ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
22/06/25(土)23:05:42 No.942531684
ずっと、ずっと、夢の世界に生きていたのかもしれない。 四つ葉の結びは希望の証。海の水は涙の味。全部知っていたけど、見たことなんてなかった。海の上の世界のことを、魚たちが知らないのと同じように。 そんな空想が、キャンバスの上に浮いては弾けて、泡になって消えていく。そんな風に、私も消えていくのだろうと思っていた。あの日までは。 心の海が色づいた、あの日までは。
1 22/06/25(土)23:06:27 No.942532126
「…嘘や」 そう呟いた彼女の顏は、晴れ渡った春の空に似合わぬ不機嫌なものだった。 「ん、どうしたん?」 彼女が機嫌を損ねるのはそう珍しいことではない。それなりに長い付き合いになっているので、彼女のほうを向くのはずれていた眼鏡を直してからになった。 「夢に知ってる奴が出てくんのは、そいつのことが恋しいからやって、書いてあんの。この本、嘘ついとる」 出会ったときからそうだが、彼女は本当にわかりやすい。腹を立てれば顔に出るし、嬉しいときは車椅子から飛び跳ねそうな勢いだ。隠し事が下手というよりできないのではないかと、同い年ながら少し心配になることさえある。 誰が出てきたか言わなかったのは、最低限の理性が働いたということだろうか。最も、彼女がむきになってこんな話をするというだけで、誰が出てきたかは想像に難くないのだが。 繰り返すようだが、彼女と私はそれなりに長い付き合いである。それ故、誰のことを話しているのかを言わない配慮も、ある種暗黙の了解となっていた。
2 22/06/25(土)23:06:42 No.942532288
「でも、昔の人はそう思うとらんかったみたいよ。夢に誰かが出てくるのは、その人が夢を見た人のことをずっと考えてるからって、何かの本で見たなぁ」 そう言うと、彼女は満足そうに微笑んだ。 「…仕方ないやつやな、ほんとに。アタイがおらんと、夢に出てくるくらい考えてるんか」 その理屈が正しいなら、彼の夢にも彼女が出てきてるのではなかろうか。そういうことを言わないのも、長い付き合いの賜物だろう。 彼女の顏が春の海のように移ろうのを、少しだけ楽しませてもらったのも、内緒の話だ。
3 22/06/25(土)23:07:00 No.942532449
心はまるで海のようだ。 青く澄み渡る日もあれば、灰色に曇る日もある。今日の私の空模様は、どうやら後者らしい。 何のことはない。仕事でミスをして、上司に苦言を呈された。そのお陰で帰りが遅くなって、今は雨に降られている。 キーボードを打つのは未だに慣れない。絵筆を持つ方がよほど大変だと同僚は言うが、他人にとっての当たり前が自分にとっては違うということは、そう珍しいことではない。 当たり前に生きていくというのは、思っていたよりずっと苦しい。外に出てから何度も味わってきた筈なのに、つまづいたときの苦しみはいつまで経っても慣れなかった。 こういうときに限って、あいつの顔を思い出す。 「…出てくんな」 今頃、メキシコは夜だろうか。あいつの夢に、今の私が出てきていないだろうか。 こんな景色は見せたくない。あいつの海は、もっと綺麗な、晴れ渡った空の筈だから。 あいつの夢は、綺麗なままでいてほしい。 そうしたら、私も少しだけ頑張れるから。
4 22/06/25(土)23:07:17 No.942532587
「…はぁ」 ワンルームの安普請も、こんな日には嫌に広く感じる。ついても帰らないため息が、独りであることを余計に実感させた。 あの家にいたときは、こんな感覚を覚えることもなかった。古めかしくて、やかましくて、どうしようもなく「好き」で溢れていた、私の優しいゆりかご。広い世界に出るために訣別したはずの場所が、寂しいときにはたまに思い出される。 諭吉がいて、ばあちゃんがいて。 穏やかに過ぎて、そのまま優しく朽ち果てるはずだったあの日々に、あいつが現れて──
5 22/06/25(土)23:08:17 No.942533105
