虹裏img歴史資料館

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22/05/28(土)21:03:58 ニャー... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1653739438661.jpg 22/05/28(土)21:03:58 No.932490042

ニャーン。 猫が鳴いてる。茶っこい毛で、人なつっこいモフモフの生き物。それがソファであぐらをかいたトレーナーの股の中にすっぽりと収まってた。 「トレーナー。どうしたんそれ」 「今朝トレーナー寮の近くで見付けてね。弱っていたから保護したんだが、どうやら懐かれてしまったみたいでね」 ニャーン。 そうだと返事するように、また猫が鳴く。 「でも大丈夫なの? たづなさんとかにおこられね?」 「それは大丈夫。一時的な保護だと話してあるから。それよりジョーダンは猫大丈夫かい?」 「モチ~☆ あたしアレルギーゼンゼン無いいい娘だから」 「アレルギーで良い悪いも無いと思うが……まぁ良かったよ。少しの間だけだが、このトレーナー室で保護するから壊されたくない物とかあればしまっておいてくれ」 「わかったわ。てかあたしにも抱っこさせろし」

1 22/05/28(土)21:04:40 No.932490344

「はいはい。ほら“しょうゆ”ジョーダンだぞ」 しょうゆって名前なんだそれ……前々から思ってたけど、やっぱトレーナーは頭良いけどネーミングセンスないわ。それはそれとして、猫はあたしに抱き抱えられてもあばれたりせず、 大人しくしてた。ちょっとやせてるけど、誰かにひどいことされたとかじゃなさそうでよかった。 「ジョーダン。注意しておくけど、あくまで“しょうゆ”は回復するまでだ。愛着がわくと別れるときに辛くなるぞ」 「大丈夫だって」 ◆ それから1週間。すっかり元気になった“しょうゆ”は約束通り保健所に連れていくことになった。 「よし、元気になったみたいだな“しょうゆ”~。ジョーダンも癒しを得られたんじゃないか?」 「うん。ネコの動画とかは見てたけど、実際にお世話するとかわいさがゼンゼン違ってびびったわ。やっぱ本物が一番」 「ははは。それは良かった。じゃあ連れていくから、準備してもらっても良いかな? 俺は今から連れていくと理事長に連絡するから」 「はーい」

2 22/05/28(土)21:05:22 No.932490649

“しょうゆ”は大人しくていいコだったから、部屋の中を走り回ったりしなかったし、高いとこのぼって何かを壊すとかもなかった。キホン的にはトレーナーのヒザかあたしのヒザで丸くなってて、どうしても遊んでほしい時だけしつこく鳴いてたくらい。 だから触れてる時間がスゴく多くて、だからアイチャクがわいちゃって……。 ニャーン。 こっちを見て鳴く“しょうゆ”はかわいい。でも、もうこの“しょうゆ”を見られるのが最後だと思うと、やっぱりさみしくなった。 だからあたしは、トレーナーが電話をかける前に“しょうゆ”を抱えてトレーナーにお願いすることにした。 「トレーナー!」 「ん? どうしたジョーダン」 「あの……“しょうゆ”ってかわいいでしょ? でさ、ゼンゼン鳴かないいいコだし、部屋もめちゃくちゃにしないし……」 「うん」 「……あとほら、保健所に行っても飼い主見つからなかったら殺されちゃうんでしょ? だからあたし……“しょうゆ”をこのまま飼いたい」

3 22/05/28(土)21:06:27 No.932491147

「……そっか。よく打ち明けてくれたねジョーダン。そうやって自分の意見をちゃんと言ってくれるのはとても素晴らしい事だ」 その言葉に自分の表情が明るくなったのは鏡を見なくてもわかった。でも、見上げたトレーナーの顔はそんなのじゃなくて……。 「でもねジョーダン。俺も“しょうゆ”が大人しくて、とっても良いコだったのはよく知ってる。何しろ、ジョーダンよりも“しょうゆ”と居たからね。だからこそ、ここでは飼えないんだと分かってほしい。今回は1週間だったけど今後、“しょうゆ”が更に俺達に打ち解けて、部屋の中で走り回るかも知れない。遠征や合宿の時は連れていけない。誰に面倒を見てもらう? 餌だって、道具だってタダじゃない。“しょうゆ”がうっかり外へ出ていって、他の生徒やトレーナーに迷惑をかけたら誰が責任を取る? 仮に居なくなってしまったとして、まだまだレースが忙しい君に、探しに行く余裕はあるのかい?」 「それは……」

