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22/05/28(土)01:01:29 夏が来... のスレッド詳細

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22/05/28(土)01:01:29 No.932199039

夏が来た。トレセン学園の生徒とトレーナーの殆どが、夏は学園で過ごすことはない。二か月近くも合宿で過ごすのだ。 生徒達が住む寮には雇われた清掃員たちが、定期的に部屋の掃除を行ってくれるから良いものの、トレーナー達はそうは行かないので大変だ。 家具にビニールを被せ、冷蔵庫の中身を空にし、ゴミは全て処分する。どれか怠ると、二か月後部屋は酷い有様になってしまう。 私達のマンションも例外ではなく、住んで数か月なので楽ではあるが前日に大掃除に追われた。 そう、二か月。二か月私たちは同棲を解消して、表面的にはトレーナー同士に戻らなければならない。これに最もダメージを受けたのが、チームキャロッツのトレーナーである。 「おい、大丈夫か? 車酔いか?」 「いえ……大丈夫です……」 「キャロッツのトレーナーさん、元気ありませんね夏バテでしょうか」 「……どうでしょうっぷ」

1 22/05/28(土)01:01:51 No.932199220

合宿へ向かうバスの中、車酔いなどは無縁なのか本を読みながらも後部座席の彼を気にする桐生院トレーナーを横に、夏合宿の計画を頭で思い浮かべながら外の景色をじっと見る。 特にノスタルジックに浸っているわけではない。彼よりも私が車酔いで下手をすれば死にそうなのだ。 しかし、彼が此処まで落ち込むなんて思いもしなかった。それを切り替えが下手だと怒らないのは私も若干同じ感情を持っているからだろう。 夜眠って朝起きれば彼が横にいるという生活が、これから二か月はなくなるのだ。ついでに言えば、夜に作ってくれる彼の絶妙なホットミルクも、ほぐれるマッサージもない。 さらに耳元で愛を囁きながら体を動かす彼を見ることもできず、融けるような感情の迸りもない。別に、それしか頭にない中高生でもないので、十分になくても平気なわけだが。こう、お預けと言われると頭に悶々としたものが浮かび上がってくるのは、私達の相性が良すぎる弊害だろうか。 おかげ様で私も何となくこれから向かう合宿に気合を入れなければいけない所、ブルーな気持ちになってしまっていて、つられて顔面もブルーじみてきている。次のサービスエリアまで持つだろうか。

2 22/05/28(土)01:02:16 No.932199385

そうしていると、ぽこんという音と共にLANEにメッセージが入る。彼からだ。メッセージは単純で。 『耐えられそうにないです』 というものだ。仕方がないので、胃が逆流する危険を冒しながらも返信する。 『今は勤務時間ですよ。集中しなさい』 『合宿所に着くまでは正確には勤務時間外です。二か月間も理子さん成分を補充できないなんて、死ぬかもしれません』 『出会う前は無くても生きてこられたでしょう。未知なる成分に囚われないように』 『それまでの俺は俺じゃありませんでした。眼さえ開いていませんでした』 『人を悟りの道具にしないでください』 『スマホの待ち受け理子さんにしていいですか?』 『ダメです』 「おい、キャロッツのトレーナーが今にも死にそうだぞ!」 後ろからかけられる声に他のトレーナー達がほっとけと声を返す。ある意味可愛がられているのだろうか?

3 22/05/28(土)01:02:46 No.932199562

『二か月ですよ、二か月。どうすればいいんですか、生徒達の眼もあってどうすることもできません!』 『だから先日合宿でも大丈夫なようにと、二か月分先取りしたではありませんか』 『いえ、あれは良くて一週間分ぐらいです』 若者め。と思いながらどこかまぁ確かにそうだったなという考えも頭によぎる。が、どうしようもないので『我慢しなさい』とだけ送ってどんどん強さを増してくる酔いに耐えるようにまた景色を見た。こちらだって我慢をしているのだ。吐き気とかいろいろと。 やがて私が限界を迎える直前でバスはサービスエリアへと到着してくれた。トイレへと直行したあと酔い止めを大量に追加購入して、近くを気分転換に歩いていると自販機のコーナーのベンチに彼を見つける。 「樫本トレーナー、調子はどうですか?」 周りの眼もあるのかすっかり恋人からトレーナーへとなっている彼は、二人でいるときの甘えるような笑顔とは違い、爽やかなはにかみを私に向けた。 「まぁ、なんとか落ち着きました。何か飲みますか?」 「あーでは、カフェラテを……」 二つの紙コップを持って、彼の隣へと座る。

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