今日の心の海は、やはり冬の灰色だった。 冷たく暗い水の中を、ただ真っ直ぐに落ちてゆく。 尾鰭がついているなどという都合のいいことは、私には起こるはずもない。相も変わらず、私の脚は役立たずのままだ。 ああ、やっぱりかと思って、意識を閉ざす。せめてあいつの夢には、この景色が映りませんようにと願いながら。 夢の中にまで、出てこなくたっていいじゃないか。この海は息苦しくて、溺れそうになる。
6 22/06/25(土)23:09:13 No.942533574
もがくことに疲れた手を、誰かの手が掴んだ。その手を握り返そうとしたけれど、するりと逃げてゆく。掌にあたたかい何かを、そっと握らせて。 それを見て、自分が何をするべきか、わかった。 掌の色彩を、思う様塗り拡げる。 青の絵の具は海の色。 紅の絵の具は夕焼けの光。 橙色は、そして──
7 22/06/25(土)23:09:25 No.942533661
精一杯描いて辺りを見渡すと、灰色の雲は青い海に変わっていた。これならきっと相応しいだろう。けれどまだ、足りないものがある。描き加えようと絵の具を絞り出そうとするが、もう空っぽになってしまっていた。 落ちた絵の具を拾い上げる手は、きっと命が尽きるまで忘れられないだろう。私が捨てたものを拾えるのは、あいつしかいないだろうから。 あいつが触ったチューブが、泳ぎ出して魚になる。色とりどりの魚が、空想の海を泳ぎ出す。 「…遅いわ。どんだけ待たせん」 あいつと一緒に、その海に揺蕩う。 そんな幸せな夢を見て、私は目を覚ますのだ。
8 22/06/25(土)23:09:39 No.942533796
ドアの隙間から覗いた光が、ベッドの上をなぞっている。 自分以外の誰かが家にいる証拠だが、怖くはない。むしろ、此方が驚かせてやらなくては。 キッチンに立つ少しだけ大きくなった背中に、指を這わせた。 「…びっくりした。フライパンひっくり返したらどうすんだよ」 「そんなん、恒夫が埋め合わせするに決まっとるやろ、なぁ」 一番欲しいものが、そこにあった。 離れているからこそわかることもある。 「恒夫」 「ん?」 そばにいてくれたひとが、どれだけ大切だったのか。 「おかえり」 「…ただいま」 あたりまえの日々が来るのが、どれほど幸せなことなのか。
9 22/06/25(土)23:09:54 No.942533911
彼と食卓を囲むのも、この前の休み以来だ。 「新しい絵本描こうと思ってるんよ」 「…どんな?」 こんな彼を見るのも随分と久しい。あくまで静かに、けれどはっきりと期待に満ちた声を聞くのも。 それを聞くと、私の口は嬉しくて回り出すのだ。 「…あのな、絵の具があってん。描いたものがそのまんま形になる、魔法の絵の具や。 それを使って、灰色の国のお姫さまが綺麗な花とか、森とかを描くんよ。でも、途中で絵の具がなくなってな──」
10 22/06/25(土)23:10:19 No.942534149
私の口は語り続ける。もう描けないと悲しむ姫を助けた王子が木を切って、二人の家を造るのを。もう行かなくてはと嘆く王子が、泣いて海へと帰るのを。愛を知った姫が最後に、彼の国まで繋がった、空にかける橋を描くのを。 そんな私の話を、彼は優しいと言ってくれた。すっかり機嫌をよくした私は、彼をつつき回して、海の向こうの話をせがんだ。 彼の海と、私の海。 それがいつか繋がることを願いながら。
11 22/06/25(土)23:11:05 No.942534556
ジョゼ虎お疲れ様怪文書 本公開のときに投げたやつを手直ししたやつです 地上波放送来たら新作かく
12 22/06/25(土)23:12:16 No.942535144
地上波放送来るといいね…金ローよりはテレビ朝日とかのほうがしっかり最後までやってくれそう
13 22/06/25(土)23:13:05 No.942535592
NHK辺りはやりそう
14 22/06/25(土)23:15:48 No.942536849
本編越えたあとならいくらイチャイチャしても許せる
15 22/06/25(土)23:18:25 No.942538062
一生分気ぶった気がするけどまだ足りない
