ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
22/05/28(土)22:20:52 No.932524369
岩を切る。 師父から頂いたのは日々の鍛錬、と言うにはいささかオーバーな課題。 更には余る重さを手に伝える真剣。 初等部の道場で振っていた竹刀とも、日々の鍛錬で使う木刀ともまるで違う。
1 22/05/28(土)22:21:17 No.932524594
特訓をする。師父がそう言い放ち野山に分け入ろうとしたときは唖然としたが。 着いてしまえばそこは緑のなかに広く開けた空間。 そして大きな岩がひとつ。 師父は剣を渡し、あれを切れとだけ。 はぁ。え?あれを? 頷き、伝えることは伝えたと、近くにあるという家に帰ってしまった。 ...ひとつふたつと息を吐く。 初めは師への不満を追い出すためだったが。次第に登山家が頂上でするような、楽しむための深呼吸に変わる。 新鮮な空気で肺を満たす喜び。少しくらい自然を堪能したって罰は当たらないだろう。 寝転がる。鳥がさえずり、ふわりと風が頬を撫で、ゆるりと雲が流れる。葉擦れの音が心地よい。 少し自分を取り戻した。 難題に違いないが何か糸口はあるだろう。 立ち上がり、長閑な風景に似つかわしくない無骨な得物を携え、岩に向き合うことにした。
2 22/05/28(土)22:21:57 No.932524888
固有スキル。 それは時に大小あらゆる刀剣や火縄を無から顕現させ、果てには雷火や風雪。自然現象すらそこに表し敵を打ち倒す。 同じものはひとつとしてない。己だけの力。 師父が言うに、固有スキルとは自我の奥底に潜む怪物を解き放つこと。 現実を捻じ曲げるほどの心を育て、飼い馴らす。 これにより成るのだと教えてくれた。
3 22/05/28(土)22:22:23 No.932525092
想像もつかない世界だった。しかし落胆されたくない。 必死に考え込む頭に、ぽんと手が置かれる。若さに見合わぬごつごつした手。 焦らずとも、お前にはお前の道がある。 そして俺も自分の道をみつけた。 お前が迷わんように道案内をすることだ。 ちょっと照れながら言う師父の言葉。顔。手。 刺激が情報となり、掛かったウマソウルが私の脳へ殺到する。 頭をがつんと殴られたような。 それは救いの蜘蛛糸を掴めたような光明に見え。 それは温かな海に身を任せ揺蕩うような安らぎをもたらし。 そして体中にみなぎる獰猛な情欲。 なるほど確かに怪物が育っていたのだろう。獣だったが。 つがいを見つけた肉体はたがが外れ、動作の起りを見せず無拍子に獲物へ飛び掛かる!いざ! ...天が地に地が空に。 ああ。受け身を取らないと。
4 22/05/28(土)22:22:49 No.932525320
唯そこに在る。 それ以外を語らぬ無愛想な岩を前に、更に幾日か経つ。 岩は未だ無傷で道を塞いでいる。頭のたんこぶを触る。まだ痛い。 戯れに、私は真剣を構えているのだぞ?と岩に気を放てども、文字通り無しの礫。 移ろう世俗と違い、この竹林の静けさは変わらず。 すっかり馴染みの雀が、斬り伏せられた巻藁の切り口に興味を示していたが、飽きるとぴょんぴょん跳ね回り虫を探し始めた。 雀も草木も山も、そして私も思わずあくびをしてしまうような。うららかな日だった。
5 22/05/28(土)22:23:12 No.932525522
ふと。岩が喋った様な気がした。 何も聞こえない。喋る訳がない。 当然だ。人でもウマでもない。岩だ。 身構える。緊張の糸をぴんと張る。 ...殺気。 どこからと探れどもやはり殺気の主は眼前の岩。 長い付き合いだ。これはただの岩でしかない。なぜ。 あろうことか岩はついに、私に剣を突きつけた。 首の後ろが冷たくなる。耳が立つ。 春の陽気を楽しんでいた雀は既に何処かへ逃げ去ってしまっていた。 目が離せない。瞬きをすれば岩に両断された私の骸が転がっている気がする。まさか!
6 22/05/28(土)22:23:40 No.932525763
冷や汗が滴る。いつの間にか日が落ちていた。 背に寒気が走る。夜闇に依る冷えではない。 死に臨んだ私は怯え、竦んでいるのだ。 死。武を志した以上いつかは訪れるはずだった。 しかしこんなにも早く、唐突に迎えるつもりではなかった。私は何も成せず死ぬのか。 ...師父へ想いも告げずに? 嫌だ。 そうだ。思い出した。 この岩は、私が切らねばならない相手だった。 そのとき。岩が剣を振り下ろした。
7 22/05/28(土)22:24:06 No.932525971
岩からどくどくと温もりが流れ出る。手で抑える。止まらない。 私は剣なんて握っていなかった。 しかし現に岩は切れている。時間がない。 満足そうな顔をこちらに向ける岩は、いつもの調子で私を諭す。トレセン学園で新たな師と歩めと。 ここまでだ。とも。 それを聞いて...何を叫んだのかあまり覚えていない。 ただ形に出来ていなかった慕情をそのままぶつけていたと思う。 最後にうそつきと呟いたとき。 それを聞いて少し困った様に笑い。 岩は冷たくなった。
8 22/05/28(土)22:24:24 No.932526123
山を降り、学園の門を叩いた。 埋葬を手伝ってもらい、墓に手を合わす。 岩に刃が立たなかった剣はここに置いていく。 編入手続きも終わった。これからは制服に袖を通し、トレセン学園に通うことになる。 私がここで見つけなければならないもの。 新たな師、競い合う好敵手、そして掴むべき栄光。 標はもう無いけれど、迷わない。 塞ぐものはすべて切り拓けばいい。 私は岩を切ったのだ。 師父から頂いた、この剣で。
9 22/05/28(土)22:24:53 [s] No.932526369
むらっとして書いた 目線ダスカさんとこからウマソウルとか諸々設定を無断借用 好き放題してしまった
10 22/05/28(土)22:41:44 No.932533522
あの…死んでる岩がいるんですけど…
11 22/05/28(土)22:43:48 No.932534392
なにこの…なに…?
12 22/05/28(土)22:53:06 No.932538279
モズタンジロウじゃないのか
13 22/05/28(土)22:55:46 No.932539351
お…お師さん!!
14 22/05/28(土)23:03:35 [s] No.932542779
>お…お師さん!! 石切り大四郎ベースにサウザー混ぜて遊んでたらなんかできた >モズタンジロウ 君もそういや岩割ってたね
15 22/05/28(土)23:05:17 No.932543639
飲み過ぎだな…
16 22/05/28(土)23:06:53 [s] No.932544448
>飲み過ぎだな… こんなもん酔ってないと投げられないが?