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22/05/28(土)02:25:23 ふいに... のスレッド詳細

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22/05/28(土)02:25:23 No.932223052

ふいに、ふとした瞬間に。私のうしろから声がした。  あなたがひとにこいしたとき、どこからあじをたしかめたい? 「ま、ひる、っ……」  そうだなあ、心の中で顎に手を当てながら、探偵か刑事みたいに答えてみる。けれどまっすぐ声に答えてくれるのは、横隔膜の揺れ具合と唇の動きによるものじゃない。答えとして波打つのは、胸の鼓動と血の高鳴り。答えを示すのに言葉を使っちゃいけないなんてルールはないけれど、いまの私に起きているすべては言葉で説明するような、言葉で説明できるような隙間を持っていない。私が語ろうとしたアンサーは、身体で表すだけでも広大過ぎて。ピアッサーで貫いたような小さく狭い間隙じゃあ、流石に入り込めやしないってだけだ、と思う。  きめの細かい肌色の地平に、真新しい紅の花弁が舞う。おろしたてのリップも少しずつ色を失い始めている。付けて、吸って、貼り付けてを繰り返す。やっぱりいやなんじゃないかな、このあたりでやめておこうよ、わたし、どうしてこんなことしてるのかな。からだの動きとこころの動きは一つとしてマッチしない。

1 22/05/28(土)02:26:38 No.932223335

私のする問いかけへの返事は、いやだ、やめて、どうしてなの。重たく沈み込むようないくつもの言葉が私の行く手を遮ろうとする、けれど。 「心にもないくせに」  無駄。絡みつこうとする茨なんて、募る苛立ちが一息ではじく。仮に本心で拒んでいるのなら、力はもっと強くなるはず。よし、心の準備は整った。うん、一歩だけ踏み込んで探ってみよう。ひかりちゃんが空に舞わした弱々しい指先たちに、一体どんな理由があるのかを。  浅瀬のような肌上のやりとりはおしまい。もう少しだけ大きめに唇を開いて、思うさまに食む。はぷ。湿っぽいようで弾力のある食感が、先程よりも強く、唇だけに強く残る。もう、後には引けないところにまで来てしまったのだし。もう、いいや。止まることなんてもう、いらない。

2 22/05/28(土)02:27:15 No.932223483

 ただひたすら勢いに任せて、太ももを食み、脇腹を食み、二の腕を食み、頬骨を食む。私たちのやり取りがごく普通の行為だったなら、私が噛む場所は違ったと思う。例えば、下げようとしたショーツの更に奥。例えば、さりげなく主張している胸の一部。例えば、みずみずしくつややかな二枚の唇。例えば、例えるなら、もっと根深くて逃げようのない、食べれば終わる致命的な場所。でも、まだ早いんだ。ゲームセットにはまだ遠いし、アウトカウントだってまだ一つも進んでいない。力ない指先の、その理由の一片すらも知ることが出来ていないのだし、それにもう少し、もう少しだけ試してみたいこともある。 「だーめ、じっとしてて」  つづきにつづく土日祝と、お昼どきをちょっと過ぎたいま。私は丁寧に整えられたベッドたちの、その上に乗ったきれいでかわいい人魚姫を、わりかしポジティブな思考でもって、気分よくぐちゃぐちゃに掻き乱している。 「こんなっ……やっ……!」  シャツに下着にとはだけさせて、私は馬乗りになって。でも私が誘ったんじゃない。私を誘ったのはひかりちゃんのほう。

