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    22/05/22(日)18:49:50 No.930318237

    私、ゼンノロブロイのトレーナーさんは変わったお方です。 その指導は的確で効果的、地味で目立たない私に安定した戦績をもたらし、果ては栄誉ある秋シニア三冠、そして有馬レコードという快挙へと私を導いてくれました。 そんな翌年のファン感謝祭の日。突然トレーナーさんからLANEのメッセージが。 「風邪をひいてしまった。今日は休むから自由に過ごしてくれ」

    1 22/05/22(日)18:50:07 No.930318328

    私は感謝祭の後にお見舞いに行くことを提案したのですが、トレーナーさんは「うつしたら悪いから来なくていい」と断られてしまいました。 ただ私はどうしてもトレーナーさんのことが心配になって、勝手にお部屋を訪ねることに。 その日のトレーナーさんとの間にあったことは、今でも鮮明に思い出せます。 インターホンを鳴らすも返事は無く、電話を掛けても応答無し。 何か異常があったのかもしれない。慌てた私は玄関を叩き、トレーナーさんの名前を呼び続けました。 ――しばらくすると、LANEにメッセージが一言。 「でられない」 やっぱり中にいるんだと思い、私はもう一度声を掛けましたが、それでも返事をしてくれませんでした。 「大丈夫だから心配しないで」 ただただ無機質なメッセージだけが返ってくる状況に、私は不安になって泣きそうになってしまいました。 ――それでトレーナーさんも観念したのでしょうか。 玄関の鍵が、躊躇いがちに開く音。 そして扉がゆっくり開かれると、目を伏せた成人のウマ娘がおずおずと顔を出しました。

    2 22/05/22(日)18:50:22 No.930318427

    「……ロブロイ……?」 「だ、大丈夫ですかっ? 私、心配してっ」 「済まない……俺、こんなになって……」 「え? こんな、って……?」 「この姿だよ。今日起きて、鏡を見たらもうこんな姿で……」 「…………?」 何を言っているのか、よくわかりませんでした。 呆気に取られる私を見て、トレーナーさんは慌て始めました。

    3 22/05/22(日)18:50:37 No.930318498

    「し、信じてくれ! 俺は間違いなくロブロイのトレーナーだ!」 「はい」 「ただ、俺にもよくわからないんだ……気付いたら、こんな……女になってて。耳や尻尾も」 「はあ」 「見てくれ、トレーナーバッジもちゃんとある! それに身分証――は、変わってるけど、この三年間のことだってちゃんと覚えて」 「身分証、変わったんですか?」 「あ、ああ。ほら、これだ。おかしいだろう? 名前も写真も変わってて」 「変わってないですよ?」 「……は?」 そこでようやくトレーナーさんの言葉が一旦止まりました。

    4 22/05/22(日)18:50:49 No.930318563

    身分証を二度見して、トレーナーさんは恐る恐る口を開きました。 「い、や、だって。俺は男で……ウマ娘じゃなかっただろ?」 私もようやくトレーナーさんが何を言いたいのかわかり、大いに首をひねることに。 何を言っているんだろう? そう思いながら私は、至って普通の言葉を返しました。 「トレーナーさんは元々、ウマ娘さんですよ?」 それからというもの、トレーナーさんの様子は変わったままでした。 事あるごとに自分は男だったと主張し、これまでの三年間をよく振り返ってみてほしいと言い続けていました。 それは私に対してだけでなく、他の生徒や先生、同僚の方々にも。当然皆さんの反応は同じ。 「あなたは最初からウマ娘だった」 その言葉を聞く度、トレーナーさんは心底困ったような顔をするので、私もどうしたものか悩みは尽きません。

