22/04/03(日)23:33:54 いくつ... のスレッド詳細
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22/04/03(日)23:33:54 No.913254298
いくつもの冒険と戦いを経て、チャンピオンという栄冠を掴み取った。 友達や仲間も増えた。 自分を必要としてくれる人も大勢できた。 そんな人たちの期待に応えたい。 そう思っていた。 だが、それが失えば。 皆からの期待に応えられなければ。 皆は自分を見離さないだろうか。 自分はそこに居られるだろうか。 その光景を想像して、心が軋む。 そしてそれが現実に…。
1 22/04/03(日)23:34:08 No.913254398
目を開ける。 見慣れた天井が視界に入った。 身体を起こすと、寝間着が薄らと湿っていることに気がつく。 寝汗をかいていたようだ。 朧げな記憶を辿る。 嫌な夢を見た。 自分が皆に見離されたら。 そんな不安な光景を夢に見てしまった。 そんなことをする人たちではないのに。 もしそうされたら。 そうなってしまったら。 そう思うと身が震える。
2 22/04/03(日)23:34:27 No.913254539
「…修行行くか」 このままでいてもどうにもならない。 じっとしていても不安に押しつぶされそうだ。 そんなことを考えていると、着信音が鳴り響く。 「もしもし?」 「あ、レッド?おはよ♡」 「あ、あぁ。おはよう」 ブルーからの通話に戸惑いながらも対応する。 何故このタイミングできたのかがよくわからないが、特に嫌な気分になったわけでもないので普通に受け答えする。 「どうした?こんな朝からかけてきてまた何かの買い物に付き合ってとかのお願いか?」 「…レッド、今日がなんの日か忘れてない?」 「え…?」
3 22/04/03(日)23:34:44 No.913254666
そう言われて、思考を巡らせる。 なんなのだろうか。 自分は何を忘れているのか。 しばらく考えても思い出せない。 すると、受話器越しにブルーのため息が聞こえた。 「あなた今日、挑戦者とポケモンバトルするって言ってなかったっけ?」 「…あ!!」 思い出した。 何人かが自分にバトルを申し込んで、それが公式大会としてのものになったため後日ということにになっていたのだ。 「もし忘れてたらオレに連絡して思い出させてくれよ、とか言ってたけど本当にそうなったわね…」 「ご、ごめん!」 「いいわ。後で埋め合わせしてもらうからとりあえずさっさと行って勝ってきなさい」
4 22/04/03(日)23:34:59 No.913254754
自分が勝つのを前提とした発言。 それに少し引っかかりを覚える。 「レッド?」 「…いや、大丈夫だよ。行ってくるから」 「う、うん」 通話を切り、急いで身支度を整える。 落ち着いて行こう。 そう自分に言い聞かせる。 心に浮かぶ暗い気持ちに蓋をし、レッドは家を出た。
5 22/04/03(日)23:35:22 No.913254875
「勝ったな…」 日もくれた街中。 バトルを終えて、帰路に立つ。 戦いには勝った。 思っていたより苦戦はしたが、なんとか勝つことはできた。 「でも、なんだろうな…」 何か、心にしこりが残る。 満足できるバトルではなかった。 相手が悪いのではない。 悪いのは自分だ。 楽しいはずのバトルなのに。 心のどこかに影を感じていた。 「レッド、お疲れ様」 急に声をかけられた。 そちらを振り向くまでもなく声の主が目の前に歩いてきた。
6 22/04/03(日)23:36:19 No.913255285
笑顔のブルーと目が合う。 「え?ああ、ありがとう」 目の前にペットボトルを差し出され、それを受け取る。 サイダーの炭酸が空いた胃に染み渡る。 「バトル見てたわ。やっぱり勝ったじゃない」 「…ああ。でも、なんだかあんまりスッキリしなくてさ」 「…そう」 「驚かないのか?」 意外な反応にレッドの方が驚いた。 「今朝からなんだかレッドがおかしいって思ってたからね。 そういうことも話したいし、これから飲みに行く?」 「…そうだな。腹も減ってきたし」 誰かに本音を語りたい気持ちもある。 だからブルーの誘いを了承した。
