虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

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22/06/25(土)00:03:52 シンボ... のスレッド詳細

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22/06/25(土)00:03:52 No.942189211

シンボリルドルフに改めて頭を下げに行き意思を伝えると「出走に関することは任せてくれ」と背中を押してもらえた 目標と定めたのは芝のマイル、新人向きのスタンダードな内容 そこからは同僚たちに見られても恥ずかしくない程度には仕上げるために怒涛のトレーニングの日々が続いた マルゼンスキーに併走してもらいながら自分の厳密な脚質を見極めたり、自分がやると頑なに主張してきたのでマルゼンスキーにタイムを計ってもらったりもした なんでトレーナーがターフに?と通りがかったウマ娘たちから奇異の目で見られたが取り繕う暇などあるわけがなく、一心不乱にトレーニングに打ち込んだ 「終盤でバテたときに胴が跳ねてヒトっぽいフォームになっちゃってるわね、今の身体ならもっと重心を低くして――――」 「……」 「――――ってちょっと!お姉さんのアドバイス聞いてる?」 「あ、いやごめん!ちゃんと聞いてるよ、いつもと逆だなーと思って」

1 22/06/25(土)00:04:30 No.942189448

ふーんだ、と拗ねたように顔を背けてしまったが多分本気で怒っているわけではない 彼女は彼女でマンツーマンで指導するのを楽しんでいると、指導を受けながら感じている 普段は年長者として多くの後輩たちに慕われ、時には助言を与えることもあっただろうがここまでみっちりと個人の面倒を見ることはなかったはずだ 自身が持っている勝利への理論を教え、吸収できるように試行錯誤を繰り返し、思惑通りに勝利してもらう トレーナー業の中でもっともやりがいを感じ、そして楽しいと感じる瞬間のひとつを彼女は味わっているのだ。楽しくてしょうがないだろう 「ごめんごめん、もういくつかフォームを試そう。しっくりくるのがあったらまた併走を頼めないか?」 「んもぅ、困ったちゃんなんだから……」

2 22/06/25(土)00:05:15 No.942189778

無論それだけを考えていたわけではない 彼女が教える内容から逆算して彼女自身が走りにおいて重きを置く部分を俺は考察していた いつか来る、マルゼンスキーとの勝負で少しでも勝率を上げるために 荒唐無稽と笑われてもしょうがないだろうが俺の最終的な目標は勝利それだけであり、貰いたい賞や勝ちたいレースがあるわけではないからだ 彼女も手の内を見せているというのは重々承知したうえでトレーニングに付き合ってくれている以上面と向かって宣戦布告することはない 長い付き合いだからこそ真剣勝負で走るから心から楽しいと、勝敗が付いてこそ真剣になれると互いに分かってしまっているだけだ こうして連日トレーニングと研究に明け暮れ、気が付けば俺の事実上のデビュー当日が迫っていた

3 22/06/25(土)00:05:52 No.942190027

「やぁ、愛バの準備は万端かな?」 「あらルドルフ!見に来てくれたの?」 「関わった以上レースは見届けようと思ってね。それに君が手塩にかけて育てたウマ娘なんだ、気になりもするさ」 あたし達が観覧席に現れたことでスカウトに来ていたトレーナーから視線が集まる 血縁関係か親交のある子がいない限り担当トレーナーが付いてるウマ娘がここにいるのはちょっと変だものね 「トレーナー用の出走名簿にトレーナー君の名前がなかったのはあなたの案?」 「いや、通りがかったシービーが思い付きでサプライズにしようと言ったのが通ったものでね」 「やはりと言うべきか張本人は見に来てはいないが」 「うふふ、シービーちゃんらしくていいじゃない」 「それもそうか……おっと、もう出番のようだ」

4 22/06/25(土)00:06:19 No.942190196

「次走、模擬レース芝1600m右最終レースの出走ウマ娘の変更をお知らせいたします」 「予定されていた8頭立てから大外枠9番にミスマルゼンを追加し9頭立てでお送りさせていただきます」 トレーナー君の名が放送されると観覧席がざわつき始める 一体誰だと資料をめくるトレーナーもいれば、おそらくトレーナー君の同僚数人があたしを見た後に双眼鏡でゲートの方向を覗き驚いた表情をしていた この感じだとやっぱりトレーナー君、誰かに言ったりはしてなかったみたい 「しかし、マルゼンのMs.とは大層な名前をつけたじゃないか」 「トレーナー君が思い浮かばないって言うから代わりに付けてあげたの」 「あたしのマルゼンとウマ娘になったMs.トレーナーなんて安直な由来なんだけどね」 「担当であるとはいえ仮にもスーパーカーマルゼンスキーの名を背負うとは、彼も相当な覚悟が必要だったろう」 「うーん……そうかしら」 トレーナー君はそこまで気負ってるようには見えないし、名前の件も「それがいい」とあっさり決めちゃったから深く考えてないと思うわよ

