22/03/21(月)22:59:39 「「ウ... のスレッド詳細
削除依頼やバグ報告は メールフォーム にお願いします。個人情報、名誉毀損、侵害等については積極的に削除しますので、 メールフォーム より該当URLをご連絡いただけると助かります。
22/03/21(月)22:59:39 No.908904963
「「ウワーッ!!」」 突如、トレセン学園に二つの叫びが響き渡った── 俺はトレセン学園のトレーナー。 担当しているウマ娘で相棒のウオッカとトレーニング後に散歩をしていて、たまたま女神像の前に立ち寄った。 ウオッカとの雑談に夢中になっていた俺は、背後から射し込んでくる謎の光に気づかなかった。 俺はウオッカとともにその光に包まれ、目が覚めたら── 体がウマ娘になってしまっていた! 幸いこの不可思議な現象が起こったのは俺だけで、こちらとは逆にウオッカが男に、なんてことにはならなかった。 とはいえ、人間がウマ娘になるなど前代未聞。俺はこれからどうなるのかと不安に駆られたが……。 ウオッカという目撃者がいたこと、本人しか知り得ないだろう質問に答えられたことから、俺がトレーナーその人であると認められるのは案外早かった。 たづなさんや理事長、同僚のトレーナーなどの学園関係者やトレセン学園生たちの理解も得られ、俺は現在もトレーナー業を続けられている。 だが、今までとは勝手の違う体と精神の不一致に、まだまだ慣れることができずにいた。
1 22/03/21(月)23:00:00 No.908905082
そんなある日のこと── 「トレセンまで結構あるのに座れなかったな……」 二人で出かけた帰りの電車は、家へ帰ろうとする人々で混み合っていた。 普段はこういった帰宅ラッシュの時間帯とは被らないよう心掛けていたのだが……。 「悪い、トレーナー。俺の用事に付き合わせちまったせいで……」 「いや、ウオッカだけのせいじゃないよ。俺も結構な時間かけて見ちゃってたしな」 そう、買い出しのついでにウオッカと服屋に寄っていたことが、普段より帰りが遅れてしまった原因であった。
2 22/03/21(月)23:00:59 No.908905452
「オペラオー先輩からいい店紹介してもらったんだよ。トレーナーも一緒に見に行かねーか?」 「いいね! 新しい服を見ておきたかったんだよな……」 ウマ娘になったことで身長や体型が大きく変わり、今まで着ていた服が着られなくなった。 ありがたいことに、学園からサイズピッタリのトレセンジャージを支給されてはいるものの、学園内はともかくこれで外に出るわけにはいかない。 そこで母親から新しい服を送ってもらったまでは良かったが、届いたのはスカートなど明らかに女性向けの服ばかりだった。 「せっかくウマ娘になったんだからおめかししなきゃ。美人さんなのに勿体ないわよ!」とのことだが……。 息子に何を期待しているのやら。
3 22/03/21(月)23:01:27 No.908905612
閑話休題。 ウオッカやオペラオーなどボーイッシュな私服を好むウマ娘は少なくなく、今日訪れたのもそういった種類の服を取り扱う店であった。元男の俺からすると、今日も外出のため仕方なく着ているような心許ないものと比べて、馴染みのある服装に近いからか、こういったものの方が安心感がある。 新しい生活で必要な諸々(靴や下着、生理用品など。一番の痛手はレディースのスーツだった)の出費があったため今は手が出せないが……。いずれまた買いに来る時の手間は最小限にしておきたい。 そんなわけで給料日が来たらぜひ買っておきたい衣服を見繕っていたら、いつもより遅い時間になってしまっていたのだった。
4 22/03/21(月)23:01:43 No.908905709
トレセン学園の最寄り駅に着くまで、まだまだ時間があり割と暇だ。 他にすることも無いので、ウオッカと向かい合っての立ち話に花を咲かせていた。 「そこでスカーレットのやつがさ──」 「へえ、あの娘らしいな」 身長が近くなったおかげかウオッカの細かい表情の変化がより分かるような気がした。それが何だか嬉しくて。 もう最寄り駅まであと少し、あの日のように雑談に夢中になっていた俺は、背後から近づく不審な影に気づかなかった。
5 22/03/21(月)23:02:16 No.908905919
さわっ…… 何かが尻に触れたような感覚があった。 誰かの荷物が偶然当たってしまったか、あるいは未だ慣れない自分の尻尾が犯人だろう、最初はそう思ったが。 さわさわ…… いや違う、確実に誰かの手が俺の尻を触っている……! そして── ぐにっ…… 強めに手が押し付けられる。
6 22/03/21(月)23:02:35 No.908906029
いわゆる痴漢── 恐れ知らずなことにウマ娘を対象とする不届き者もいるにはいる、とは聞いていたが。 まさか、自分がその対象になるとは夢にも思っていなかった。 今の俺は確かに、一部の規格外には遠く及ばないが平均より胸が大きくはあるし、スタイルもまあ悪くない。その上でウマ娘の美貌なのだから、スケベな男にとっては絶好の獲物だろう。 今の服装がおとなしそうに見えるのも祟っただろうか。 「……ん? トレーナー、何かあったか?」 俺の様子に気づいたウオッカが、心配そうに尋ねてきてくる。 「……いや何でもないよ」 「そうか? ならいいけどよ」 当たり前だけどこんなことは初めてで、何と言ったらいいのか分からないというのもあるが。 可愛い担当に迷惑を掛けたり、不安がらせたりするわけにもいかない、これくらい俺一人で解決してみせる。
