虹裏img歴史資料館

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22/04/18(月)22:52:41 しとし... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1650289961969.png 22/04/18(月)22:52:41 No.918383136

しとしとと小さな音を立てながら小ぶりの雨が咲いたばかりの柔らかな花を撫でていた。 雨が降ってもトレセン学園近くの商店街の人通りは減ることはなく、商魂たくましい呼び込みの声に引き寄せられるように色んな色の傘が右往左往と動いて、カラフルな川ができたようだ。 その色の中の一つに、マチカネタンホイザのトレーナーがいた。安いし美味いで商店街を愛用するトレーナーは多いが、彼もその一人である。 「あら、おマチちゃんとこのトレーナーさん! 唐揚げ丁度揚げたてだから一つ食べてきなよ」 「おう、おマチちゃんのトレーナーさん! やきとり焼けてたから一本持ってきな!」 「おっ、おマチちゃんのトレーナー! おかき」「ちくわ」「肉まん!」 が、マチカネタンホイザという商店街の愛され娘のトレーナーだからか、店の人に顔を合わせると必ず何かを一つ持たせてくれる。この調子で一周すればお金を払わずに日々の食事にありつけそうだが、それでは流石に申し訳ないのでじゃあついでにこれ下さい。と一品買うことになる。

1 22/04/18(月)22:53:08 No.918383310

そんなことが続くのでトレーナーの手には買い物袋がどっさりとつり下がっていた。持ちきれない分は傘の持ち手に吊り下げて耐えてもらっている。 もうそろそろ帰って戦果の確認でもするかと、トレーナーが歩いて、少し止まって、そのままバックした。目線は商店街に置かれていたガチャポンの並びにある。正しく言えばそのうちの一つを前に腰を下ろしているマチカネタンホイザを見ていた。 「タンホイザ?」 「うわっほい!?」 トレーナーが声をかけるとその体がぽんと宙に浮いて、ついでに小さなクモのフィギュアも空を舞った。 「あれ、トレーナー? わーびっくりした。奇遇ですねぇ」 雨の日でも晴れやかな笑顔を見せるタンホイザに、トレーナーは重しがある手の代わりに肩を上げて挨拶を返した。 「ガチャガチャしてたの?」 「はい! ばばーん、ピーコックスパイダ~~」 「ぴーこ……?」 自慢するように見せつけるタンホイザの手のひらには、改めて拾い集めた小さなクモのフィギュアがそこにあった、デフォルメされていて、なんだか腹の部分には鮮やかな模様がついている。

2 22/04/18(月)22:53:52 No.918383602

タンホイザが手でちょこちょこと弄るとそれが立ち上がって、まるで求婚する孔雀のように模様が広がった。 「こ~やって広げて踊って、お見合いするクモなんですって。情熱的~!」 「あぁ、なるほど。だから孔雀(ピーコック)か」 「えっ!? そんな意味なんですか! さっすがトレーナーあったまい~、10ポイント進呈です!」 「やったー。というか、えらくいるな、何回やったんだ?」 虫嫌いがいたら、見た瞬間卒倒するだろうほどの、タンホイザの手のひらのクモたちにトレーナーが首をかしげると、クモを引き当てた方は同じ指を二回ほどあげたり下げたりした後に、えへへと誤魔化すように笑った。 「でも、残りはこの特に模様も何もないらしいシークレットのクモちゃんなんですよ! そう思ったら、明日のおやつ代にまで手を……」 「それはまた」 「だーけーどー、百円玉がいちまい足りなーい! ので、近くのお店で少し買物しようかなとか、いやそこまででも……とぐるぐる悩んでいたわけです」 うーんと悩まし気に顎を撫でるタンホイザに、トレーナーは荷物を降ろすとお財布から百円玉を取り出して、タンホイザの前のガチャポンに投入した。

