虹裏img歴史資料館 - imgの文化を学ぶ

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22/03/22(火)19:47:27 「はぁ... のスレッド詳細

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22/03/22(火)19:47:27 No.909144387

「はぁー……。」 わざわざ私のデスクに肘をついて大きなため息を付くテイオー。それももう3回目だ。 少し面白いので聞こえないふりをしていたが、段々と大きくなってきている。エアグルーヴからもちらちらと視線を感じる、そろそろ頃合いか。 「どうしたんだ?テイオー。」 途端に顔を輝かせ、しかしすぐに悩んでいるのを思い出してまた暗い顔に戻ろうとするテイオー。 吹き出しそうになるのをなんとか堪えていると、神妙な様子でようやく悩みを打ち明けてくれるようだ、手を止めて微笑ましく見守る―― 「トレーナーとお正月の初売りに行ったんだけど……。」 わけにも行かなくなった。手のひらを見せてテイオーを制止してから、エアグルーヴに視線を飛ばす。 小さく嘆息してからうなずくエアグルーヴ。

1 22/03/22(火)19:47:58 No.909144595

「構いませんよ。というより、少しは休憩をしてください、会長。今やっていただいているのは本来ブライアンの担当です。」 最近エアグルーヴは再三再四作業量を減らすように言われているが、変わらない日常業務に新年から行われるURAファイナルズの準備、そして今年卒業する生徒会メンバーの引き継ぎの準備など、やるべきことは不遑枚挙だ。 ブライアンが抜け出す頻度も上がってきていて、休む暇はないと私も言うのだが、彼女の主張は変わらない。今回はその言葉に甘えるとしよう。 「恩に着る。テイオー、少し歩こうか。」

2 22/03/22(火)19:48:17 No.909144705

立ち上がりざまに手を差し出すと、テイオーが嬉しそうに握り返してくるのを確認してから生徒会室を出て少し進み、階段を降りた先の小さな自販機コーナーまで連れていく。 生徒会室からさほど離れてはいないが、一般生徒の通り道からは少し外れたここを知っている生徒はあまりいないだろう。いるとすれば学園を熟知した生徒会メンバーや、職員程度。あまり聞かれたくない話をするにはちょうどいい。 テイオーにはちみードリンクを、自分では缶コーヒーを買って、並んでベンチに座る。 「さて、何があったのかな。話してごらん。」 普段のテイオーならトレーナーとデートしたとはしゃいで、顛末を大喜びで話してくれるものだが。 あの人がテイオーを袖にするとは思えないが、筋金入りの口不調法だ、きっと行き違いがあったのだろう。

3 22/03/22(火)19:48:40 No.909144845

「うん、あのね……。」 テイオーが話し出す。なるほど、温泉旅行券が当たったけれど、トレーナーとのペア旅行が叶いそうにないと。 それにしてもあの人は、もっと言い方というものがあるだろう。エアグルーヴがしていたのよりずっと大きな嘆息。 「まず誤解しないでもらいたいが、あの人は君を疎んでいたり遠ざけようとしているわけではない。温泉旅行を固辞しているのは、あの人のわがままだ。そこはわかるかな?」 大好きなはちみーを飲んでも、小さくうなずくテイオーの顔は曇ったまま。新年から何をやってくれるんだあの人は。再び出そうになったため息をなんとか飲み込む。 「わかってる……。でも、温泉旅行……余計なこと、って……。ボク、一緒に……行きたかったのに……。」 カップを握りしめ、うつむくテイオー。微かに塩分の匂いが鼻に届く。さて、こうなっては遺憾千万、この手しかないか。

4 22/03/22(火)19:48:55 No.909144950

「行く方法は、ないわけではない。」 自分でもわざとらしい咳払いをしてから、テイオーに告げる。 こちらを見上げ、目を丸くするテイオー、思った通り、目元には涙が滲んでいた。そして、しおれていた耳もピンと立って、言葉を一つもも聞き漏らすまいとこちらを向いている。 「カイチョー、それ、本当?」

5 22/03/22(火)19:49:23 No.909145120

「ああ、本当だ。話を整理しよう、トレーナーは丁種歩行障害者でそのチケットを使うには資格を持った介助者が必要。君はその資格を持っていないし、トレーナーから取得するのを止められている。そうだな?」 うなずくテイオー。肝心なところは行けないであって行きたくないわけではないということだ。 あの人は自分のこととなるとすぐに諦めてしまうらしい、悪い癖だ。誰かのためならいくらでも滅私奉公出来るというのに。 いや、だからこそかもしれない。他者への粉骨砕身は低すぎる自己評価の裏返しか……。 沈み込みそうになる思考を引き戻す、あの人に関する分析は後にしよう。今はテイオーに答えてやらねば。

