虹裏img歴史資料館

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22/06/09(木)00:11:39 く深く... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1654701099520.png 22/06/09(木)00:11:39 No.936542570

く深く、沈んでいく。光が遠ざかって闇が私の身体を静かに冷たく包んでいった。 あの人は此処で生を渇望した。それはあの人にとっては超新星爆発のように大きく輝くもので、そしてそのあとには何も残らないものだったのだろう。 彼の身体と心は数光年以上の星々のように離れ離れになり、今でも心は何処かを彷徨っている。あの人の両親がやるべきことは、妹を未来の糧にするよりもその心を見つけてあげることだったのに。 どうして今まで気づかなかったのだろう、私もそうやって救われたのに。トレーナ―さんは私とは根本的な所で違うと言ったけれど、私はそうはもう思わない。 あの人と私はたとえ全てが違っていても奥底の部分は似ているのだ。それぞれの贖いと、救いを映し出すための鏡。形のない願いを触り合ってできた、一つの星。私が分かろうとしなかっただけ。 そして、これが最後の私が知りたいことになるだろう。もっと闇が深くなっていく、このあたりだろうか。いや、もっと……

1 22/06/09(木)00:12:05 No.936542748

「あやべばばばばばば!」 ふと上から音が聞こえて、数人分の塊が私の方に降りてきたかと思うと伸びた手が私のあちこちを掴んで一気に上昇させてくる。光がすぐに近くなってやがて空が見えた。 「ハーッハッバごぼっげほっ! 危うくゼンタのように海に身を投じるところだった! 王のビート版よきたれ!」 「お、オペラオーさん!泳げないの一番に飛び込むのはとてもすごい無茶ですよ!」 「あ、アヤベんさん大丈夫ですかぁ……!?」 近くの陸地で逆に隙あらば沈みそうになるオペラオーを救助しながら陸地に上がる。どうやら全員飛び込んでしまったようで、見渡すみんな服がびしょぬれ。呼吸を整えようとしてその有様に笑えてきて、こらえきれずにみんなでお腹を抱えた。 「まさか身投げするとは思わなかったよ! 子供達も驚いていた。ドトウが凄い気負いで崖を登って後を追ったので、ボクたちは近くの低い場所から飛び込んだわけだ。結果! ドトウよりも早く着水することになった、此処でもボクは先頭というわけさ!」 「それで死にかけたら意味ないでしょう」 「ほ、ほかにも道があったんですねぇ……」 「で、でも何でいきなり飛び込んだんですか?」

2 22/06/09(木)00:12:27 No.936542866

「……感じるため」 私の言葉にみんなが首をかしげたけれど、別にスピリチュアルなことじゃない。もし、私よりも小さな子供が二人、飛び降りて溺れ、沈んでいってしまったとき果たして二人とも助かるか。それを直感的でもいいから感じ取りたかった。そして感じ取れた。 「飛び込んだ時点でも中々の深さだったのに、そこからさらに沈んだら息が持たないのではないかしら」 「わ、私達とは体重が違いますけど、子供さんたちでも深く沈んじゃいそうでしたねぇ」 「で、でも実際にトレーナーさんは助かったわけですよね? やっぱり必死で……」 「でもお互いパニック状態、あの人はきっと途中まで妹さんを救おうとしたか、それとも一緒にいようとしたか……私には彼が一人で助かったとは思えないの」 「しかし、アヤベさん。誰かといっても……引っ張り上げれるような力強い第三者もいない限り……」 オペラオーが何かに気づいたように顔を上げた。きっと彼女の中のひらめきと私の確信は一緒の方向を見ている。 「押し出したのか……」

3 22/06/09(木)00:13:19 No.936543162

ドトウとトップロードさんが口を覆うオペラオーを見るのか、私は頷いて流れる海を見た。 彼が見たくないもの、信じたくないもの。それは譲られたという事実だ。私のように、命を。 〇 また眠っていたのだろうか、朦朧とした意識が波の音と共に覚醒していく。ふと、顔を上げると幼馴染が隣に座っていた。 「……もう来ないと思ってたよ」 そう声をかけても、ただ彼は座ったままこちらをただ悲しそうに見つめていた。 「カレンチャンはどうした……?」 「どうして、まだ生きているの」 「は……?」 ごぽりと水の中で喋っているような、しかしそれにしては理解ができる言葉が、それも聞き覚えのある声色で聞こえてきて後ろを振り向く。そこにはそこには父と母が立っていた。あり得ない、この人達は故郷にいるはずだ。こんなところにいるはずがない。幼馴染が連れてきたのかと思ったが、顔を向ければそこにはもう誰もいない。 「生きる目的もない癖に、どうしてこんなところにいるの。使わないなら早くあの子に返してあげなさい」 「何を言って……」 「そうだ、早く返しなさい」

