虹裏img歴史資料館

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22/04/13(水)23:16:38 黒いバ... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1649859398771.jpg 22/04/13(水)23:16:38 No.916624196

黒いバリアジャケット越しに血が滴るのを感じる。 この血が自分のか奴のかはもう分からないし、どうでも良い。どうせこれからこの施設は炎によって消えるのだから。 「所長! おのれよくも所長を!」 「撃てぇ! 撃ち殺せぇ!」 何十もの警備兵が禁止されている質量兵器――マシンガンを構え、こちらに弾丸の雨を無数に撃ち込んで来る。 素早くシールドを12層重ねてこれを防ぎ、素早く物陰へ。数秒でシールドを貫きこちらを掠めるが、幸いにもバリアジャケットを引き裂きマスクを揺らすだけで終わった。 「ふっ」 気合いを入れる事もなく一瞬で10人以上の警備兵の首が物理的に飛ぶ。疑うまでも無く即死、どんな腕の良い治癒術師でも蘇生はできないだろう。 だが彼らの勢いは止まらない。当然だ、彼らに、プロジェクトFの遺産として増産された奴らに『死の恐怖』というものは教えられて無い。 「殺せ、フィーンドを殺せ!」 「正義は我らにあり!」 悍ましいな、とバリアジャケットのフルフェイスマスクの位置を整え、フィーンドと呼ばれた黒服の男は残る警備兵を殲滅するため飛び出した。

1 22/04/13(水)23:17:22 No.916624477

パキッ、と薪が燃えて折れる音が響く。同じ炎でも施設を半分炭にしたのと異なりこちらはとても優しい。手元の新しい薪を放り込み、ふと夜空を見上げた。 あの星々のどれかに誰かが生きていて、或いは誰かが命を終えようとしている。それはヒトかも知れない、虫かも知れない、魚や鳥かも知れない、得体の知れない何かかも知れない。 「時空管理局に限らず、組織というのは身内の悪には甘いものだ」 マスクを外したフィーンドは小さく呟く。 いつの間にか隣にいた、妙齢の女に聞かせるように。 「特に管理局は約80年もの間、次元世界を守って来たという自負がある。そうした自負は自尊心を肥大化させ、時に『自分こそ正義』という感情に繋がる」 「そうして育った正義感は、やがて『正義だから何をしても良い』という傲慢に繋がる。どんなに残虐な行為も、どんなに卑劣な行為も、正義だから許されるとブレーキが利かなくなる。だから身内から悪が出る、という事実を認められない」 「然り」

2 22/04/13(水)23:17:54 No.916624688

火にかけていた薬缶からお湯をコップに注ぐ。インスタントコーヒーを完成させると、それを隣に座る女に渡した。 「熱いから気を付けて」 「ありがとう、ユーノ君」 エース・オブ・エースのその言葉に、無限書庫の長は「今はフィーンドだ」と短く返した。 時空管理局は巨大すぎる組織だ。無論、存在するだけで害を産む道具や、気軽に星を滅ぼせるロストロギアがある以上は出来るだけ手を伸ばしておいた方が良い。 だがそれ故に逆に末端まで監視の目は届かない、否、ミッドチルダにある地上本部ですらスカリエッティと手を組んでいた事を考えると、最早監視機能なぞ穴だらけなのだろう。 それにユーノが気付いたのは、彼が14歳の時だった。 以降、彼は自分自身の手で腐った果実を切り落とすため、陰で動いていた。 格好付けたかったワケでは無い、褒めて欲しかったワケでは無い。ただ白く清い友を、嘗ては憧れ思いを寄せていた彼女を、黒く染めたくなかっただけなのだ。

3 22/04/13(水)23:18:42 No.916625077

「こんな事を、君は10年も続けていたの?」 「これは僕、いや私のやらねばならぬ責務。時空管理局の正義は虫食いだらけだ、穴が開いたのなら塞がねばならない」 「私の……、所為なの……?」 「否、これは私の弱さと怠慢が招いた自業自得の無道である」 本当はこんな方法は取りたくなかった。だがユーノ・スクライアは正義を成すにしても悪を成すにしても、あまりにも弱すぎたのである。 だから残ったのは善でも悪でも無い、偽善でも偽悪でもない、ただの狂信者が如き鏖殺の道だった。 守るための盾も、それ故に敵を討つ凶器となったのである。 「私はきっと、君に謝りたかったのだ」 なのはは答えない。ただ黙ってユーノの独白を聞く。 「だが、私に謝る資格など無かった。己が命惜しさに君から平穏な日々を奪い、挙句共に歩む事を放棄し、生死の狭間を彷徨わせ、剰え今ものうのうと生きている。許し難い悪逆を成す外道こそが我が本性である」 「それは――、それは違う! 生きたいと、死にたくないと思うのは当然だよ! それに君と出会わなかったらきっとフェイトちゃんやはやてちゃん、それから――」 「結果論に過ぎん」 女の反論を男はピシャリと遮った。

