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12月下... のスレッド詳細

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22/04/11(月)03:03:54 No.915712095

12月下旬。トレセン学園。 年末に近づき、寒い空気が張り詰める中、着々と時間は過ぎている。 阪神JFや朝日杯が終わり、ジュニア級のウマ娘のレースも最終段階。残るG1レースは中山・芝2000mのホープフルステークスのみ。 クラシック・シニア級のウマ娘にとっては阪神カップと、そして有マ記念が控えており、地方所属のウマ娘には東京大賞典が控えている。 だが、そんな大舞台に出られるウマ娘は一握り。殆どのウマ娘は1月開催のレースに向けて鋭意を磨いていくのであるが、彼女、ナランフレグもその一人だった。 「次走は、シルクロードステークスにしようと思うんだ」 トレーナー室にて。ナランフレグにトレーナーはそう切り出した。 「うん、いいんじゃない?」 それにナランフレグは顔色一つ変えず応えてみせた。 先日行われた、芝1200m、タンザナイトステークスで彼女は見事一着。二年ぶりの勝利に気分も上々といったところである。

1 22/04/11(月)03:04:14 No.915712123

「ありがと、フレグ」 そんな彼女にそうトレーナーが微笑むと 「別に」 ナランフレグはどこかふてぶてしく、そして照れを隠すようにそっぽを向いてみせた。 そんな彼女の様子を特に気にすることなくトレーナーは続ける。 「それで、次走のシルクロードステークスなんだけど] 「うん」 「2年前に出たときとは・・・ちょっと異なるんだ」 そうトレーナーが切り出し 「え?」 とナランフレグは返す。 少し神妙な顔つきになったトレーナーは 「あの時は・・・京都レース場で行われたけど、今は京都レース場は改装工事のため休業中なのは知ってるよね」 とナランフレグに語りかける。

2 22/04/11(月)03:04:43 No.915712163

「バカにしてんの?」 むっとした調子で返すナランフレグ。そんな事は知っていると苛ついた態度をした彼女に、まぁまぁ、と手を前にやって、トレーナーは彼女をなだめた。 そして 「今回の開催、中京レース場なんだ」 と言葉を続けた。 その瞬間、ナランフレグの心に僅かばかりの緊張の色が漂う。 中京レース場。それは自分が得意とする場所。そして、G2セントウルステークスが行われた場所。ピクシーナイトにも、レシステンシアにも、完膚なきまでに負けた場所でもある。 しかし 「だから何よ」 と彼女は鼻で笑うと、トレーナーに言葉を続けて見せた。 そんな彼女の顔を見て、少しだけ、いや大いに驚いた心境になったトレーナーである。 目の前のウマ娘はもう吹っ切れている。何の気負いもない、清らしいふてぶてしさを纏っている。 そんな彼の心を見透かしたかのように 「ねぇ、アンタ。何考えてるのか知らないけど。どこでだろうが走ってやるわよ。そして勝ってやるわ」 ナランフレグは言い放つ。

3 22/04/11(月)03:05:04 No.915712198

オパールステークスの二着、そしてタンザナイトステークスの一着が響いているのだろうか。彼女の調子は絶好調といった所のように彼には思えた。 (それなら・・・この勢いを大事にしないと、ね・・・) と彼は思うと。 「ありがと」 と、人なつっこい笑顔で微笑んで見せたのである。 「それじゃ、事前に注意することを」 「ん」 彼にしては珍しいなと、ナランフレグは思った。 レースに出る事前打ち合わせで注意することとは何だろう、とナランフレグが頭を捻るなか 「一人、注意しなくちゃいけないウマ娘がいるんだ」 と彼は語りかける。