5 22/06/25(土)00:06:39 No.942190366

「いきなりごめんね、よろしく」 「あ、うん、よろしく……お願いします……?」 隣のゲートに入る予定の8番のゼッケンを付けたウマ娘に挨拶するが返事がどうもぎこちない 内枠のウマ娘達も訝しむようにこちらを見ては誰だ誰だと顔を見合わせていた ターフのスタッフの案内は特に怪しむ部分が無かったので滞りなくレースに進めると思っていたがまさかこのような演出がされているとは考えもしなかった 他の出走者が浮ついたりして本来のコンディションを発揮できないなんてことにならないといいが…… 「各ウマ娘ゲートインを」 スタッフに促されゲートの中へ誘導される。なるほど、これは確かに直前に嫌がる子が出るのも納得だ トレーニングの中でゲート練習もしたが、本番という緊張する状況では練習時になかった閉塞感と息苦しさを覚える 早くここから出ていきたいという気持ちを深呼吸して落ち着かせてから、隣のゲートをチラリと見ると先ほどとは見違えるような精悍で自信にあふれた顔がそこにはあった 自分の存在など問題にならないとゲートイン前の杞憂を恥じると共に、闘争心が燃え上がっていく

6 22/06/25(土)00:07:03 No.942190530

「各バゲートに収まり出走準備完了……スタートしました!」 グワッとゲートが開き、前傾姿勢から体重を預け踏み込んで勢いをつける 人間だった頃とはかけ離れた速度まで加速していく身体に驚くことはもうない、あとはただ走り続ける このレースは逃げが1人、先行が俺含め4人、差しが4人 たった2ヵ月のトレーニングではマルゼンスキーのようなトップスピードを維持するスタミナは育たなかった 体力温存のためにここは後方でもいいから出来る限り内を走りたいが、芝の状態を見て思い直す 「あら、トレーナー君外で走ってるわ」 「内は前走から既に荒れていたからな、悪くない選択だ」 「体力持つかしら……」 「信じてやれ、彼の師は君だ。そして彼も無学というわけでない」

7 22/06/25(土)00:07:32 No.942190716

「ハァッ……ハァッ……ハァッ……!」 コーナーを曲がり、めくれあがった芝を避けながらなんとか好位を維持して4番手につけた やはり内ラチは走りにくくなっていたようで、地中の湿り気を帯びた土が内にいるウマ娘の勢いを奪っている しかし俺も余分な距離を走っている、正直最終コーナーから仕掛けるのに残っているのは気力とわずかな体力だけだろう 逃げを打っている子は3馬身先、捉えられる、大丈夫、大丈夫 「さぁ3番率いる先行集団が最終コーナーを駆けていく!後方も差を詰めにかかっている!」 「おっと9番外から仕掛ける!先頭3番苦しいか!内で5番1番追いかけるが残りは200mこれは届くか!?」 「っ!?後方から8番猛追!!先頭を捉えにかかる!!!」 まずい、聞こえる 足音が近づいてくる、イヤだ、イヤだ勝ちたい

8 22/06/25(土)00:08:07 No.942190950

胸が痛くて熱い、足も腕ももう止めてしまいたい ここで振り向いてる暇なんてない、俺は先に行くんだ マルゼンスキーのいる世界の先に 「うううぅぅぅぅぅぅぅぁぁぁぁぁああアアア―――――ッ!!!」 ゴールの刹那、視界の左端にその靴先だけが映った 「8番外から差し切ってゴール!!半馬身差で2着9番、その後2馬身差で―――――」 ラストスパートの勢いが完全に死んだ頃、緊張の糸が切れた身体が芝の上にへたり込む なんとか息を整えて立ち上がろうとすると目前に誰かが寄ってきていた 「……大丈夫ですか?」 「あ……うん、ありがとう……」

