虹裏img歴史資料館

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22/04/01(金)23:49:26 「け、... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1648824566450.png 22/04/01(金)23:49:26 No.912504432

「け、拳銃ですわ......!」 メジロマックイーンは吃驚した。 窓に打ち付けられる雨粒の波が示すように、外はとてもトレーニングできるような天気ではない。 屋内のトレーニング施設も満員となり、あぶれた彼女らはここ、ゴールドシップの部屋でポーカーに興じているところであった。 しかしこんなものを発見しては、到底時間つぶしどころではない。 「ああ、見たことねーのか?拳銃」 「そ、そりゃ本物を見たことある人の方が少ないと思うよ......」 「いやもちろんモデルガンだぜ」 持ち主らしいゴールドシップは高速で手札をシャッフルしつつ、普段と変わらぬ口調で隣のライスシャワーにツッコミを入れた。

1 22/04/01(金)23:49:37 No.912504496

「ビビリすぎじゃねーのかマックちゃん?」 「教科書を開いてこんなものが仕込まれてたら誰だって驚きますわ!」 「いや~ん何勝手にゴルピの教科書覗いてるの~?えっち~」 「貴方が『ポーカーの神々に祈りを捧げる......』と言ってゲームが停滞しているからでしょう!」 実際、ゴルシが謎の儀式を初めてもう15分が経過しようとしていた。 「第一、なんなんですのこれは......」 「あ~、なんだ、『思い出の品』ってヤツだこれは」 「思い出?」 ゴルシの話に疑問が尽きないのはいつもの事ではあったが、やはり気になるものである。 「そ、それって......どんな思い出?」 「お?聞きたいか?」

2 22/04/01(金)23:49:49 No.912504580

ゴルシがニヤリと口角を上げる。 「......全員レイズなら話してもいーぜ」 「......またほら話なのでしょう?」 付き合いの長い友人の悪い顔を見逃すマックイーンではない。 これは何かを企んでいる、と見て間違いない状況であった。 「......ですが、今の私、負ける気がしませんの」 湧き上がってくるこの自信は彼女の競技者としての勘なのか、無意識のうちに走った論理的思考なのか。 手に持ったフォーカードは、きっと最大の勝機だと。 「持ってるチップの2/3をレイズですわ!」 「ら、ライスも!」

3 22/04/01(金)23:50:03 No.912504651

「いいぜいいぜ、勝負はそう来なくっちゃなぁ!」 ライスもマックイーンも自分たちのチップの山をテーブルの中央へと押し出す。 この日もっとも高額な賭けが、行われようとしていた。 「じゃあ話すぜ......」 約束通り、とゴルシは手札を見えないように置いて切り出す。 「......ゴルシちゃんが警察騎バ隊に居た頃の話をな」 「「騎バ隊!?」」 つかの間の沈黙。 雨脚が強まったのか、窓をざぁざぁと打つ音によって外からの音がかき消される。 まるで部屋と外界が切り離されてしまったかのように。

4 22/04/01(金)23:50:18 No.912504727

「ああ。トレセン学園に来る前、アタシは警官だったんだ。警察騎バ隊......知っての通り、アタシらウマ娘の身体能力を活かして治安警備や災害警備をこなす部隊だ」 もちろん突拍子もない話を予感していたものの、いつものゴルシの話とは違い、中途半端なリアルさに二人はつい引き込まれてしまうのだった。 「学園を卒業してからなる子、けっこういるよね......」 「っていうか貴方今何歳ですの......?」 「女のコに歳を訊くなんてデリカシーが無ぇぞ~?」 「むぅ......」 実際ウマ娘にとってそう珍しくないキャリアではあるが、時系列とか、気になることが多すぎる。 「元気を持て余してたアタシは勧誘されるままに気づけば千葉県警の騎バ隊に入隊してたワケよ」 「想像できませんわ......ゴールドシップさんが警察官なんて......」

5 22/04/01(金)23:50:30 No.912504785

「んだと~?」 自分の古巣の様子を語るゴルシはいつもに増して饒舌で、身振り手振りを交えて少し早口になっているようであった。 「まーイメージに反して荒っぽい仕事ってのは案外少なかった。どっちかっつーと広報関係の仕事の方が多いくらいでな、あとはひたすら訓練よ」 「じゃあ......この拳銃はその頃使ってたもの......?」 「ちょっと違うな、アタシの物じゃなかった」 ゴルシはどこか遠くを眺めるように目線を上げる。 「後輩にいたんだ、『あやめ』ってヤツが。ゴルシちゃんよりちょっと背の低い、栗毛のウマ娘だった......」 言葉のトーンが変わる。熱心に教えるような語調から、懐かしむように、思い出すように。

