虹裏img歴史資料館

ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。新しいログはこちらにあります

22/03/25(金)19:52:00 「えー... のスレッド詳細

削除依頼やバグ報告は メールフォーム にお願いします。個人情報、名誉毀損、侵害等については積極的に削除しますので、 メールフォーム より該当URLをご連絡いただけると助かります。

画像ファイル名:1648205520794.png 22/03/25(金)19:52:00 No.910054508

「えー、それではー!アメリカジョッキークラブ賞を!俺の!マヤノが!勝利したことを祝って!かんぱーい!!」 行きつけのビアホールで、キンキンに冷えたビールジョッキを掲げて俺は歓喜の声を上げる。 だがジョッキ同士がぶつかり合って派手に俺たちの勝利を祝うことはない。 なぜなら同席している奴らが、頼んだアイスミルクを前に腕組して考え込んでいる仏頂面のバカと、持ち込んだティーセットから紅茶を淹れている水色頭のアホだからだ。

1 22/03/25(金)19:52:17 No.910054610

「ノリが悪いどころの話じゃねえぞお前ら。ATMの三年目を、俺の!マヤノが!勝利で華々しく飾ってやったっていうのによ。」 まずは一杯目を一息に飲み干して、人の功績を素直に祝えないひねくれどもを睨めつける。 勝負の熱気に火照ったままの体の芯に通り抜ける冷気が心地良い。 だがそれもすぐにまた熱にかき消される。マヤノが逃げ切った、テイオーもタキオンも撃墜出来ずに、最初から最後まで先頭のままゴールを駆け抜けたんだ。 その瞬間を思い出すだけで、無尽蔵に熱が湧き出てくる。宇宙の熱的死は俺が居る限り訪れることはないだろう。 「質問が一つ、いえ、三つほどあります。」 茶葉を蒸らしながら手を挙げる水色アホ、顎でしゃくって促す。

2 22/03/25(金)19:52:45 No.910054777

「まず、ATMとは何でしょうか?2つ目に、あなたバカですか?我々は負けたんですよ、それを呼び出してあなたを祝えと?3つ目に、あなたバカですね?デリカシーがないとは思っていましたがここまでとは思いませんでしたよ。」 「おうおうおう、今日は奢ってやろうってのに随分な挨拶じゃねぇか水色紅茶。一つだけ答えてやる。いいか。」 無礼極まりないアホの失礼極まりない質問にも心の広い俺は快く答えてやる。ジョッキを脇に置き、テーブルに肘を付いて指を一本立てる。 「まずATMは俺達のー、あー、ほら、チーム名?違うな、まとめてこう呼ばれてんだよ。 アグネスタキオン、トウカイテイオー、マヤノトップガンのイニシャルでATMだ。並び順が気に食わねえが競バファンの間じゃそう定着しちまってる。 この3人に賭けたら大抵返ってくるって意味もあるそうだ。なんだっけ、あったろ、現金預ける奴、オート……なんたらマシンだよ。」 やってきたお代わりのビールを受け取りながら、俺の耳に届いたばかりの最新情報をお披露目してやる。

3 22/03/25(金)19:53:12 No.910054914

「まぁこれから俺とマヤノが一着を重ねていけば自ずと順番も……。」 そう言いながら泡に口をつけようとした瞬間、ぐいっとジョッキが引っ張られ、泡が俺から逃げていく。やめろ水色!! 「ウマ娘賭博は違法じゃないんですか~?同じ中央のトレーナーとしてそういう意識では困りますねぇ~。」 「待て待て待て待て!ビールってのは秒単位で味が落ちていくんだよ!まず飲ませろ!!」 「建前ばかりのものとはいえ公然と口にするようでは問題ですよ~?」 「ビールは関係ないだろ!やめろ!ビールが!!ビールが死んでいく!!」 スッポンのように口を伸ばした俺と微笑み水色紅茶バカの戦いは膠着状態。こんな細腕で力強えなこいつ!!ジャッジ!こいつドーピングしてるドーピング!! 時間が経つほどにビールが温くなっていく一方的に不利な戦いがしばらく続き、思わぬ方向から終止符が打たれた。

4 22/03/25(金)19:53:35 No.910055045

「いい加減にしろバカども。せっかくの祝いの席だろう。」 見かねたのか、今まで黙っていたもう一人のアホが仲裁に入る。 「それに他の客に迷惑だ、騒ぐにしても節度を持て。」 すげえ、俺ビヤホールでミルク飲んでる奴に説教された。だが言ってることは至極まともで、水色バカの手の力が緩むのを感じる。 こぼさないようにゆっくりとジョッキを引き寄せて、半分までを飲む。パーフェクトじゃないが、まだベターな温度だ。 残りもそれぞれ自分の器に口をつける。一転して一時の静寂。

5 22/03/25(金)19:53:57 No.910055162

「それで。」 俺たちが落ち着いたのを見てアイスミルク担当が口を開く。 「呼び出した本当の理由は?仲良しこよしのATMトレーナー陣で行きましょう、なんてわけじゃないだろう?」 「鋭い指摘だ。脳に茶葉詰まってる奴とは違うな。」 全くもって鋭い指摘だ、本来レース直後というのは目にして得た感触を忘れないために記録をしたり次の計画を立てたりする貴重な時間だ。 「私の頭に詰まっているのはタキオン様への愛です。あなたがどうしてもというから参加しましたが、本来ならフィードバックを元に休養とトレーニング計画を立てるつもりだったんですから。」 それを無意味に浪費するなど言語道断、トレーナーは打ち上げとは無縁の存在だ。それをわざわざ破るには理由が必要なわけだが。

