虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。

  • iOSアプリ 虹ぶら AppStoreで無料配布中
  • カラン... のスレッド詳細

    削除依頼やバグ報告はメールフォームにお願いします。 個人情報,名誉毀損,侵害等について積極的に削除しますので、メールフォームより該当URLをご連絡いただけると助かります

    22/06/12(日)01:52:37 No.937646627

    カランカラン― 来客の報せがレトロに響く喫茶店内 タイシンの座っているソファ席の後ろに新たな客人が腰を下ろしたようだ カウンターにも客の姿があり、人気の無さが気に入っているこの店も今日は珍しく盛況な様子である

    1 22/06/12(日)01:52:52 No.937646673

    「……それで、どういうつもりなんだタイシン」 コーヒーカップをソーサーに置きながら発されたハヤヒデの落ち着いた声 店内に散っていたタイシンの意識が目の前のライバル兼無二の親友達に戻される 向かい合うソファ席、タイシンの前には所謂BNWのBとWである二人が居た しかしながら親友同士の気の置けないおしゃべりとは言い難い空気だ 「悩んでるなら教えて欲しいっ!だってタイシンとアタシの仲じゃんか!」 忙しなくストローでレモネードの入ったグラスの中の氷を突くチケット 止めろと言っても聞きやしない、彼女の癖の1つ タイシンが視線を落とし、アイスティーの湖面を見下ろした ゆらゆら揺らぐ写し身。そこにある情けない表情がどんな感情なのか、今は彼女自身でも分からない

    2 22/06/12(日)01:53:23 No.937646801

    「だから断るんだって言ったじゃん。悩むも何もないんだけど」 言葉尻の強さの割に声色は穏やかだった 「それはタイシンが君のトレーナー君からのプロポーズを断る、という意味で間違いはないんだな?」 「そ、だから問題なー「あるよーっ!問題あるある!何で断っちゃうの!あんなに仲良しだったのにさ!」 少し声のボリュームを落とせ、とハヤヒデが腕をぶんぶん振って興奮気味のチケットから少しだけ距離を取り直しながら諌めた いつもは自分がチケットの隣に収まりがちなだけに、身に覚えのある心地でタイシンは内心ハヤヒデをドンマイと鼓舞する 「まあ良い、よくはないが分かった。また君は一人で変な方に思考を走らせているな」 「そういうハヤヒデはすぐ決めつけてらしくないじゃん」 「タイシン今実家なんでしょ?びっくりしたんだよ、アタシもハヤヒデもさ。だって住所変わるって言われたらてっきり……」 「ああ。新居で新婚生活でも始まるのかと思ったな。見るか?二人で浮かれながらやり取りしていた会話履歴。なのに君ときたら」

    3 22/06/12(日)01:53:58 No.937646931

    卒業後、同棲していたトレーナーの部屋を出たといち早く伝えられた二人は驚きこうして呼びつけるに至っている 「別れちゃったの?」 まるで我が事のように、不安そうなチケットは相変わらず氷をカランと奏でているが、あまり口をつけた様子はない 余程タイシンが気にかかっているのだろう、それはそうか。騒がしさだけでなくちゃんと情を持った友人だ 「別れてない。ただ返事は保留にして、実家帰っただけだし……まだ別れてはない」 「でもそうするつもりだろう?違うか?悪いが無暗に結論を急いでいるなら今回ばかりは味方はしないぞ」 厄介者を見る目を隠さずタイシンはジトリと、他人の事には異様に察しのいい友人を見つめた 責めてるわけじゃないとハヤヒデはつづける 「後悔して欲しくないだけだ。それに……文字通り君たちは一生隣にいるものと思っていたからな」