7 22/03/21(月)23:02:51 No.908906139
まずは抵抗の意思を込めて、尻尾を強めに振るう。 こちらが気づいていると分かれば、向こうも手を引っこめるだろう。 しかし、この行動はむしろ逆効果だったようで。 ギュッ…… と、尻尾を掴まれた。
8 22/03/21(月)23:03:05 No.908906248
「ヒュッ……」 思わず耳がピンと立ち、それと同時に息を呑む。 「トレーナー、ホントに大丈夫か? 顔色悪いぜ?」 「大丈夫、大丈夫! うん……」 そんなわけないのに平気なふりをした。 実際にはかなりピンチと言えるが、担当に助けを求めるほど情けないことも無い。 だいたい俺は元男なんだ、これくらい耐えられる……はず。
9 22/03/21(月)23:03:26 No.908906391
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、後ろの誰かの行為はより大胆なものになっていた。 最初は手の甲で少しずつ触れていたのが、今や片手で尻尾をしっかりと握り、残った方の手の平で堂々と俺の尻を撫で回している。 これまでの人生で未経験の感覚によって、背筋にゾワゾワと悪寒が走る。 いくらなんでも触りすぎだ。そろそろ次の抵抗を── そう思った瞬間、尻だけを触っていた手が今度は上に向かっていく。 その先には、尻尾の付け根があるはずで。
10 22/03/21(月)23:03:50 No.908906557
この姿になった日の夜の記憶が急速に蘇る。 風呂場で体を洗いながら物珍しさからあちこち弄っていた時のことだった。 意図せず手が当たってしまったとき、急に電撃が走ったように感じて、それ以降は怖くてあまり触れていない部位。 そんなところを、こんなに人がいて、しかも担当しているウオッカの目の前で触れられる……? ──それだけは、嫌だ。そんなこと、経験したくない。 嫌悪感から思わずジワリと涙が滲む。 それだけのことで、急に自分が弱くなってしまったように思えて、あんなに腹立たしかった背後の存在が途端に恐ろしくなる。 魔の手が迫っているというのに、恐怖で硬直してしまった体はまったく動かせなくて。 怖い! 怖い! 怖い……!! 再びあの感覚に襲われるのを覚悟した、その時──
11 22/03/21(月)23:04:49 No.908906968
「おい、お前。俺のトレーナーに何してんだ?」 ウオッカが、俺を抱き寄せていた。 ふわりと普段から使っている制汗剤の匂いがすると同時に、彼女の体温を感じられて、一気に安心感に包まれる。 そして、彼女は目の前の男をはっきりと睨みつけて。 「こいつ、痴漢です!」 大きな声が車内に響いて、俺が落ち着いて振り返った時には痴漢男は他の乗客に取り押さえられていた。 駅に着くと男は連れて行かれて、俺とウオッカは駅の控え室で聴取を受けることになった。 警察官のお姉さんに「安心してください。もう大丈夫ですよ」と声をかけられて、それを聞いた俺はとうとう耐えきれなくなって、泣いた。 ウオッカはそんな俺の背中を優しくさすってくれていた。
12 22/03/21(月)23:05:09 No.908907100
トレセン学園への帰り道、ウオッカが「災難だったな」と、声を掛けてきた。 俺が足を止めると、ウオッカもそれに合わせてこちらを見る。 「ありがとな、気づいてくれて」 「当たり前だろ、顔強張らせてあんなに耳しぼってたら俺じゃなくたって気づくだろ」 「そうか、耳……」 「次からは気をつけねーとな。今のお前けっこー可愛いくなってんだからさ。またやられるかも」 「かわ!? ……ウオッカから見ても俺って可愛い、のか?」 「ん? おう。俺くらい小さくなっちまってるしなー。……てか、せっかくウマ娘になってるんだ。今度ああいうダセーやつがいたらさ、思いっ切り蹴っ飛ばしてやれよ!」 「……ああそうだな。ウマ娘、だもんな。そうするよ」 「そうそう!」 「……ウオッカ、本当にありがとう。すごく、カッコよかったぞ?」 「おお!? そうか? そう面と向かって言われると照れるな……」 そう言ってはにかんだ顔は、以前より魅力的に見えて。
13 22/03/21(月)23:05:35 No.908907291
「お、そうだ。これトレーナーにやるよ」 やや唐突に紙袋を手渡される。 中身は── 「耳飾り?」 「おーよ。しかも俺のとおんなじの!」 なるほど。金属製で、色は違うが発光パーツがあって。 ウオッカの左耳を飾っているものとお揃いらしい。 「ホントはスペアで買ったやつなんだけどさ……」 「いや、嬉しいよ! しかしこういうのは初めてで、うまく付けられるかな……。付けてもらってもいいか?」 「いいぜ。耳こっち向けな」 「ああ、こうか?」
14 22/03/21(月)23:05:54 No.908907426
そうしてウオッカの方へ頭を向けると、左側に僅かな重みが伝わる。 どうやら付ける側もお揃いにしてくれたようだ。 「よし、バッチリ!」 「ありが、と……?」 あれ? 何か今、妙な感覚があったような。気のせい、だろうか。 「似合ってるぜ、トレーナー!」 「悪いな、今日は色々と」 「いいっていいって、俺たちは相棒だろ?」 そう言って彼女は拳を突き出した。