9 22/06/25(土)00:08:30 No.942191120

「ビックリしました、まさかあんな追い込まれるなんて」 「あはは、コーチが良かったからかな……ふぅ」 「機会があったら、また走りましょう」 ゼッケン8番のウマ娘は軽く手を振ってから観覧席前まで行ってしまった 不思議だ、負けたというのに、まだ心臓もうるさいくらいに鳴っているのに、こんなにも晴れやかな気持ちはウマ娘になってから久しい 3ヵ月前に抱えていた不安はもうない、今胸にあるのは楽しい、また走りたい、ただそれだけ。これがレースの世界なんだ……走って、よかった 遅れるように観覧席まで戻ると既に幾名かのウマ娘に同僚たちが群がっている それぞれ結果は違えど光るものを見たのならスカウトするのがトレーナーという生き物だ 良い担当トレーナーに出会えるといいな、と他人事のようにそれを一瞥してマルゼンスキーを探していたとき、ふいに肩を叩かれる 「よっ、お疲れさん」 「ん?おぉ、ありがとう」

10 22/06/25(土)00:09:00 No.942191350

声をかけてきたのは同期のトレーナー、既に3名の担当ウマ娘を請け負いチームを率いるやり手だ そのうち1名が卒業するということで新しいメンバーをスカウトしに来たのだろう 「スカウトしに来てたんだろ?いい感じのウマ娘は見つかったか?」 「お目当ての娘がいたんだが先約があったみたいでダメだったよ、だが……」 こちらを値踏みするように全身を眺めてからまた口を開く 「……なぁ、ウチで本格的に走ってみないか?」 「え……え?」 「まさかあれだけいい勝負をするなんて思っても見なくてなぁ、基礎は出来てるし才能もある!おまけにトレーナーとしての知識も活かして走ってる!」 「評価は嬉しいけど俺はそういうつもりで走ったんじゃ……」 「バカ言え!そうじゃなかったとしてあんな走り見てスルーするなんて惜しいこと出来ないぞ!」

11 22/06/25(土)00:09:27 No.942191496

声をかけられるくらいは考えていたがスカウトする側の自分がスカウトされるなんて思ってもいなかった あまりにグイグイ来るもので気圧されてしまい、その場から逃げ出そうと後ずさると後ろでも3名の同僚が俺をマークしていた 「私に担当させてくれるならGⅠ、獲れるわよ」 「ミスマルゼン!トリプルティアラに興味ないか?」 「先輩!ワタシの初めての担当ウマ娘になってください!」 「いや、だから……」 選抜レース自体そういう機会だからスカウト行為は当たり前だが、俺は志を同じくする同僚だぞ!? こんなことならスカウトのあしらい方もマルゼンスキーに習っておくべきだった……! 「コォラ~~!あたしのトレーナー君に粉かけないでちょうだい!」

12 22/06/25(土)00:10:10 No.942191751

同僚のトレーナーとお話してるからおジャマしないで待ってたら次から次へとナンパされてるじゃない! 流石に我慢できなくて渦中のトレーナー君の手を引っ張って主張するように首元に抱き着く 「トレーナー君はあたしのよ!」 「えぇ……」 「え~じゃないわよ!走り方はあたしが教えたんだし、トレーナー君はあたしの担当なんだからトレーナー君の担当も実質あたしよ!」 「それは暴論だよ……」 このままスカウトを煙に巻いてドロンしようと考えてたら遅れてやって来たルドルフが助け船を出してくれた 「スカウトするのは構わないが、彼の意志も尊重してやって欲しい」 「普通のウマ娘ならばそのまま3年間共に駆けていくことも出来るが彼はトレーナーでもある、業務に差し障ることは本望ではないだろう」 「それに人間からウマ娘に変わったということは逆に人間に戻ることもあり得る」 「現役期間中に戻ることがあれば学園内だけでなくその出自から世間にも混乱を招くことになりかねない」

