22/06/06(月)01:03:44 切り立... のスレッド詳細
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22/06/06(月)01:03:44 No.935537195
切り立った少し高い崖から海を見下ろす。日光を反射して煌めく海が少しだけ私の眼を眩ませた。 断崖絶壁というほどではない、確かに子供でも飛び込もうという勇気と無謀さが湧いてくるような高さだ。突き出た岩も、浅さもないようで深い色の海がまるで怪物が大口を開けて待っているようにも見える。 「アヤベさぁぁん! 大丈夫ですかぁぁぁ? 何か見つかりましたかぁぁぁぁ?」 下の方の砂浜から、ドトウが大声で声をかけてくる。彼女達の周りには子供が群がっており、騒がしさが此処まで伝わってくるようだ。思ってみれば、他の人間からすれば私達はテレビで見るような存在となってしまっている。遊んでいる子供たちに見つかればそれは大騒ぎになるだろう。こういう時に注意を引いてくれるオペラオーは役に立つ、トップロードさんもファンサービスがいいし。 「そこはぁぁぁ! 昔の事故で、立ち入り禁止になっているそうですぅぅぅ!」 「そうでしょうね」 一人呟いてから、潮風と一緒に肺の中に空気を入れる。私とあの人との心の距離はアルタイルとベガのようだとするならば、この海はその間を流れる天の川だろう。
1 22/06/06(月)01:03:56 No.935537260
だからあの人の心に近づくためには、これを超えなければならないのだ。 此処にあの人の妹さん、それにあの人自身の感情が眠っているとするならばお願い、勇気を。 「アヤベさぁぁぁぁん? もうそろそろ降りてきた方がぁぁぁぁ!」 風を体に受け止めるように両手を広げ、重心を前へと倒す。ふわりと身体が浮いたような錯覚がすぐに重力に引っ張られる感覚によって上書きされていく。 今、会いに行くわ。 「アヤベさぁぁぁぁぁん!?」 聞こえてきたドトウの悲鳴も、すぐに水の混ざり合う音によって書き消えていった。 〇
2 22/06/06(月)01:04:26 No.935537402
「アドマイヤベガ……?」 薄い眠りの膜が無意識に言葉によって破られて、眼を開く。横たわるようにして眠っていたらしく地平線の向こうに空と海の青が繋がって見えた。 体を起こそうとすると、その体の重さと頭の熱で上手く体が動かない。昨日は雨だったからだろうか。日に日に、合宿所へと帰る日が少なくなっていくような気がしている。 自分はもう待つのも飽きて、自分から妹に会いに行こうとしているのだろうか。会える確証も、会ってくれる慈悲も期待していないくせに。 妹は太陽だった。星々が太陽の周りをまわるように、全てが妹を中心に回っていた。両親はその光を人生の道しるべとしたのだろう。自分は月だろう、太陽が存在してこそ夜に光ることを許される。 だからだろうか、妹は海を見るのが好きで、自分は星を見るのが好きだった。親が怒鳴り合う声を聴かないように眠る妹の耳を塞いで、窓から見える星を眺めてみると自分は孤独でないような気がした。
3 22/06/06(月)01:05:17 No.935537642
きっと両親は妹が死んでからは自分に太陽の代わりをしてほしかったのだろう。無邪気に笑い、許し、ひたむきで、愛を返してくれるような。月が太陽の代わりをできるはずもないのに。だがやるしかなかった、それが死んだ妹に対するせめてもの生き方だった。 トレーナーになったのも、妹の代わりにトレセン学園に行って妹の代わりに両親の誇りにならねばいけなかったからだろう。それも結局ウマ娘でもない自分では両親の期待なぞには答えられず、幼馴染がカレンチャンと出会って果たしてしまって親の期待は彼らの方に向けられた。残ったのは妹への贖罪、赦してくれる時が来るまで妹から奪い取った日常すべてを謝りながら過ごすことだけ。 だからそんな時に出会ったアドマイヤベガとの日常は……きっと生まれて初めて自分のためだけにやったことなのだ。 「アドマイヤベガ……」 いまさら突き放したものを惜しむような口に、自分でもバカだと思う。 彼女に会ってあの子のことを知って、あの子の中に感じた罪の意識を感じ取った時あの子に感じ取ったのは、シンパシーでも懐かしさでもなかった気がする。