4 22/04/13(水)23:19:12 No.916625303

「我が罪は生まれた事、弱き事、今ここに在る事。なればその罪を贖う事は叶わず、1分1秒ごとに罪業を重ねるのが我が人生である。故に私は闇となろう、闇となりて光に忍び寄る悪を討ち悪魔となろう、守れぬのなら屠ろう」 もう彼は10年前に決めたのだ。 白い翼は二度と穢させないと。そのためなら地を這う下等な土竜がいくらでも返り血を浴びようと。 「既に私は悪魔、君は天使。悪魔がいくら悪道に落ちようと気にしてはならぬ。君は天使として、己が正義を成して踏み越えろ」 「私に、君を切り捨てろって言うの……?」 「罪も災禍も私が背負い地獄に落ちるのが最善というだけの事。天使の白い翼を、悪魔の黒い穢れで汚してはならないのだ、エース・オブ・エースよ」 彼は救われる事を望んでいない。死より凄惨な末路を望み、自ら破滅を求めている。 誰かの幸福の下に不幸があるのなら、高町なのはの幸福のためにユーノ・スクライアは不幸になろうとしているのだ。 そうした者に、正義の救済は寧ろ侮蔑とすら言える。

5 22/04/13(水)23:19:38 No.916625482

「私は『僕』として書庫に戻る、君も施設の証拠を持って帰ると良い。質量兵器、バリアジャケットを貫通する弾丸、クローン……、追及すべきものはいくらでもある」 フルフェイスマスクを被り直し、ユーノは立ち上がった。 かける言葉が無い。無理に救おうとすれば彼のギロチンのように細く鋭いバインドで威嚇されるだろう。ジャケットごと切断するあの斬撃は、防御の達人である彼だからこそ貫通の方法を熟知して使いこなせる。 それを向けられたら、如何になのはと雖も防げない。この場は去らせるのが正解なのだ。 「ユーノ君」 だから。 「フィーンドだ、ユーノ・スクライアは10年前に死んだ」 「ううん、君はユーノ君だよ。無限書庫のトップで、結界魔術師で、幼馴染で、ヴィヴィオが懐いている、私の大切な人だよ!」 「……」 伝えなくてはいけない。 確かに黒は白を染めて汚し、穢す。

6 22/04/13(水)23:19:59 No.916625639

だが同時に。 「私、諦めないから! 絶対に! 君を光の下に連れ帰るから!」 「不可能だ」 「不可能を可能にしてきたのが私だよ!」 白は黒を塗り潰し返し、浄化する事もある。 白とは一方的に黒に撃ち負けるものでは無い。時に黒は白に負け、清められるのだ。 「強情だな」 「不屈の心はこの胸にあるからね」 だから負けてはならない。彼の黒を塗り潰すくらいの白を持たねばならないのだから。 天使が悪魔の敵対者とは必ずしも限らないのだから。 「……確実に後悔するよ、なのは」 それだけ言うと彼は転移魔法でそこを去った。 「しないよ、絶対にね」 コーヒーを飲み干し、彼女はそう言った。 1ミリも揺らがぬ決意を、その瞳に宿しながら。

7 22/04/13(水)23:20:24 No.916625831

自分を許さない病んだ男とそれを治そうとしている女って話 PC整理していたら10年程前に書いたのを発掘したので書き直してみたり 本当はもっともっと長いけどここに合うように削りました あまり表に出せるようなものじゃないので供養の意味も込めてこちらに置かせて頂く ちなみに作中で出て来る『フィーンド(fiend)』は『悪魔』という意味ですが、devilが『種族としての悪魔』に対してfiendは『悪魔のように残忍な人』『悪魔に憑りつかれた人』の方がニュアンスとして強いそうです

8 22/04/13(水)23:22:47 No.916626863

今は令和だぞ…?

9 22/04/13(水)23:24:59 No.916627736

十年前なら2012年だから…2012年…?

10 <a href="mailto:s">22/04/13(水)23:25:38</a> [s] No.916627980

>今は令和だぞ…? 先日も別の方がリリなの怪文書を投稿してたからつい… 許して…

11 22/04/13(水)23:26:39 No.916628319

>十年前なら2012年だから…2012年…? stsは2007年の放送だからな……

12 22/04/13(水)23:31:37 No.916630219

>>今は令和だぞ…? >先日も別の方がリリなの怪文書を投稿してたからつい… >許して… 許そう 渋谷なり笛吹にフルバージョンを載せるのならな!

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