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    22/05/07(土)00:40:51 No.924818133

    泥の聖牌戦争

    1 22/05/07(土)01:06:39 [1] No.924827004

    夜中。 枕元に置いていた携帯電話から、けたたましい鳴き声が鳴り響く。次いで外からも、事態の切迫を伝えるサイレンが重なって合唱になる。 始まった。 制服を着たまま横になった少女が、身体を起こさずに目だけを開く。玄関の先の廊下が段々と騒がしくなる気配が最奥のリビングからでも感じ取れる。こうなった原因を彼女は知っている。 凄烈な勢いで叩かれる玄関扉を開けて、姿を見せたのは隣人の男。出てこない彼女を心配して起こそうとしたのだと。 住人が連れ立って階段を降り、そこに他の建造物の住人も合わさって大きな人の川が形成されている。あれらはこれから誘導されるがまま、この大阪の街を離れる。 だがその波に乗っては元も子もない。 「……あっ、いけない。忘れ物しちゃいました。ごめんなさい、先に行っててください!」 「なっ、栞菜ちゃん!?危ないって、一緒に行かないと」 「追いつきます!どうかお気をつけて!」 掛けられる言葉に振り向かず答え、マンションへとUターン。人を下ろしたエレベーターは、彼女だけを乗せて上っていく。 ──やっと会える。 加速していく足取りが、彼女の心持ちを示していた。 「待っててね。今、会いにいくから」

    2 22/05/07(土)01:07:13 [2] No.924827186

    再度。 即席麺の抜け殻の隣に置いた携帯が、先とは違う音で鳴く。5年ほど前に流行った歌謡曲が今でも栞菜のお気に入り。 来た。 「お嬢様、起きておられですか」 「ええ、待ち焦がれた日が来たんだもの。寝てなんかいられないわ。そっちも筋書きは上手くいったようで……何よりだわ。貴方も街からちゃんと脱出してね」 「お嬢様……やはり、今からでも」 「それ以上はナシ。言ったら貴方のクビを飛ばします。いい?ここから先は私一人。ここまでやってくれた貴方に懐古通告なんてしたくないのよ」 「どのみちこの件がバレれば、私の首など瞬く間に吹き飛びましょう。──ご健闘を、お嬢様」 「ええ、貴方の無事を祈るわ佐藤」 かつてのお世話係との別れを済ませ、声の止んだ携帯をポケットへ放り込む。 これより始まるは、黄泉より英霊を引き摺り出して魂を削り合う即席の蠱毒。あらゆる生者の去った街へ、失くしたものに今から会いにいく。もはや私も死者なんだろう。何せ。 あたしは今を生きていない。あたしはあの日からずっと。ずっとその時に囚われている。 開戦のサイレンは鳴った。 これから戦場になる街の風が、吹き込んだ部屋の空気すら塗り替えるようだった。

    3 22/05/07(土)01:18:34 No.924830829

    大阪SSが少しずつ増えていくな