    4 22/06/12(日)01:55:17 No.937647232

    切れ味鋭い末脚同様言葉も尖ったところのあるタイシンがあー…、と珍しく言葉を濁す ほら見たことかと二人の友人は思った 住所が変わるから、と短く投げられたメッセージにこれはそういう事だろうと歓喜したのも束の間 どうにも会話がかみ合わないと思えば、なんとプロポーズを受けてそれに返事もせず同棲中の部屋を飛び出したらしい まさか自分たちの中で最初がタイシンになるなんてね、と言いながらとても嬉しそうに語っていたら突然の急転直下 即座に別トークルームを立てこれはどういう事態だと狼狽えた しかし冷静になってみると少し、いやかなり思い当たる節があった 大人になり改善されてきたとは言え元々タイシンはかなり自己肯定感が低い それはもう深く彼女の根底ともいえる部分に根差している

    5 22/06/12(日)01:56:00 No.937647383

    ((ああ…やりかねないな)かも) どうもタイシンがトレーナーを嫌いになりとった行動ではないとは思った むしろそうであったなら二人は何も言わず彼女と美味しい物でも食べて済んだ話だ 「端的に言うぞ?君がまだ彼に情が残っているなら素直に謝って、とにかく話し合うべきだ」 「そーだよ!それそれ!タイシンはさ、ぶっちゃけ分かってるじゃん。自分が時々冷静じゃないの」 チケットにまで言われてるぞ、という目でハヤヒデが見る なんで二人に連絡したらこうなると薄っすら分かりながらそうしたのか 甘えたかったのかもしれない。慰めを求めたのかもしれない。それとも肩を押して欲しかったのか…… それはいったいどちらの方向に?

    6 22/06/12(日)01:56:20 No.937647454

    耳元に指をやる。その小さな耳たぶに針を通してからというものタイシンが思考する時の無意識の癖だ 揺れる石はムーンストーン 六月を祝福し女性を守護するパワーストーンとして名高い 確か石言葉は純粋な愛と言っていたっけ、月の満ち欠けを閉じ込めたとされる石 それのように病める時も健やかなる時もそばにいたいと……

    7 22/06/12(日)01:56:58 No.937647617

    二人から呼び出しが来た時から用意してたような言葉ばかり返していたタイシンが口元を少しひくつかせた 「アタシさ……、すっごく好きみたい。トレーナーのこと」 (それはもう……)(超知ってる……) 「うん、ほんと幸せだった。きっともう思い出だけで1人で走れるくらいには」 「タイシン」 二人とも言いたいことは山ほどだろう、しかし短くまるで大切に撫でるかのようにその名を呼ぶに留めた それは彼女があまりに泣きそうで、しかし見たこともない愛を知った女の顔をしていたから 分かっていた。彼女の中で自分たちも彼も特別なのだ だから本当はどんな言葉をかけてもしょうがない話だと、きっと気付いていたのは聡明な親友だけでない

    8 22/06/12(日)01:58:00 No.937647854

    「一生をカタチにしたいって言われて、思った。あぁ、この時が来ちゃったって。タイムリミットかもって」 古いソファがきゅっと後ろの席で音を立てた、レトロで穏やかな喫茶店内に似合った凪いだ声だった 「絶対に手離したくなかった。でも段々と、アタシでいいのかなって……ほら、アイツ結構いい男じゃん」 トレーナーと担当として過ごしていた日々を飛び越え、ただの個人として向き合う日々 それは体以上に幸せの許容量があまりに小さいタイシンには毒より効く甘さだったに違いない 聞いて尚、いや猶更やり直すべきだという姿勢は変わらない二人であったが今言葉を遮るべきではないと思った どんな言葉をかけてもしょうがない話だ。だから全部全部この場で伝えてしまえと思ったのだ

    9 22/06/12(日)01:58:16 No.937647916

    「釣り合わないとかそういう後ろ向きなのじゃなくてさ。好きだから、愛してるから手を離せると思ったの」 「アイツならアタシにしてくれたみたいに、もっとたくさんの子を走らせる事ができる」 「勿論支えてあげたいよ。でもアタシこんなだから……いっぱい面倒臭いこと言うし、しちゃうかもしれない」 「本当はずっと思ってた。なのにずるずると隣にいたのは甘えてたから。まだ全然大人になれない」 「アタシはもういっぱい支えてもらったから。これ以上は嫌なんだ。もっとこの感謝を返せる自分になりたかった」