16 22/06/25(土)23:23:13 No.942540391
山村クミ子先生の描く絵本の裏表紙には全部「管理人に捧ぐ」って書いてあるんだよね 管理人って誰?っていうのが界隈でもっぱらの謎
17 22/06/25(土)23:26:01 No.942541837
鈴川教授は優しいし顔もいいし授業も面白い でも左薬指に指輪があって絵本作家の奥さんがいるって知って女子大生の脳が破壊される
18 22/06/25(土)23:27:13 No.942542361
奥さんのいる家に早く帰りたいから教授だけど爆速で仕事終わられて帰るんだよね
19 22/06/25(土)23:31:36 No.942544332
ジョゼは多分老けない 管理人と結婚して子供できても妖精さんのまま
20 22/06/25(土)23:33:53 No.942545308
>鈴川教授は優しいし顔もいいし授業も面白い >でも左薬指に指輪があって絵本作家の奥さんがいるって知って女子大生の脳が破壊される (またかとため息をつく元敗北者)
21 22/06/25(土)23:35:47 No.942546087
最後の車椅子電動だけど取っ手着いてるのいいよね たまに「あー電池切れてもうたわ」ってわざとらしく言って管理人に甘えてほしい
22 22/06/25(土)23:37:08 No.942546643
>最後の車椅子電動だけど取っ手着いてるのいいよね >たまに「あー電池切れてもうたわ」ってわざとらしく言って管理人に甘えてほしい ユニットタイプならジョゼ込みで70キロくらいか
23 22/06/25(土)23:38:31 No.942547135
夢叶えて立派な絵本作家になって管理人と幸せな人生全うしてほしい 没後10年記念とかで特集されてあの世界の住人も俺たちと同じ気ぶり野郎にしてほしい
24 22/06/25(土)23:40:31 No.942547963
>最後の車椅子電動だけど取っ手着いてるのいいよね >たまに「あー電池切れてもうたわ」ってわざとらしく言って管理人に甘えてほしい 管理人が他の女に粉かけられてると都合よく電池が切れる車椅子
25 22/06/25(土)23:46:14 No.942550187
今や有名な絵本作家となった山村クミ子先生だが公に出していないデビュー作がある 複製や出版をしないという条件で某所の図書館に寄贈された なおその理由は「…馴れ初め見せつけるのなんて恥ずかしいやん」とのこと
26 22/06/25(土)23:56:07 No.942554336
アニメのジョゼはおばあちゃんとかお父ちゃんとか家族に大切にされてるからいいお母さんになれそう
27 22/06/26(日)00:00:17 No.942556071
ジョゼと管理人の結婚式でドレス着たジョゼの車椅子を管理人が押すのか別の人に押してもらって管理人と並んで進むのかは議論が分かれる 個人的には絵本読んでーって言ってた幼女先輩にベールガール兼押す人やってほしい
28 22/06/26(日)00:02:08 No.942556947
なんで今頃ジョゼ虎を…いい映画だけれど
29 22/06/26(日)00:03:54 No.942557634
>なんで今頃ジョゼ虎を…いい映画だけれど 今日ここと公式で同時上映企画やってた
30 22/06/26(日)00:04:22 No.942557836
8月にNHKで放送しないかな?
31 22/06/26(日)00:05:07 No.942558158
>8月にNHKで放送しないかな? やってほしい…今日ので新しいネタ浮かんだから頑張って書く…
32 22/06/26(日)00:05:53 No.942558488
気ぶり婆ちゃん 気ぶりタイガー 気ぶりフィッシュ 気ぶり車椅子
33 22/06/26(日)00:06:14 No.942558636
>>なんで今頃ジョゼ虎を…いい映画だけれど >今日ここと公式で同時上映企画やってた まじかー…
34 22/06/26(日)00:10:22 No.942560366
こっちのは前々から告知はしてたけど公式も同じタイミングでやってるのは笑ってしまった