7 22/04/03(日)23:36:54 No.913255508
「ちょっとね。今日のレッドは上の空な気がしたの」 居酒屋で、ビールを飲みながらブルーが言った。 「わかるのか?」 「そりゃあね。レッドとは付き合い長いしアタシだってリーグ3位にはなったトレーナーだもの。 レッドの戦い方がおかしかったらわかるわ」 ブルーの話を聞きながら小籠包を口にする。 「あっつ!あちちち…!」 冷ますのを忘れてそのまま食べたせいで熱さで口の中を痛める。 「ほら、いつもよりうっかりしてる」 水を差し出され、それを受け取って飲む。 「たはは、ごめんごめん」 謝りつつ、今度はエビマヨを食べる。 独特の味付けをされたマヨネーズとエビのぷりぷりした食感が火傷した口にも合う。
8 22/04/03(日)23:37:39 No.913255852
「で、何かあったの?」 「…嫌な夢、見ちゃってさ」 今更隠すわけにもいかず、事情を話す。 「誰かの期待に応えられなかったらどうしよう。 みんなに見離されたらどうしようって。 そういう夢を見たら、実際にそうなったらって思っちゃって」 「別にみんなそんなのしないと思うけど」 「うん、オレもそう思う。だけど…」 ビールを飲みながらレッドは続ける。 「昔、戦いから逃げ出した時あっただろ? あの時追いかけてくれたのはブルーだけだった。 それと同じぐらいのことが起こったらって」
9 22/04/03(日)23:38:13 No.913256089
言いながら思い出す。 あの時の1人きりの海岸。 彼女が追いかけてくれなかったら。 誰も来てくれかったらと思うと手が震える。 「あの時はみんな必死で、オレなんかに気を回してる余裕なんてなかったのはわかってる。 けど、もしって考えたら気になって…」 ブルーの顔を見る。 彼女は微笑みを浮かべていた。 あの時のような、慈しみを含んだ笑顔。 優しい目でレッドを見ていた。 「次はアタシもそうするって思う? レッドを見離したりするって」 「…ああ」
10 22/04/03(日)23:38:47 No.913256328
その時、自分がどんな表情をしていたのかわからない。 ただ、そう答えることが辛かったのは自覚できた。 だが、ブルーは怒りもせず、茶化しても来なかった。 ただただ、真っ直ぐにこちらを見つめていた。 「大丈夫。アタシはレッドを見捨てないから」 「でも、もしかって思っちゃうと…」 「…そう思うのも仕方ないと思う」 ブルーは否定してこなかった。 「誰かを完全に信用するって難しい。 どんなに理解してるつもりでも他人のことは全部わかるわけじゃない。 だからもしって思うのは当然のことだと思う」
11 22/04/03(日)23:39:23 No.913256580
自分の中に浮かぶ不安。 それをブルーは否定をしなかった。 むしろ当たり前と言ってくれた。 否定ではなく許容。 ブルーなりの気遣い。 それがレッドの心に染み渡る。 「ブルーは、オレが見離すとか考えたりしないのか?」 「ちょっとだけ、考えることはあるわ。 過去にあなたにしたこともあるし」 そういえば出会いでは彼女の詐欺にあった。 あの時のあっさりと黙らされた自分に失笑する。 「でも、アタシが何度もあなたを裏切って、それでもレッドはアタシを見捨てなかった。 だからアタシもレッドを見捨てない。 少なくとも、今はそうしたいと思ってる」
12 22/04/03(日)23:39:56 No.913256794
そこまで言うと、ブルーはビールを飲んで、 「ま、何回もレッドを裏切ったアタシが言っても信じてもらえないかもね」 「いや、信じるよ」 自分もビールをあおり、言う。 「完全に信じるのは無理でも、ブルーがそうしたいって気持ちがあるのはわかったから。 だからオレはブルーの今の気持ちを信じる」 「…うん」 ブルーもそれに頷いた。 「例えみんながレッドを見捨てても、アタシだけは絶対に味方になるから。 あなたがどれだけ他人に拒絶されるのが怖いかということは今聞いたから。 だから不安になったならあの時みたいにアタシが駆けつけるから。 側にいてあげるから」 「うん、なんだか信じられるよ」
