ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
22/06/05(日)16:16:20 No.935310184
雨の日が、まったく嫌いなわけではない。 釣りをするならたまには雨が降っても悪くないし、厚い雨雲はこの時期からじりじりと暑くなる陽射しを覆ってくれる。雨の日にしか出来ないトレーニングだってあるし、雨でびしょ濡れになりながらシャワー室に向かうのもたまには乙なもの。 ざぁ、と地面と窓ガラスを打つ雨音に耳を傾ければそれもまた良い音に聞こえるし、植物にとっては恵みの雨たる面もある。 雨上がりの澄んだ中に湿気の残った空気もまた、らしさを感じで嫌いじゃない。 とかく、雨の日を過ごす事そのものが嫌いな訳では、まったくない。ないのだが。
1 22/06/05(日)16:16:31 No.935310239
「雨、止みませんね」 「梅雨って事ですなぁ」 アヤメの枯れる時期。長く降り続く雨が、心の底までじっとりと濡らしていく。 梅雨前線が覆いかぶさった事を示す雨雲は、この数日空からほとんど離れる事なく雨をこの地にもたらし続け、人々の頭を悩ませ続けている。 トレセンの生徒であるからにはトレーニングは必須だが、雨続きとあっては使えないコースも数多く、また保守点検も追いつかない。 昼休みの食堂の隅で、短く切り揃えた黒鹿毛の髪を揺らしながら嘆息を漏らす小柄なウマ娘からすれば、趣味であり業務でもある土いじりから引き離されて久しい上に、 「……もうすぐ咲きそうなバラがあったんです。枯れていなければ良いんですけど」 そういった事情もあり、ところどころにブルーシートを被せた花壇を見やって、またひとつ嘆息を漏らす。
2 22/06/05(日)16:16:46 No.935310328
長雨は、人の心まで濡らしてしまう。自分ひとりであれば、セイウンスカイという名前の割には、そう、名前の割には過ごしやすいとすら思ってしまうような夏前の雨季も、 「……大丈夫だよ、きっと綺麗に咲くからさ」 想い人の濡れた心にあてられて、やはりじっとりと、心が濡れてきてしまう。 本当なら、こうして2人で過ごしているだけで幸せなはずなのに、それすら上書きしようとする長雨の事は、今となっては大嫌いだ。 言葉ひとつで晴らす事も、そう出来たものではない。ふらりとどこかに出かける事も、長雨ではしづらくて────そう思っていると、マナーモードに設定したスマートフォンが、ぶるりと通知をよこしてくる。
3 22/06/05(日)16:16:58 No.935310390
その内訳というのを確認すると、 「……ありゃ」 「スカイさん?」 「ううん、トレーニングが中止になっただけ。体育館の予約が取れなかったのかねぇ」 「じゃあ、お休みなんですか」 「そうだね」 謝意と予定の変更を報せるメールが届いた画面を彼女の方に向けながら、これ幸いと笑ってみせる
4 22/06/05(日)16:17:10 No.935310449
合法的に休める事を喜ぶ姿に、彼女の笑顔が少しだけ戻ったのを見て、 「ねぇフラワー、お出かけしよう」 と、一言。 「けど、雨ですよ」 「雨だから、さ」 そんな私の、急な提案に不安な声を上げた彼女に向かって、今度はスマートフォンのブラウザ画面を見せつける。
5 22/06/05(日)16:17:18 ID:tEuNNNWk tEuNNNWk No.935310483
スレッドを立てた人によって削除されました するとそこにニンジャが現れて手裏剣を四方八方にまき散らす!
6 22/06/05(日)16:17:51 [終] No.935310666
そこには沢山の紫陽花が咲き誇る写真と、小さな地図の表記。 「これ、学園の近くの」 「フラワーが教えてくれたんでしょ。雨の日に見たら綺麗かもよ」 そう言って立ち上がって左の手を差し出すと、彼女の小さな右手が、そっと手のひらに乗せられた感触。 その小さな手を優しく、しかし力を込めてぎゅっと握ってあげながら、食堂を抜け出していく。 「きっと、一緒なら楽しいからさ」 彼女の方を一度振り向いて、笑顔でそう言った。 雨の日ごと、ふたりで宝物にしたいと思いながら。