6 22/04/01(金)23:50:43 No.912504854

「最初に合ったのは......たしか術科訓練の時だったな。柔道でさ、やたらアタシを上手く投げるもんだから、ちょっかい出してさ。そしたらなんだかんだで仲良くなったんだ」 「仲良くって、一方的に絡んでただけなのではなく?」 「ん?それも仲良くするに含まれるだろ?」 「......」 マックイーンはゴルシの自分に対する態度を思い出して、なんとくその光景が想像できた気がした。 「それからは自然と関わることが多くなってな。仕事でも背中を任せられる安心感があったし、実際何度か助けられたぜ」 右手を上げてそう語る様子から、相当信頼を置いた相棒であったという事が伝わるようだった。 「アタシらは110通報を受けて飛んでいくワケじゃねーからさ、わりと時間はあるんだ。そんでプライベートでもいつも一緒だった。楽しかったし、わりと趣味も合ったし......時々甘えてくるのが、可愛かったな」

7 22/04/01(金)23:50:59 No.912504927

「えっ、甘える......?」 「おう。『先輩、私最近疲れてるんです......』って、膝枕を要求してきたり......」 「なっ......!?」 「バスを待ってたら無言で腕に抱き着いてきて、そのまま寝ちまったり......」 「ななっ!?」 最初は反射的に脳が理解を拒んだが、他にもどんどんこの手のエピソードが出てくるのでマックイーンはついに認めるしかなかった。 「それって......」 「ああ......気づけば......付き合い始めてたんだ、アタシら」 マックイーンは礼儀も忘れ、口をあんぐりと開けて驚いた。

8 22/04/01(金)23:51:11 No.912504982

「こういう職場恋愛ってよくないのかもしれないけどよ、もうお互い止まれなかったんだ......もちろん仕事は割り切ってるし、そこは疎かにしてねーよ?ただ、アタシも初めての相手だったしさ、こう......思い出すと恥ずかしいな......」 頬を染めてはにかむ姿が、妙に大人っぽい。 「仲、よかったんだね......!」 「ああ、アイツは最高だった」 憧れに目を輝かせるライスにそう返すゴルシの表情は柔らかかった。 「それで......1年くらい経った所でな、ほら、女同士だと結婚できねぇだろ?それで婚約指輪の代わりにって、持ってた拳銃を交換したんだ。」

9 22/04/01(金)23:51:24 No.912505055

手に持った拳銃、ゴルシは慣れた手つきでそのスライドを引いて、残弾チェックの一連の動作を行いながらそう言った。 「アタシららしいやって、笑ったのを覚えてる。これで引退してもずっと一緒に居ようなって」 「そ、それで、あやめさんは今どうなさってるのですか?」 「死んだよ」 言葉が途絶え、訪れた静けさは雨音を一層強く意識させる。 ざあざあと窓に叩きつけては流れ落ちる、メロディもコードもない雑音。 その音に意識を移したマックイーンは雨雲の中、嵐の乗り手がエレクトリック・ピアノをかき鳴らす様子を思い浮かべ......そしてすぐ逃避を止めゴルシの言葉を反芻した。 さんざん聞かされた惚気話のあやめは、死んだのだと。 「5日後だった。海産物を密漁してた輩と銃撃戦になった時にな。アイツは撃たれて、そのまま即死」

10 22/04/01(金)23:51:36 No.912505112

指輪の代用品がテーブルに置かれる。がたり、と重みを持った音がした。 「密漁団は全員逮捕されたがな、あの時のアタシにはもう全部どうでもよかった。アイツのいない世の中なんて、いらなかった。すぐ騎バ隊は辞めた。 それで持ち出すわけにもいかなくてな、置いて来たんだ。アイツの拳銃。このモデルガンは代わりにと買ったものだけどな、もう長い事引っ張り出してなかった」 マックイーンの胸にはは哀愁と後悔が混ざったような感情が滲んでいた。 自分はなにか大変な事を友人に吐かせてしまったのではないか。 恋だってまだしたことのない自分に、大切な人を失う気持ちが解るわけがない。 「......ごめんなさい、そんなに大切な物だったとは知らなくて......」 「気にすんなって。結局はただのオモチャだしな」 ゴルシはくり抜かれた教科書にモデルガンを収めた。

11 22/04/01(金)23:51:46 No.912505167

「それでしばらくフラフラしてたアタシだが、何かに熱中しないと一生忘れられねぇなって思って、それで学園に来たんだ。おかげで思い出すことも少なくなったぜ」 辛い思いが減ったならそれは喜ぶべき事ではある。 その一方で、恋人の事を忘れてしまうのは気にならないのだろうか。 忘れる寂しさは、失った悲しみと比べればなんでもないのだろうか。 ――しばらく誰も口を開かず、そんな考えが頭に居座る。 「......さあ、ゲームの続きだ。どうする?」 ゴルシは自分のチップを両手で全部前へと押しやった。 「アタシは全額レイズだ」 彼女は神妙な顔つきのまま、攻めに出る。