6 22/03/25(金)19:54:19 No.910055274

「その通りだ、うん。それなんだが……。」 無い。マヤノが勝ったから気分良く飲みたかった以外特にない。だがなんとか捻り出さなくては、もう次からこいつらは来てくれないだろう。 「まさか無い、っていうんじゃ……?」 やめろ紅茶、勘付くな。 「そんなはずはあるまい、こいつはこれで腕のいいトレーナーだ。」 やめろアイスミルク、ハードルあげんな!!

7 22/03/25(金)19:54:29 No.910055334

とりあえず飲んで引き延ばそう、あわよくばそのままお代わりを取りに行こうと手を伸ばしたビールのジョッキが―― 「あちらのお客様へです。」 逃げていった。

8 22/03/25(金)19:54:52 No.910055453

その先へ視線を向けると、勝手に席に加わっている人影2つ。 「はーい、ゴルシちゃんでーす!まずはうちのトレピッピの駆けつけ半杯をご照覧あれ!」 「すみません、ゴルシちゃんがどうしてもって聞かなくて……ごくっ…ごくっ…ぷはぁ~!」 うわぁ狂人だ。

9 22/03/25(金)19:55:08 No.910055539

ゴールドシップとそのトレーナーが俺の飲みかけビールを持っていった挙げ句勝手に飲み干しやがった。 「なぜお前達がここに居る。」 アイスミルクは狂人にひるまず俺と紅茶が聞きたいことを代わりに言ってくれた。お前が空気読めない奴で助かった。 「アタシ達はこれから海底神殿探しに行くところ、あとクサフグ釣り。そこを面白そうな声がしたんで邪魔しに来た。」 「ごめんなさいね。生ハム原木の森の気配がするってゴルシちゃんが言うから私も止められなくて。すみませんビールお代わり。」 嘘だろこいつら、現れて一分経たずに完全に場を支配してやがる。

10 22/03/25(金)19:56:04 No.910055830

「邪魔するなら帰っていただけませんか?」 いいぞ紅茶、ナイスサポート。ここで俺がビシッと言ってやればこいつらも……。 「まぁちょっと聞けよお三方、耳寄りな情報を持ってきたんだ。実はな……。」 俺の肩を半ば無理やり抱き寄せ……。 「ヒソヒソヒソヒソ……。」 耳に口を寄せてひたすらヒソヒソと言い続けるゴルシ。え、どうすればいいの俺、誰か助けて。

11 22/03/25(金)19:56:48 No.910056082

「まあゴルシちゃん、ATMの皆さんを狙って、たちの悪そうな記者が入り口に張っているですって?すみませんビールお代わり。」 「このままだと明日のニュース載るぜ。デカデカとよ、怪奇!幻の四足獣ヒラコテリウムは実在した!ATMの黒い談合は12面。」 トップには載れないのか……。じゃない、マジかと思って入り口の方を見れば、入って来ることはなく、だが出入りが見える位置に張ってる連中が確かに居る。 コートの膨らみは俺の国なら銃を疑うが、この国では、ある意味それより厄介な記録装置の類だろう。

12 22/03/25(金)19:57:01 No.910056163

「オウ・マイ・ゴッデセズ!マジだぜありゃ、痛くないもねぇ腹探られるのはごめんだ、裏口から逃げるか。」 馴染みの店で良かった、それぐらいの融通は効かせてくれる。トイレに行くふりでもして一人ずつ出ていけばなんとかなるだろう。 順番を決めようとするが、それが不可能な奴が一人居ることを思い出す。 「私のことは気にしなくていいぞ、ああいった手合を相手するのは慣れている。」 いつの間にかお代わりしていた仏頂面のアイスミルク。まずったな、ここの裏口は車椅子が通れるような構造じゃない、かといって抱えていったらこれから逃げますと大声で白状しているようなものだ。

13 22/03/25(金)19:57:33 No.910056352

「仕方ありませんね、私が少し光って「待ちなされ待ちなされ、新種のUMAになるのはやめなされ。」 執事服のボタンに手をかけた恐怖の水色頭紅茶狂発光モルモットをゴールドシップが手で制する。 「ここはアタシのトレピッピが人肌脱ごうじゃねぇか。なあ?」 「頑張りまーす、すみませんビールピッチャーで。」 おうここまで頼りにならねえ助けも中々ねえぞ。

14 22/03/25(金)19:57:51 No.910056461

「作戦はこうだ、まずうちのトレちゃんが細かすぎて伝わらないトレセン学園モノマネ100連発をする。」 「なんで?」 思わず口を挟む俺。しかしゴールドシップは無視して続ける。 「するとオオウケ、記者の連中もまとめてカメラを向けるし人だかりが出来る。」 「なんで?」 「そこをアンタらは安全に通過するってわけよ、わかったか?わかったらさっさと行こうぜ!」 「何もわからねえんだけど?」

↑Top