22/04/14(木)23:35:00 4月半ば... のスレッド詳細
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22/04/14(木)23:35:00 No.916952826
4月半ば、桜の花もずいぶん散ってしまった。気温の差もあるが、ここ最近は概ね暖かい。 春の日差しを受けながら、芝生の上に寝転がる。 今日はトレーニングは休みだが、あいにく同級生や後輩たちはみんな予定があるらしい。 こうなれば、とことんのんびりしてやろう。 イヤホンを耳に挿し、スマホのプレイリストを再生する。 この時期のプレイリストは決まっている。ボクらの兄さんが好きだった、春に関係する曲を集めたものだ。
1 22/04/14(木)23:35:27 No.916953014
――――――――――――――――― 兄さん、といってもボクの実の兄ではない。 ボクの家の近所には、一つ年上のウマ娘がいて、ボクはいつもその子、カレンチャンに引っ付いて回っていた。 その子には数年先に生まれたお兄さんがいて、カレンチャンとボクを一緒に面倒見てくれていた。 兄さんは春にまつわる歌が好きで、よく聞いていた。 希望に満ちた歌詞、ラブソング、別れの歌。歌詞を書いた人によって、歌う人によって、全然違う角度から、願いや気持ちが込められているからだって。 カレンチャンは、小さい頃からいつも周りにカワイイカワイイって褒められてた。 色んな服を着て、写真をいっぱい撮って、街を歩いてるときも知らない人にキャーキャー言われたりして。 そして兄さんは、いつもボクたちを見守ってくれていた。穏やかな顔で、ニコニコしながら。 ボクはそんな二人が大好きで、いつも自慢に思っていた。
2 22/04/14(木)23:36:06 No.916953268
ボクより一つ年上のカレンチャンは、一足先に小学校に入学し、近所のレースクラブに入った。 カレンチャンはそのころからすごく速くて、色んなレースで一着になっていた。 ボクも早くカレンチャンと同じクラブで走りたかったけど、まだ小さいから入れなくて。 ある時、どうしても入りたいってお母さんに駄々をこねて、お母さんにいい加減にしなさいって怒られて。 それで拗ねたボクは、そのまま外に飛び出して、夕方まで近所の公園で隠れてた。 日が暮れ始めたころ、ボクが隠れていた公園の遊具に、誰かの足音が近づいてきた。 「あ、カナロア!いたいた!こんなところに隠れてたんだね」 「……兄さん」 「そろそろ帰らないとダメだよ?もう夕方だし」 「やだ!カレンチャンと一緒に走りたいもん!」 「……そっか」 そう言うと、兄さんはボクの隣に座った。
3 22/04/14(木)23:36:45 No.916953506
少しだけ時間が流れたあと、兄さんは再び口を開いた。 「カナロアは、どうして早くクラブに入りたいの?カレンみたいになりたいから?」 「……私、カレンチャンみたいにはなりたくない。カレンチャンは世界一、宇宙一カワイイから、私にはなれないよ」 「じゃあ、カナロアはどうなりたいの?」 「私は、兄さんみたいにかっこよくなりたい。かっこよくなって、カレンチャンをお嫁さんに貰うの」 「そっか。……でも、カナロアなら、ボクよりも、宇宙一かっこよくだってなれるかもしれないね」 「兄さんより……?なんで?」 「カナロア。キミは誰よりも速くなれる。誰よりもかっこいい走りができるようになれるからだよ」 「私が?本当に?」
4 22/04/14(木)23:37:28 No.916953765
「少なくとも、ずっと二人を見てきたボクはそう思う。誰よりもかっこいい走りでレースで一着になれば、誰もがカナロアを宇宙一かっこいいって認めるよ。少なくとも、ボクにはできないことだね」 そう言ってふふっと笑った後、兄さんはいつもと同じ表情で、こちらをまっすぐ見つめながら言った。 「カナロア、ボクはウマ娘じゃないから、カレンと一緒には走れない。ボクの代わりに、カレンと一緒にいてくれるって約束できる?」 「うん、私、カレンチャンとずっと一緒に走る。カレンチャンより速くなる!」 「ありがとう。……でも、レースクラブに入るのは来年まで我慢しなきゃダメだよ?我慢ができない子はかっこ悪いよ」 「……うん、わかった」 真っ赤に染まった夕焼けの中、ボクと兄さんは手を繋いで帰った。 兄さんの、春のうたの鼻歌を聞きながら。
5 22/04/14(木)23:38:08 No.916954006
――――――――――――――――― 横になっているうちに、眠ってしまっていたようだ。 ぼんやり自分が流している曲を聞いていると、何か違和感を感じた。イヤホンが片方の耳に入っていない。 落としてしまったのだろうか、と辺りを見渡そうとしたとき、自分の隣に一人のウマ娘が座っていることにようやく気が付いた。 「おはよう、カナロア。ずいぶん気持ちよさそうに寝てたね」 「……おはよう、カレンチャン」 やっと覚めてきた目をカレンチャンに向けていると、片方の耳を抑えていることに気づく。 どうやら、ボクのイヤホンの片方は彼女が着けているようだ。
6 <a href="mailto:おしまい">22/04/14(木)23:38:47</a> [おしまい] No.916954290
「これって、兄さんが好きだった曲だね」 「うん。この季節になると、どうしても聞きたくなっちゃって」 「カレンも一緒だからわかるよ。兄さん、いっつも歌ってたもんね」 そう言って、ボクとカレンチャンはくすくすと笑いあった。 ボクは体を起こし、カレンチャンの隣に座りなおす。 そのまま二人で座っていると、カレンチャンが、流れている曲に合わせて鼻歌を歌い始めた。 つられてボクも鼻歌を歌う。あの頃、兄さんが歌っていたように。 ボクが誰よりも、宇宙一かっこよくなれたかはまだ分からない。 ボクが今できることは、あの時兄さんと約束したように、カレンチャンと一緒に走り続けることだけだ。 春の日差しを受けながら、残り少ない桜の花びらがひらひらと舞い落ちていた。
7 <a href="mailto:s">22/04/14(木)23:40:08</a> [s] No.916954830
fu976136.txt 以前書いたものと同じ幼馴染設定で書きました 実際に何の歌歌ってたかは皆さんお好きに決めていただければと思います
8 22/04/14(木)23:42:16 No.916955602
めちゃくちゃ良い話だ…
9 22/04/14(木)23:45:50 No.916956833
あいつ 良い話書くよな…
10 22/04/14(木)23:49:14 No.916957971
なるほどお兄さんの方との接点…そう言うのもあるのか
11 22/04/14(木)23:58:35 No.916961285
BUMPの花の名とか流れてそうな雰囲気だ…
12 22/04/15(金)00:03:57 No.916963305
>fu976136.txt >以前書いたものと同じ幼馴染設定で書きました >実際に何の歌歌ってたかは皆さんお好きに決めていただければと思います これ好きだったからすごく嬉しいな…
13 22/04/15(金)00:13:24 No.916966442
スピッツのスカーレットが似合いそう
14 22/04/15(金)00:22:59 No.916969446
カナカレキテル…?