13 22/06/25(土)00:10:42 No.942191936

ルドルフが諭すようにトレーナーたちに説明すると「仕方がないか……」と誰かが呟いてから皆がっかりした様子で自分のいた席に戻っていった 「ありがとうルドルフ」 「構わないさ、一時的とはいえ彼もウマ娘の一員だからな」 「それにいいものを見せてもらった、マルゼンが良ければ私も君と競ってみたいものだ」 「その特異な経歴だけではなく、もっと特別な何かを感じるんだ」 それではと言い残してルドルフはレース場から去って行った その背中を見ながらあたしはさっきルドルフの言っていたことを反芻する そっか、担当が付かなきゃ公式のレースに出られないってことだけ考えてたけどそもそも出走表明してから元に戻ったらもっと取り返しがつかなくなる レースで競り合うってことだけじゃなくてあの競馬場の雰囲気まで丸ごとトレーナー君に味わってもらいたかったけど、それも出来ないんだ…… それにもしかしたら明日にもトレーナー君は人間に戻っちゃって、あたしと走ることも叶わない…… ちょっぴりおセンチになっているとトレーナー君が首に回された腕を叩く

14 22/06/25(土)00:11:12 No.942192111

「あの、マルゼン、もう離して……」 「っ!あらごめんなさい!苦しかった?」 大丈夫と返す彼は大分汗ばんでいて顔も赤い、嫉妬して思わず抱き着いちゃったけどちょっぴりダイタンだったかしら 「レースってこんなに楽しいものだったんだね」 「うふふ、すっかりメロメロって感じね」 「ああ、君が走り続ける理由が肌で分かったよ」 「ねぇ、俺のレースを見てどうだったかな?」 「うーん……お姉さんの採点だと、まだまだ鍛えるところはいっぱいあるけど……」 「楽しいって思えたならハナマル、あげちゃうわよ!」 なら良かった、と未だ賑やかなターフを見つめて彼が呟く 今後どうするかなんて一切決めてないし、何を決めるにしても障害が立ちはだかるだろうけど多分大丈ブイ、根拠はないけどね ターフに吹く一陣の風があたしたちの背中を押して、トレーナー君の左耳のお揃いのリボンと右耳の鍵のアクセサリーが微かに揺れていた

15 <a href="mailto:s">22/06/25(土)00:13:23</a> [s] No.942192924

私は光の三女神 結局激マブではTS牝馬堕ちを書くのはなんか違う気がして普通にウマ娘になってしまった

16 22/06/25(土)00:15:00 No.942193509

爽やかでヨシ!

17 <a href="mailto:s">22/06/25(土)00:16:10</a> [s] No.942193949

一応まとめ fu1193649.txt

18 22/06/25(土)00:16:51 No.942194212

私こういうのも大好き!

19 <a href="mailto:おまけ">22/06/25(土)00:17:41</a> [おまけ] No.942194535

「休みなのに付き合わせちゃってごめんね」 「いいわよ~あたしだってドライブも買い物もしたかったし」 「こういう風になってしばらく経つけど、未だにファッションのことはからっきしだな……」 「教えてほしいって割にはあたしのコーディネートはお気に召さなかったみたいだけど~……」 「そ、それは好みの問題だから……」 「で、随分アクセサリーに時間かけてたけどなにを真剣に悩んでたの?」 「耳のアクセサリーが欲しくてさ、見て周ったけどしっくりくるのはなかったよ」 「あたしのリボンじゃダメ?」 「いや、そうじゃなくて両耳つけたいんだよ。今のだと収まりが悪い感じがして」 「ふーん、そういうこと……」

20 <a href="mailto:おまけ">22/06/25(土)00:17:59</a> [おまけ] No.942194660

「耳用アクセサリーのショップがあるみたいだし見に行った方がいいかなぁ」 「そうねぇ、あっ!そうだ!トレーナー君窓の方向いてて」 「え?あぁうん、いいけど何か思いついたの?」 「確かここに挟んでおいたはず……あった!もうちょっとじっとしててね」 「ん、なんかしっくりきた……!ってこれ、鍵?」 「じゃ~ん!タッちゃんのスペアキーよ!」 「え!?いやダメだよスペアキーつけちゃ!?」 「え~でも必要になったことないもの」 「非常用なんだから当たり前だよ!!」 「トレーナー君はしっくり来たんだし、あたしは使ってないから問題ナッシングよ!」 「いやそうだけど……これは紛失できないなぁ……はぁ……」 「耳だけだけどあたし色に染まっちゃったわね、うふふっ♪」

21 <a href="mailto:s">22/06/25(土)00:19:20</a> [s] No.942195257

左耳が牝馬堕ち隷属化なら両耳は男性の面とウマ娘の面を愛する真実の愛なんじゃないでしょうか

22 22/06/25(土)00:20:57 No.942195852

つ…強い…

23 22/06/25(土)01:07:55 No.942211845

じっとりしない独占欲良いね…

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