3 22/05/28(土)02:27:51 No.932223612

もうぜんぶぐちゃぐちゃだ。久し振りの二人のランチを、ついでにしたホテルの予約。誰のせい、ひとのせい。責任転嫁の果てに到着したのは、きらびやかなハリウッドツイン。閉じ切られたこの部屋には私とひかりちゃんしかいやしない。ここまで誘ったのはひかりちゃん、だっていうのに。ひかりちゃんは私にされるがままを望んでいる。仕方ないから私が鍵を掛け、私が服を脱がし、私がベッドに押し倒して、今に至っている。コワレヤスイモノ。私とあなた。そう、つまり。どうしようもなく、本当に仕方がないから、こうなっている。こうなってしまっているんだ。 「甘いね、ひかりちゃん」  噛んで、味わって、けれど噛みちぎりはしないで、歯型を残すだけに留めておく。きずものにはしたいけど、痛みを与えたいわけではない。私じゃ上手く伝えられないかも知れないけど、性を想像させる部位を出来る限り避けたのには特別な理由がある……ようで特筆するような意味はないのかもしれない。どこを欲しがるかなんて個々人の趣味嗜好でしかないし。露崎まひるが欲しいと思った場所が、そこ、であっただけに過ぎないわけだし。

4 22/05/28(土)02:28:41 No.932223817

 なにより。お腹の下でうずく欲望の鳴き声は、ニセモノとは違う。しかも金管で歌うファンファーレや、フィナーレを飾るカーテンコールに良く似ていて、拒みたくなる要素だってひどく少ない。 「かわいい」  本心ってのはこわいものだ。自分がずっと望んでいたものが、性を弾けさせたような感情だったなんて。知る由もなかったし、誰も教えてなんかくれなかった。 「食べちゃうね」  知るべきだったのか、無知で居るべきだったのか。どちらであるべきだったのか、今更正解不正解を探しに行くのもばかばかしいから。このまま流されてしまえばいい。齧りついたんだから、飽きちゃうまでしゃぶりつくせばいい。ほそい、ほそい、ひかりちゃんのからだ。わたしのからだとはにてもにつかない、ほそみのからだを。  指でなぞる、指でひらく、指を挿し込む、左の指先だけであなたを愛す。言葉が必要な時間はとうに過ぎた。いやか、いやじゃないか。本質なんてものは、身体がすべて教えてくれる。調べる必要もない。うそもつけない。このセカンドインプレッションで何もかもを詳らかに出来る。

5 22/05/28(土)02:29:30 No.932224054

 怯えたふり、本当にじょうずだなあ。でも、今のあなたは女優じゃないよ。私の目に見えるのは、私が優しく撫でてあげているのは、かわいいかわいいしょうじょのかお。お生憎様。私にはね、うつくしいものに泥を塗りたくりたくなるような、いじわるさの持ち合わせは無いけれど。 「やっぱり、かわいいね。ひかりちゃん」  でも、やっぱりほしいものはほしい。耳元でことほぐこの五文字に、もっともっとふるえてほしい。この気持ちにうそはつけない。いやらしい響きがゆびさきのあたりに滞留する。粘性のある水音は、私たち特有の変態性だと思う。 「やらしいね」 「だって、まひるが……っ!」  悪い口。口答えするなんて。塞いであげようかと思ったけど、それじゃあ罰にならないからやめた。 「……あっ!」  代わりに耳を噛んであげる。ずぶとめでずぼらなひかりちゃんだけど、舞台以外でのボディタッチにはひどく弱いことを私は知っている。吹き付けた吐息で噛み痕をなぞる。ついでに内股を、つん。くすぐったいのか、身をよじって逃げようとするけど、喘ぎに色がついているから、その気がないのはバレバレだ。 「じゃあ、もっと。いくね……」

6 22/05/28(土)02:31:28 No.932224510

 このままいけなくなるところまで行っちゃおう。そう口にしたあと、何気なく向いた窓の方。どうして向いたのかも分からない窓の方から、まぶしいひかりが差し込んでいて。何故か、本当に何故か息を呑む。光の奥でうつる景色に目が奪われる。 「あれって……」  ああ、不思議だ。ほしのひかりよりも白いひかりに、関係のない過去のイメージが何故だか掘り返される。陽に白く光るカーテンのオレンジが、私と華恋ちゃんの机を焼いている。ひるのたいようはとても幼気で残酷だ。宙より舞い落ちたちりくずたちや、室内に溜まった湿度の高い空気。自分より格の低いちいさなものたちを、摂氏六千の熱い指先でもてあそびながら、ちりちりじりじり刻んでいる。眩しかったあのおひさま、卒業と同時に遠いものになったあの熱。  まひるちゃん。  薄紅色の微笑みが、ことほぐような眼差しが、私の手を引くあの指先が。  かれんちゃん。  すごく、すごく懐かしく思える。まだ数年と経っていないはずなのに。ただまあ、うん。いまはもう届かないものなのは間違いないや。とはいえ、育んできた繋がりが消えたわけではないし、自ら望んで動けばワンチャンスあるかも知れない。