    10 22/06/12(日)01:59:14 No.937648144

    「タイシン、それが本心なの?本当に?」 「いいのか?ずっと一緒だという約束は……」 「手を離したって、アタシの走りはあいつの中で永遠にある。だから うん、きっと これがアタシたちの」 「「一生だ」」 声が重なる 驚いたように後ろを振り向くタイシン また古いソファがきゅっと後ろの席で音を立てた やれやれと言ったように眉間を抑える親友 あちゃーと頬をかく親友 見下ろす最愛のヒト

    11 22/06/12(日)02:00:05 No.937648357

    「あー、あははタイシン……実はね」 「言ったろ?今回ばかりは味方はしないと」 この後 古めかしい喫茶店内で行われた二度目のプロポーズは以後何年も何十年も親友たちに揶揄われるはめとなる

    12 22/06/12(日)02:01:03 [s] No.937648595

    遅れたけどタイシン誕生日おめでとう! あんまり誕生日ぽくはならなかったけどおめでとう!

    13 22/06/12(日)02:02:35 No.937648959

    タイシン!

    14 22/06/12(日)02:02:44 No.937649000

    タイシンの誕生日3日目

    15 22/06/12(日)02:03:23 No.937649153

    結婚しろー!しろー! した

    16 22/06/12(日)02:04:41 No.937649438

    タイシンの誕生日はいつでも祝っていい タイトレとタイシンはいつでも幸せにしていい

    17 22/06/12(日)02:09:08 No.937650468

    いつでも一番の親友で味方なBW好き

    18 22/06/12(日)02:11:23 No.937650961

    夜中に困るよ…少女漫画読んだ後の気分になって寝るに寝れないはやく結婚しろ

    19 22/06/12(日)02:12:05 No.937651105

    スパイスかと思ったらお砂糖だった

    20 22/06/12(日)02:15:24 No.937651870

    なるほど読み返すと最初からいたな

    21 22/06/12(日)02:17:42 No.937652325

    >なるほど読み返すと最初からいたな >タイシンの座っているソファ席の後ろに新たな客人が腰を下ろしたようだ いますね

    22 22/06/12(日)02:27:51 No.937654187

    トレンディしやがって!

    23 22/06/12(日)02:29:04 [s] No.937654410

    「それにしても久しぶりに見たが、タイシンのトレーナー君はあんな穏やかな男だっただろうか」 「うーん、タイシンみたいにさ、変わったのはきっとお互いなんだよ」 「あんなに真っ直ぐな愛を向けられて逃げたくなるのはタイシンらしい 。心臓に悪いからもう勘弁だがな」 親友二人の帰り道 次の連絡は式の予定じゃないと許さないと泣きじゃくるタイシンに言いつけ先に店を後にした 「ねーハヤヒデ。なんかさ……なんかね……」 「ん?」 変な話だけど、とチケットが続ける 「タイシンったらわんわん泣いてさ、だけど子供みたいに泣けるくらい大人になったんだなぁって妙に安心して…っ… 」 そこで限界だったのだろう。泣き出すチケットにハヤヒデは慣れようにハンカチを差し出す 「ふふっ。あの恥ずかしいプロポーズ中から、いや最初から堪えていたじゃないか。大人になったのは君もだな」 そう言うハヤヒデも目元を拭うため眼鏡を外した

    24 22/06/12(日)02:29:59 [s] No.937654582

    「ねぇねぇねぇ!今日のことさーおばあちゃんになってもからかってやろう!」 「全くだ。それくらいさせて貰わないとな。あぁ、化粧もドロドロだ。ついでに写メでも送ってやるか」 「さんせー、ん?」 二人が携帯を取り出すと同時に届くメッセージ そこにはぼろぼろに泣き腫らし、しかし晴れやかな笑顔のタイシン これはいい勝負だとひとしきり笑って二人も泣きはらした顔面を送り返した ぼろぼろに泣き腫らし、しかし晴れやかな笑顔のタイシン そして横にいる彼女の一生のパートナー 『追伸 レース以外でアンタらが味方じゃなかった日はないよ』

