ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
22/06/01(水)01:05:49 No.933709535
水面が遠ざかって光が届かなくなっていく。どんどん冷たくなっていく海水に包まれて息のできない苦しさが心を恐怖で満たしてくる。 寒く真っ暗の中で自分は死ぬのか、妹と共に。 あの優しくか弱い妹とは思えないほどの、万力めいた力の手が自分の身体を掴んで激痛が走る。妹のウマ娘としての力が、今まさに発揮されているようだった。 最初はパニックになっている妹を見て一緒に死んでやるべきかと思った、この子が寒くないようにくっついて、抱きしめたまま。このが幽霊になっても寂しくないように。 だが、次に浮かんだのは自分の葬式の光景だった。友人が泣き、色んな人が泣くだろう、両親も泣く。しかしそれは妹に対してで自分に対してではない。 両親は思い出話として妹のことを話すだろう。あぁしてよけばよかった、こうしてよけばよかったと後悔を口にして日々を過ごす。だがその中に自分はいない。 墓参りにも来て、手を合わせるだろう。だがそれはあの子に対しての祈りで、自分には向けられないだろう。 自分は死んでもただ一人なのだ。
1 22/06/01(水)01:05:59 No.933709566
そう思ってしまった瞬間、妹のすがってくる手を押しのけ体を蹴飛ばし、がむしゃらに上を目指した。自分の身体ではないくらいに手も足も速く動いて、どんどんと光が近づいてくるごとに心が安心感を覚えた。助かるぞ、生きれるんだと希望で胸がいっぱいになり、息苦しささえ平気だった。 ふと、振り返った。ぼやけた視界が歪んだ輪郭の妹を見つけてそれが暗闇に消えた時、自分が何をしたか思い出した。 水面から顔を出し思い切り息を吸って、よじ登った陽射しで温まった岩場に体を横たわらせても、自分が生きているとは感じなかった。 存在もしたくなかった場所へと、存在できていた理由をさえも蹴飛ばして戻ってきてしまった事実が心を海で満たした。 だけど、もう一度戻ることはできなかった。もう、妹と一緒にいてやることさえもできないのだから。 俺は本当に一人になってしまったのだと、ただ海の傍でしゃがみこんで揺れる波を見つめた。そうすることだけが、捨ててしまったあの子の傍にいれるような気がした。
2 22/06/01(水)01:06:13 No.933709646
〇 ヘリの窓から差しこんでくる朝の光で、私は目を覚ました。下を見ればもう合宿所とは程遠い景色が広がっていて先ほどまでのことが夢じゃないことが分かる。 他の席を見渡すと、オペラオーたちはまだ寝息を立てているようでウマ娘用の防音ヘッドフォンがぴくぴくと揺れている。 「もう少し寝ていていいよ。あと一時間ぐらいだから」 そうしていると、ヘッドフォンからオペラオーのトレーナーの声が聞こえて少々驚いてしまう。こういった経験は何しろ初めてだから。 「あ、ありがとう……ございます」 ヘッドフォンから伸びたマイクに声をかけると、笑いが帰ってきた。 「畏まらなくていいよ。オペラオーと喋るときと同じ感じで普通で行こう」 「え、えぇそれだとかなり雑になるけれど……お言葉に甘えて……」 「しかし、君は勇敢だな。ヘリの中で一応の話は聞いたけど、そのままアヤベさんが彼と会わなくなって非難するような言われはなかったはずだ」 「そうでもないわ、今だって彼と面と向かって話す勇気はないかもしれないもの……」 朝日の眩さに少し目を細めながら、私は海をただ見つめているあの人を思い出していた。
3 22/06/01(水)01:06:48 No.933709767
