22/05/04(水)23:37:12 カチッ... のスレッド詳細
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画像ファイル名:1651675032225.jpg 22/05/04(水)23:37:12 No.924049234
カチッ、カチッ、カチッ。 静かな部屋に秒針が進む音だけが響く。 「止めるんだトレーナー君、そんなことをしても君の利益になるようなことは一切ない」 努めて冷静に、白衣を着た栗色の髪の少女──アグネスタキオンは自らのトレーナーにそう告げた。 ここはトレセン学園の独身寮の一室。 そして部屋の主である彼女のトレーナーは包丁を手にし、何も言わずに佇んでいた。 「もう一度言うよ、止めるんだ。そんなものに頼らなくても私たちにはもっと良い方法があるじゃないか」 アグネスタキオンの冷静さの中に混じる焦りと不安、そして嘆願の色。
1 22/05/04(水)23:37:55 No.924049503
「思えばキミは私の願いを何でも聞いてきてくれたね、共に限界のその先を見るためにこれまでずっと。私は、いつしかそんな君の狂気に魅入られていたんだ。君無しではもうダメなんだ。君がそばにいて支えてくれないと、君が私の言うことを聞いてくれないと、私は……」 「これもタキオンの為なんだ」 分かってくれるよね。 ようやく口を開いた彼はそう儚げに笑うと、包丁を持つ手に力を込める。 「ダメだよ、トレーナー君!君の頼みであってもそれだけは耐えられない!やめてくれ!!」 アグネスタキオンの必死の静止も虚しく、包丁はざくりと──
2 22/05/04(水)23:38:48 No.924049930
まな板の上のピーマンを両断した。 「あーーー!!!トレーナー君私ピーマンヤダー!!!」 「我が儘言わない」 両断したピーマンから丁寧にワタとスジを取り、繊維に沿った千切りを量産しながら冷たくあしらう。 「なんでそんな苦いだけの食材を入れるんだよー!不合理極まりないだろー!」 「栄養が豊富だよ、ビタミンとか」 「栄養豊富でいえば他にも色々あるだろー!ピーマンだとしても熟して苦くない方が栄養豊富だよー!」 「赤ピーマンとかなかなか見ないしね」 「パプリカでいいじゃないかー!」 「高い」 「その程度で困るほど稼いでないわけ無いだろー!」 「それ以上文句言うならお弁当作りませんよ」
3 22/05/04(水)23:39:40 No.924050281
どこの家庭でも連綿と受け継がれてきたであろう伝家の宝刀を抜くと、矢継ぎ早に繰り出されていた抗議がぴたりと止み、かわりに恨みがましい視線が背中に突き刺さるのを感じる。 はあ、とため息を一つ。そのまま振り向かずにタキオンに声をかける。 「食後のにんじんゼリーも用意してあるから」 「…………」 おや、すっかり機嫌を損ねてしまったようだ。もう一押し必要な様子。 「おやつは紅茶に合うにんじんクッキーでも焼こうかなー」 「……甘味はたっぷりでたのむよ」
4 22/05/04(水)23:40:25 No.924050632
普段から傍若無人、得手勝手が白衣を羽織っているようなタキオンだが、こうなるとまるで小さな子供をあやしているようだ。 今度スーパークリークに子供の扱い方でも教わりに行くべきか……いや、飛んで火に入る夏の虫だな、何をされるかわからない。 そんなことを考えながらピーマンをさっと油通しして、同じく千切りにしておいた筍、牛肉の細切りと炒め合わせる。 味付けは少し甘めで、片栗粉を強めにしてなるべく纏わせるようにする事で多少はピーマンも食べやすくなるだろう。 さて、あとは冷ましてから他のおかずと一緒に弁当箱に詰めれば完成だ。 エプロンを外して冷蔵庫から琥珀色の液体が入ったガラスポットを取り出しソファに向かうと、後ろからタキオンが氷の入ったコップを二つ持ってついてくる。 「よっこらしょ」 ソファに腰を下ろすと、タキオンはすぐ隣に腰掛けながら笑う。 「なんだい、加齢による腰痛でも発症したかい?」 「ほっといてくれ」