3 22/04/18(月)22:54:28 No.918383821

「ありゃ!? トレーナーさんいいんですかい、貴重な百円玉を……」 「いいんでございますよ、タンホイザさん。これが大人の力というものさ」 「うひゃ~早く大人になりたいな~! では遠慮なく、おりゃあ!」 がちんと金属音がなって、コロコロとカプセルが出てくる。それを念じながらタンホイザが開けると、祈りが通じたのかそこには模様もない地味なクモがいた。 「わー! やったー! シークレットー! トレーナーのお陰ですね!」 「シークレットにしてはホントに地味だなぁ」 「メスですからねぇ。紅一点なのです、なになに……オスより体が大きくダンスが気に入らない相手は食べてしまう時がある……こわっ」 「厳しい世界だ。あっそうだ、コレ持ってかない?」 そういうとトレーナーはついつい買って行ったおかずたちを一袋タンホイザへと差し出す、中をみてタンホイザはおぉ~っと目をキラキラさせるとトレーナーの方を見た。 「いいんですか!? なんだか悪い気がしちゃうな~」 「いいんだよ、どうせ一人じゃ食べきれなかったし」

4 22/04/18(月)22:55:19 No.918384192

「やったやったやったったー! どーしよ今日は豪華だーネイチャ達よぼーっと! あ、そうだトレーナー」 ふとタンホイザは思いついたようにトレーナーの手を柔らかい両手で包むと、数秒して放す。するとトレーナーの手の平の上にはシークレットのクモがいた。 「あげます!」 「いいのか? 苦労して取ったんだろ?」 「えへへ、お礼です。トレーナーのお陰で取れましたし、フクちゃん先輩じゃないけど幸運のお守りにどうです?」 「それじゃありがたく」 相手を食べてしまうクモはお守りになるかどうかは少しばかり疑問だったが、トレーナーはそれをポケットの中に入れると、二人して笑い合う。いつの間にか雲間からは青空が見えていて、帰るなら今だと言っているようだった。 「それじゃ、気を付けて帰るように」 「はーい! 晩御飯ありがとうございまーす!」 傘を持ってタンホイザが手を振りながら駆けていく、その途中でふとタンホイザはおもむろに振り返って、手でメガホンを作る。

5 22/04/18(月)22:55:32 No.918384288

「トレーナー!」 声が聞こえてトレーナーが顔を向けると、タンホイザは雨が止んだというのに、カラフルな傘を開いてぶんぶんと回ったりジャンプしたりしながら踊るようにトレーナーの方へと振った。 周りの人間はなんだなんだと目を向けるが、トレーナーだけはくすりと笑うと手を振ってそれに答える。二人だけの暗号のように。 変な踊りもやがて終わってまた駆け出すタンホイザの背中を一瞥しながら、トレーナーは妙に暑い頬をパタパタと手で仰ぎながら歩いていく。あの子はちゃんと意味を分かってやったのだろうか。 寮に変えるまでには元の色に戻っていればいいけど、と、トレーナーとタンホイザは偶然にも空に出た虹を見ながらそう思ったのだった。

6 <a href="mailto:s">22/04/18(月)22:56:22</a> [s] No.918384663

タンホイザと身近な日常の中で愛を感じているトレーナーをすぐそばの雑草になって眺めたい人生だった

7 22/04/18(月)22:58:53 No.918385698

普通に関係を進めて卒業後普通に結ばれそうで良い…

8 22/04/18(月)23:01:34 No.918386788

いいねぇ…

9 22/04/18(月)23:04:35 No.918387948

良い...

10 22/04/18(月)23:06:12 No.918388522

タンホイザは普通の中の愛が似合う…

11 22/04/18(月)23:09:11 No.918389607

ラブソングのMVみたいな恋しやがって…

12 22/04/18(月)23:16:59 No.918392563

まるでミュージカルを見ているようなストーリーと丁寧な台詞回しにすごく綺麗ないちゃいちゃでとてもよかった…

13 22/04/18(月)23:22:07 No.918394780

マチタンの怪文書久しぶりに見た… いい雰囲気だ…

14 22/04/18(月)23:27:00 No.918396783

ホイザは素朴なかわいさが似合うよね

15 22/04/18(月)23:34:56 No.918399838

好意を隠さないおマチさんの振る舞いはあまりに眩しい

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