虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

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    22/05/27(金)21:32:28 No.932106659

    新月の日、私はいつものように星を見に行く。菊花賞以降もうあの子は見えなくなってしまっているけれど、今はあの子に会うためじゃなくて、好きだから星を見に行っている 外出届けをフジ寮長に出して道具や飲み物、軽くつまめる物としてサンドイッチを用意し、慣れた山道を登って行く

    1 22/05/27(金)21:33:16 No.932107038

    どれほど登っただろうか。ふと、何か話し声のようなものが聞こえてきた。周囲を見晴らしても何も見えない。当然だ、ここは街灯も無い山奥、それも新月で月明かりも無いそくれば、頼れるのは自分の目くらいだ ガサッ しまった、足元の茂みに気付かず踏んでしまったようだ。話し声が止む、何かがこちらに近付いて来る。怖いのに足が動かない、やがて目の前には黒い影と金色に光る2つの目が───────── 「おや、私以外にもここに来る人がいたんですね」

    2 22/05/27(金)21:34:21 No.932107544

    それの声は、聞いた事のあるものだった。声の持ち主の周りがぼうっと仄かに明るくなる 目の前にいたのは、大きな耳と長い尻尾、そして真っ黒な長髪が伸びていて白いアホ毛が生えている、ウチのトレセンでも有名なウマ娘 「...少々驚かしてしまったでしょうか、動けますか?」 マンハッタンカフェだった

    3 22/05/27(金)21:35:15 No.932108000

    「へぇ...ではここには天体観測をするために?」 「そんな大したものじゃないわ。望遠鏡も持ってきてないし、ただ星を眺めているだけ」 「なるほど...」 「そういう貴女は?」 「私は...今日はなんだか騒がしくなるようだったので、そういう場所では面白い話が聞けるんですよ」 「そ、そう....」 学園でも不思議なことで有名な、今私の右隣に座っている彼女だが、確かにこうして話すととても不思議な人だ。しかし、自分もそういったものを信じている身ではあるので特に否定する事も無い

    4 22/05/27(金)21:35:36 No.932108169

    そのまま話すことも無いのでしばらく二人無言で星を眺めていると、ひゅうと風が吹いた。もう初夏になりかけているとはいえ、夜は冷えるものだ。鞄に入れて置いた暖かいお茶を飲もうとすると... 「...あれ?まさか忘れてきた?」 なんて事だ。この寒さの中で暖かい飲み物が無いというのは厳しいし、何より登山したのと先程の出来事もあって喉がとても乾いている。にも関わらず飲み物が無いというのは大変な事態だ

    5 22/05/27(金)21:35:58 No.932108363

    「あの...良かったら飲みますか?」 私が慌てていると、隣にいるマンハッタンカフェがそう言いながらコップを差し出してきた 「これは...」 「コーヒーです。寝る前ですのでそこまで強くなくてミルクや砂糖で甘さを強めにしてます」 「あ、ありがとう...」 そう受け取ってから飲む。魔法瓶で暖かいままのコーヒーは、その甘さと風味でそれまでの疲れや冷えが癒されていくのを感じた 「美味しい...」 「そう言って貰えると...嬉しいです」

    6 22/05/27(金)21:36:52 No.932108802

    「じゃあ私からも」 そう言って鞄からサンドイッチを取り出す 「いいんですか...?」 「別に...コーヒーのお礼よ。貰ってばかりじゃ不公平じゃない」 「....ではありがたく」 すると私の「両脇から」手が伸びてそれぞれ1つずつ取っていった 「............!?」 慌てて左を向くと、マンハッタンカフェとそっくりな、でも流星が入ってるウマ娘がいた 「気にしないでください...「お友達」も食べたかったようなので...」 「お友達」はいたずらっぽく笑うと、そのままサンドイッチを食べ始めた。マンハッタンカフェも一緒に食べ始め、私もそれを見て考えるのをやめてサンドイッチにかぶりついた

    7 22/05/27(金)21:37:24 No.932109088

    食事が終わると再び沈黙が訪れる。「お友達」はその辺を飛び回ったりと自由にしていて最初は目についたが、しばらくすると慣れていった 「ねえ、貴女の「お友達」ってウマ娘....でいいのよね?」 ふと、疑問に思ったことを口にする 「恐らく...そうだと思います」 「そう...」 「「お友達」がはっきり見えるということは...貴女にもそのような存在が?」 「...........ええ」

    8 22/05/27(金)21:37:39 No.932109205

    それから私はあの子の事を話した。一緒に産まれる筈が生きられなかった事、それでもずっと一緒にいた事、走れなかったあの子の為に私が走っていた事、ある時私の運命を連れて消えてしまった事、そして今を精一杯生きたあとあの子に出会って沢山話をするのが夢であること 思えばこの話を誰かと話したのは初めてで、傍から見れば変な話をしていたけれど、彼女はずっと真摯に聞いてくれていた。彼女に対しての距離感が縮まったような気がした。

    9 22/05/27(金)21:38:14 No.932109490

    話し終えてから、ふと純粋な疑問を持つ 「ねえ、私達の魂って死んだらどうなるのかしら?あの子はもう消えてしまって、でもあなたの「お友達」はそのままだし」 「そうですね....「お友達」は特異な例だから参考にならないので外すとして」(ガーン) どこかから何か落ち込んだような気配がしたが気にしないでおく 「基本的にウマ娘の魂はここではない遠くへ行きますね...」 「そうなの...」

    10 22/05/27(金)21:38:36 No.932109673

    そう言うと何となく星空を見上げる。あの夜空に浮かぶ星々、その一つ一つがかつてターフを走り、そして夢を叶え、あるいは敗れていったウマ娘の魂のように見えた 妹もあの中にいるのだろうか、そしていずれは自分もあの中に...。 「そういえば知っていますか?夜空の星の光は、実際はとてつもない遠くから地球に届いていると」 夜空に思いを馳せていると、彼女がそう問いかける。もちろんそんな事は百も承知だ

    11 22/05/27(金)21:39:54 No.932110336

    「ウマ娘の魂も同じようなものという説があるんですよ…向こう側に行った後、長い時を経て再びこの世に戻ってくる。実際に歴史上では同じような見た目、名前のウマ娘がいくつかの時代に存在するという話もあります。それで、もし貴女が向こうに行って妹さんと再会したら...」 「今度は...2人で一緒に走れる...?」 彼女がコクッと頷く 夜空を見上げる。そこに2つ並んで明るく輝く星が、未来の自分たちに見えた

    12 22/05/27(金)21:40:21 No.932110579

    真っ暗な道を2人並んで歩く。あれから色々な事を話し、以前感じていた距離感はすっかり無くなっていた。 「それにしても...」 「何?カフェさん」 「いえ...私は山にはお話をする為に来ていたのですが…星を見るというのも中々良いものですね」 「そう...良ければ今度また一緒に見ない?近々流星群が来るの」 「それは...素晴らしいですね。では今度はコーヒーを多めに用意しておきます」 「なら私もサンドイッチを多めに作っておかないとね」 そう2人で話していると寮に着く。 「じゃあ、また明日」 「ええ、また明日」

    13 22/05/27(金)21:40:39 No.932110728

    拝啓、貴女へ お姉ちゃん今日は新しく友達が出来ました 貴女の事話したらわかってくれて、それからは色んな話をして、今度また会う約束もして、すごく楽しみです もし遠い未来私がそっちに行って、それでまた貴女とウマ娘として生まれ変われるなら 今度は姉妹で一緒に走れるといいなと思います