虹裏img歴史資料館

1 22/03/13(日)15:04:27 No.906099958

促しても、エアグルーヴははっきりしない面持ちで、まだ何か申し送り事項でもあるのかいと尋ねる。 「…いえ、会長は今日お誕生日でしたね。お誕生日、おめでとうございます」 「ああ、ありがとう」 エアグルーヴが表情を曇らせ、頭を下げる。 「せっかく会長のお誕生日にも関わらず外せない所用がありまして。申し訳ありません」 「いや、その気持ちだけで十分ありがたいよ。それに、もう誕生日で一喜一憂するような歳ではないさ」 エアグルーヴは、安堵したのか再び頭を下げ、失礼しますとつぶやくと、生徒会室から退室した。

2 22/03/13(日)15:04:48 No.906100071

「誕生日、か」 誰も居なくなった部屋で独り言ちる。 エアグルーヴは以前から予定を入れていて、テイオーの姿は朝から見ていないし、ブライアンが居ないのは――これはいつものことだったな。 トレーナー君に至っては、2日前の"視察に行ってきます"の一言以来音信不通で、どこに行くのかも書かれておらずこれでは報告にすらなっていない。 あくまで偶然であろうが、今日に限って友人たちは学園を出払っているようで、私の誕生日祝いは先ほどのエアグルーヴ、そして両親からの手紙だけである。 とはいえ彼女に語ったとおり、もう誕生日で心躍らせるような年齢ではないのだ。 まったく寂しくない、と言えば嘘になるけれども。 そこまで考えると、改めて今日はいつもと同じ何もない日なのだと自分に言い聞かせ、仕事を片付けるために意識を切り替えた。

3 22/03/13(日)15:05:15 No.906100195

3月、日の入りが遅くなったとはいえ、商店街から学園に戻るころにはあたりは薄暗く、街灯がつき始めていた。 生徒会室に戻ろうか、先に食事を済ませてしまおうかと考えていた時、携帯電話が鳴り視察中のトレーナー君からLANEが入ったことを知らせてくる。 曰く、仕事で必要な書類をトレーナー室に置き忘れていて、書類自体はこちらの手元に無くてもいいから内容を写真で撮って急いで送ってほしい、と。 トレーナー室の鍵は渡されているから問題ないが、溜息混じりに、やれやれと言葉が出てしまう。 帰ってきたら、小言の１つでも言う必要があるかな、そんな事をぼんやり考えながらトレーナー室へ向かい鍵を開けて入る。 無人のはずのトレーナー室に、入った途端に部屋の電灯が点いて、連続した破裂音が部屋中に鳴り響く。 「えっ…？」

4 22/03/13(日)15:05:48 No.906100373

火薬の臭いと共に紙吹雪が私へ向かって降り注ぐ。 「会長、誕生日おめでとうございます！」 「おめでとうカイチョー！」 「ハッピーバースデー！」 そこには生徒会の皆が、テイオーにミスターシービー、そしてマルゼンスキーが居た。 庶務の子が、天井から吊り下がっている布覆いをめくると、"シンボリルドルフ会長誕生日おめでとう"と書かれた吊り看板が表れる。 これは、私の誕生日会で…？皆が？…つまり、私を驚かすために？ ようやく状況が飲み込むことができた始めた時、また１つクラッカーの破裂音が響く。 「ルドルフ、誕生日おめでとう！」 最後に鳴らしたのは、悪童の笑みを浮かべたトレーナー君だった。 びっくりした？と聞いてくる彼は本当に楽しそうに見える。

5 22/03/13(日)15:06:28 No.906100564

私がまだ言葉を失っていると、おずおずと後ろめたそうにエアグルーヴが口を開ける。 「申し訳ありません会長。その、ドッキリ、というものでして」 「私としては、普通のバースデーパーティーにするべきと主張したのですが、貴女のトレーナーがサプライズパーティーにしては提案すると、 テイオーやマルゼンスキー先輩がそれに賛同し、このようなサプライズパーティーを開くことになってしまって…」 エアグルーヴがトレーナー君の方を見ると、彼はすまんと言いつつも顔は悪戯小僧のままだ。 「君が送ったメールは…いやそもそも２日前から視察というのは…」 「うん。あれは大ウソでずっと学園に居たんだ。まあ今日のための準備もあったしね」