4 22/04/11(月)03:05:21 No.915712220

「注意する・・・ウマ娘?」 そのナランフレグの言葉に深く彼は頷くと 「そう。彼女の名前は・・・」 少しためらった調子で口をまごつかせたが 「メイケイエール」 しっかりとナランフレグの目を見て、あるウマ娘の名前を口にしたのである。 「メイケイ・・・エール」 その名前にはナランフレグも記憶があった。 あったというより、どこかで聞いた名だな、と思ったのである。 (確か・・・クラシックの子だった、はず) と頭を巡らせる。

5 22/04/11(月)03:05:43 No.915712258

「あ」 とナランフレグが何かを思い出したように呟いた。 「どうしたの?」 「ん、いや・・・大した事じゃないんだけど」 ナランフレグは記憶を思い出すように宙を向くと、 「何回か、カフェテリアですれ違ったことあるわ」 と言葉を紡ぐ。 その時のメイケイエールの姿を彼女は覚えている。鹿毛の長い髪の毛をしていて、言葉に訛りがあって。そして大人しそうな子だったな、という印象である。 「あの・・・大人しそうな・・・」 と彼女が呟くと 「あぁ・・・」 とトレーナーは諦めたような苦笑をして彼女に返した。

6 22/04/11(月)03:06:01 No.915712293

その態度に眉を顰めると 「何よ」 とナランフレグは返した。 それを見て 「見た方が早いよ」 と言い、部屋に備え付けられたテレビの電源をつけると、Bluetoothを繋いで、彼のタブレットから映像を映し始めたのであった。 テレビに映し出されたのはG2チューリップ賞の映像である。 メイケイエールがタイトルを取った本レース。そのレース映像を見始めてすぐに 「何よ・・・これ・・・」 ナランフレグは唖然とし声を出した。 『邪魔だがね!!!!!!!!!!』 スタートしてすぐに阪神の向こう正面を爆走する一人のウマ娘。最も内側の1枠からの出走にも拘わらず、出遅れて更に掛かって外に膨らんでいくウマ娘。それどころか、直線にも拘わらず、何故かジグザグに走っている。紛れもない、メイケイエールの姿だった。

7 22/04/11(月)03:06:06 No.915712303

スレッドを立てた人によって削除されました ひでえなこれ 才能無いよ

8 22/04/11(月)03:06:17 No.915712323

第三コーナーに入って若干落ち着きを取り戻したものの、尚もまだ、掛かりは収まっていない様子。第三コーナーが終る頃には既に先頭に立ち、第四コーナーへ。 そして 「あ・・・・・・」 ナランフレグは思わず声を出した 『ぜーはー・・・・・・ぜーはー・・・・・・』 ホームストレッチに至ってメイケイエールが既にバテているのだ。しかし脚色を絶やすことなく懸命に前を走る彼女。 そして 『残り200を切ってメイケイエールいっぱいとなったが!!!外からストゥーティー!!!内にエリザベスタワーも接近!!!』 ハナをどうにか死守するメイケイエールの姿が映る。内側によれそうになりながらも懸命に前を走る彼女。 そして 『メイケイエール!!!エリザベスタワー!!!首の上げ下げゴールイン!!!』 二人並んでゴール板を横切るメイケイエール。結果、同着という結果で彼女はG2タイトルを手にしたのである。

9 22/04/11(月)03:06:43 No.915712367

次の桜花賞も似たような展開だった。 メイケイエールは、出遅れたかと思えば掛かりはじめ、直線なのにジグザグに走る。 後方からのレースになった彼女はそのままバ群に突っ込み始めた。 そうしたと思えば 『うわっ!?』 一人のウマ娘を外に弾き飛ばし、大外中団に。 それどころか第三コーナーから加速し初め、あっという間にハナを奪う。最内のポジションを獲得し前を突っ切り始める彼女。 そして第四コーナーまで粘りぬき、最後の直線を迎えるが 『ぜーはー・・・・・はー・・・・・・はー・・・・・・』 すっかり精魂尽き果て、ずるずると彼女はずるずると後退していく。 そして外からウマ娘達にどんどんと抜かれ、彼女は最下位でレースを終えたのだった。

