虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

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    22/03/27(日)01:39:59 No.910545768

    「トレーナーさん、ファル子とおまじない。今日もしよ?」  日常を控え室に置き去ったレース直前。聞こえる歓声はまだ遠い場所から。明暗を両立した褐色のバ道の隅で、私たちは二人向かい合っていた。真摯な眼差しが交錯し合い、なんとなく気恥ずかしくなったら。胸元のタイとリボンに目線は勝手に移動した。見つめ合う私たちのすぐそばで蹄鉄が鳴る、気迫が唸る、不安と高揚がないまぜになった闘気がこちらには目もくれずに過ぎ去っていく。レースに於けるターフとは、勝利と敗北を理解する場所だ。芝の、ダートのコース至近では多かれ少なかれ様々な想いが脈動する。けれど、今。私たちは間違いなくその近くにはまだ居なかった。 「……ええ、ファル子、おいで……?」 「うんっ、ありがと! じゃ、今日も……」  ああ、きっと。長々と述懐するまでもなく、私はおかしくなってしまったのだろう。正常と異常を嗅ぎ分ける能力とは、人間が生きていくために獲得した本能の産物だ。ならば自身の異常になど気付けるのは当然のこと。私は普通でなくなってしまった、ある日がいつかも分からないぐらい無抵抗なまま、かつ自然に。 「ちょっとだけ、元気。貰ってくね」

    1 22/03/27(日)01:40:36 No.910546040

     頬を撫でて走り去る、つややかですべらかな指先。かき上げられた後ろ髪、うなじの際に沿うネイル、質感を伴う溜め息は耳に掛かり、汗で緩まない程度には固く塗られたファンデーションが、私の頬に分けられれば。私の首元を優しく抱くような形で、全身がファル子によって包まれる。嗅ぎ分けられるようになってきたいくつかのパフューム、彼女の内で煌々と燃えるような熱量が、筋肉質の内にある柔らかさが、そして何より親愛の情が私の肉体に波及する。幾度となく繰り返されたおまじないは、私だけのものであるはずだった心と身体を容易く変質させた。 「やっぱりトレーナーさんってあったかくて、やわらかいなあ」  度々行われるスキンシップが引き金だったのか。その問いかけでは首を縦に振れやしない。その程度では私の内で荒れ狂うこの激情を説明できない。いつか、なにが、どうだった。曖昧な時制に囚われた言葉では本質から遠ざかる。 「まあ、なんだかんだ生きてるからね。やわらかい、ってところはダイエットでもしたくなるけど」

    2 22/03/27(日)01:41:07 No.910546283

     このままじゃ逃げられずに、すべて奪われてしまうけれど。魅せられてしまっているから、きっと私は。逃げようなんて思えるはずもなく、立ち向かうことさえできやしない。錆色に光るこの想いは、ラブともライクとも選り分けられない。独占したいわけではない、されど振り向いては欲しい。私の願いは正しく厄介なファンのそれなのだろう。言外で構わない もっと、もっと、もっと、もっと、私だけに―― 「もうっ、そういう意味じゃないよ!」 「あはは、分かってるって。でもぷりぷりしたらダメだよ。分けた元気が抜けてっちゃう」  個々人におけるセクシュアリティの多様化は、世界が成熟した結果なのだろうか。それとも薄っぺらな受容を盾にした、異端者たちの炙り出しに過ぎないのだろうか。定義化しようと試みれば恐らく、性自認の話だけで事は済まなくなるのだろう。  私が抱える性別に端を発する妄念は、現在ないない尽くしの澱みにあって、しかも異様に深いからどぶを浚うにも一苦労する。そこから本当に必要なものを、例えば私とファル子のこれからを探すとしたら、途方もない時間と労力が必要になる、と思う。なると思う、だけだ。

    3 22/03/27(日)01:41:43 No.910546508

    「うーん、確かに。元気が抜けたらたーいへん、なのでもっと吸っちゃおー☆」  なるたけ難解なように思考を巡らせているのは、出来る限り気付きたくないからだ。愛というものについて、好きだという矢印について、私たちの関係性において、不可侵で崩してはいけないものが横たわっていることについて。  分類することもおこがましい性のジャンルにおいて、私はニュートラルであると信じていた、これまでは。良く理解はできていないけれど、認識してこなかっただけで、実際には違ったのかも知れない。だって私は、生きるも死ぬも結びついたこの抱擁に、あらぬ感情を抱いてしまっているのだから。 「ねえ、ファル子。私の元気。美味しい?」 「あははっ、そうだね美味しいかも。ぎゅ~ってするとファル子なんだかね、すごく勇気を貰えてる気がするんだ」 「……不安は解けそう?」 「ウマドルはみんなに笑顔を与えるんだから、不安なんてないよ! でも……ありがとっ!」  笑顔と感謝がもたらすものは狂気的なまでの多幸感。喜びを理解するよりも早く胸の奥へと滲み通り、その光景を反芻すればするほど、あっという間に私の脳を蕩かしていく。

    4 22/03/27(日)01:42:42 No.910546916

    「いつも言ってるけどファル子ね、トレーナーさんがトレーナーで、本当に良かったって、そう思うんだ」  魔性の香るささやきが遺す物は、ためらい傷にどこか似ている。与えられるたびに痛み、傷つき苦しみ抜いて、なのにどうして生を実感する、永遠に死ねぬ命の痕。防衛機制がもたらしたストレスへの対抗策とその結果。耳にするたび途方もない量の愛を感じ、しかし決して癒されることはなく、与えられた愛は代償とばかりにどこかを切り裂いていく。  私はいつも血まみれだ、だって心に包帯は巻けないから。だけど生き残るために逃げることも出来ない。だって、もう、私は。ファル子が与えてくれる、生々しい赤の線に自分を預けなければ、自己の存在を証明できないのだ。