12 22/04/01(金)23:52:10 No.912505274

そんな姿と、悲惨な恋物語の後には勝負をする気などすっかり失われてしまった。 マックイーンもライスも、降りるしかなかった。 「そうか......」 ぱさりとゴルシの手札がテーブルに広げられる。 同じ数字も連続した数字も、そこにはまったく見当たらなかった。 「えぇ~~~~~~っ!?」 「の、ノーハンド......」 要するにまったくのブタである。 「おいおい、ポーカー中に気を許すからこうなっちまうんだぜ?」 「待ってくださいまし!じゃあさっきの話も......」

13 22/04/01(金)23:52:25 No.912505343

「ああ嘘だ」 肩に入ってた力が抜けてしまい、漫画のようにずっこける。 「もう!本気にしてしまいましたわ......なら、次こそは!」 「お、晴れてる」

14 <a href="mailto:終">22/04/01(金)23:52:45</a> [終] No.912505455

ゴルシの言う通り、窓の外を見れば雨は止んでいて、雲間から日光のすじが差し込んでいる。 「行こうぜ、まだトレーニングできるかもしれねーぞ」 「え、あ、そうですわね......」 珍しく真面目な事を言う彼女に何も返す言葉もなく、ライスもマックイーンもいそいそとゴルシの後に続いた。 ......嫌にリアルなほら話のせいだろうか。顔は見えずとも、その後ろ姿が少し悲しげに見えるのは。 以後誰もあの話の真偽を改めて問うことは無く、ゴルシの騎バ隊時代の話も、それ以来話題に上がることは無かった。

15 22/04/01(金)23:56:31 No.912506699

ゴルゴル星とかネッシーの密猟とか言ってないから多分本当なんだろうな

16 22/04/01(金)23:56:32 No.912506713

ゴルシの事だし嘘っぽいけどこういう嘘を言うか言わないかでいったら言わないだろうし…

17 22/04/01(金)23:56:48 No.912506803

ゴルシ夢女子すぎる…

18 22/04/02(土)00:00:10 No.912507897

攻殻機動隊見て感化されただけかもしれないし…

19 22/04/02(土)00:00:38 No.912508056

真実をうやむやにしてしまおうとする辺りマジっぽさがある でもゴルシならそれを踏まえての嘘…みたいなとこも感じさせるのがいい…

20 22/04/02(土)00:01:00 No.912508170

ゴルシはこう言う過去持ってるか持ってないかで言ったら持ってるしな…

21 22/04/02(土)00:01:50 No.912508451

この後墓にポン酢とちくわ備えられたりするんでしょう?私は夢女子に詳しいんだ

22 22/04/02(土)00:03:42 No.912509064

色んな過去を自分から語っててどれが真実かわからないって言うとジョーカーみたいなやつだな…

23 22/04/02(土)00:04:30 No.912509301

信用できない語り手…とはちょっと違うか

24 22/04/02(土)00:05:22 No.912509566

これは果たして意味のある嘘か意味のない嘘か分からないんだよね…

25 22/04/02(土)00:08:48 No.912510674

湿っぽさが隠しきれてないんだろうな… 良い…

26 22/04/02(土)00:14:08 No.912512325

俺も夢女子に詳しいけど後遺症引きづりつつもちゃんと生きててダル絡みしながらリハビリに応援してる世界線があると思うよ

27 22/04/02(土)00:15:29 No.912512724

実は経験豊富なゴルシはマックちゃんを狂わせるからだめ

28 22/04/02(土)00:20:49 No.912514337

拳銃を交換し合う所にシスターフッドを感じる

29 22/04/02(土)00:24:44 No.912515573

クソッもっと詳しく聞かせろ!

30 22/04/02(土)00:25:48 No.912515900

仮に嘘だとしてもモチーフの人物が居そうで…

31 22/04/02(土)00:27:36 No.912516415

雨の使い方が上手い…

32 22/04/02(土)00:30:00 No.912517107

警官時代はくそ真面目なゴルシを幻視した

33 22/04/02(土)00:34:30 No.912518579

ウマ娘だけの部隊ならわりとこういう話がありそう…

34 22/04/02(土)00:37:07 No.912519420

待っていくつなのゴールドシップは

35 22/04/02(土)00:38:42 No.912519912

>待っていくつなのゴールドシップは >「女のコに歳を訊くなんてデリカシーが無ぇぞ~?」

36 22/04/02(土)00:40:18 No.912520428

本格化とかレースデビューとかの関係で年齢もバラバラだから 20代中盤の子がいてもそんなに驚かない…かも

37 22/04/02(土)00:40:58 No.912520697

雨がいい感じにBGMというか演出に生きてて ドラマCD聞いてる気分

38 22/04/02(土)00:44:12 No.912521733

(今日は話しすぎたな…)ってもやっとした物を抱えたままランニングを始めるんだ…

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