22/06/29(水)00:25:58 砂で汚... のスレッド詳細
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22/06/29(水)00:25:58 No.943672809
砂で汚れるわよ、なんて言っても彼は構わずに砂浜の上に腰を下ろすと空を見た。 月もなく夜空を埋め尽くすような星々と、それを反射する海、手元の頼りない光を放つ懐中電灯だけが色を付けていて、後は黒の中だ。 そんな海沿いで私達は星を観ている。彼のことを知ったあの日、やりたかったことをやるように。 「プラネタリウムもいいけど……こっちは圧巻だなぁ……ずっとここにいて、こんな美しいものに気づけなかったなんて」 「今は、気づけるようなったからいいじゃない」 子供のようにはしゃいだ声を出す彼の隣に座ると、薄暗く彼の顔が見える。その目にはうっすらと涙が浮かんでいた。 きっと彼は自分の中で見つけた思い出たちを振り返り、一つ一つ棚へとしまい込んでいるのだ。これからも楽しみ、悲しみ、悩むであろう思い出たちのためにも。 そして集まったそれらは星屑たちが星座となるように、これが自分なのだと一つの形を作り上げるのだろう。私と同じように、トレーナーさんも始まったばかり。
1 22/06/29(水)00:26:23 No.943672941
「そういえば、トレーナーさん。これ、忘れ物よ」 ふと持ってきていたものを思い出して、彼の鼻先に万年筆を近づける。彼がそれを受け取り、闇の中で手探るとそれが何が分かったらしい。 「契約解除の書類と一緒に置いていた……君からのプレゼントか……すまない、俺は君から遠ざかろうと自分の中にあった欠片さえ置いて……」 「今度は失くさないで、いいわね?」 もう何度目かわからない彼の謝罪に対して、ぴしゃりと言うと彼も最後に一つだけ「ごめん」とだけ言って、代わりに笑いながら剥げた塗装や傷を撫でながら胸にしまった。 「あぁ……絶対、なくさないよ!」 「ならいいわ」 そうやってしばらく波の音だけを聞きながら星を眺めた。時々彼が星について質問して、私が答える。いつもと変わらない、けれど見えない所で変わった私たちの、新しいいつもの日常。やがて私達は話題は星から自分達のことに変わって、その中で彼は 「一度、両親に会おうと思うんだ」 と言った。彼の両親との関係を知っている私は、少しだけ心配になって暗闇の中で彼の手に触れた。すると暖かくて、大きな手が私を包み込んだ。彼は笑っていた。
2 22/06/29(水)00:26:41 No.943673046
「別に、怒鳴りたいとか不満を言いたいってわけじゃないんだ。両親もある意味あの子のことを思い出に出来ていないんだろうしね。だけどもう自分が悪いと責める気はない」 「じゃあ、会わなくてもいいんじゃないかしら……? 道が違うなら、あちらに合わせる必要なんか……」 「あるさ。聞いたんだが……母さんたちはカレンチャンのファンなんだろ? だからさ、せっかくなんだから息子が担当してるんだから、アドマイヤベガも応援しろ! って、そう言いたいんだ」 「……それだけ?」 「ああ!」 ふん!と鼻息を荒くしながら答えるトレーナーさんに、思わず笑ってしまう。あぁ、彼の中でもう両親のことはとっくに思い出なのだ。 「じゃあ、私もついていくわ」 「えっ? アドマイヤベガが……な、なんで?」 「紹介するんだから、本人がいた方がいいでしょう。私も言いたいことは、あるから」 「ど、どうしてそこまで……多分嫌いだろ、あの人達のこと……」 「それは――」
3 22/06/29(水)00:27:08 No.943673231
言いかけようとして、ふと二人で見ていた夜空に奇妙な空間というか、影が移動してきているのに気づいて意識がそっちにいってしまう。なんだかふよふよとしていて、上がったり下がったりしている、何かが空を滑空してこちらに来ているようだ。その奇妙な物体ははやりふわふわと空を滑りながら私達に近づき、越えて……どさっという音と共に砂浜に転がったようだった。 「な、なんだ……?」 「さぁ……」 あまりに変なので、二人で懐中電灯を持って近づいていくとなんだか聞き覚えがある声が聞こえてきた。 「目標地点も無灯火、夜で視界困難、しかも海沿いで風がヤバイ。これでタンデムは流石に死ぬぞ。怪我は?」 「ところがどっこい、五体満足で誰にも気づかれずに合宿所に戻れた! 流石はボクのフィガロだね! ハーッハッハッハ! 」 恐らく忘れようと思って忘れない類の笑い声、間違いないオペラオーたちだ。般若の形相でエアグルーヴが部屋に入り込んだ時には、イタリアまでオペラ見に行ってきますという書置きだけを残してまたどこかに消えていたはずの二人が戻ってきたらしい。
4 22/06/29(水)00:28:55 No.943673898
「さぁ! アヤベさん達を探そう! 今日はアヤベさんを見守る会なんだ、合流しなければ! しかし、トレーナー君、君にはもう何度も一生のお願いを使ってしまっているね!」 「俺は伴侶なんだろ。いいさ、かわいい旦那様のお願いなら。ほら暗視装置」 「かわっ……は、はーっはっは、それなら甘えるとしよう。うん。まぁどちらかというと、旦那様というのはボクではなく……」 驚き。オペラオーってかわいい声出せたのね。それはそれとしていきなり空から飛んできてラブコメされても困るし、なんだか聞き逃せないことを言っていたから光を顔に当てるわけだけど。 「ウワーッ! 眼が――!? あまりのボクの美しさに世界は昼に!?」 「違うわ、その変なカメラ頭から外しなさい」 「お、オペラオーさんの声が……ってひ、ひゃ~~……!?」 「ど、ドトウさん、そんな細い木のてっぺんに行くと倒れます! 倒れます木がー!?」