6 22/03/13(日)15:07:14 No.906100776

トレーナー君達から種明かしを受けていると、参加者の集まりからマルゼンスキーが出てくる。 「もう！そんな硬い話はナッシングよ！ルドルフ、ご飯まだでしょ？」 「今日の為にみんなで料理とケーキを作ったの。冷めないうちに食べましょ！」 マルゼンスキーが私の手を握ると、テーブルの方へと向かう。 テーブルでは料理が並べられ、参加者全員に飲み物が準備しているところで、乾杯待ちといったところだった。 「はいカイチョー、ジュース」 テイオーからニンジンジュースの入ったコップを受け取ると、この誕生日会を開催してくれた皆の顔を見回す。 エアグルーヴ、ブライアン、生徒会の皆、テイオー、シービー、マルゼンスキー。そして、トレーナー君。 私の誕生日を祝うために集まってくれた面々を見ていると、頬に血液が集まって熱くなるようなものを感じ――ああ、そうか。 なんだかんだ言いつつも、やっぱり私は、皆に誕生日を祝ってほしかったのか。

7 22/03/13(日)15:07:44 No.906100914

「では、僭越ながら私が乾杯の音頭を取らせていただきます」 「皆さんお飲み物は行き渡りましたでしょうか」 庶務の子が、皆がコップを持っていることを確認すると、腕を高く掲げる。 「シンボリルドルフ会長のお誕生日を祝って、乾杯！」 「「「「「乾杯！」」」」」

8 22/03/13(日)15:08:17 No.906101050

「おいブライアン、肉ばかり食うんじゃない。だいたい今日は会長のお誕生日をお祝いする会で…」 「私は十分頂いているよエアグルーヴ。それよりブライアン、ほかの子にもいきわたるようにするんだぞ」 「お肉類は多めに作ってあるんで大丈夫ですよ！」 生徒の一人がそう言うと、トレーナー君が小さく笑ったことにつられて笑いが広がり、ブライアンがそっぽを向く。 そんな様子につられて私までも笑みを浮かべていると、シービーが私の名を呼びながら肩をぽんと叩いてくる。 「はい、プレゼント。雨の日用のヘアオイルと尻尾用オイル」 「雨の日用なのが君らしいな、ありがとうシービー」 シービーが手渡してきた包装された箱を受け取ると、テイオーが声を上げる。 「ｱｱ゛ー！シービー先輩、ズルい！ボクが一番最初に渡すつもりだったのに！」 「え、そう？でもこういうのって早いもの勝ちだと思うけど」

9 22/03/13(日)15:09:08 No.906101288

次はボクだからね！と言うと、彼女特有のステップで人や机の間を縫うように抜けていくと――またたく間に戻ってくる。 「ボクのプレゼントはね、ボクとおそろいのリップクリーム。カイチョーにも絶対似合うよ！というか今付けてみて！」 「はは、そうか。それじゃあ早速…」 テイオーから促されるまま、プレゼントの包みを開け、小箱からリップクリームを取り出し、塗ってみせる。 「どうかな」 「可愛いよカイチョー！」 「か、可愛い…？」 「えー可愛くない？」 私の返事にテイオーは悄気げる様子を見せながら、手鏡を渡してくる。 ツヤのあるピンク色のリップが、唇を強調しつつも派手すぎないところが可愛い…ということなのだろうか。 「いや、すまない。あまり可愛いだなんて言われ慣れていないからな…」 「思えば、私のことをよく知っている君が選んでくれたものなのだから、似合わないわけがなかったな。ありがとうテイオー」 微笑みながら返すと、テイオーは気を取り直していつもの笑顔を取り戻してくれた。

10 22/03/13(日)15:09:46 No.906101467

「ルドルフ」 振り返ると、彼とエアグルーヴも包装された箱を持っていた。 「うん、テイオーの言う通り可愛いんじゃないか」 「ふふ、それはありがとう」 「ではあらためて、誕生日おめでとうシンボリルドルフ」 「俺からはこれ、ホットアイマスク。君も目を酷使するからな、休憩の時とかに使ってくれ」 「私からは紅茶の詰め合わせです」 「ありがとう、トレーナー君、エアグルーヴ」 彼の言う通り、生徒会業務もさることながら、学業やレース研究でも目を使うことから、ホットアイマスクはありがたいものだった。 エアグルーヴのプレゼントも、彼女が選んでくれた香り高い紅茶で心身ともに一息つけることを思うと、二人の心遣いが身に染みる。

