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22/06/26(日)00:01:15 「始ま... のスレッド詳細

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22/06/26(日)00:01:15 No.942556555

「始まったばかりなのに……!」 もはや姿勢も何もなく、心臓マッサージというよりは彼の胸を叩くように手を振り降ろす。その一瞬だった、彼の胸から確かにどくん、という鼓動が聞こえて、慌てて耳を胸に当てる。 とくんとくん、と確かに聞こえる。血が巡り、生命が動く音。生きている、彼が、生きている。 「動いた……心臓が動いた! トレーナーさん!」 私の言葉に皆が駆け寄ると、トレーナーさんは咳の代わりに海水を吐き出してうっすらと目を開けた。ここが何処かを確かめるように弱弱しく首を動かして、そして私を見る。 「トレーナーさん……私よ、分かる? どこか痛い所はない?」 「俺は……」 風に乗って消えそうなか細い声で彼は言った。 「妹より……君を選んでしまった……君がいる世界を……」 それは否定ではなく、肯定でも、後悔でも、希望でも、絶望でもなかった。ただそこには受容があった。星と海と、その世界。過去と未来、それと自分自身への受け入れ。

1 22/06/26(日)00:01:26 No.942556646

「アドマイヤベガ……」 「えぇ……聞いているわ……」 「俺は、俺は……」 「ちゃんと生きたい。そうでしょう?」 震える唇の代わりに私がそう言うと、彼は眼を少しだけ大きく開いて、そのあとそっと微笑んだ。そしてそのまま目を閉じて動かなくなる。 「お、おい!」 「大丈夫、眠っただけ……」 その光景に、目を青くしたカレンチャンのトレーナーさんを安心させながら、彼を抱きしめる。 「やっと、進めたのね」 星と海と、全てが煌めく暗がりの中、救急車のサイレンが聞こえるまで私はずっとそうしていた。ただ、この世の中で二人だけだというように、ずっと。

2 22/06/26(日)00:01:42 No.942556763

〇 トレーナーさんは人生で初めてゆっくりと眠ることができたのかもしれない。そう思うほどに、彼は病室で丸一日眠り続けた。その間、私は彼の傍でただ手を握り続けていた。 彼が私にそうしてくれたように。命の暖かさを感じさせる手を包むように。 そして彼が目覚めた時、あまりにもただ声も出さずに一点を見つめるだけだったので不安が襲った。あの時の私のように空っぽだと思ってしまっているのかと思ってしまったのだ。 だがそれも杞憂だった。彼は不安そうな私の眼を見て微笑みながらこういった。 「空っぽじゃないよ、思い出していたんだ」 「……何を?」 「アドマイヤベガと出会って今までのことを、楽しかったこと、嬉しかったこと、悩みも。何もないと思っていても、自分の中にあったものを。教えてもらったんだ」 「妹さんと……会えたのね」 彼は頷くと、懐かしむように妹さんのことを話してくれた。彼の口から聴くのは初めてで、そこには自罰的な言葉はなくただ彼女のことを思い出してただただ懐かしんでいた。彼の中にはもう作り上げた罪もなくなって、思い出と未来への糧に出来ている。そんな気がした。

3 22/06/26(日)00:02:16 No.942556994

やがて、目が覚めたと聞いて駆けつけたのがカレンさんのトレーナーさんだった。彼らはしばらくお互い何を話せばいいかわからないように無言のまま見つめ合っていたけれど、ふと私のトレーナーさんが口を開いた。 「ありがとう。助けてくれたんだってな。君からはもう、愛想を尽かされたと思っていた」 「バカ、愛想尽かそうが何しようが目の前で死にそうな人がいたら助けるのが人間ってやつなんだよ。お前だってそうだったろ」 昔からの友人の言葉に彼は俯いて涙を溜めると、それを振り払うようにしてまた顔を上げた。 「妹に……会えたよ」 「……どうだった」 「元気、そうだった」 その短い会話は二人にとってどんな意味をもたらしたのか、それは私でさえ分からなかった。ただ一つだけ分かるのは……彼らの間にあった複雑に絡まり合った糸が綺麗に解けたということだ。 「そっか……そっか……」 カレンさんのトレーナーさんはほんの十秒ほど目元を覆って、そして少し赤い目元と潤んだ瞳をこちらに見せた。

4 22/06/26(日)00:03:28 No.942557463

「俺たちは、きっとあの子にかける言葉を今まで間違ってんだ。ずっと謝ることがあの子に対する罪滅ぼしだって思ってた。だけど、こっちは元気でやってるよ。って言ってあげてもよかったんじゃないかって……今になって思っている」 トレーナーさんは少し自分を恥じるように、でもまた一歩歩き出すように力強くそういった。 「……だな。ただ一つ言うんなら、今からでも間に合うだろ。俺たちにはまだ飽き飽きするほど時間があるんだ。楽しんじまうか、今までの分」 そうやって二人は思いっきり笑った。傍で見ることを許されていた私は、二人が一瞬少年のように見えて目をこすらなければいけなかった。でも、それはきっと良い回帰なのだと思う。きっと。 しばらく笑い合ったあと、カレンさんのトレーナーさんは私をみて、「それでどうするんだ?」と聞いてきた。 「どうするって……なにをかしら?」 「契約のことだよ、書類まで揃えて二人ともサインしてただろ。復活するのか?」 その言葉にトレーナーさんはあっと口にして、項垂れた。そういえば私達は契約解消に同意していた。