13 22/04/03(日)23:40:27 No.913257022
ブルーと話していて、不安が和らぐ。 完全に無くなるわけではない。 だけど、この気持ちを否定せずに向き合う。 そう考えると前向きにもなれた。 「ありがとう、ブルー」 「いいえ。じゃ、ここの支払いお願いね♡」 「たはは、お礼としてそうするよ」 気分がよく、ブルーの欲求もすんなり受け入れられた。 「じゃ、このワインたのもー♪ あ、こっちの高めのもせっかく出し頼んじゃおっかなー」 「…お手柔らかにな」 財布の中を思い出し、レッドは早速安請け合いを後悔した。
14 22/04/03(日)23:40:48 No.913257183
食事を終え、自宅へと向かう。 「ご馳走様、レッド」 「覚悟してたよりは高くなくてよかったよ」 「さっき裏切る裏切らないって話した直後なのにあんまりたかるのもね」 雑談をしながら歩く。 重かった足取りも軽くなっていた。 と、大きな欠伸を出してしまった。 「眠い?」 「酒入ったのもあるけど、変な夢見たから目覚め悪かったのもあるかな」 ふぅん、と返される。 「また変な夢見るなら、アタシが添い寝してあげよっか?」 オホホとからかうように笑いながらブルーが尋ねてきた。
15 22/04/03(日)23:41:13 No.913257357
「そうだな、いっそそうしてもらうかな」 ブルーと一緒ならよく眠れるかもしれない。 深く考えずそう思った通りに答える。 と、ブルーが顔を赤くした。 珍しく反応に目を丸くしてしまった。 「…そんなにアタシと寝たいの?」 そう言われて、ようやく年頃の男女が一緒に寝ることの意味を思い出した。 「い、いや!オレそんなつもりじゃ!」 「レッドのことだからそうだとは思ったわ…」 ため息をついて、ブルーが冷静さを取り戻した。 だがこちらは逆に慌てふためいていた。 深く考えないでの発言だったのに。 いや考えなかったせいでとんでもないことを言ってしまった。
16 22/04/03(日)23:41:47 No.913257573
「じゃ、レッドがそこまで言うならそれに応えてあげなきゃね」 「い、いやそこまでしなくても!?」 「遠慮しないで。さっきレッドが弱ってるなら側にいてあげるって言ったばかりだしね」 ブルーに手を引かれ、自宅へと連れて行かれる。 もう断れる流れではなく、レッドは受け入れるしかなかった。
17 22/04/03(日)23:42:02 No.913257687
夜遅くの自宅の寝室。 いつものベッド。 なのにいつもと違う。 ブルーが隣にいる。 女性と一緒に寝るなんて初めてのことだ。 心臓が高鳴る。 同じシャンプーを使ったはずなのに彼女の髪の匂いが気になる。 自分から借りた寝間着を着て、それでも隠しきれないボディラインが記憶に鮮明に残っていて閉じた瞼に浮かび上がる。 そんな状況で眠りにつく。 レッドにはそれが非常に困難に思えた。
18 22/04/03(日)23:42:22 No.913257816
「…レッド、起きて」 「んー、あともう少し…」 「そんなこと言って、またバトルの予定とかあるんじゃないの?」 「え!?」 慌てて飛び起きる。 傍らに置いていたポケギアを操作してスケジュールを確認した。 幸いそこには今日のバトルの予定は全く記載されていなかった。 安心して肩を落とす。 と、後ろから何かがのしかかってきた。 「おはよ、レッド」 「…ぶ、ブルー!?」 いつもの寝室にいないはずの人物に驚く。 が、そういえばと昨夜の出来事を思い出す。
19 22/04/03(日)23:42:57 No.913258044
「よく眠れた?」 「うん、すごくよく」 気分が良い。 昨日のような倦怠感や暗い気持ちもない。 爽やかな朝を迎え、心が晴れやかになっていた。 昨夜の葛藤が嘘のようだ。 「よかった。なら今日何も予定ないでしょ? アタシとこれから遊びに行かない?」 「そうだな、そうするか」 快眠を授けてくれたお礼もしたい。 ならば断るわけにはいかなかった。 「ありがとな。オレのためにここまでしてくれて。 やっぱり友達っていいな」 「…友達、ねぇ」 ブルーが半目でこちらを見てくる。