10 22/04/11(月)03:07:03 No.915712397

そのままトレーナーとナランフレグはメイケイエールの全走を見た。 8月下旬、札幌、芝1200m、G3レース、キーンランドカップでも似たような走り。 ゲートで出遅れて掛かりはじめ、バ群に突っ込んで他のウマ娘にタックルをかまして、そしてハナを奪って。だが最後の直線では限界を迎えて後退し七着。 10月上旬、中山、芝1200m、G1レース、スプリンターズステークス。 レシステンシアやピクシーナイトが出た栄誉と殿堂のスプリンターの頂点を決める本レースでも、彼女は変わらなかった。 中枠からの出走になった彼女。出遅れて掛かりはじめて、それどころか外によれ始めて 『お、おい!』 「うわ、っちょ!!!」 外を走る何人かのウマ娘に相変わらず体当たりをかましても脚を止めない。 『いくんやぁぁあああああ!!!』 第三コーナーに入っても掛かりっぱなしで、コーナーを左右によれながら走り続け、三-四コーナー中間で急加速し始める。いつもと異なりまだバ群中団の大外のポジションである。

11 22/04/11(月)03:07:42 No.915712461

そして直線に向くと短い直線と急坂を必死に駆け上り 『ピクシーナイト!!!ゴールイン!!!』 ピクシーナイトとレシステンシアがつばぜり合いをしていく中で、メイケイエールは四着で本レースを得たのだった。 全ての映像が終わり、トレーナー室には沈黙が訪れる。 トレーナーはため息をつき黙り込み、ナランフレグは口を真一文字にし、ただ固まっていた。 そんな中 「どう?」 とトレーナーが問い 「どうじゃないわよ!!!!」 思わずナランフレグが叫んだ。

12 22/04/11(月)03:08:14 No.915712503

「何よあの子!?」 「うん」 「何で掛かってメチャクチャに走るのよ!?」 「うん・・・」 「こんなのレースに出る以前の問題じゃない!!!」 「うん・・・僕もそう思う・・・」、 口角に泡を吹いてしゃべるナランフレグ。そして沈痛な面持ちで頷くトレーナー。 「はぁー・・・・・・」 一通り叫んで、脱力させたかのように肩から力を抜くナランフレグ。 あんな子だとは思わなかった、と彼女は思う。普段は大人しそうにしてる姿しか見てなかったため、そのショックは尚更といった所だろう。 そんな様子を見てトレーナーは 「あの通り、何だよね」 とため息をついた。

13 22/04/11(月)03:08:35 No.915712539

「素質は・・・間違いなくあるんだよ。勝負根性もある。でも致命的に・・・。レースになると、誰かと競う場面になると・・・人が変わるみたいなんだ、あの子」 そう彼は滔々と言葉を繋ぐ。 またしても沈黙がトレーナー室に訪れる。 何せ次のレースで、ナランフレグは彼女と一緒に走ることになるのだから。 しかし、二人ともそれを言い出さなかった。出走は止めにしようとは。幸いにもナランフレグの脚質は追い込み。最初さえ気を付ければ、彼女の影響は少ないかもしれない。 それでも、短距離は僅かなミスがすぐに時計に反映されるレース。ほんの少しのミスが、展開全体に影響を与えることを、二人とも分かってはいる。 だが、それでも出たいと思った気持ちは変わらないのだ。折角のG3レースの切符が、長い下積みの果てに出でたそれが、すぐそこにあるのだから。