4 22/06/06(月)01:06:13 No.935537911
赦されないと思いながら必死に償おうとするあの子をただ、支えてあげたいと思った。それが支えた未来で彼女が希望を見いだせれば、自分もまた同じことができるのかもしれないという究極的な自己愛の結果だとしても。 あの子が頑張るたびに、どこか身体が軽くなる気がした。笑うたびに、心から笑い返せる気がした。この子のために何が出来るだろうか悩むたびに悩めることが嬉しかった。海が遠くなり代わりに星を見ることが増えた。楽しかった、あの子の走りを見ることが、友達と共に進むことが。 そして……アドマイヤベガが妹を忘れてしまっていたと嘆いたとき自分もまた気づいた。俺もまた妹のことを忘れて生きてしまっていたことに。あの子が新月を忘れたように、俺も海の深さを忘れていたのだと。結局自分はアドマイヤベガに妹を重ね、自分を照らしてくれる太陽を欲していただけなのだ。両親と何も変わらない、身勝手で一方的な願望を彼女に押し付けていた。 それでも。後悔と絶望が押し寄せても、それでもアドマイヤベガを支えたいと思ったのは自分のようにしたくなかったからだろうか?
5 22/06/06(月)01:07:19 No.935538185
だが心配は取り越し苦労、彼女には頼もしい友人たちがいて、そして何より彼女も赦されたのだ。あの子の妹が全てを持っていった。アドマイヤベガの手を握りながら心に沸いたのは安堵だった。この子は幸せになれる、思い出として笑えるようになる。 残るのは邪魔な自分だ。知られたくなかった、考えられたくなかった、あの子に要らない気を遣わせたくない。 あの子にはもっと自由な星でいてもらいたい。ふと空を見上がればどこかで輝いている。そんな星。俺はただそれを眺めてるだけでいい、それだけで……。 だから知られてしまった今、自分はこれでいいのだ。光もなくただ一人浮かぶ暗い月でいい。アドマイヤベガの重荷になりたくない。 でも許されるなら。一度だけ星空を見るあの子の横顔を見てみたい。 「あぁそうか……」 バカな男だ。こんなことになってもまだ、頭の中には妹よりアドマイヤベガのことを優先してしまっている。 ごめんよ、こんなお兄ちゃんで。お前だけ生まれてきていれば、きっとまだ幸せだっただろうに。 ごめんよ、アドマイヤベガ。他のトレーナーだったらもっと上手く君を笑えさせられただろうに。 ごめんよ、俺が生きたかったばっかりに。
6 <a href="mailto:s">22/06/06(月)01:08:14</a> [s] No.935538458
調子に乗って書いた続きの続きの続きの続きの続きの続きの続きですすべて許してください あと今までのまとめも許してください fu1136844.txt
7 22/06/06(月)01:12:12 No.935539540
つれぇよ…
8 22/06/06(月)01:13:31 No.935539851
つらい……
9 22/06/06(月)01:18:06 No.935540976
アヤベさん飛び込んだ…!
10 22/06/06(月)01:25:17 No.935542692
書き切るまで許さんぞ
11 22/06/06(月)02:01:14 No.935549937
両親はなんだか勝手に救われたし 友人もカレンチャンというパートナーに巡り会えたし 担当のアドマイヤベガももう大丈夫だし …もういいかぁ
12 22/06/06(月)02:34:53 No.935554143
よくねえよお前も救われろ
13 22/06/06(月)02:58:38 No.935556437
おい待てェ とんでもないところで切り上げるんじゃねぇ
14 22/06/06(月)03:27:16 No.935558684
トレーナァアアアアアアア!! 助けてトレーナァアアアアアアアアアア!! アヤベさんが溺れちゃう!! 助けてぇえええええええええ!!!!!
15 22/06/06(月)03:29:11 No.935558806
駄目だ搾精病棟が頭をよぎる…