ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
22/05/15(日)02:29:02 No.927668478
7月1日。夏合宿が始まり、チーム『スピカ』のトレーナーの指導には熱が入っていた。 奇跡の復活を遂げたトウカイテイオー、そして屈腱炎を克服したメジロマックイーンは、再戦を秋のG1レースと定め練習に励んでいる。 アメリカから帰ってきたサイレンススズカと、スペシャルウィークも、天皇賞かジャパンカップの何れかを一緒に走るという約束をし、トレーニングに励んでいる。 そしてダイワスカーレットとウオッカも、秋華賞を目指して熱い火花を散らしていた。 マイペースに練習に励むのはゴールドシップのみ。 7人それぞれの想いを一身に背負い『どういう結果になったとしても、その先を見届ける』ことを胸に秘め、トレーナーは声を張り、記録を取り、時には彼女たちを休ませる。 そうしているうちに夏は終わる。熱狂と興奮の時間は一瞬にて過ぎ去り、祭り囃子の音が遠く消えゆくように。 そして8月31日。ワンボックスカーに揺られて眠る彼女たちの顔をフロントミラーで見ながらも、トレセン学園への帰路に彼は着いていた。 そして7月1日。夏合宿が始まったのである。
1 22/05/15(日)02:29:22 No.927668518
ある時、トレーナーは違和感に気づく。 夏合宿が何度も繰り返されているような感覚を覚えたのだ。 最初は自分がおかしいと思った彼だが、8月31日の夜になると再び7月1日の夏合宿開始日に戻ったことに気づいてしまった。 そこからは、夏合宿に向かわないように、わざと道を間違えたり、当日になり夏合宿中止を告げたりし、未来を変えようとする彼。しかし、彼の努力も空しく、どう足掻いても夏合宿になってしまう。 絶望する彼に 「お前、ようやく気づいたのか」 と一人話しかけたウマ娘がいた。ゴールドシップである。彼女もこの『終わらない夏合宿』に囚われていると自覚しているウマ娘であり、それに気づいている唯一のウマ娘であった。
2 22/05/15(日)02:29:42 No.927668575
二人は終わらない夏合宿の原因を解明するために動き始める。 その最中、トレーナーはゴールドシップに違和感を覚える。彼が知る彼女より、つかみ所が更に無くおちゃらけすぎている。 「お前、誰だ?」 と問いかけるトレーナーに 「お前こそ誰なんだよ」 とゴールドシップは鼻で笑い彼に返した。 ここで彼は気づいた。目の前にいるゴールドシップは、彼の知らない場所からきたゴールドシップなのだと。 若しくは、自分が別の場所から来てしまったのかも知れないと。
3 22/05/15(日)02:30:02 No.927668631
そして情報を整理し、精査した結果、二人は一人のウマ娘を呼び出すことにした。 「何だよ、トレーナー。俺に用って」 それは黒鹿毛の単髪のウマ娘、ウオッカである。しかしその最中 「すまねぇ!トレーナー!遅刻しちまった!貰ったバイク雑誌がすっごく面白くて!」 もう一人のウオッカが姿を現す。 向かい合う二人のウオッカ。しかし、ゴールドシップが張り巡らさせた謎の結界に片方のウオッカが閉じ込められる。 そして囚われたウオッカの姿をした何かは形を変え、小男に姿を変えた。 「なんやぁ、バレてもうたんかぁ」 そういたずらっぽく笑うと、彼は二人に告げたのだ。 「ワイか。『目覚まし時計』の精や」 と。
4 22/05/15(日)02:30:17 No.927668680
トレーナーとゴールドシップが精査した結論はこうである。 トウカイテイオーとメジロマックイーンはそれぞれの怪我を乗り越えて、先に待つレースに胸を煌めかせている。 そしてこれはサイレンススズカとスペシャルウィークも同様。 つまり彼女たちには希望に満ちたレースがあり、時間を戻す道理は薄い。 捜査に協力しているゴールドシップも信用するとすると、この世界を作った原因となるのはダイワスカーレットとウオッカ、どちらかだけ。 かなり危うい推論で、あとはウオッカとダイワスカーレット、それぞれを呼び出し確かめるつもりだったが、一発目に仕掛けたウオッカであっさりと彼は姿を現したのである。 そんな推論を口にしたトレーナー、そしてゴールドシップ、唖然とするウオッカに 「何も分かっとらへんな、お前ら」 と、目覚まし時計の精はせせら笑った。 続けて彼は語り出したのだ。 「そこの嬢ちゃんと、もう一人の赤い嬢ちゃんが、これからどうなるか」 と。
5 22/05/15(日)02:30:33 No.927668730
目覚まし時計の精は語った。 秋華賞の後、ダイワスカーレットはエリザベス女王杯に向かい、そしてウオッカは有マ記念に向かう。 そしてダイワスカーレットはエリザベス女王杯で優勝するものの、ウオッカは有マ記念で大敗。しかし、自分自身のレースとは何か、模索するウオッカの姿を見て、ダイワスカーレットは思ったらしい。 「アタシは・・・どこに進みたいんだろ」 と。 『一番になる』。これが彼女の口癖。それに見合った努力を彼女はし、成果を出してきた。しかし、ウオッカが自分とは違った道を、自分の意思を持ち選んでいくその姿を目にして、自分がどうしたいのか分からなくなってしまったと。弱々しい、年相応の彼女の心が揺れていた瞬間を、彼は見たのだと。 そんな彼女の姿を見て、偶々『形』を得ていた、目覚まし時計の精は彼女に近づいた。