    5 22/05/22(日)18:51:06 No.930318668

    影響は日常生活にも現れました。 トレーニング終わりの私の着替えに出くわしたとき、トレーナーさんはまるで異性の着替えを覗いてしまったかのように過剰に驚くようになりました。 今までは私の方が恥ずかしがっていたのに、なんだか変な感じです。 他にも、トレーナーさんと一緒に食事を楽しむ機会では、たまにデザートをシェアしあっていたのに、トレーナーさんが恥ずかしがって応じてくれなくなってしまいました。 乙女のように恥ずかしがるトレーナーさんは可愛らしいなと思いつつも、なんだかっ距離を感じてしまって寂しいです。 やがてトレーナーさんの様子がようやく落ち着きを見せ始めたある日のこと。私は今まで躊躇っていた話題を切り出してみました。 「あのぉ……トレーナーさん。これ、なんですけど」 私が恐る恐る取り出したものを見ると、トレーナーさんはみるみる気まずそうになっていきました。 「あぁ……ずっと前に当てた福引の」 「はい。温泉旅行券です……ペアの」 何が言いたいかはすぐに伝わってくれました。

    6 22/05/22(日)18:51:23 No.930318759

    「そうだな……やっぱり、ロブロイが友達と一緒に使えばいいんじゃないかな」 「でもこれを当てたとき、二人で一緒に行こうって……」 「え、そんな約束したっけ……?」 「しましたよ! ……忘れちゃったんですか?」 「う、や、その……ご、めん」 謝られてしまったことが、かえってショックでした。 トレーナーさんの酷い思い込みが、大事な約束を忘れさせてしまったのかと思って……つい、意地悪な言葉が漏れ出してしまう。 「ドン・キホーテみたいですね」

    7 22/05/22(日)18:51:38 No.930318839

    「ドン・キホーテみたいですね」 「ドンキ……って、どこの英雄だっけ。聞き馴染みだけあるけど」 「英雄、とは違いますね。本名はアロンソ・キハーノ。スペインの郷士です」 「郷士……下級貴族、みたいな認識だっけ」 「はい。彼は騎士道物語の読み過ぎて、自分を騎士と勘違いしてしまった男なんです」 「え、元々騎士とか英雄じゃなかったの?」 「そうです。自分のことをドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャと名乗り、農夫のサンチョ・パンサを従者扱いしたり、アルドンサ・ロレンソという百姓娘を元にドゥルシネーア・デル・トボーソという空想の貴婦人を作り出したり……」 「……俺のことも、そのドン・キホーテと一緒だと?」 私は敢えて何も言いませんでした。 「えっと……そのドン・キホーテは、最終的にどうなったんだ?」 「銀月の騎士を名乗る同郷の友人に“負けたら故郷でおとなしくしてもらう”という条件の元、決闘を行いました」 「それで?」 「勝負は銀月の騎士の勝利。約束通り故郷に帰った後、ドン・キホーテは病に倒れ、ついに正気に戻りました。彼は自分の今までの行いを反省しつつ、静かに息を……」

    8 22/05/22(日)18:52:01 No.930318979

    「それだ!」 トレーナーさんは急に立ち上がり、声を張り上げました。 「俺もロブロイと決闘すれば、きっと元に戻るかもしれない!」 「元に……って?」 「男にだよ! ロブロイ、決闘は何をすればいい?」 「え、でも……この場合、トレーナーさんは負けなくちゃいけなくなるし」 「剣で戦えばいいのか? レースでも大丈夫かな?」 聞く耳は持ってくれませんでした。 ……話の流れからして、トレーナーさんは正気に戻って「自分は元からウマ娘だった」と気付くことになるけど、大丈夫なんでしょうか。 右回り・芝・2500メートル。いつか私が中山でレコードを叩き出した距離。トレーナーさんは私との決闘に、この距離を選びました。 「本当にいいんですか?」私は再三尋ねたけれど、トレーナーさんは思い詰めたような顔で「きっとこの距離じゃないと意味がない!」と言い張り続け、今日を迎えました。

