虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

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    22/05/31(火)17:14:20 No.933533111

     俺の名前はワトソン。  本当の名前ではないが、あの事件のことを書き記すにあたっては、やはりこの名前を使うべきだろうと思う。  VRゲームの中ではなく、現実のオルカで、俺とリアンが組んで解決した初めての事件。名前を付けるならそう、「消えた伯爵令嬢事件」とでもなるだろうか。

    1 22/05/31(火)17:14:57 No.933533250

     その朝、俺は遠征隊を見送った後、艦長室でリアンと打ち合わせをしていた。再度の対決にそなえ、レモネードシリーズに関する情報は少しでも集めておきたいが、今の世界では情報を得る手段は限られている。 「昔のPECSの公式ホームページとか、どこかのサーバに残ってないかな」 「そんなものから何かわかるのか?」 「公開情報は大事だよ。情報の中身だけじゃなく、『どうしてその情報を公開しているのか』にも意味があるからね」 「なるほどなあ」  そんなことを話しつつ、旧時代のPECSの広報パンフレットまでひっくり返していると、ノックもなくドアが開き、濡れた毛玉のようなものが飛び込んできた。 「け~ん~ぞ~ぐ~ぅ~!!」  それは、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしたLRLだった。俺の膝めがけてまっすぐ突っ込んできた彼女は、しゃくり上げる息の合間、合間に、やっとのことで言った。 「はぐ、はぐっ、はくじゃぐれーじょーがああ~~!!」

    2 22/05/31(火)17:15:18 No.933533332

     数分後。泣きじゃくるLRLをなだめて、何とか事情を聞き出したところによれば、こうだ。  LRLとエイミーはその日、遠征チームのメンバーとしてオルカを発つはずだった。ところが当日になって、目標地点の近くに「マジカルモモ・ミュージアム」なる博物館があることがわかり、がぜん興味を示したフレースヴェルグがメンバーに加えてほしいと頼み込んできた。協議の結果、LRLが入れ替わりに残ることになり、装備を解いて部屋へ戻ってくると、だいじにしまっておいた伯爵令嬢がなくなっていた。 「伯爵令嬢って?」 「手作りの人形だ。お気に入りの」リアンが小声で訊いてきたので、俺も小声で囁き返した。  正確にはナントカの伯爵令嬢という名前だったと思う。LRLの好きな漫画『サイクロプス・プリンセス』に出てくる脇役で、先日オードリーに教わりつつ、ぬいぐるみを自分で作ったのだ。なお、どうして主役であるプリンセス自身のぬいぐるみにしなかったのかというと、「おそれ多いから」だとか。

    3 22/05/31(火)17:15:31 No.933533375

    「部屋の中は、よく探したんだな?」 「探した……」  LRLの言葉が真実であることは、彼女の部屋を一目見てわかった。  二段ベッドの上(LRLが使っている方)にため込んだありとあらゆるものが投げ落とされ、床に散らばっている。毛布はハンガーに引っかけられ、枕は冷蔵庫の上に転がされ、部屋の中央には大きな四角いブリキの箱がひっくり返っていた。  呆気にとられている俺の後ろから、成り行きでついてきたリアンが一歩踏み出し、慎重に室内へ歩み入ると、床をぐるりと見渡した。 「最後にお人形を見たのはいつ?」 「朝、出ていく前に挨拶した……」 「探しはじめる前、部屋の中に変わった所はあった? 出ていった時と比べて」  目元を赤く腫らしたLRLが、少し考えてから首をふる。「なかったと思う」  質問しながらもリアンの視線はゆっくり室内を移動し、時々何かの上でぴたりと止まる。俺はまだ小さくしゃくり上げているLRLの頭に、そっと手を置いた。 「大丈夫、きっと見つかるさ。リアンは世界一の名探偵なんだから」 「世界一の助手ワトソンもいるしね」リアンが振り向いて、俺とLRLに微笑んだ。