14 22/04/11(月)03:08:54 No.915712572

1月下旬、中京レース場、第11レース。 芝1200m、G3レース、シルクロードステークス。 天気は曇、バ場は良。 出走前。 (何かヤバいヤツがいる・・・) ナランフレグはそう思った。ド派手なゴーグルを着けたウマ娘が一人いる。更に 「落ち着け・・・落ち着け・・・落ち着け・・・落ち着け・・・」 何やら、ブツブツと独り言を言い続けている。 顔が覆われてるため誰だか分からないが、ふとゼッケンを見てすぐに気づいた。 (3番、メイケイエール・・・) それは彼女、レースで大暴走を繰り返すメイケイエールだった。 その事に気づくと、敢えて彼女を見ることをナランフレグは止めた。もう気にしても仕方ない。同じレースに出ることについて腹はくくってきたじゃん、と心の中で自分をなだめる。

15 22/04/11(月)03:09:14 No.915712600

そんな最中 「ナランフレグさん」 と彼女を呼びかける声がした。 そちらに彼女が振り向くと、いたのは芦毛のセミロングのウマ娘。 「モエさん」 それは同期のカレンモエだった。 「久しぶりね。セントウルステークス以来じゃない」 と彼女は微笑んで見せる。 「あ、うん。そうね」 と、ナランフレグは頷いてみせた。 そういえば、と彼女は思い、周りを見渡すと、よく知った顔が何人もいる。17番のジャンダルム、18番のサヴォワールエメ。同期のウマ娘の顔もちらほらと。 短距離重賞は数が少ないだけに、こういう事はよく起こる。そして競走生活も長くなりがちなため、世代も幅広くなる。そんな事を改めて確認した彼女だった。

16 22/04/11(月)03:09:43 ID:yrOKiVzM yrOKiVzM No.915712649

スレッドを立てた人によって削除されました 長えなこの文

17 22/04/11(月)03:09:45 No.915712655

そんな最中 「ね、ナランフレグさん」 「あ、何?モエさん」 「ナランフレグさんは10番なのね」 とカレンモエは胸のゼッケンを確認してそう言った。 「あ、うん。モエさんは・・・」 と彼女の胸元を見ると 「9番」 と言い、少しはにかんで見せる。 そして 「隣同士、よろしくね」 とナランフレグに微笑みかけ 「あ・・・うん」 とナランフレグは彼女から視線を逸らして、頬を欠いた。

18 22/04/11(月)03:10:09 No.915712689

少しこそばいい風が流れる中で 「あと・・・あの子にはお互い気を付けようね・・・」 そうカレンモエは声を殺してそう言って 「うん・・・」 声を沈めてナランフレグはそう答えた。 『スタートしました!』 遂にシルクロードステークスの幕が切って落とされた。 そして 『揃ったスタートになりました!』 出遅れたウマ娘は一人も出ないスタートとなり、会場から拍手が上がる。 そう、出遅れたウマ娘が誰も居なかったのだ。 ((((((えっ?)))))) 参加したウマ娘のほぼ全員がそう思った。メイケイエールは、出遅れなかったのだ。

19 22/04/11(月)03:10:28 No.915712718

(いけない・・・!) そんな事どうでもいいと気を取り直して先行争いをするウマ娘達、そんな中で先頭を奪おうとした芦毛のウマ娘。カレンモエ。先駆けをしようと前へ脚を進め始める。 『先頭はレッジェーロ!そしてカレンモエが二番手か!?』 そんな最中、会場にどよめきが起こる。 『そして内からはメイケイエールも行きました!!!』 内側からカレンモエに併走するように脚を進めるメイケイエール。少し掛かり気味な態度を見せ (うわ・・・・・・) カレンモエがそれに少し怯む。彼女もメイケイエールの事は知っている。外によれて当たられないか、と危惧する中で 「ん”ん”ん”ん”ん”ん”ん”!!!!!!」 何かに耐えるように、必死に自分を落ち着かせるように。メイケイエールは自身の掛かりを沈めようと必死に脚を貯め始めたのである。