20 22/04/03(日)23:45:32 No.913259068
「どうした?」 「ただの友達が添い寝とかすると思う?」 「いやしないだろうけど…」 大きなため息をつかれた。 「鈍感なのはわかってたけどここまで気づかないとはね…」 「鈍感?」 「ううん、いいのよ。それならこっちが頑張るだけだから」 手を繋がれる。 暖かい手のひらに少しどきりとする。 「じゃ、早く準備して!今日はとことん遊びましょ、ダーリン♡」 「わかったよ…」 ダーリン、という響きに悪い気はしない。 そのことを不思議に思いながらレッドはベッドから抜け出した。
21 22/04/03(日)23:45:47 No.913259201
以上です 閲覧ありがとうございました
22 22/04/03(日)23:46:46 No.913259596
お疲れ様です 割と普通にエビチリ頼んでる…
23 22/04/03(日)23:53:51 No.913262409
>「そうだな、いっそそうしてもらうかな」 >ブルーと一緒ならよく眠れるかもしれない。 >深く考えずそう思った通りに答える。 >と、ブルーが顔を赤くした。 >珍しく反応に目を丸くしてしまった。 >「…そんなにアタシと寝たいの?」 >そう言われて、ようやく年頃の男女が一緒に寝ることの意味を思い出した。 >「い、いや!オレそんなつもりじゃ!」 >「レッドのことだからそうだとは思ったわ…」 >ため息をついて、ブルーが冷静さを取り戻した。 >だがこちらは逆に慌てふためいていた。 >深く考えないでの発言だったのに。 >いや考えなかったせいでとんでもないことを言ってしまった。 このへん実にレッドさん
24 22/04/03(日)23:56:52 No.913263685
今回の話は今朝の寝起きで思いつきました 自分にとってのレブルは許容というか お互いの良いところも悪いところも含めてこういうやつと受け入れあってるとかそんなイメージです あとたまには鈍感レッドさんを書いてみたかった
25 22/04/04(月)00:03:47 No.913266307
ほんと出会ったころと関係が全然変わったよね…
26 <a href="mailto:便乗1/2">22/04/04(月)00:21:49</a> [便乗1/2] No.913273672
『見離されちまう夢ねぇ…レッドさんが見放されるよーだったらきっと人間自体が見離されてるッス。悪い夢見たと思って忘れときやしょ』 『…ありがとゴールド、ちょっと元気出てきたよ』 見離される、か… ミョーチキリンな追記をしやがってた封筒が脳裏をよぎる。今思えば、正式に授かった先輩方への手紙描いてる最中に駄々こねてわいてきたオレがイレギュラーなんだろうが…あん時のショックみてーなもんは今でも拭えちゃいねえ。 …ダメだ、いっぺん落ちるとどうもネガティブんなっちまう。ぶっちゃけ見離されそうな事ばっかやってる自分が一番悪いのがムカつくが…誰かに、肯定されたくなっちまった。
27 <a href="mailto:便乗2/2">22/04/04(月)00:22:04</a> [便乗2/2] No.913273784
『見離される不安…?』 『あぁ、クリスは正直よ…オレ様に愛想尽きたりしねーの?』 『そーね、ビミョーにデリカシー足りないとこあったりいくら言っても注意聞かないしスケボーで行列割り込んだり人だけ帰して危険地帯突っ込んだり敵に化けたりカッコつけで挑んでおいて見てて心配になるほどボロボロになったりで文句なんかいくらでも溢れてきちゃう』 『…もしやとっくに愛想尽きちまってる?』 『そんなわけないでしょ。ゴールドは一人になったら何しでかすか不安で心配で仕方ないもの、一人になってたらわたしが捕まえに行くわよ、当たり前でしょ?』 『褒めてんのか貶してんのか分かりづれーな…けど、ありがとよ』