    9 22/05/22(日)18:52:17 No.930319065

    今日までにトレーナーさんは、自分に対して本気のトレーニングを積み続けていました。 その姿を見る度、私の心にも複雑な気持ちが積み重なっていくのがわかりました。 まるで私との思い出をすべて偽物だと、心の底から信じているようで。 私は、どんな気持ちで決闘に臨めばいいのだろう。 トレーナーさんは、どんな気持ちで決闘に臨むのだろう。 ――銀月の騎士は、どんな気持ちで決闘に臨んだのだろう。 「準備はいいか?」 「はい」 放課後の夕焼けの下。誰もいないグラウンドの中。私の譲った内枠で、トレーナーさんはコインを構えました。 彼女にとって勝ち目のない勝負。なのにその表情は真剣そのもので、負けを恐れているようには見えません。 有り余る蛮勇を前に、私との間に横たわる温度差が、決定的に目に見えるような気がしました。 ――私の中の迷いも、この温度差に溶かされていったような気がします。 私は今日、自分を栄光に導いてくれたこの人を、完膚なきまでに叩きのめしてもいい。 コイントス。風を切って回るコインの音。やがて、ターフの下の土を叩くコインの音がして、私達は弾かれたように飛び出しました。

    10 22/05/22(日)18:52:35 No.930319162

    勝負はこれ以上ないほど明白でした。 トレーナーさんの後ろにつき、冷静にペースを保つ私。トレーナーさんは流石というか、終盤までベストな区間タイムを維持したまま走り続けました。 ただ、絶望的なまでにトップスピードが足りない。 ラストスパート、私はトレーナーさんの戦う姿を見たくて、つい脚を緩めてしまいました。 でも、全く離されない。 もしかしたら、油断した私の目を覚ますような、驚くような末脚が眠っているのかと。期待するような気持ちがどこかにあったけど。 そんなおとぎ話はありませんでした。 必死に、懸命に、もがくように駆けるトレーナーさんの後ろ姿を見届けた私は、いつもより重い足に鞭を打って、いよいよスパートをかけました。 それはまるで盟友に介錯をするような、残酷なトドメのようでした。 ――ゴールを駆け抜け、振り返って見たトレーナーさんの姿は、膝に手をついて息を繰り返していて。 何かが、抜け落ちたようでした。 次の日。トレーナーさんからメッセージが届きました。 「風邪をひいた」

    11 22/05/22(日)18:52:51 No.930319239

    昨日のレースで無理が祟ったのか、それとも精神的な理由なのか。 少しだけ考え込んだ後、私は淀みなく返信文を打ち込みました。 「お見舞いに行ってもいいですか」 トレーナーさんからの返事は、およそ2分後。 「いいよ」 トレーナーさんの部屋は、前もって鍵が開けられていました。 中に入ると、ベッドの中で寝息をたてるトレーナーさんの姿が。 それを見たとき、今までずっと緩く張り詰めていた何かが、小さな溜め息と共に綻んだ気がしました。 トレーナーさんの寝顔が見えるすぐ横に膝をついて座り、その姿を眺めました。 ずっとずっと、眺めていました。 次に目を覚ました時、この人はまだドン・キホーテなのでしょうか。それともアロンソ・キハーノなのでしょうか。 そう遠くない目覚めの時に一抹の不安と僅か期待を抱え、私は微かな笑みを漏らしました。 「トレーナーさん。元気になったら、必ず温泉にいきましょうね。……約束ですよ」 ベッドに腕枕を横たえて、私は昼下がりの微睡みに沈んでいきました。

    12 22/05/22(日)18:53:58 [s] No.930319614

    えっちなの書きたかったのになぜか書けなかったんですけど! ボリクリも来たし秋も近いしロブロイ実装も近いですね!