20 22/04/11(月)03:10:52 No.915712758

そんな中で3人のウマ娘が前に抜け出し、メイケイエールは四番手、カレンモエは五番手に着けている。 そして (モエさん・・・大丈夫かな・・・) 前を見ながら後方でナランフレグは様子をうかがっていた。いつもと違い最後方ではなく、後方から数えて四番手ほど。それは阪神での二戦で学んだことだった。 後方からの追い込みではどうしても分が悪い。少しでも前につけて、それをしながらも脚を貯める必要があると。 そして、それぞれのウマ娘の位置取りは変わらず、第三コーナーへ。少し早めのペースでレースが流れていく中、バ群は一段となり、第四コーナーへ。 (少しペースが速いけど・・・!) 前を向くカレンモエ。

21 22/04/11(月)03:11:10 No.915712787

(前が垂れて来たらアタシの見せ場・・・!) 後ろからライン取りを伺う、ナランフレグ。 そして (がまん・・・まだ我慢や・・・!!!!!) 何かを必死にこらえるメイケイエール。 中京の最後の直線がウマ娘達の前に迫っていた。

22 22/04/11(月)03:11:32 No.915712822

スプリンターズステークスの後のこと。 「我慢が大事だよ」 そう、トレーナーに彼女は言われた。何度も何度も言われた。 でもいつも出来なかった。 「いくんやぁぁあああああ!!!」 そうやってレースではいつも全力を出して、そして迷惑をかけて。 斜行。進路妨害。それを突きつけられて、何度も何度も怒られて。 「レースに出る以前の問題だ!!!」 そんな事を色んな人に言われて。その度にしょげて帰ってきて。 泣くときは一人だった。ひとりで静かに音もなく涙を流すのが、いつものレースを終えた後の日課。 そんなある日のことだった。 「アンタなんで泣いてんのよ」 夕刻。校舎裏。誰も来ないはずの場所に、一人のウマ娘が現れた。 小さな身体。生意気そうなつり上がった瞳。彼女の事を、彼女、メイケイエールは知っていた。

23 22/04/11(月)03:11:57 No.915712866

「スイープ・・・トウショウ・・・さん」 魔女のような帽子をかぶり、箒をもって魔法少女になりたいなんて、ワガママな言動を繰り返すウマ娘、それでも宝塚記念をはじめG1レースに何度も勝った実力者の彼女。 彼女は鼻をならすと、彼女の傍に座り込んだ。 そのまま、何も言うことなく二人の時間は流れていく。ただ太陽が移ろいを見せる中で、 「あの・・・あたし・・・」 静かにメイケイエールは語り出す。今までのレースのことを。それを何も言わずスイープトウショウは聞いていた。 そして一通り彼女の話が終ると 「なんだ。そんな事なの!」 と軽い調子で言ってみせる。 「そんな、事って・・・」 とメイケイエールが途惑う中

24 22/04/11(月)03:12:14 No.915712893

「いい!?アタシなんてね!レース直前で出るのイヤになって!!!レースをボイコットしたことあるんだから!!!」 どこか自慢気にスイープトウショウは笑って見せた。 「えぇ!?」 驚くメイケイエール。それに気をよくしたスイープトウショウは、 「それだけじゃないわ!!!トレーニングも嫌いだから、サボってやったわ!!!それも何度もっ!!!」 尚も鼻高々に彼女は語り出す。 それからはスイープトウショウの独壇場だった。 ジュニアの頃はイヤイヤ良い子にしてた事。クラシックに入って、いらつき初めて自分に正直になり始めた事。そして大事なG1レースで何度もゲート入りを拒み、大騒動になったこと。 そして何度も彼女は言うのだ。 「さっすが魔法少女スイーピーねっ!アンタもそう思うでしょ?」 と。

