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  • 9月中旬... のスレッド詳細

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    22/04/03(日)03:18:03 No.912897430

    9月中旬。トレセン学園。 めんどくさい。何もかもがめんどくさい。 そう思いながらナランフレグはトレーナー室に向けて歩みを進める。 セントウルステークスの大敗から1週間が過ぎた。レースの疲れを取るため、休養をとった彼女。しかし今日からはトレーニングが再開。次走に向けて本格的に練習を積むべき頃合いだったが、依然として彼女の心は重かった。 レシステンシア、そしてピクシーナイトとの差。見えている景色の違い。 そして同期のクリノガウディーやカレンモエ、年上のジャンダルムが粘って掲示板を確保したにも拘わらず、まったく先団に届かなかった自分自身。。 それらの記憶が、不甲斐なさが、厚い雲のように彼女に漂い続けていた。 しかしそうはいっても時間は進む。次走は迫っている。 そして、いつのまにか、彼女はその部屋の前についていた。トレーナー室のドアの前に。

    1 22/04/03(日)03:18:28 No.912897477

    「やぁ」 ドアを開けて現れたナランフレグを見て、トレーナーはいつものようににこやかに微笑んでみせた。 ナランフレグはそれに軽く頷くと、トレーナーに促され、向かい合うように応接の椅子に座った。 「どう、しっかり休めた?」 「まぁ、ね」 どこか気丈そうに答える、その態度を見ながら彼は苦笑した。 人の前だとどこまでも強気。だが実際、セントウルステークスで完敗して思うところもあったのでは、と彼は思っている。 しかし相手がそのつもりならこちらもそのつもりで。そう思い 「次走の話をしたいんだけど、いい?」 と話しかけた。 その言葉に一瞬彼女の瞳が揺れる。 次走。そこに何が待っているのか、頭に浮かんだのは一抹の不安。しかしそれを決して表に出さないように 「別にいいけど」 彼女は答えたのだった。

    2 22/04/03(日)03:18:45 No.912897507

    10月上旬、阪神レース場、第11レース。 芝1200m、リステッド競走。オパールステークス。 天気は晴、バ場は良。 ゲートインを終えて、ナランフレグは9月中旬に行われた打合せの内容を思い出していた。 「阪神?」 「そ。阪神」 次走の事を聞かされたナランフレグは思わずトレーナーに聞き直した。そして思わず眉間に皺を寄せる。 しかしそんな態度どこ吹く風。彼の調子はいつもと変わらない。 そんな態度を見てナランフレグはため息をつき、そっぽを向く。 「そ、そんな嫌がる顔しないでよ、ね?」 慌てた様子で彼女をなだめるトレーナー。彼には彼女がご機嫌斜めになる理由もよく分かった。 何せ阪神レース場は、彼女の苦手な右回り。そして淀を走るのが、実は彼女、これが初めてなのだ。

    3 22/04/03(日)03:19:06 No.912897550

    しかしこれは彼なりの気遣いからのレースの選択でもあった。 ここまで走ってきたレース場は、中京、新潟、そして偶に中山。限られた戦場で彼女は走り抜けてきた。 しかし、前走の、得意の中京のセントウルステークスで大敗。確かにハイレベルなメンツでハイペースなレースになったことは致し方ないにしろ、もう少し走れるのでは、と期待していた彼にとっても衝撃的だった。 そこで新たな活路を見付けるため、今回の阪神の1200mを選択した。 何せ彼女の直線一気は本物。それを活かすレースを考えるのが彼の仕事。可能性がある限り、可能性を見つけるために努力するのが彼の努め。どこまでも職務に彼は一途であった。 しかしそんな事つゆほど出さず、 「まず、走ってみようよ。それで何が得られるかは、走り終えてから考えよう。ね?」 そんな風に彼に説得されて、彼女は渋々出ることにしたのだった。 初めての阪神レース場を。、

    4 22/04/03(日)03:19:25 No.912897577

    「スタートしました!」 一斉に駆け出す16人のウマ娘。 前走とは異なり、まずまずのスタートを切ったナランフレグ。いつものようにバ群後方につけ、前を伺う。 短い直線が終わり、第三コーナーへ。普通はスピードがコーナーでは落ちるところだが、1200mスタートのレースの場合、約200m強と直線が短いからだろう、むしろハイペースでレースは進んでいく。 (右・・・曲がりづら・・・) いつもと違う右回り。それに苛立ちを感じながらもナランフレグはコーナーをこなしていく。 そして第三コーナー中間点に入ったとき (あれ・・・・・・) ナランフレグは気づいた。 何故か、右回りなのに走りやすいことに。スピードが落ちにくいことに。