5 22/05/04(水)23:41:21 No.924051096
軽い言葉のボディーブローを苦笑で受け流しつつコップを受け取り、ガラスポットの中身を注いで1つをタキオンに返す。 「うーん、汗ばむ季節になるとアイスティーもまた格別だねぇ」 先程までの不機嫌さはどこへやら、シロップたっぷりの甘いアイスティーを楽しげに揺らめかせながらタキオンは目を細める。 「で、突然弁当を作って欲しいってどうしたんだ?」 先週までは目標としていたレース目前だったこともあり、トレーニングと実験漬けの毎日だった。 その為この週末はいっそのこと休養日として、自らも久方ぶりの朝寝坊を決め込んでいたのだが。 「早朝に侵入してくるのはビックリするからやめてくれないか?」 いつかのクリスマスよろしく自室に侵入してきたタキオンに叩き起こされて今に至る。
6 22/05/04(水)23:42:01 No.924051405
「ハハッ、検討しておこう。それでだねトレーナー君キミは今日暇だね?いや暇に違いない今週末は実験の予定も入れていなかったからねえ」 反省してない素振りでやたら早口で捲し立てられたが、実際のところ特に予定は無かったため肯首する。 「そこでだ!トレーナー君、フィールドワークに行こう!」 そう言いながら突き出されたスマホの画面には、学園からだいぶ離れたところにある森林公園へのマップが表示されていた。 「最近はラボでの実験ばかりだったが、研究者というのは時として外に赴くことも重要だ。ここの公園にはとある植物が生えていてね、そのサンプルが少しばかり欲しいのだよ」 もっともらしいことをつらつらと並べ立てるタキオンだが、つまり何が言いたいのかと言うと。 「ピクニックのお誘いか」 「フィールドワークっていってるだろー!?」
7 <a href="mailto:オワリ">22/05/04(水)23:42:41</a> [オワリ] No.924051707
はいはいフィールドワークフィールドワーク。喚くタキオンをよそに自らのスマホを取り出してメッセージアプリを起動する。 「……何をしているんだい?」 「ん?スカーレットのトレーナーとカフェのトレーナーに連絡」 「何故?」 「みんなで行った方が楽しいだろ?こういうのは」 そう言って立ち上がり、キッチンへ向かう。 さて、アイスティーとアイスコーヒーを淹れて冷凍していたクッキー生地を焼いて……弁当は常備菜を使っても足りないだろうし、米を炊くにも時間がかかる。追加で大量にサンドイッチでも作るか。 車やレジャーグッズの用意は二人のトレーナーに頼んでおいた。持つべきものは頼れる同僚たちだな。 えー!?なんでー!?とぶー垂れるタキオンに、これに懲りたら今度からは不法侵入しないように言い含めながら冷蔵庫を開けた。 今日は良い天気になりそうだ。
8 <a href="mailto:s">22/05/04(水)23:43:22</a> [s] No.924052008
タキオンにお弁当をねだられてそのままピクニックに行きたい人生でした
9 22/05/04(水)23:49:49 No.924055081
ゴールデンウィークはピクニックもいいねぇ!
10 22/05/04(水)23:53:08 No.924056596
ムードを考えてほしいねぇ!
11 22/05/05(木)00:01:30 No.924060314
二人きりで行きたいという乙女心をわかってほしいねぇ!
12 22/05/05(木)00:16:19 No.924066705
甘めの味付けにしてもピーマンはピーマンだねぇ!
13 22/05/05(木)00:22:08 No.924069227
ピーマンとパプリカならピーマンのほうがマシじゃないか…
14 22/05/05(木)00:33:57 No.924073587
ふむ…ピーマンか…良ければ調理法を教えてくれないか? 同じく野菜嫌いのために参考にしたいんだが