25 22/04/11(月)03:12:28 No.915712917

そんなあっけらかんとした態度があってか、いつの間にかメイケイエールの顔に涙は消えていた。 そして、 「ありがとうございました!」 と彼女はスイープトウショウにそう言って立ち上がった。 それを見たスイープトウショウは大きな眼をしばたたかせ 「は、はぁ?べ、別に、アタシは何もしてないじゃない!」 と焦ったように彼女に食いかかる。 「いえっ!ありがとうございますっ!スイープトウショウさん!」 そして 「そろそろ、わたし!練習に戻りますっ!!!」 と元気よく言うと、彼女はトレーナー室へと駆けだした。スイープトウショウに手を振って。 そんな彼女の背中を見て 「・・・ばか」 と一言呟くスイープトウショウ。そしてどこか晴れやかな気持ちで彼女も立ち上がる。夕日が沈みゆく校舎の影には、誰の姿も残っていなかった。

26 22/04/11(月)03:12:46 No.915712956

トレーナー室の前についたメイケイエールは、そのドアを開くのをためらっていた。 このドアの先にはトレーナーがいる。今日は練習をサボってしまった。そんな意図など全くなかったが、連絡をトレーナーに一切していない。 いつもそうだ。いつも暴走してしまう。そんなつもりなどないのに。結果が、行動が。いつもちぐはぐになってしまう。 自分自身への嫌悪感からか、彼女はドアの前に立ち尽くしていた。 そんな最中である 「えぇ・・・はい・・・大変申し訳ございません・・・」 誰かの声が部屋の中からする。彼女には聞き覚えがあった。トレーナーの声だ。 電話口で誰かに謝っているんだろう。それは紛れもなく、自分のせいだ、と、メイケイエールは思ってしまう。 (やっぱり・・・今日は帰ろうかな・・・) 次第に心が沈むゆく。鉛のように重く、深海のように深く。 自分のせいで誰かが謝っている。世話になっている人が謝っている。それを自覚して、どこまでも自己嫌悪が渦巻いていく。 そんな最中だった。

27 22/04/11(月)03:13:10 No.915712990

「本当に申し訳ございません・・・ですが、あの子は真面目すぎるんです」 その言葉が、少しだけ、彼女の深い海の底の心に光を差し込ませた。 「いえ・・・そう言ったつもりでは・・・。本当にあの子には悪気はないんです。・・・真面目すぎて。・・・いえ、そのような。私の指導不足です。大変申し訳ございません・・・」 言葉の端に現れるのは、自分の事を思ってくれているトレーナーの意識の端々。 『真面目すぎる』と言ってくれたこと。『悪気はない』と理解してくれたこと。 自分がやってきたことが覆ることはない。過去はもう戻らない。だが、このとき彼女は思ったのだ。 (このままでええの、あたし・・・) と。 さらに (もっと・・・色々!出来るようにならんとあかんのやない・・・?)

28 22/04/11(月)03:13:22 No.915713014

スレッドを立てた人によって削除されました あの…何レスくらいあるのでしょうかこの文…

29 22/04/11(月)03:13:32 No.915713033

と。 そして (出来る事・・・!我慢っ・・・!トレーナーさんの言うことを・・・ちゃんと聞く・・・!!!) 少しだけだが彼女の心の歯車が回り始める。 そしてメイケイエールは、その扉を開いた。目の前にある扉を。

30 22/04/11(月)03:14:14 No.915713095

場面はシルクロードステークス、最後の直線に戻る。 『さぁここで!先頭はビアンフェ!ビアンフェに変わった!!!』 先頭を突っ切るウマ娘。 そんな中 「いっ・・・!」 前をしっかりと確認し 「きっ・・・!!!」 誰も居ないことをしっかりと見定め 「まぁぁぁあぁぁぁああああすっっつ!!!!」 メイケイエールは貯めに貯めた脚を大爆発させた。 『間からはメイケイエール!!!メイケイエールが早くも先頭に変わった!!!』 残り300mを残してメイケイエールがハナを奪う。