    5 22/03/27(日)01:44:45 No.910547745

    「ねえ、トレーナーさん。いまなに考えてる?」 「そう、だね。今日の勝利を祈ること、かな」  目を瞑る、息を吸う、胸が軋む、心が歪む。離れる、離れよう、離れたいのに身体が言うことを聞かない。揺れる、揺れる、私の心。ゆらめきはもたらす、ひそやかな潤みを睫毛の端へ。うん、そろそろ行くね。気迫を感じるその一声に、名残惜しさを感じて嫌になる。この愛しい温もりを手離すきっかけは、いつもファル子の方からだ。ほんの少し前までは違ったはず、なのに。人の心はままならない。 「行ってらっしゃい、ファル子。今日のレースも頑張って!」 「うんっ! 今日も最高のステージ、見せるから! 期待して待っててね!」  歓声と光に向かって駆けて行くファル子。その後ろ姿は自信と練習量に裏打ちされた力強さを感じさせる。  私はずっと見てきた、誰よりも近い場所で。だから彼女がいまどんな顔をしているのか、どんなことを想っているのか、手に取るように私は分かる。三年以上も連れ添ったのだから、そのぐらいは分かる。

    6 22/03/27(日)01:45:32 No.910548057

    「でも」  分からない。  一体私は何をしたいの?  分からない。  私の気持ちは悟られている?  分からない。  私は本当はどうしたいの?  分からない、分からない、分かりたい、でも一生分かりたくもない。ファル子は敏い子だから、私から漂う諦めの性欲にきっと気付いてしまっている。時折見せるあの憂いはあの微笑みはあの瞬きはあの息遣いは、もう。 「ああ……」  熱を帯びた悲しみが鼻先にほど近い宙を舞う。誰かのファンで居続けることが、こんなにも難しいものだったなんて。誰も、誰も、誰だって教えてはくれなかった。誰かが教えてくれたなら、すんでのところで耐えられたかも。知れないわけがないだろう、バカだ、私はバカだ。今更何を責任転嫁しようとしているのだ、好きの意味を変えたのは紛れもなく自分自身なのに。  あの子の夢見る唯一無二に、欲に塗れた一が足される日は永遠に来ない。求められていないのだから、来るはずもない。自分から手繰り寄せようともしないのだから、そも見えようはずもない。それでも。  いつかどこかで報われたい、のかな。

    7 22/03/27(日)01:46:08 [おわり] No.910548257

    「行かなきゃ……」  貴女がくれたハグの代わりに、私は。この私の瞳から夜に煌めく水晶を贈る。負け犬の浪漫にこの身を捧げて、私は眠る月になる。心が割れてしまうまで、器が耐えられなくなるまで、否すべてが私の手元から離れていったとしても。下らない、バカバカしい、自己陶酔もいい加減にしろ。思考の巡りを無理矢理断ち切って、私にしかできないことをするために前を向く。  何があったってきっと、私はファンを辞められない。  勇気がないだけなのか、それとも。  単に覚悟がない、だけなのか。  そう多分、きっと私は。後者なのだろうと自嘲して。トンネルの終わりを手で隠したまま、蹄鉄の音などもうしない、寂しいバ道を後にする。いつ終わるとも知れぬ応援を彼女へと送るために。ファル子のトレーナーであるために、夢の続きを見るために、ファンファーレが鳴るその前に、一人スタンドへと向かう。歩みを進める最中、唇の手前で言えもしない言葉を弄していれば、いつしか道の終わりは見えてくる。  それでも、何をしても、やはり。  私の天国は遥かに遠い。

    8 22/03/27(日)01:48:55 [s] No.910549245

    たまにこういうの書きたくなる病気に罹患したので投げました 百合における私の性癖ですお目汚し失礼致しました

    9 22/03/27(日)01:53:16 No.910550986

    つまりトレーナーはかなりオブラートに包んだ言い方をするとファル子と結婚したい…ってこと?

    10 22/03/27(日)02:01:40 [s] No.910553752

    好きに捉えて貰って大丈夫だけど自分だけのものにしたいだけなんじゃないかなわからん… まあそんなの自分が好きなファル子のアイデンティティを否定することにもなるから絶対無理だけど…

    11 22/03/27(日)02:04:32 No.910554608

    あー… 個人的にはウマドルを引退…することなさそうだな… 一区切りつくところまでやったらトレーナーと結婚して欲しいな… 今まで我慢してきたんだからそれくらいあってもいいじゃない

    12 22/03/27(日)02:16:05 [s] No.910558393

    あとはファル子次第かなハッピーにはなってほしいけど クソ重たいの読んでいただき感謝…寝ます

    13 22/03/27(日)02:30:18 No.910562194

    スレッドを立てた人によって削除されました わ、たし、だって、ドファル子定型を教えたくて、ぇ…教えたわけ、じゃない…のにぃ…っ… ・『ドファル子のうわさ☆(クシャイッ☆)』 ・まさに道化に相応しい間抜けなものだった。 ・「え、なにあれ?ヤバ…」 ・「え~なんか、怖w ってか普通にキモくね?あの子かわいそーじゃね?」 ・「うぅ~~~っ…うっ、う~…っ、ふ、ぐぅっ…うぅ…っ」 ・路地裏に響く嗚咽は、しゃがみながら震えるスマートファルコンから漏れ出ていた。 ・「わ、たし、だって、やりたくて、ぇ…やったわけ、じゃない…のにぃ…っ…うぅ~…っ、あぅ…っ」

    14 22/03/27(日)02:42:30 No.910564578

    スレッドを立てた人によって削除されました 消したってことはドファル子書いた人?