22/05/05(木)22:44:08 きゃあ... のスレッド詳細
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22/05/05(木)22:44:08 No.924414080
きゃあきゃあ、わいわい。 少し離れた場所から聞こえる楽しげな声にふとそちらを見やれば、新聞紙で折られた兜を被り同じく新聞紙の刀でチャンバラごっこに興ずる小さな子供達。 走り回る子供達の中心には、用意されたパイプ椅子に座り慣れた手つきで兜と刀を量産する我がトレーナーの姿がある。 「悪いねぇネイちゃん、デートだってのに旦那さんコキ使っちゃって」 「だからデートじゃないし旦那でもないってば。それにやるって言い出したのはトレーナーさんだし」 八百屋の奥の小上がりから子供達に揉みくちゃにされる彼を眺めながらお茶を啜る。 今日はこどもの日、こどもの健やかな成長を祈り、またそれを祝う祝日である。 アタシ達が日頃懇意にしている商店街でもそれにかこつけたイベントが開催されており、通りのど真ん中に立つ鯉のぼりや、各店舗を回ることで貰えるサービス券と引き換えられる子供達へのお菓子の詰め合わせを用意するなど、商魂逞しいことこの上ない。
1 22/05/05(木)22:44:50 No.924414384
「しかしみんなも良くやるよね、あんな鯉のぼりまで用意しちゃってさ」 「いやいや、ああやって喜ぶ子供を見れればいいのさ。ウチの子達もだいぶ大きくなって鯉のぼりなんか揚げることもなくなっちゃったからさ、仕舞っぱなしってのも何だか寂しいじゃない」 八百屋のおばさんが楽しそうに笑う姿を見て、そんなものなんだろうかとまたお茶を一啜り。 幾ら枯れていると言われたところでアタシは未だ子供に分類される年齢で、幼い子供達が駆けるのを微笑ましいとは思っても、おばさんのような意味で愛しいと思えるようになるのには今暫く時間も経験も必要だろう。 それはアタシ自身沢山の大人に囲まれて育ったからこそわかる、子供と大人の境界。 「トレーナーさん、楽しそうだなあ……」 一通り子供達に兜と刀を配り終わったのか、自らも兜を被り刀を持った彼が子供達をゆっくりと追いかけ回す。 しかし直ぐに子供達の集団が二手に分かれて、彼を後ろと前から挟撃する。 やるな、あの子達。
2 22/05/05(木)22:45:39 No.924414786
「ホントだねえ。あれならいつネイちゃんとの子供が出来ても大丈夫そうだね」 「そうだねぇ……って!違うし!そんなんじゃないってば!!おばちゃん!!」 「アッハッハ!ごめんごめん怒んないでよネイちゃん!!」 子供達に袋叩きにされているトレーナーさんをボンヤリと眺めていたら、おばちゃんの誘導尋問に引っ掛かってしまった。 侮りがたしおばちゃんのトーク力、っていうか誘導尋問でも何でもないし、アタシとトレーナーさんはそんなんじゃないってば!! 「はいはい、そういうことにしとこうね。ほら、トレーナーさん帰ってきたよ」 「いやあ、最近の子達は頭が良くて敵わないよ。俺が子供の頃なんて比べ物にならないな」 「おつかれー、トレーナーさんも負けてなかったよ。やられっぷりとか」 今日は以前の草野球大会のように事前に頼まれていたわけではなく本当に買い物に来ていたところ、たまたま集まっていた子供達の遊び相手になってあげたというだけなのだがこの男も大分お人好しだ。 なんせ一緒に買い物に来ていたアタシをほっぽり出して子供達に構い始めたのだから。
3 22/05/05(木)22:47:07 No.924415472
「ハハ、子供は元気が一番だからね。それに遊んであげられる相手はいればいるだけいい」 「おや、トレーナーさんわかってるね。昔は子供はみんなで育てるなんて言ったもんだけど、今はそうでもないもんねぇ」 「まあ、時代ですから」 そんな大人同士の会話を数分聞いた後、預けていた買い物袋と商店街のお手伝いをしたお礼という名のお裾分けを頂いて帰路に着く。 「それにしても何でまた急にあんなことしたの?確かにイベントブースはちょっと飽和状態だったけどさ」 予想以上に集まった子供達にてんやわんやしていた商店街を助けてあげるためとはいっても、急にほっぽり出された行き場のないモヤモヤ感は晴れずにいたのでぶつけてみることにした。 「ネイチャの弟さんもあれくらいなんだろ?」 「え、うん」 すると急に返ってきた自分の家族の話題に思わず頷くも、話が見えない。
4 22/05/05(木)22:48:25 No.924416059
「そのうち会うかも知れないからさ、そしたらどうやって遊んであげればいいかって思って」 「…………ばかだねー、それでネイチャさんをほっぽって子供に袋叩きデスカ」 「うっ、ごめんなさい……」 ペコペコとコメツキバッタのように頭を下げる彼を横目に、アタシは表情を見られないように少しだけ前に出る。 「今度」 「へ?」 「今度さ、遊びに来てよ」 「どこに?」 今度は話が見えないのは彼の方のようだ。 それならば、答えを教えてしんぜよう。
5 <a href="mailto:オワリ">22/05/05(木)22:49:09</a> [オワリ] No.924416442
「アタシの家。弟と遊んでくれるんでしょ?」 「……いいの?」 「お願いしますよー、ネイチャさんじゃあ男の子の遊びには付き合ってあげられませんから」 そこまで言って振り返らずに歩き出す。 後ろから彼が追ってくる気配を背中に感じて、緩む口元をなんとか戻そうと努力する。 今日はこどもの日、子どもの健やかな成長を祈り、またそれを祝う素敵な日。 そんな日に彼から貰ったプレゼントはアタシだけじゃなくて、アタシの家族まで大切にしようと思う気持ちという、とっても嬉しいものだった。
6 <a href="mailto:s">22/05/05(木)22:49:54</a> [s] No.924416784
ネイチャに見守られながらネイチャの弟さんと遊んであげたい人生でした