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  • 泥の深夜 のスレッド詳細

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    22/06/27(月)00:31:45 No.942989742

    泥の深夜

    1 22/06/27(月)00:49:24 No.942995968

    食べ方に品のある子だと店主の為末一郎は常々思っている。 カウンターを挟んだ席に座り、丼に口元を近づけて麺を啜るその仕草には年頃の子の乱暴さがない。 その清楚さには教育を施されている気配があった。こんな時間に出歩いているような子なのに。 と、その視線がカウンターの隅をちらりと見遣る。目につくところにベタベタとステッカーが貼られていた。 カラフルなそれらは内容も様々だ。どこぞのバンドや何かの個人商店、中にはカラーギャングの類が作ったと思しきシールさえある。それをちらりと眺めてから少女はぽつりと言った。 「またステッカーが増えてるね、スエさん」 「減るものでもないからな。こういう屋台だからすぐ汚れるぞとは言っているんだが」 「広告料でも取ってやればいいのに」 どこか呆れたような調子で呟いた少女が再びラーメンの丼へ向き合う。 細っこくて何かを少し食べただけでお腹いっぱいになりそうな身体ながら、少女は想像以上に健啖家だ。このラーメンの一杯くらいはスープも含めて平気でぺろりと平らげてしまう。 普段食べないだけで2杯目があったとしても問題なく胃に収めてしまえることを一郎はある出来事により知っていた。

    2 22/06/27(月)00:49:37 No.942996048

    ───『葉月屋』は店主の一郎が新宿の路上で営んでいるラーメンの屋台だ。 かつては有名店で修行していたという腕前もさることながら、この店は一郎が意図しない内に新宿の夜のネットワークの一端となっている。 やってくるのは若者が多い。盛り場に出入りしていたり、夜の仕事を生業にしていたり、理由の枚挙に限りはないがそういう人々だ。 彼らにとってこの店は情報交換が行えるオアシスめいているらしく、様々な立場の客が入れ代わり立ち代わりやってくるのだった。 貼られすぎてモザイクアートじみたステッカーが証左だった。 「ごちそうさま」 「おそまつさま」 やがて少女が空になった器へ手を合わせる。 少女はある日ふらりとこの店にやってきた。夜の街をうろつくにはさすがに若すぎるような子だったのでよく覚えている。 それほど大きくはない。極端に小さくもない。日本の女性の平均身長より気持ち上程度の背丈だ。 外国人の血を引くのか明るい発色の瞳を陰気に澱ませているが、肌はかなりの色白だ。夜闇にあっては積もった雪のように白の存在感を感じさせるだろう。 それと対比するかのような、意図的に乱雑に散らされた漆黒の髪が美しい少女だった。

    3 22/06/27(月)00:49:48 No.942996115

    彼女は今と同じようにラーメンを一杯注文し、全部平らげて出ていった。一郎と視線を合わせようともせず、どこか距離感を感じる態度だった。 もう来ることはあるまい、そう思っていた3日後に少女はまたこの店へとやってきた。 それからだ。少女がちょくちょく訪れてはほんの少しずつ一郎と喋りだしたのは。 少女の名前はアイカという。名字は知らないし漢字でどう綴るのかも知らない。年齢さえも曖昧で、生い立ちなんて以ての外だ。 だが夜の街の人間なんてそんなものだ。彼らは夜闇に紛れ、正体無くして彷徨うのである。この少女もそのひとり。 他の子とはどこか違った雰囲気を纏う子だった。無口なのにお喋りで、愛想はないのに人懐こい。 常に寂しさのようなものが仕草に滲んでいるが、不用意に近寄ろうとするとするりと逃げて離れていく。 一郎もどちらかというと無口で無愛想な方だと自認しているが、だからだろうか。聞き出さなくともアイカのことは何となく分かった。 たぶん昼にも夜にも自分の居場所がなくて、それで野良猫のように少しでも肌に馴染む場所を求めてこんなところを彷徨いているのだと。 それは彼女の年齢からすれば悪いことなのかもしれない。

    4 22/06/27(月)00:49:58 No.942996186

    しかし往々にして、正しいだけの答えは人の心を傷つけるばかりでまして救うことなんて滅多にないものだ。 「今晩はこれからどうするんだ」 「路上ライブに誘われてる。よく知らないけど。とりあえず行ってみる」 「そうか。あまり遅くなりすぎないようにな」 「ん」 一郎に頷いたアイカはスツールから立ち上がると、お冷を飲み干してぶっきらぼうに屋台の暖簾を潜っていく。 暖簾の隙間から見えるパーカーの後ろ姿を一郎は手ぬぐいで汗を拭きながら見送った。 一晩のみの止まり木を求め、当て所なく闇に溶けていく。ぽっかりと空いた精神の虚を思わせるような頼りない去り方で。 一郎には彼女の事情に首を突っ込むような理由も、権利も、意志もない。だが思うところはある。 仕事柄多くの人間を見てきたが、自分がいていいと思える場所のない人間はたいていあんな風に物悲しさを背中へ帯びるものだ。 「いつかアイカが自分を許せるような、そんな出会いがあるといいんだがな」 そう独り言を口にした時、次の客がやってきた。ラフな格好をした若い男の三人組だ。 アイカがいた時とは正反対に騒がしくなった屋台で一郎は注文に応えるために腕まくりをしたのだった。

    5 22/06/27(月)01:10:22 No.943002349

    誰ぇ!?

    6 22/06/27(月)01:15:29 No.943003683

    書き込みをした人によって削除されました

    7 22/06/27(月)01:24:14 No.943005829

    キャッツ!

    8 22/06/27(月)01:27:36 No.943006631

    夜の街でラーメンを啜るねこ 太るぞ

    9 22/06/27(月)01:46:22 No.943010731

    ほっとけ無い雰囲気ガールいいよね