5 22/06/29(水)00:29:17 No.943674035
オペラオーが叫びをあげると同時に、後ろのから何かが倒壊する音が聞こえて、ごろんごろんとトップロードさんとドトウが転がってくる。なるほど、私達が心配になって密かに見守ってくれていたらしい。こんな闇だからたぶん全然見えなかったとは思うけれど。 「俺も君も、一人にはなれないみたいだな」 謝ったり、言い訳したり、オペラ始めたり、わちゃわちゃとしている私の友人たちを見てトレーナーさんは笑った。同感だが悪い気分ではないのは私も変わっていった証拠だろうか。 でも今日ぐらいは二人の方がよかったかもしれない、なんて思うこともある。アルタイルとベガがやっと会えたような日くらい。でも、これが私のこれから続く日常なのだろう、やはり悪くはない。 「そう言えば、さっき言おうとしてたこと何だったんだ? ほら、どうしてそこまでって……」 「あれはなんでも――いえ、そうね」 トレーナーさんがふと思い出したように口にする。雰囲気でもないから、なんでもない、と言おうとしたけれどある意味ここで言うのが一番いい気がしてきたので、言うだけ言ってみる。 「貴方が好きだからよ」
6 22/06/29(水)00:29:30 No.943674116
ピタッと瞬間冷凍されたように全員の動きが止まって、トレーナーさんだけが薄暗い中でも顔が赤くなって狼狽したのが分かった。 「え、あ……な、何言って……」 ひとしきり狼狽してから、トレーナーさんは思い出したように「あ」と口に出した。 「もしかして、あの時の仕返しか?」 「さぁ、どうかしら?」 闇の中で彼が照れ臭そうに笑った気がして、私も笑った。
7 <a href="mailto:s">22/06/29(水)00:30:51</a> [s] No.943674581
調子に乗って書いた続きの続きの続きの続きの続きの続きの続きの続きの続きの続きの続きの続きの続きの終わりです ありがとうございました許してください ついでに全部のまとめも許してください fu1206005.txt
8 22/06/29(水)00:31:51 No.943674933
よく完走したな…全てを許すよ…
9 22/06/29(水)00:34:55 No.943676027
西の夜空さそり型の星座がのぼり恋したねと教えてくれた
10 22/06/29(水)00:36:36 No.943676623
>アルタイルとベガがやっと会えた オイオイオイ >「貴方が好きだからよ」 オイオイオイ
11 22/06/29(水)00:39:14 No.943677543
ストーリーでアヤベが好きだから!って言って慌てさせたお返しか!
12 22/06/29(水)00:39:19 No.943677578
最高だった
13 22/06/29(水)00:41:01 No.943678100
許す? そんな必要は無い 何故なら最初から怒ってなんかいないからさ、ありがとう
14 22/06/29(水)00:41:58 No.943678402
今回は短めで読みやすかった…ありがとう本当に楽しかった
15 22/06/29(水)00:42:26 No.943678538
急に女の子になるオペラオーはずるいよあとオペトレはなんなんだあんたいったい!
16 22/06/29(水)00:44:49 No.943679346
いやー大団円だった >「貴方が好きだからよ」 ヒソヒソ…やっぱり覇王世代のダービーウマ娘よ…
17 22/06/29(水)00:48:44 No.943680596
>いやー大団円だった >>「貴方が好きだからよ」 >ヒソヒソ…やっぱり覇王世代のダービーウマ娘よ… ハーッハッハッハ!はーはっはっはっ……かわいい……
18 22/06/29(水)00:50:55 No.943681277
おいおいエンディングのあとはエピローグがあるもんじゃないのか? その後の日常を少しだけ!少しだけ見せてください!
19 22/06/29(水)00:51:01 No.943681310
触れた発信源に届けるよ口付けしろ!
20 22/06/29(水)00:54:07 No.943682296
府中の最直を駆け上がるならこの位の末脚持ってて当然か…
21 22/06/29(水)00:55:24 No.943682745
もう後は織姫と彦星が末永く幸せに暮らしただけの平凡なエピソードだからな…
22 22/06/29(水)00:58:50 No.943683904
とても良かったが後日譚も必要ではないかね 後オペラオーとトレーナーのドタバタ外伝も
23 22/06/29(水)01:04:32 No.943685619
>もう後は織姫と彦星が末永く幸せに暮らしただけの平凡なエピソードだからな… それが見たいんだよ!
24 22/06/29(水)01:09:54 No.943687113
こうどん底まで落としても絶対に大団円に持っていくから信頼できる「」だ…
25 22/06/29(水)01:18:05 No.943689502
ありがとう ただそれだけ言わせてほしい
26 22/06/29(水)01:27:17 No.943691986
続きがないようだが
27 22/06/29(水)02:03:48 No.943699326
ハッピーエンドで良かった…
28 22/06/29(水)02:06:49 No.943699855
消えない悲しみがあるなら生き続ける意味だってあるんですね
29 22/06/29(水)02:14:12 No.943701010
やっとカササギのかけた橋を渡ったんだな