22/05/22(日)00:52:07 注意 5... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1653148327959.png 22/05/22(日)00:52:07 No.930065480
注意 5/20に投稿された怪文書の設定を引き継いでいます
1 22/05/22(日)00:52:28 No.930065644
分からない彼が、本当に分からなくなったあの夜。自分が何も分かろうとしなかった、彼の事を何も知ろうとしなかった事を理解してしまったあの夜の後。 結論から言うと何も変わらなかった。あの日、私の事を昏い海のような眼で見た彼は。私に何も聞かず、私に何も言わず。今まで通りに、私のそばで。私を支えた。 今までなら、安らぎすら覚えていたその関係も。彼からの『拒絶』に思えるようになってしまった。変わらないが故の『聞かないでくれ』『踏み込んでこないでくれ』と言う拒絶。 その境界線に立ちすくむ事しか私には出来なかった。怖かった。彼から離れる事も。彼から拒絶される事も。だから今まで通りに振る舞う事しか出来なかった。 彼の心に巣食う暗闇を知ってしまっていたとしても。彼を独りにするしか出来なかった。
2 22/05/22(日)00:53:07 No.930065901
夜の学園。とうに就寝時間が過ぎ誰もいない時間帯。アドマイヤベガは三女神の像の前にいた。どうすれば良いのかわからない。助けを乞う事も出来ない。そんな彼女が悩んだ末に足を運んだのがこの場所である。 自分を支えてくれるトレーナーの為に何もできず、あまつさえ神頼みとは、と忸怩たる思いが沸く。それでも、アドマイヤベガは三女神の像の前で手を組み目を閉じた。幾度となく不思議な体験をしたこの像に。 『おねがいします』 『どうか、あの人を……』 『大切な人をもう、失わない様に。大切なあの人を助けてください』 時を忘れて、一心に祈るアドマイヤベガ。深夜を過ぎた9月の夜空。こと座の一等星がひときわ輝いていた。
3 22/05/22(日)00:53:33 No.930066049
水面に叩きつけられる感覚。驚愕で目を見開く。厚い雲に覆われているのか何処までも昏い空。そして何もかもを飲み込むかの様な黒い海。 自分に起きた状況を理解できず、アドマイヤベガのトレーナーはもがいていた。 「ぷはっ……!?」 一瞬でも力を緩めると引きずり込まれるような感覚。必死にもがく。そうして気づく。ああ、これは夢だ、と。それも何度も何度も繰り返し見てきたあの夢だと。 昏い海に放り出され、独りで必死に足掻く。浮かぶことも沈む事もなく。中途半端な世界でもがき続ける。ただそれを繰り返していつの間にか目が覚める。 『忘れるな』『目を背けるな』『お前は許されない』 そう自分に突き付ける夢。しかし今日はその内容が少し違った。いつもより、沈みそうになる。まるで『何か』が引きずり込もうとしているかのようだ。 必死に目を凝らす。黒い水だけしか見えない。目が慣れたのか、その中にひと際黒い何かがあり、自分の足に絡みついている様だ。
4 22/05/22(日)00:53:47 No.930066146
「なん、…………え?」 それは髪の毛だった。深い底から伸びる髪が藻の様に足に絡みつき、自分を引っ張っている。驚きで動きが止まる。それに伴いトレーナーが水面から姿を消した。 ゴポゴポと泡をたてつつ沈んでいく。光の届く事の無い世界で視覚はその役割を放棄し、聴覚もそれに続く。 『ああ、ついに終われるのか……』 自分が失われていく感覚。しかし怖くなかった。妹が迎えに来たんだ、と分かった。何もない。後悔も、苦しみも。何も存在しない真っ黒な世界。それが温もりの様に思えた。 ――――にもかかわらず、閉じた瞼ごしに光を感じた。
5 22/05/22(日)00:54:06 No.930066247