    25 22/06/12(日)02:32:00 No.937654942

    BNWの友情も摂取できてこれは…

    26 22/06/12(日)02:33:12 No.937655137

    ありがたい…

    27 22/06/12(日)02:35:23 No.937655529

    大人になっても青春してるなぁ眩しい関係だ

    28 22/06/12(日)02:37:38 No.937655925

    タイシンのために今日は味方しないと言ったハヤヒデに ずっと味方だと言うタイシンがね いいよね…

    29 22/06/12(日)02:38:22 [s] No.937656046

    「タイシン」 短く呼ばれなんとなく歩いていた少し高く積まれたレンガから飛び降りる もちろんその腕の中にだ 「重い?」 「ああ、重いよ大事な女をまるごと抱えたらそりゃ重い」 「ふふ、こんなひょろっちいアタシの事重いなんて言うのアンタだけだね」 「どうしよっかなーもう降ろすのやめようかな。逃げられたら嫌だし」 しばらく子供みたいに抱き上げられたまま、そしてゆっくり口を開く 「……いいの?重いよ?」 「それってタイシンだけの責任か?」 「え?」 大きな手がしっかりと小さな体を抱え直す

    30 22/06/12(日)02:39:13 [s] No.937656192

    「信じさせられなかったのは俺の責任だ」 「ちがっ、そういう事じゃない!ただ……アタシが怖がったからで……」 「俺だってこわい!今回だって寿命縮まったし何も手につかなくて部屋は間違いなく叱られる有様だ!! 」 ……帰るまでにご機嫌とっといて。……はい。と言いながらどんどん見知った帰り道になっていく 「こほん、だからタイシンだけじゃないぞ!失敗したら2人の失敗だ!嬉しいことは2人で分け合うべきだ!そうだろ?」 「……ん」

    31 22/06/12(日)02:40:26 [s] No.937656441

    いつものスーパー、特売の日だって把握してる あれはいつものコンビニ、時々深夜に二人で用もなくふらっと出かける あっちはいつもの公園、そしていつもの曲道 「タイシンはどこに帰りたい?」 「アンタのいるとこ」 この日、またタイシンは少し大人になったのだろう 子供の頃思い描いたような大人という生き物なんていないと知ったのだ きっと隣の男を支えもするし我儘も言う、それが自分なら仕方ない

    32 22/06/12(日)02:40:54 [s] No.937656513

    揃ってただいまをした ずっとずっとお互いのいる場所にただいまと言う 何年も何十年も親友たちに揶揄われたりしながら共に時を刻む きっとそういう風に生きていく

    33 22/06/12(日)02:41:43 [s] No.937656642

    二度目の遅れたけど誕生日おめでとう! 年を重ねる事とトレーナーとBWとの絆両方書きたくてなんかこうなってしまった 帰り道が違っても繋がり続けているのがBNWの絆 同じ帰り道をいこうと誓い合うのがトレーナーとの絆 両方がこの先のタイシンを形作っていって欲しい

    34 22/06/12(日)02:44:15 No.937657068

    口の中にお砂糖突っ込まれた心地だけど好きです

    35 22/06/12(日)02:45:37 No.937657334

    こいつめんどくさい女だぜー! 一生タイトレに幸せにしてもらえよな

    36 22/06/12(日)02:46:33 No.937657492

    軽いけど重い女であり大事にしたいから重い女でもある

    37 22/06/12(日)02:46:56 No.937657574

    夜更かしの価値はあったようだ

    38 22/06/12(日)02:50:24 No.937658113

    >「アタシさ……、すっごく好きみたい。トレーナーのこと」 >(それはもう……)(超知ってる……) 知ってる

    39 22/06/12(日)02:51:40 No.937658312

    青春と恋愛の甘さ甘酸っぱさが両方あってフルコースすぎる

    40 22/06/12(日)02:53:53 No.937658674

    大人という生き物がいるという漠然とした気持ちめちゃくちゃ分かる いつの間にか踏み込んでいるのに未だにそう思う

    41 22/06/12(日)02:57:58 No.937659362

    結婚式が見たいわ! 2人の結婚式を見せてちょうだい!