    5 22/04/03(日)03:19:40 No.912897603

    それは身体が前に自然にのめる感覚。その感覚には身に覚えがあった。 (下り坂・・・!) そう、阪神レース場はホームストレッチの中間点まで下り坂。そしてそれは、直線にはいってすぐの所まで下り坂のレース場、中京と同じなのだ。 何度となく走った中京レース場。それと同じならば、と思い、彼女の瞳に力が宿る。 第四コーナーに入り、殆どバ群は一段。最後方からレースを眺め、仕掛け所を考えるナランフレグ。 あっという間に下り坂のコーナーを過ぎ、 『さぁ第四コーナーから直線に向かいます!前の争いアスタールビーが僅かに先頭か!?』 初めての淀の坂が、ナランフレグの前に姿を現そうとしていた。

    6 22/04/03(日)03:20:09 No.912897660

    『アスタールビーが先頭!』 先頭を突っ切る逃げウマ。しかし 『内の方からサヴォワールエメ!!!』 終始先行・好意につけた、ウマ娘が二番手の位置から先頭を伺う。 そんな最中、ナランフレグは、前にルートがないことを悟ると (抜け出す・・・!) 大外に臨機応変に身を振り出した。 『サヴォワールエメが先頭を伺う!!!ダイメイフジは少し下がったか!?』 依然として逃げ脚を緩めないアスタールビー。そんな彼女にサヴォワールエメの脚がじわりと寄ってくる。 必死に前のウマ娘が脚を動かし、200mを切った。

    7 22/04/03(日)03:20:31 No.912897704

    (逃げ切る!!!) (差しきる!!!) ここからは坂道。しかし、もうすぐでレースが終わる、二人が必死に脚を動かす、そんな最中 『追い込んできたのはタマモメイトウ!そしてナランフレグもきているぞ!!!』 後方からの直線一気。十八番の戦法を携えて (絶対に抜くっ!!!) ナランフレグが急上昇し始める。 前を捉える一筋の矢のように、脚を動かし、バ群を抜き去り。 そして 『抜け出したのはサヴォワールエメ!!!そしてナランフレグ!!!ゴールイン!!!』 ナランフレグはコール番を駆け抜ける。 初めての阪神で、彼女は二着にてレースを終えたのだった。

    8 22/04/03(日)03:20:59 No.912897759

    「いけるわ」 トレーナー室にて。戻ってきて早々、ナランフレグはトレーナーにそう告げた。 「え?」 「いけるわ、阪神」 途惑いの声を上げたことなど完全に無視して、ナランフレグは続ける。 「最後の直線がちょっと短いし、坂も奥の方にあるけど・・・早めに加速すればどうにかいけそう」 汗を帯びた身体で、疲れが残ったままにも拘わらず、彼女は活気に満ちた雰囲気でそうトレーナーに語って見せた。 はじめての阪神で二着に食い込んだことがよっぽど嬉しかったのだろう。そして、もう現在の彼女には、明るさしか纏っていなかった。セントウルステークスの敗戦などどこへやら、である。 そんな彼女の態度を見て 「ははっ」 思わず笑みがこぼれ落ちるトレーナー。 「何笑ってんのアンタ」 「いや、ごめんごめん」

    9 22/04/03(日)03:21:18 No.912897796

    それは安堵の笑い。調子がいつものように戻った彼女の姿を見て 「そうだね」 と一息つくと 「あと。中京とは違って、第四コーナーはスパイラルカーブじゃないからね。位置取りを早めに上げていくのがやっぱりいいかもね」 と付け加えた。 そんな彼の態度を見て、途端彼女は口をへの字に曲げて 「アンタ、そう言うことはもっと早く言いなさいよ」 と咎めるように口にした。 「ごめんな」 そう答えるトレーナーの表情は相変わらずの笑顔。明るさで満たされた控え室に、二人の姿がいつまでも輝いていた。

    10 22/04/03(日)03:21:41 No.912897836

    そして時は流れる。 12月中旬。阪神レース場。 芝1200m。オープンクラス、タンザナイトステークス。 天候は晴、バ場は良。 レース最終局面。 『さぁ、最後の直線に向きました!』 一段となり駆けていくウマ娘。 そんな中で今日は早めに仕掛けたナランフレグ。最後方でなく、バ群の後続集団の真ん中を突っ切る。 だが (ルートがっ・・・!!!) 彼女の周りは他のウマ娘だらけ。明らかに前塞がりの展開となってしまった。

    11 22/04/03(日)03:21:59 No.912897869

    淀じゃなくて仁川ですね

    12 22/04/03(日)03:22:01 No.912897872

    しかし (諦めない・・・!このまま行ってやる・・・!!!) 迷うことなくルートを変えない。 先団が垂れたらこれで前塞がり。併走するウマ娘の脚色が衰えなければ道はなくなる。それでも彼女はためらわない。 『前はヤマカツマーメイド!!!そしてレッジェーロ!!!』 内と外で二人のウマ娘が先頭争いをしていく中、 『残り200を通過!!!』 急坂にバ群は差し掛かる。 『ヤマカツマーメイドか!?レッジェーロか!?』 前を譲らない先頭二人。 そんな中で、ナランフレグは外側を確認すると (いける!!!) 隙間を縫って前に遂に抜け出した。