6 22/05/15(日)02:31:05 No.927668811
「これ以上なく、美しいものを見た気分やったわ」 そう彼は語る。 「ライバルの姿を見て途惑い迷う青い果実が。ただ純真に未来に思い悩むその姿が」 そしてため息をつき 「今までワシが相手にしてきた連中とは大違いや。やれ因子がどうの、やれ能力がどうの・・・。もうワシは疲れた」 その言葉の意味に途惑う三人を余所に 「だからこの嬢ちゃんの夢を叶えることにしたんや!」 彼は目を輝かせる。 ダイワスカーレットの願い。それは、二人が別れる前となる、秋華賞前の夏合宿を永遠に繰り返すことだった。
7 22/05/15(日)02:31:21 No.927668848
こうして全てを白状した目覚まし時計の精だが、ウオッカを誘惑し、彼女を取り込むことに成功する。 時が戻せる。それはウオッカにとっても魅力的なものだったのだから。 彼が時を戻したのは、4月の桜花賞。ダイワスカーレットに負けたこのレース、ここで彼女は見事に優勝してみせる。 そして日本ダービーへ向かい、これまた優勝。次は秋華賞だと、変則三冠を手にすると、歓声包まれた5月の府中で高らかに宣言した。 大舞台で栄光と栄誉を一身に受ける最中、ウオッカはある一つの違和感を覚えた。 そしてそれはトレセン学園に戻ると、更に強くなる。 ふと彼女は目覚まし時計の精に尋ねた。 「なぁ、どうしてスカーレットが居ないんだ?」 と。
8 22/05/15(日)02:31:36 No.927668890
それに不思議そうな顔をして目覚まし時計の精は言った。 「お前さん、何言うとんねん。スカーレットの嬢ちゃんがおらんくてもええやん。望み通りクラシック二冠を取れたんやろ?」 その言葉にウオッカは激高し 「バカ!!!スカーレットがいなけりゃ意味ねーんだよ、こんなの!!!」 と目覚まし時計の精の首を掴んで揺らす。 「はぁ!?お前、何やそれ!?」 「スカーレットがいるからオレは走れてきたんだよ!あんなレースが出来たし、アイツとは違う道を選ぶのにも躊躇わなかった!スカーレットを出せ!!!今すぐにスカーレットを出すんだよ!!!」 そう押し問答をする二人だが、依然として話は平行線。 そして 「こんな栄光ならオレはいらない!!!スカーレットがいないクラシックなんてオレには必要ないんだ!!!スカーレットと・・・スカーレットと走りたいんだよ!!!」 その言葉が世界に満ちた瞬間だった。 空が割れ、地面が崩れる。 世界が崩壊し、落ちていくウオッカ。深い深い闇の底。そこにいたのはダイワスカーレットだった。
9 22/05/15(日)02:31:51 No.927668935
「ウオッカ・・・あんたなんで・・・」 寝ぼけ眼でそう答えるダイワスカーレット。それに 「お前いつまで寝てるんだよ、スカーレット」 と声をかけ、彼女の両手を握るウオッカ。 「起きようぜ、そろそろ朝だ」 その声に 「分かってるわよ・・・」 とダイワスカーレットはあくびをし、どこか眠たげな目で微笑んで見せた。 「おはよう、スカーレット」 「うん、おはよう、ウオッカ」 そう二人が声を交わした瞬間、世界は光に満ちた。
10 22/05/15(日)02:32:07 No.927668985
そして10月下旬。 「アタシが一番になるんだから!」 「オレがお前に負けるはずないだろ!?」 京都レース場、第11レース、秋華賞。 大歓声を受けて、ダイワスカーレットとウオッカはターフの上に現れ、歓声を一身に浴びていた。 「二人とも頑張れよ!!!」 トレーナーが二人に観客席から声を掛け、他のスピカのメンバーも思い思いに声を出す。 そんな会場の片隅で 「なんや、もう付き合ってられへんわ」 と一人の小男が不満そうに呟いた。 彼の目の前に映るのは二人のウマ娘。ダイワスカーレットとウオッカである。 ダイワスカーレットは彼女が会ったときよりもどこか吹っ切れた顔をしており、ウオッカは彼の首を絞めたときのように精悍で。 もうあの夏合宿のことを覚えている者は誰一人居ない。トレーナーも、ゴールドシップも、誰もかもが忘れてしまった。 しかし、目覚まし時計の精は思うのだ。もうここに自分のつきいる隙があるウマ娘は誰一人いないと。
11 22/05/15(日)02:32:21 No.927669017
「バカな奴らばっかやなぁ・・・ウマ娘って奴らも」 そう彼は言い、会場を後にしようとしたその瞬間 『ゲート開いた!!!』 溢れるばかりに大歓声が上がり、秋華賞の幕が切って落とされたのであった。 『劇場版ウマ娘 beautiful dreamer』 こんな映画を私は見たい 文章の距離適性があっていないのでこれにて失礼する
12 22/05/15(日)02:37:57 No.927669952
目覚まし時計の精…何処かで見たような顔だ…
13 22/05/15(日)02:46:58 No.927671316
アニメ時空のお話は珍しい気がする
14 22/05/15(日)02:47:47 No.927671448
ウオダスにスポットが当たる話みたいよね…わかるよ…
15 22/05/15(日)05:53:37 No.927687942
蹴られたトレーナーが特徴的な姿勢で吹っ飛んでいきそう