7 22/05/28(土)02:32:56 No.932224861

でも、自分が抱えてるこの想いが、世間一般になんと呼ばれるものなのか、私は、私にはよく分かっていないから。動けない、だからこそ先に動かれて、結果。ピンチかチャンスか分からない、こんな場所に放り込まれている。 「ねえ」  聞いてもいいかな、ねえ。 「どうして」  ひかりちゃん、どうして私なの? 聞きたくても聞くことなんて出来ない最大の疑問。 「私は、何?」  華恋ちゃんは? 私だってあなただって、ほんとうはべつでしょう? 「ひかり」  尖った氷柱みたいに冷たくて危ない声が、彼女の名前を呼び捨てにする。 「見せてよ」  名前なのかな、分からないや。文字を上手く言葉に出来ないだけかも知れない。 「みえないよ」  わずかに震える小指で、ひかりちゃんの涙を掬い取ったとき。私の肩から首元へ、そして顎の先をすべっていく、かすかに冷たいたおやかな指先。 「泣かないで、まひる」

8 <a href="mailto:終わり">22/05/28(土)02:33:41</a> [終わり] No.932225068

 ぽたり、ひかりちゃんのほっぺたに落ちる、私のなにか。 「泣いて……ないよ」 「うそ、泣いてる」  私は何に泣いているんだろう。わからない、わからないよ。  だから、少し。聞いてもいい、かな。  ねえ、ひかりちゃん。  なに、まひる? 「好きって、なにかな」 「想い続けること、かしら」  睫毛の端より滴るしずくが、大地に引かれてはたりと落ちる。肌上に落ちる涙といっしょに、ひかりちゃんの胸元に身体を預ける。少しだけ、上を向く。口元が見える。顔を寄せる。そっと、そっと、目を瞑る。そのまま、息を止めた。 「まひる」  触れる、やわらかさに。触れた、これまでの終わりの始まりに。なら、私の味覚を動員しよう。たぶん、きっと、この手触りは。生きていく上で忘れられないものになるだろうから。たとえこの先に何があろうとも。自分にとっての好きを見つけても。おそらく、ずっと、えいえんに、形を持って残りつづける。ああ、生きてきてはじめての本当のキスの味は。カラメリゼよりは固く、硝子細工よりも繊細な、鋭くも甘い塩と血の味に満ちていて。好きになれるかは、まだ。わかりそうにない。

9 <a href="mailto:s">22/05/28(土)02:35:53</a> [s] No.932225585

溜まった欲望を解放したくて書きました 書きたいところだけ書いたので中間地点が雑ですが満足はできました まひかりはいいね

10 22/05/28(土)02:42:46 No.932227058

スタァライト怪文書だと!? と思って開いてみたら想像以上に文章力が高い…

11 22/05/28(土)02:57:46 No.932229833

深夜に読むにはもったりし過ぎてるから明日の朝読むね…

12 <a href="mailto:s">22/05/28(土)03:05:01</a> [s] No.932230975

自分の性癖スケベの欲望を吐き出したかっただけだから重くてごめんね…の割にシコれなくてこれまたごめんね…読んでくれた方には感謝…寝ます

13 22/05/28(土)03:07:56 No.932231384

まひかり(ひかまひ)…実在していたのか…

14 22/05/28(土)03:10:33 No.932231784

闇のまひかり

15 22/05/28(土)03:11:07 No.932231868

闇のまひる…

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