々の笑顔。もう少しその顔を向けてもらえるなら、私を見てくれるなら、それだけで。
4 <a href="mailto:4/4">22/06/29(水)23:44:09</a> [4/4] No.944006911
「言い過ぎだ。彼女に悪いとは思わないのか」 「悪いさ。最大限悪い事をするって、最大限悪い奴らしく語った。それでもやめる気にはならないとは」 「お前ってやつはどこまで……」 先まで身体中から蒸気を吹き上げる勢いだった父が、がくりと肩を落とす。 「だがま、噛むからには支援は最大限。確かに低リスクではあるが、聖杯なんて滅多に巡ってくるもんじゃない。聖杯の錦を台杜に飾るんだ、やれる事はやる」 先程より落ち着いた口調。相手を煽り立てるような文言はそこにない。 「なんだかんだ言って花奏ちゃんが心配なんじゃない。お母さん、ちょっと安心したわ」 「違う。大体花奏は2人がここ8年で心血注いで魔術師に仕立て上げたんだ。聖杯のチャンスもそうだが、俺より才能がある花奏を失うのは痛手。そういう意味でも、俺がマスターだった方がまだ良かったんだが」 「ふふ。ツンデレさんね」 あくまでも客観視する息子に対し、安堵したように笑う母。父もそれにつられ、顔が少し緩んでいた。 どいつもこいつもお気楽だと息が漏れる。或いはその緊張感こそが、自分たちに足りないものかもしれないと過った。 「何はあれ、死なせるわけにはいかないしな、と」
5 22/06/29(水)23:50:09 No.944008946
両親の前でもその態度なんだ……
6 22/06/29(水)23:58:18 No.944011730
>両親の前でもその態度なんだ…… 花奏の前かどうかがクソ男スイッチのオンオフでそれ以外の環境要因はあんまり影響しません ある意味でこっちも花奏の存在が最優先ってことになりますね
7 22/06/30(木)00:04:12 No.944013864
いいね……花奏ちゃんレイプされても求められたことと反応してもらったことで喜びそうでちんちんイライラする