4 22/06/09(木)00:14:05 No.936543386

「返しなさい。どうせなんにも使わないんでしょう。お前が生きていたって無駄なんだから」 重たい体を無理やり引きずるように動かして、両親から距離をとる。しかし、横を見れば、後ろを見ればそこにいる。夢だ、夢だと分かっているのにあまりに声が鮮明に聞こえて塞ごうが声を上げようが脳に響いてくる。 「生きる理由も分からないくせに、みっともないわよ。お兄ちゃんなんだから早くしなさい」 「お前だけが生きたってしょうがないじゃないか。あの子と変わりなさい」 「……いまさら何なんだ! 父さんも母さんも、お前のせいだとは言ってくれなかった! その癖に俺を許さなかったじゃないか! 俺を見もしなかったくせに!」 身体を起こして叫びながら、ただ逃げるように走る。それでも声は聞こえてくる。森へ逃げようが、声は聞こえてくる。 「お前がいなければ。お前がウマ娘で生まれてこなかったのが最初の間違いだ」 「たまたま先に生まれてなければ、弟だったら産んでいなかったのに」 そうだ、両親はウマ娘を欲しがっていた。俺は生まれた時点から親の期待を裏切っていた。だがどうすればいい赤子の方から拒否権があるならば俺は生まれてはいなかった。

5 22/06/09(木)00:14:57 No.936543672

「生きる価値をあの子から奪い去ったわね」 「お兄ちゃんなのに妹から取り上げたんだ」 「どうすればよかった! 必死だった! 何もできなかった!」 やがて走って走って、いつの間にか崖まで来ていた。追い詰めたように両親は元に戻る道を塞いで、ゆっくりとこっちに来る。後ろに下がると欠けた石が落ちて、下の海へと音を立てて沈んでいった。 「どうして、どうしてあの子じゃないんだ……! なんでアンタたちなんだ! こんな時でさえ声さえも聞こえないのか、赦してくれないのか!」 「赦して貰える方法はずっと昔からあったじゃないの」 母が指を崖の先へと向ける。それはいつだって考えてきた、いつだって頭の中にあった。どんな時だってその術はあった。 「これが運命なんだ。受け入れなさい、お前は死んであの子は帰ってくるんだよ。いつだってお前はあの子のためだけに存在したんだ」 だがそれをしなかったのは、あの子に生きて赦してもらうためだ。だが……もういいのかもしれない、両親の言う通り赦されないのは自分が生きているからだとしたら、自分は生きているうちはゆるされることがないのだ。

6 22/06/09(木)00:15:13 No.936543768

海の方を向いて、そっと崖の縁に立つ。これで全て赦されるならそれでいいのかもしれない。どうせ生きても何もありはしないのは確かなのだ。足を一歩前に出す。 「トレーナーさん」 優しい声色が、自分を呼ぶ声が静かに遠く空の向こうから聞こえた気がした。思わずしりもちをつくように、地面の方へと戻った。心臓が痛いぐらいに動いて、息が荒くなる。 「嫌だ……死にたくない、死にたくない、死にたくない……! 」 近づいてくる両親の失望した目から自分を隠すようにうずくまる。いやだ、いやだ、あちらには行きたくない。全てをささげる、何を奪われてもいい、だから命だけは。 「やめて、やめてください、お願いします! まだ死にたくないんです、死にたくないぃ!」 まだ生きていたい。

7 22/06/09(木)00:16:10 No.936544101

調子に乗って書いた続きの続きの続きの続きの続きの続きの続きの続きですすべて許してください あと今までのまとめも許してください fu1145734.txt

8 22/06/09(木)00:16:40 No.936544283

ありがとうございます ありがとうございます

9 22/06/09(木)00:22:54 No.936546419

>「やめて、やめてください、お願いします! まだ死にたくないんです、死にたくないぃ!」 >まだ生きていたい。 言えたじゃねぇか...

10 22/06/09(木)00:24:14 No.936546861

リアタイできたの同時に2つ立ってた時以来だ...もう終わりが近そうだがさてどうなるか

11 22/06/09(木)00:27:41 No.936547976

そういえばゲームでもオペラオーって泳げない勢だった

12 22/06/09(木)00:28:54 No.936548339

泳げないのに真っ先に飛び込むオペラオーはさぁ…凄い子だよ

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