31 22/04/11(月)03:14:40 No.915713134

(くっ・・・!!!) 必死にカレンモエもその背中を見て食らいつこうとするが (速い・・・!!!) 全く差が縮まらない。 そんな中で (差しきる・・・!!!) 大外から飛んできたウマ娘にも彼女は抜かれる。 十八番の直線一気を携えて、飛んできたのは 『外からシャインガーネット!!!大外からナランフレグが凄い脚!!!!!』 勿論彼女、ナランフレグ。

32 22/04/11(月)03:14:54 No.915713156

『シャインガーネットも伸びてきたが!?』 しかし差しウマの脚も衰えない。 『ナランフレグも来ているが!?』 ナランフレグも同様である。 だが 『先頭はメイケイエールだ!!!!!メイケイエールだ!!!!!』 誰にも彼女に肩を並べる事を許さず 「やりまぁぁぁぁぁあぁああああすっ!!!!!!!!」 彼女、メイケイエールは 『最後はメイケイエール!!!!!メイケイエールだ!!!!!』 1バ身差の完勝で、ゴール板を駆け抜けたのだった。

33 22/04/11(月)03:15:15 No.915713187

シルクロードステークスが終わった。 ナランフレグは三着に入線。カレンモエは伸び悩み七着。 ナランフレグにとってみれば、上々の成果だったが、カレンモエにとっては少々厳しい結果となった、そんなレースだった。 「お疲れ様、モエさん」 「お疲れ様、ナランフレグさん」 汗を流しながら、ターフを駆けて、クールダウンをしていく二人。 「ねぇ、ナランフレグさん」 「はい」 「すっごく速いわね。あなた」 そう歯を見せて笑うカレンモエに 「・・・どうも」 と、ナランフレグは首をすくめて見せた。

34 22/04/11(月)03:15:37 No.915713214

ただそれよりも、彼女が気になっているもの。それはこのレースで一着を取ったウマ娘の姿だった。 「エールちゃん!おめでとー!」 「よくやったぞ、メイケイエール!」 会場からは割れんばかりの拍手と歓声。 「ありがとー!!!ありがとーございまぁぁぁぁあああす!!!!」 それに両手いっぱいで喜びを表現するウマ娘。 「すごい歓声ね・・・」 とナランフレグが呟くと 「ま、地元だからじゃない?」 とカレンモエが言った。 「地元かぁ・・・」 と目の前の若きウマ娘を見て、会場に手を振るウマ娘を見て、ナランフレグの目が優しく柔らかに細くなる。 そして (何だ・・・ちゃんと走れるじゃん、アンタ) と、彼女の姿を見てそう思ったのだった。

35 22/04/11(月)03:16:40 No.915713331

こんな話を私は読みたい 文章の距離適性があっていないのでこれにて失礼する いままでのやつ fu964917.txt

36 22/04/11(月)03:17:21 No.915713383

久々にならんフレグありがたい…このスイープ頼もしいな…

37 22/04/11(月)03:18:37 No.915713502

削除依頼によって隔離されました 30レスは長いよ‥読むの疲れた

38 22/04/11(月)03:19:45 No.915713577

最初からtxt貼るだけでもよかったんじゃないか?

39 22/04/11(月)03:29:37 No.915714423

がっつりエールちゃんの話じゃん…ありがとう…

40 22/04/11(月)03:32:11 No.915714640

待ってたぜ 一人一人にドラマが積み上げてきたものがあるんだよな

41 22/04/11(月)03:35:03 No.915714912

ここ最近の楽しみになってる読み物来たな… ここから高松宮に繋がるんだから楽しみ過ぎる…

42 22/04/11(月)03:37:42 No.915715138

高松宮杯まで書く気なのかい!?と「」に驚かれてたがマジでもうここまで来たら来るなこれは… エールちゃん自体の出番はあるとは思ってたけどまさかここまでがっつり書いてくれるとは思わなんだ

43 22/04/11(月)03:48:21 No.915716010

なんか変なのがいちいちケチつけてきてるがスレ「」には気にせず書き続けてほしい 俺はこれが始まった頃から楽しみに続きを待っとるんじゃ