『ここはどこ……?』 アドマイヤベガは見た事の無い場所にいた。床も天井もない真っ白な世界。自分が立っているのか浮かんでいるのかもわからない。全てが白で構成された世界。 例外なのは目の前に存在する大きな黒い板。ふちや装飾など何もないが、なんだか映画のスクリーンの様だと思った 『……!?』 その板に映し出された光景に言葉を失う。海面に叩きつけられた自身のトレーナーの姿。必死にもがいているが急に抵抗をやめ水底へと沈んでいく。 『だめっ!』 迷う間もなく、アドマイヤベガはその黒い世界に飛び込んだ。
6 22/05/22(日)00:54:28 No.930066352
ばしゃりっ。 水面に叩きつけられる感覚。そこは空も海も黒い、何処までも昏い世界だった。 あの日の彼の眼と同じ。深い深い海のような星の無い空のような眼。ここは彼の心の世界なのだとアドマイヤベガは理解した。 息を止め、水中に潜る。自分もまた塗りつぶされていく様な恐怖に襲われるが、それでもなお、より深みを目指した。 (いたっ……!) 彼は漆黒の中で穏やかな表情を浮かべ、たゆたっていた。 闇の中で独りぼっちだった彼に気づけなかった自分。今行おうとしている事は、身勝手な自己満足なのかもしれない。それでも、こんな自分のそばに一緒にいてくれた彼を独りにしたくなかった。 アドマイヤベガは唇を合わせ、自身の肺にわずかに残った息を送り出す。無音の世界にコポリと小さな音が響いた。
7 22/05/22(日)00:54:49 No.930066442
まぶしさを覚え目を開く。唇を合わせた愛バの姿があった。 (アヤベっ!?) 『……』 息を吐き切り、優しい笑みでこちらを見つめるアドマイヤベガ。 『貴方が、自分を許せたとしても、許せなかったとしても』 『貴方を独りにしない』 『貴方がどんな選択をしたとしても独りになんてさせない』 言葉にしていないのに彼女の瞳から、彼女の想いが伝わってくる。 (……!? アヤベ、アヤベっ!!) その瞳が閉じられ、力が抜けていく。アドマイヤベガを抱きかかえ水面を目指そうとするが、足に絡む髪にそれは叶わない。 『……………………ごめん』 唇から血がにじむ程噛みしめた後、その髪を引っ張った。たやすくちぎれ、自由になる。空気を求め、浮上していく。
8 22/05/22(日)00:55:08 No.930066532
海面に顔を出す。肺が灼ける様に痛い。 「ごほっ、ごっ、あ、アヤベ!おい……!!」 呼びかけるが返事は無い。 「くそっ!!」 アドマイヤベガを抱えながら岸を目指す。 「頼む、死なないでくれ……っ!」 彼女のトレーナーになったあの日からの出来事が脳裏によぎる。二人で歩んだ日々。許されたいといった打算、勝手なシンパシーから始まった歪な関係だったとしても。 二人で歩んだ時間は決して否定できない。それに目を背けていた事に涙がこぼれる。俺は今まで何を見てきた。彼女の輝きを間近で見てきたはずなのに。 「たのむっ、おねがいだっ……」 漸く、岸にたどり着く。
9 22/05/22(日)00:55:33 No.930066669
心臓が破裂しそうな程に激しく脈打つ。それでも。今なお意識を取り戻さない彼女に、今度は俺が息を吹き込み心肺蘇生を行う。失いたくない。もう、大事な人を失いたくない。 「もどって、こい……!もどって、きてくれ……!!」 何度も何度も繰り返す。何度も何度も。何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。 「げほっ、ごほっ……!はー……はー……」 アドマイヤベガは水を吐き出した。呼吸の再開に伴い胸が上下し始める。 「アヤベ、アヤベっ……!!」 安堵から力が抜け、限界を迎えた身体から意識が遠のいていく。 (ああ……きれいだ……) 倒れて見上げた空には星が満ちていた。
10 22/05/22(日)00:55:54 No.930066789