    13 22/05/22(日)18:55:27 No.930320097

    ロブロイ来たら本気出す 私の好きな言葉です

    14 22/05/22(日)18:57:30 No.930320819

    走れウマ娘

    15 22/05/22(日)18:58:50 No.930321286

    これで今度はロブロイがTSしちゃったりしたら笑う

    16 22/05/22(日)18:59:00 No.930321346

    これトレーナーとロブロイ達のどっちの記憶が過去に本当にあった事なのか どっちの方向で書いても面白くなりそうだな…

    17 22/05/22(日)18:59:21 No.930321473

    ウマ娘化いいよね もっと流行れ

    18 22/05/22(日)18:59:30 No.930321521

    トレーナーTS化を元からそうだった認識側の視点いいですね…

    19 22/05/22(日)19:00:52 No.930322001

    とても面白かった…

    20 22/05/22(日)19:01:26 No.930322203

    >これで今度はロブロイがTSしちゃったりしたら笑う 謎の4足歩行生物に…

    21 22/05/22(日)19:02:18 No.930322545

    楽しかった ありがとう

    22 22/05/22(日)19:03:48 No.930323046

    えっちなロブロイは実装されたらいっぱい増えるはず

    23 22/05/22(日)19:06:22 No.930323972

    たじたじになりながら温泉に浸かるのかウマ娘同士で仲良く浸かるのか… どちらにしてもロブロイっぱいを見て複雑な感情を抱いて欲しい

    24 22/05/22(日)19:09:32 No.930325205

    単純にTSモノとしてとても良かった…蛇足になるかもしれないけど後日談も見たい

    25 22/05/22(日)19:12:06 [s] No.930326158

    >単純にTSモノとしてとても良かった…蛇足になるかもしれないけど後日談も見たい ロブロイが「目覚めたらドンキかアロンソどっちになるんだろう」とか言い出すせいで書けなくなった ロブロイ級の爆乳トレーナーが温泉で詰め寄られるえっちなものを書きたかったのになんてことをしてくれるんだ

    26 22/05/22(日)19:17:27 No.930328236

    これはロブトレの記憶以外か書き換えられてるという認識でいいの?

    27 22/05/22(日)19:19:20 No.930328997

    開くまで思ってたやつと違ったけど別の方向で面白かった 文学に準えてるのがとても良い…

    28 22/05/22(日)19:22:41 No.930330388

    >ロブロイ級の爆乳トレーナーが温泉で詰め寄られるえっちなものを書きたかったのになんてことをしてくれるんだ つまり今からドンキホーテの話しないで温泉行っちゃったルートを書いてしまえばいい…ってコト!?

    29 22/05/22(日)19:22:45 No.930330410

    >これはロブトレの記憶以外か書き換えられてるという認識でいいの? 書き換えられてるというよりもしもボックスみたいにロブトレの心以外全てが「元からそう(ウマ娘)だった」って世界ごと改変されちゃったんじゃないかな 書き換えられただけなら身分証とかが男のままのはず

    30 22/05/22(日)19:23:40 No.930330813

    綺麗にまとまってるからここからえっちにしてもね… だが走りで負けた事でウマ娘の本能的になんか逆らえなくなってそのままずるずると牝堕ちしてもらう

    31 22/05/22(日)19:24:35 No.930331220

    >これはロブトレの記憶以外か書き換えられてるという認識でいいの? 元からウマ娘だったのにロブトレが何かによって記憶を改ざんされてこんな事言うようになった可能性もある

    32 22/05/22(日)19:29:36 No.930333170

    本人だけが変わったことを認識してるのが良いよね…

    33 22/05/22(日)19:32:11 No.930334139

    蛇足と言われるかもしれないが俺は続きが見たい

    34 22/05/22(日)19:32:14 No.930334165

    別世界のロブトレと入れ替わったとかなら双方切ない

    35 22/05/22(日)19:34:58 No.930335223

    関係ないのにラ・マンチャで笑っちゃった

    36 22/05/22(日)19:36:15 No.930335738

    >>これはロブトレの記憶以外か書き換えられてるという認識でいいの? >書き換えられてるというよりもしもボックスみたいにロブトレの心以外全てが「元からそう(ウマ娘)だった」って世界ごと改変されちゃったんじゃないかな >書き換えられただけなら身分証とかが男のままのはず 今更ながらもしもボックスって相当物騒だな…

    37 22/05/22(日)19:44:10 No.930338988

    >今更ながらもしもボックスって相当物騒だな… 世界ごと改変するというとヤバすぎるよなぁ…