6 22/03/22(火)19:49:46 No.909145253

「なら、話は簡単だ、介助者を用意すればいい。」 私の言葉に落胆したのか、口を尖らせるテイオー。 「そんなの、もう探してみたよ。でも、そんな資格持ってる人全然居ないし、それに……行くのは温泉だよ……?」 「確かに、介助が必要なのは主に入浴時だから、そういう仕事とはいえいい気がしないだろうな。それに、あの人は誰かの世話になるのを嫌がるだろうし。」 すでにテイオーは八方手を尽くしたのだろう、その上で私ならなんとか出来ないかとやってきて、これ見よがしにため息をついていたわけだ。 「しかし、あの人の扱いに手慣れていて、君も親しい人物が介助をするとしたら、どうかな?」 くるくると表情を変えるテイオーが面白くて、少々もったいぶった言い回しをしてしまう。

7 22/03/22(火)19:50:25 No.909145501

「そんな人、どこに……。まさか……?」 「まさに天佑神助、全ての生徒が息災ならいいが、そうではない。もしもの時のために取っておいたんだ。」 今度こそ顔を輝かせ、満面の笑みを浮かべるテイオー。飲み干していたはちみをーゴミ箱へ放り投げ、その場で跳ね始める。 「ありがとうカイチョー!!やったやったやった!!トレーナーと温泉だぁ!!」 「無論、私が邪魔でなければという話だけれど。」 「そんなことないよ、カイチョーなら全然オッケー!」 握手のつもりか、私の手を取ってぶんぶんと振るテイオー。 「じゃあ早速トレーナーに教えてくるね!」 そのまま飛び立つように走っていこうとする手を引き止めて、一度座らせる。 「それはあまり得策ではないな。一度断った話に手のひらを返すのはバツが悪いだろうし、まだ一年もあるのに予定を立てるには早い、とでもしかめっ面をするんじゃないか?」 「う……言いそう……。」 整っているが粧飾とは無縁な顔で、思い切り眉間にシワを寄せた姿がありありと目に浮かぶ。テイオーも同じだろう。

8 22/03/22(火)19:50:50 No.909145663

「だからこのことは秘密にしておこう、URAファイナルズを終えて、一段落したら改めて話を切り出すといい。その頃には気が変わっているかもしれない。」 「うん!そうする、じゃあこれはボクとカイチョーだけのひ・み・つ!」 しー、と口の前で指を立てるテイオー。そんな大きな声では意味がないだろうけれど、私も同じように指を立てて返す。 「それじゃあ、ボク次の授業行ってくるね。ありがとうカイチョー!」 元気一杯、テイオーは飛び出していった。その背中に手を振る。 缶コーヒーを飲み干すと、握りつぶしてゴミ箱へ投げ捨てる。狙い違わず、壁へ一度跳ね返って箱の中へ。気が緩んだか、押し殺していた笑みが漏れ出す。 私の方こそ礼を言うべきかもしれない。出走資格がないと思っていたレースに、思いがけず参加出来るのだから。

9 22/03/22(火)19:52:28 No.909146265

ウワーッ!

10 22/03/22(火)19:53:00 No.909146470

「ん…?」 視線を感じたような気がして、上階へつながる階段の踊り場を振り返る。しばらく注視し、気配を探るが、何も居ない。 気のせいだったか、疑心暗鬼というものかもしれない。後ろ暗い行いをしたという負い目が生み出した錯覚か。 エアグルーヴからブライアンの捜索も頼まれていたことも思い出す。散歩ついでに、色々と回ってみよう。

11 22/03/22(火)19:53:07 No.909146525

コワ~…

12 22/03/22(火)19:53:31 No.909146662

危ないところだった。視線の主、ナリタブライアンは心中で呟く。 サボりスポットを巡回していると、面白そうな話が聞こえて、つい盗み聞きしてしまった。 素早く姿勢を低くして階下からの死角に入ってなんとか気付かれずに済んだ。しかしここですぐに逃走するのは素人だ、警戒が解けるのを待ちながら思考する。

13 22/03/22(火)19:53:50 No.909146783

しかし、汚い手を使うものだ。皇帝のやり口に私は感心すらしていた。 生徒のために取っておいたとはよく言う。丁種障害の介助者資格は対象がヒトとウマ娘で別の資格になるはずだ。ウマ娘しかいないこの学園の生徒にヒト用の資格がどう役立つのやら。 それに、URAが終わった後に行くのならテイオー自身が資格を取ってからにしたっていい。 だがルドルフは口外させないことでその道を塞いだ、誰かと相談して他の可能性を考えることも、もうないだろう。すべては二人きりで行かせないために。 皇帝様もおかたいばかりかと思っていたが、木の股から生まれたわけでもないということか。もちろん私も口外するつもりはない。蹴られて地獄に落ちるのは勘弁だ。

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