「それじゃあお線香点けるわね」 「ああ、ありがとう」 妹さんが眠るお墓に花を供えた私たちは手を合わせた。 ―――あの不思議な夢を見た翌朝。なぜか私はトレーナーの部屋で目を覚ました。そして私と同時に目が覚めたトレーナーは私を抱きしめて泣き始めた。 ひとしきり泣いた後、ポツリポツリと過去の事を語った。妹がおり仲のいい兄妹だった事。小さいころ二人で水難事故に遭遇し死に物狂いで生き延びようとした結果、自分だけが助かった事。 ……そんな自分を憎み続けてきた事。
11 22/05/22(日)00:56:25 No.930066945
その数か月後、私達はお墓参りをする事になった。 「長い間、これなくてごめんな……情けない兄ちゃんでごめんな」 「こんな情けない兄ちゃんなんだけどさ、大事な人が出来たんだ」 「こんにちは……」 「正直、まだ俺は俺の事を許せない」 「でも、そんな俺が心から大事だって言えて、生きてほしいと心から願う人なんだ」 「だから、二人でもう少し頑張ってみる……いつかそっちに行った時には、俺のことがっつり叱ってくれ」 「それじゃあ、また来るから……行こうか」 「うん……」 お辞儀をしてお墓に背を向ける。
12 22/05/22(日)00:56:50 No.930067068
『お兄ちゃんをよろしくね♪』 空耳だろうか。小さな女の子の声が聞こえた気がする。 「……アヤベー?」 足を止め、お墓を眺めている私をトレーナーが呼ぶ。 「ごめんなさい、今行く」 トレーナーの元へ向かう。秋から冬に移りつつある夕暮れの空。こと座の一等星が西の空で優しく輝いていた。
13 22/05/22(日)00:57:57 No.930067426
綺麗だけど救いの無い怪文書を目にして書かれた方が 『すいません出来心です許してください誰か続きをお願いします』 って書いてたので書きました
14 22/05/22(日)01:03:40 No.930069059
救いが来てくれて助かる…
15 22/05/22(日)01:04:32 No.930069312
蟲師の『雪の下』からがっつり影響受けてます
16 22/05/22(日)01:11:30 No.930071375
救いの光助かる…
17 22/05/22(日)01:16:19 No.930072769
1本の話が枝分かれした瞬間久々に見た…
18 22/05/22(日)01:16:53 No.930072944
蟲師いいよね…
19 22/05/22(日)01:17:37 No.930073147
>1本の話が枝分かれした瞬間久々に見た… 投稿した後本家様の投稿に気づいてやっべってなった
20 22/05/22(日)01:21:03 No.930074131
>>1本の話が枝分かれした瞬間久々に見た… >投稿した後本家様の投稿に気づいてやっべってなった いいんだ…
21 22/05/22(日)01:22:18 No.930074465
この結末があるから本家がどんな終わりになっても支えになるからいいんだ 俺は好きだよ
22 22/05/22(日)01:24:44 No.930075174
>いいんだ… >この結末があるから本家がどんな終わりになっても支えになるからいいんだ >俺は好きだよ ありがとう……!!
23 22/05/22(日)01:31:47 No.930077227
>>1本の話が枝分かれした瞬間久々に見た… >投稿した後本家様の投稿に気づいてやっべってなった お前はそれでいい
24 22/05/22(日)01:34:31 No.930077966
偶然ってマジで怖いね…
25 22/05/22(日)01:46:40 ID:hnuxYhEQ hnuxYhEQ No.930081128
スレッドを立てた人によって削除されました 気持ち悪いスレだな
26 22/05/22(日)01:52:17 ID:hnuxYhEQ hnuxYhEQ No.930082581
https://img.2chan.net/b/res/930068268.htm
27 22/05/22(日)01:53:40 No.930082938
シンクロニシティ過ぎる… ひとまず俺の心は救われた