    4 22/05/31(火)17:16:52 No.933533685

     ようやく泣き止んだLRLを、カフェで何か甘いものでも食べておいでと送り出した後、俺とリアンはまず室内をもう一度洗い直すことにした。捜し物をする時に大事なのは落ち着いて、系統立てて探していくことだが、LRLは明らかにどちらもできていない。 「ワトソンは、その人形って見たことある?」 「あるよ。写真もあったと思う」  俺はポケットから携帯端末を取り出してアルバムを検索する。「ほら、これ」  黒と緑を基調にした重厚なドレスをまとったお姫様の人形と、それを抱いて満面の笑顔を浮かべたLRLがいっしょに写っている。人形の身長は立たせた状態で30cmほど。わざわざオードリーに指導を受けたというだけあって、少々いびつながらドレスや装身具などかなり本格的な作りだ。特に胸のブローチには、碁石くらいある本物のエメラルドが縫いつけられている。 「えっ、これ本物?」リアンがぐっと顔を画面に近づけた。「ひと財産じゃん」 「昔ならな」

    5 22/05/31(火)17:17:22 No.933533794

     宝石のことなど何も知らないが、こんなサイズのエメラルドがたいへんな貴重品であることくらいは俺にもわかる。かつての世界なら、この石ひとつを狙って泥棒が来ることもあっただろう。それどころか、殺人だって起きたかもしれない。  かつての世界ならば、だ。今のオルカではもちろん、そんなことはありえない。宝石の使い道なんて、オードリーが仕立てるドレスや水着を飾るくらいしかないのだ。 「ルームメイトはエイミーレイザーだよね。今どこに?」リアンが下のベッドを調べながら訊いてきた。 「遠征だ。LRLが行くはずだったチームに、彼女も入ってる」 「連絡できる?」 「移動中は無線封鎖だ。午後まで無理だな」

    6 22/05/31(火)17:17:37 No.933533854

     ベッドの下、物入れの陰、壁の棚の奥。一般隊員のせまい個室に、探すところは多くない。最後に床を調べながら、俺は部屋の中央に転がる箱を取り上げた。もとはお菓子の箱か何かだったらしい、綺麗なブロンズ色のブリキ缶箱だ。蓋は綺麗な文様が打ち出されてドーム状にふくらみ、全体に品のいい青とオレンジ色の模様が描かれている。箱の中はリボンや布でみっちりと飾り付けられて、さながらお姫様のベッドとでもいった雰囲気になっていた。この箱の中で、毎晩伯爵令嬢は眠っていたのだ。 「うーん」  リアンは背伸びをして、換気口のフタをゆすぶっている。後ろから手を伸ばして外してやると、縁に手をかけて中をのぞき込んだ。 「さすがに、そんな所にはないだろう」

    7 22/05/31(火)17:19:09 No.933534222

     リアンは答えず、換気口に頭を突っ込んだ。頭は入ったが、当然のこととして肩がつっかえる。 「私じゃ無理か……LRLちゃんか、同じくらい小さい子なら入れるかな? でも痕跡は何もないな……」 「入ってどうするんだ」言ってから俺は気がついた。リアンは侵入口を探しているのだ。 「まさか、誰かが盗んだと思ってるのか?」 「いい探偵はどんな可能性も排除しないものだよ」  振り向いたリアンの表情は、いつもの朗らかで気の置けない彼女ではなく、事件を捜査する探偵のそれだった。恥ずかしながら俺はその時まで、単にLRLがどこか妙なところへ紛れ込ませたか、置き忘れただけだろうと思っていたのだ。  そして結論から言うと、リアンのこの危惧は、見事に当たっていたのである。

    8 22/05/31(火)17:19:55 No.933534389

    すごい長くなったので続き fu1119913.txt

    9 22/05/31(火)17:31:14 No.933536962

    なんかもう感想がいい…しかでてこない!

    10 22/05/31(火)17:45:31 No.933540454

    名探偵リアン 消えた伯爵令嬢のなぞ をやりたかった まとめ fu1119915.txt

    11 22/05/31(火)18:01:16 No.933544574

    リアンとシラユリの関係性いいよね

    12 22/05/31(火)18:17:16 No.933548658

    スッゲェ

    13 22/05/31(火)18:34:38 No.933553746

    ファミコン探偵倶楽部だこれ

    14 22/05/31(火)18:38:05 No.933554765

    うしろに立つシラユリ

    15 22/05/31(火)18:39:15 No.933555136

    >うしろに立つシラユリ ガチホラーはやめろ!

    16 22/05/31(火)18:49:51 No.933558499

    資料室のケーブル束の中にファントムが塗り込まれてるんだ…

    17 22/05/31(火)18:50:51 No.933558833

    消えた(人類の)後継者