5 22/06/26(日)00:03:41 No.942557546

簡単に書けるものでもないし、簡単に取り消しできるような代物でもない。それはトレーナーさんが一番よく分かっている。 「それは……俺は彼女を傷つけた。アドマイヤベガ次第だ」 「そう、じゃあこうするわ」 懐からその書類を取り出して、彼の目の前でバラバラに破り捨てる。ヘリに乗ってから、こうしてやろうとずっと思っていたから、トレーナーさんの唖然とした顔を見てとても満足だ。 「い、いいのか……?」 「勝手についてきたんだから、私も勝手についていくわ。文句はあるかしら?」 必死に首を振る彼がなんだかおかしくて少しだけ笑みをこぼす。なんだか懐かしい、彼と出会った頃のよう。それがなんだかうれしい。 「そうね、でも条件を付けるなら……」 「あぁ、何でも言ってくれ! できることなら何でもするから!」 「星を、見に行きましょう」

6 <a href="mailto:s">22/06/26(日)00:04:26</a> [s] No.942557863

調子に乗って書いた続きの続きの続きの続きの続きの続きの続きの続きの続きの続きの続きの続きの続きですすべて許してください次で終わりです ついでにまとめも許してください fu1196529.txt

7 22/06/26(日)00:05:03 No.942558128

いよいよ終わりか…

8 22/06/26(日)00:16:28 No.942563072

カルマが天体観測に変わった...

9 22/06/26(日)00:17:34 No.942563519

長かったけどもう終わりか...毎回楽しみに見てたよ

10 22/06/26(日)00:19:37 No.942564310

>カルマが天体観測に変わった... じゃあ次はRAYにしないとな

11 22/06/26(日)00:19:58 No.942564468

>カルマが天体観測に変わった... 君の知らない物語をこう…すごく…すごい前向きに捉えた感じもあります!

12 22/06/26(日)00:21:34 No.942565092

楽しい方がずっといい 誤魔化して笑っていけ

13 22/06/26(日)00:22:28 No.942565444

この世界の女神はハッピーエンドの代わりに最大の絶望を与えてくるから困る

14 22/06/26(日)00:22:42 No.942565530

アヤベさん実装前からこういう話を見たいと思ってたんだ 本当にありがとう

15 22/06/26(日)00:23:38 No.942565926

もう死ぬまでいたい場所にいるんだ…

16 22/06/26(日)00:30:30 No.942568706

>「勝手についてきたんだから、私も勝手についていくわ。文句はあるかしら?」 こうやって始まったんなら、そうやって始めれば良いんだよ…

17 22/06/26(日)00:32:55 No.942569669

最近アヤべさん書き多いな…多くない? ありがたいことですよね

18 22/06/26(日)00:33:13 No.942569794

>この世界の女神はハッピーエンドの代わりに最大の絶望を与えてくるから困る 駄目だ棒で殴らなきゃ...

19 22/06/26(日)00:35:04 No.942570577

何なら死者の手を取ればそのエンディングもちゃんと用意してそうなのが邪悪なんだよな…

20 22/06/26(日)00:37:53 No.942571748

>この世界の女神はハッピーエンドの代わりに最大の絶望を与えてくるから困る 待って まだ恐ろしいもの隠し持ってんの...?

21 22/06/26(日)00:39:41 No.942572499

鬱展開はおしまい おしまいでーす

22 22/06/26(日)00:50:28 No.942576711

毎回、脇を固めるキャラの動きも好きなんすよ 何言われても引かないドトウとか、ずっと気にかけてるトプロとか 鬱展開カチ割ってくるオペラコンビとか 特にカレントレ好きなんですよ、どうしてこんな人を兄を亡くしたカレンチャンにぶつけるんですか?どうして… とにかく好きなんすよ

23 22/06/26(日)00:51:08 No.942577019

あいつ 分かるよ…

24 22/06/26(日)00:54:52 No.942578534

岩抱えて突っ込んできたカレンチャン好き あそこ最高にカワイイ

25 22/06/26(日)00:58:11 No.942579763

オペトレ超人すぎる...

26 22/06/26(日)00:58:21 No.942579824

カレンチャンは武道やってるからな…

27 22/06/26(日)00:59:47 No.942580299

>オペトレ超人すぎる... トレーナー君!悪いが親友のピンチなのでヘリを調達して彼女のトレーナーの住所も押さえてくれ!

28 22/06/26(日)01:00:39 No.942580548

オペトレはオペラオーのトレーナーやってるからな…

29 22/06/26(日)01:01:09 No.942580714

アヤベトレの両親...

30 22/06/26(日)01:03:35 No.942581462

アヤベトレはもう自分の足で立てるから…大丈夫だろう

31 22/06/26(日)01:08:57 No.942583216

>何なら死者の手を取ればそのエンディングもちゃんと用意してそうなのが邪悪なんだよな… ひでえ事だけど祝福されて堕ちていくお兄ちゃんも見たい

32 22/06/26(日)01:10:32 No.942583723

>トレーナー君!悪いが親友のピンチなのでヘリを調達して彼女のトレーナーの住所も押さえてくれ! 無茶言うなよ!…三時間くれ

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