「でも、後悔はしたくない。昨日オペラオーたちと話してそう思ったの……知らないまま、分からないまま、彼と別れたくない。別れなければいけないとしても……私の中で納得が欲しい」 「つまり、半分以上は自分のためというわけか?」 「…………そうかもしれない」 「はは、流石はオペラオーの親友だ。あぁ、別に揶揄しているわけじゃない、俺はそれが一番だと思っている。自分のために生きれない人間はいつか限界が来るからね。自分一番で人生を楽しんで、手が空いたなら他人を助ける、それくらいがちょうどいいんじゃないかな」 流石にオペラオーのトレーナーはやっていないということだろうか、そこには自信と肯定感があった。そして私の今までを思い出して、少しだけ心に刺さる部分もある。 「私は……彼を助けるまでの器量や度量があるかしら」 「多分アヤベさんにしかできないと思うよ。そのくらい君達は似てる気がする」 「似てる……? でも、彼は私とは違うと言ったわ、根本的な所が違う……と」 その時の彼の顔を思い出して、少しだけ身震いがする。あの人は私は赦されたと言った。つまり彼は赦されていないということなのだろうか、妹さんから。
4 22/06/01(水)01:09:13 No.933710368
だがそれを聞くとまたオペラオーのトレーナーさんは少し笑い声を出した。 「アヤベさんはまだ少し子供だな。いや、ある意味子供のような理屈ではあるかもしれないけどが、『貴方と私は違う』という時は大抵の場合、否定しているのは相手ではなく類似点がある自分自身が多いものだよ」 「……つまり?」 「自分の見たくない部分をアヤベさんに見てしまったんだよ。だから強がりみたいなものだ」 「見たくない部分……」 あの人は私との数年間で、何を見てしまったのだろうか。それとも見ようとしていたのだろうか。ただ、あの人が優しかったことは分かる。 そう、あの人は偽りで人に優しくできるような器用な人じゃない。それだけは分かる。 「それを認める方もかなり勇気がいるがね、俺もオペラオーと出会って救われるまではそうだったさ」 「私は……彼を理解できるかしら?」 「その方法を探しに行くんだろ」 バックミラー越しにオペラオーのトレーナーさんが微笑んだ。やがて、朝日より輝しく美しいボク!とか言いながらオペラオーが起き上がってきて、それに連鎖するように他の子の眼が覚めてヘリの中は一気に騒がしくなった。
5 22/06/01(水)01:10:20 No.933710672
「あっ!フクキタルさんから教えてもらった、飛行機に乗る前にやらないといけないお呪い、忘れてましたぁ~……どうしましょう……」 「えっ! そうなんですか!? えっと、どうしましょう! 堕ちちゃいますか!?」 「そう言う時に唱えるといい言葉があるぞ、少女たち。ジンクスなんかクソくらえ。だ」 やがて目的地が見えてきた。
6 22/06/01(水)01:11:09 [s] No.933710907
調子に乗って書いた続きの続きの続きの続きの続きですすべて許してください あと今までのまとめも許してください fu1121525.txt
7 22/06/01(水)01:13:23 No.933711562
全部書いたら許してやるから全部かけ
8 22/06/01(水)01:22:16 No.933713775
ハッピーエンドに行くって信じていいんですよね?
9 22/06/01(水)01:23:27 No.933714070
さては曇らせ前科があるな?
10 22/06/01(水)01:24:52 No.933714436
オペトレサトノ家の人間なのか…?
11 22/06/01(水)01:33:30 No.933716460
>オペトレサトノ家の人間なのか…? やたらある資金力はそう言う…
12 22/06/01(水)02:32:15 No.933727243
実はこれまでの怪文書のトレーナーはうすーく関係性が繋がってたりするんだろ? 開けろ!引き出しの中を!
13 22/06/01(水)02:36:32 No.933727773
多分とてつもなく大変な状況の実家であることは想像に難くない…
14 22/06/01(水)02:49:56 No.933729337
>ハッピーエンドに行くって信じていいんですよね? ここまで引っ張ってバッドとか死別とかの悲しい終わりだったら…我が魂魄100万回生まれ変わってもスレ「」を恨むよ…