    13 22/04/03(日)03:22:22 No.912897913

    そして 『外からナランフレグ!!!外からナランフレグ!!!』 先頭を捉える勢いで、一気に彼女の脚色が冴え渡る。 急坂の疲れなどなんのその。必死に脚を動かす二人のウマ娘を完全に捉え (絶対に勝つ!!!) 彼女がそう思ったその瞬間だった。 『ナランフレグ!!!ゴールイン!!!』 彼女は、このとき初めて、オープンクラスでの勝利を手にしたのである。

    14 22/04/03(日)03:22:44 No.912897953

    同日、夜。兵庫県宝塚市内、ビジネスホテルにて。 良いレースになった。トレーナーはそう思い、ベッドに横たわってた。 何せ今日はナランフレグのオープン昇格、初めての勝利だったのだから。 クラシックの12月にオープンクラスに昇格してから2年が経った。それで初めてのこのクラスでの1勝。 G1戦線を戦っているウマ娘にしてみれば、大した1勝でないのかもしれない。しかし彼女に取っては、そして彼女を教える彼に取っても、かけがえのない金星に違いなかったのである。 「久しぶりに飲もうかな」 と彼は呟いた。 夕食はナランフレグと一緒にとったものの、アルコールは一切摂取せず。最近、飲酒から何となく遠ざかっていた彼ではあるが、一人になって落ち着いてくると、今日くらいは飲みたい気分が持ち上がってきたのだった。 (コンビニでも行こうかな) と思い、ベッドから立ち上がり、部屋の電気を消して、部屋の鍵と財布を手に取り、部屋から出たその時だった。

    15 22/04/03(日)03:23:12 No.912898008

    「うん!それでね、ちゃんと差し切れたのアタシ!」 廊下から黄色い声が響いている。 それはよく彼が聞いた声。ナランフレグの声色に違いなかった。だがいつもより声のトーンが高い。何より誰としゃべっているのだろうか、と彼は首を傾げる。 そこで声がする方へ歩いて行くと 「ありがとね!テレビで見てくれてたんだ!・・・うん。・・・うん!アタシ頑張るね!」 嬉しそうに、年相応の満面の笑顔で話すナランフレグの姿があった。 場所はエレベーターホール前。イヤホンを使い、スマートフォンで誰かとしゃべっているようだ。 「それでね・・・」 と彼女が言葉を続けようとしたその瞬間 「あ・・・」 そこにいた男性、彼女のトレーナーと目が合う。 その瞬間、彼女は顔を真っ赤に染めて 「ご、ごめん!今日はもう疲れたから!また・・・・うん!そ、それじゃ、おやすみ!」 といい、勢いよく電話を終わらせた。

    16 22/04/03(日)03:23:39 No.912898057

    そして、一つ、大きなため息をつくと 「・・・・・・何よ」 と決まり悪そうにトレーナーに鋭い視線を向ける。 「いや、別に」 とトレーナーが微笑むと 「あーもう!!!」 耳の赤さはそのままに、彼女は自室に向かおうとした。 そんな彼女の背中を見て笑いをこらえながら 「因みに、今の誰?」 と問いかけた。

    17 22/04/03(日)03:24:50 No.912898189

    その言葉に歩みを止めたナランフレグ。しばらくの沈黙の後 「おばあちゃん・・・と、知り合いのおじいちゃん達」 とぽつりと呟いた。 「そっか」 その言葉に満足そうにトレーナーが微笑む。 そんな彼の顔を横目で見たナランフレグは目をつりあげて 「ふんっ!!!」 恥ずかしさの余韻をそのままに、自室のドアを勢いよく開けて、部屋に戻っていったのだった。 こんな話を私は読みたい 文章の距離適性があっていないのでこれにて失礼する >淀じゃなくて仁川ですね ありがとう!間違えた!

    18 22/04/03(日)03:25:50 No.912898299

    fu940565.txt いままでのやつ ナランフレグのおばあちゃんとおじいちゃん達 http://www.hokkaido-nl.jp/article/24910

    19 22/04/03(日)03:27:32 No.912898494

    今日も良いものをありがとう…

    20 22/04/03(日)03:33:59 No.912899091

    相変わらずよく調べてるなー…

    21 22/04/03(日)03:34:01 No.912899095

    連日なのに物量がすごい!

    22 22/04/03(日)04:12:53 No.912902548

    着々とナランフレグのサクセスストーリーが築かれている…

    23 22/04/03(日)04:24:11 No.912903450

    次走はあのレースか…

    24 22/04/03(日)07:15:33 No.912914704

    ナランフレグ視点でのシルクロードSのエールちゃんがナランフレグ怪文書「」によってどういうふうに描写されるか今から楽しみです!

    25 22/04/03(日)07:24:32 No.912915482

    いつもながらよい作品だ…

    26 22/04/03(日)07:40:39 No.912917202

    タンザナイトSいいよね アレがあったから高松宮記念での勝利があった