11 22/03/13(日)15:10:45 No.906101791

「副会長、そろそろケーキを切り分けても良いですか？」 エアグルーヴが頷くと、庶務の子がケーキを運んでくる。 「これ、君たちが作ったのかい？」 「そうよ、エイシンフラッシュちゃんから監修もしてもらっているけど」 思わず聞き返してしまったのは、ひと目にはプロのパティシエが作ったかのような出来――あとで教えてもらったがナッペというクリームを塗る作業が非常に難しいそうだ――だったからだ。 「いたれりつくせりの歓待で申し訳ないな」 「なに言ってるのよ。あ、待ってグルーヴちゃん！切り分ける前に写真を撮りましょうよ」 「写真、ですか？」 「誕生日パーティーと言えばケーキを囲んで集合写真を撮るものよ。ほら皆、写真を撮るから寄って寄って」 マルゼンスキーの一言から始まった写真撮影を行うために、私の周りに集まってくると、改めて自分がこれだけの人々に支えられているのだということを実感させられる。 「今日の私は幸せ者だな。本当にありがとうみんな」 「何を言っているのです。今日だけでなくこれからもですよ」

12 22/03/13(日)15:11:25 No.906102001

「はい笑ってー」 トレーナー君が携帯電話を構える。 「これ、トレーナー君」 「ん？」 「主催者たる君が写真に写らなくてどうする」 「いや、俺は別に」 「早くこっちに来るといい」」 急ぐように促すと、彼は携帯電話を倒れないように立てて、足音を立てながら慌てて列の隅に並んでくる。 「またそんなところに」 私の意を汲んでくれた生徒の一人がトレーナー君を私の近くに連れてくる。 「ちょっ、10秒しか設定してな…おわっ」 彼の腕を引っ張ると同時に連続したシャッター音が響く。

13 <a href="mailto:おわり 会長誕生日おめでとう！">22/03/13(日)15:12:11</a> [おわり 会長誕生日おめでとう！] No.906102224

彼一人だけが、体勢の崩れた記念写真。 未来の私はこの写真を見返すたびに、この日感じた感謝と喜びを昨日のことのように思い出すだろう。

14 22/03/13(日)15:17:30 No.906103862

いい…

15 22/03/13(日)15:18:15 No.906104072

>いい… いいよね…

16 22/03/13(日)15:21:00 No.906104910

今日カイチョー誕生日だったんだ…

17 22/03/13(日)15:22:37 No.906105358

良いものを読んだ

18 22/03/13(日)15:22:54 No.906105434

そういえばサイゲは何故誕生日イベントを実装していないのだろう…？

19 22/03/13(日)15:23:31 No.906105621

>そういえばサイゲは何故誕生日イベントを実装していないのだろう…？ 会長をホームにしてログインするんだ

20 22/03/13(日)15:23:54 No.906105731

なんかこう…語彙力無くなる感じでいい…としか言えなくてすまないけどよかった

21 22/03/13(日)15:23:56 No.906105736

いい……凄くいい……

22 22/03/13(日)15:24:37 No.906105960

テイオーが自分が先に渡すつもりだったのに先を越されて奇声あげるのが本当に目に見えてわかる

23 22/03/13(日)15:25:16 No.906106149

>>そういえばサイゲは何故誕生日イベントを実装していないのだろう…？ >会長をホームにしてログインするんだ 育成イベントでほしい…

24 22/03/13(日)15:29:36 No.906107673

いい… 会長はサプライズパーティーでお祝いされてるのが似合うというのはわかる

25 22/03/13(日)15:30:43 No.906108029

トレーナー君生徒会にめっちゃ馴染んでるな…

26 22/03/13(日)15:32:33 No.906108653

>トレーナー君生徒会にめっちゃ馴染んでるな… 会長の右腕だからな…

27 22/03/13(日)15:34:00 No.906109086

>トレーナー君生徒会にめっちゃ馴染んでるな… シニア合宿で最後のバスに生徒会の3人と乗り合わせていつもの面々だなと言われる程度には馴染んでるぞ

28 22/03/13(日)15:36:47 No.906110045

いい…

29 22/03/13(日)15:46:17 No.906113335

いい雰囲気になったら上手い感じに送り出してくれそうだよね生徒会

30 22/03/13(日)15:47:44 No.906113822

美しい物を見た

31 22/03/13(日)15:57:35 No.906116946

久々にまともカワイイ会長見た ありがとうな……

32 22/03/13(日)15:58:56 No.906117373

エアグルーヴ なんか会長にじっとり感ない…？

33 22/03/13(日)16:03:57 No.906118968

ウマムスマーdel