4 22/05/28(土)21:07:10 No.932491501

言葉がでない。トレーナーの言葉はどれも正しく、ハンロンする事は出来ない。いや、今は自分のことしか見えてないけど、落ち着いて俯瞰(最近教えてもらった)してみれば自分が間違えていることなんてすぐにわかる。 一時のキモチで、自分の都合で“しょうゆ”の自由をセキニンも考えず管理するなんてひどい思い上がり、ゴーマンに過ぎるんだと。 「ジョーダン。俺だって鬼じゃない。でも『命の責任』を抱えると言うのは、君が思う程簡単ではないと言うことだ。残酷な事を言うが、ただ可哀想だからと捨てられた動物を拾ったり、ただ飼いたいからと何も考えず動物を飼う奴の殆どはこの事を考えていない。そして俺達は、そんなに余裕を持っていないのだから責任を持てないんだ」 「……っ、うぅ……」 「泣かないでくれジョーダン。“しょうゆ”が死ぬと決まったわけでもないし……何より君は勘違いしている」 「──え?」 泣き出したあたしの肩を優しく叩いてくれたトレーナーが電話をかける。相手は理事長らしいけど……。 「あ、理事長。お疲れ様です。えぇ、例の猫の件で……はい。では今からそちらに連れていきますので、暫くお待ち下さい」

5 22/05/28(土)21:08:02 No.932491959

「どういうことトレーナー……?」 「こう言うことだよ」 トレーナーが机の上から持ってきたのは1枚の紙。そこには、トレーナーと理事長のメールでやり取りした内容がプリントされてた。題名は『保護野良ネコの今後の対応について』。 やり取り始めの日付はトレーナーがネコを拾ってきたその日。始めにトレーナーがこの猫をどうにか学園側で何とか出来ないかとサイソクして、やり取りの相手はたづなさんから理事長へ。理事長のメールにはただ『提案ッ! 私が引き取ろう!』とあった。これは……つまりそう言うこと? 「あぁ、そう言うことだ。ジョーダンに注意したのに、俺自身が駄目だったようだ」 ちょっと大げさに笑うトレーナーのそのタイドは、自分のウソがバレたりしないようにごまかす時のそれ。 ……なんだ。最初からあたしがこうやって言うことは分かってたんじゃん。飼えないけど、理事長にお願いすれば会わせてもらえるし、いつもネコと一緒な理事長なら安心できる相手。サイコーのダキョウ点、叩きつけてくれんじゃん。

6 22/05/28(土)21:08:37 No.932492236

「ありがとうトレーナぁぁ……っ! ありがとぉぉ~!」 「おいおい可愛い顔が台無しだぞ。さ、笑顔で”しょうゆ“を連れていこう」 みっともなくトレーナーに抱きついて、うれし泣きする。 ”しょうゆ“ってつけるセンスはサイコーにダサいけど、人間としてやっぱりアンタはサイコーだよ。 ──あたしのサイコーのトレーナー。

7 22/05/28(土)21:10:51 No.932493254

始めは猫に嫉妬するジョーダンが書きたかったんですけど、なんか違ったので命の責任を説かれるジョーダンにしました

8 22/05/28(土)21:22:49 No.932498588

別れる前提だから愛着湧かないように変な名前付けてんのかなー? いやハナから別れる気ないし単純に食い物の名前なら何でもかわいいって思ってる天然だわこれ

9 22/05/28(土)21:26:46 No.932500311

先生と生徒してるの良いですね

10 22/05/28(土)21:28:46 No.932501193

黒かったらアンコとかおはぎとかつけてそうだな…

11 22/05/28(土)21:47:46 No.932509055

めっちゃ良い話 ジィートレの解像度高い

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