虹裏img歴史資料館

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22/03/12(土)23:13:41 「すん... のスレッド詳細

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画像ファイル名:1647094421926.png 22/03/12(土)23:13:41 No.905901177

「すんません、コタツの上片付けて拭いておいてもらってもいいッスか?」 「りょーかいプーイ」 ところによっては桜の花が咲き始めたというこの頃でも、まだ寒い日は続く。コタツをしまい込める日はまだ遠そうだ 湯気を立て続ける鍋をヘラでかき回しながらプイ先輩に声をかければ、楽しみだったのか素直に元気なお返事 そもそもの発端というか言い出しっぺだし、一番楽しみにしていたのは間違いないだろうけど 「こっちもそろそろ出来上がりッスね」 「すぐできるプイ?」 「しっかり絞らないといけないんで大変ッスけどね」 鍋の中には白い液体。仕込み時間も含めれば阿呆みたいな時間がかかったものの、焦げることも無く無事に完成したと言っていいだろう こぼしたり火傷したりしないように気をつけながら、その液体を目の細かい清潔な布巾を敷いたザルにあけていく 底に残らないようにかき混ぜつつしっかり全てを移しきったら、少し置いてザルの下のボウルに液体が大まかなところ落ちきるのを待って…

1 22/03/12(土)23:14:20 No.905901402

「そこのやつ取ってくださいッス」 「これプイ?なんか、こんなの夜に見た覚えがあるプイ。こう、カーンカーンって」 「夜警の拍子木じゃないッスよ」 まぁ、確かに料理用の道具と言われても使い道がよくわからないだろう。実際ハンドメイド品だし 50センチほどの表面を焦がした角材を二本、尻の部分に金具をつけて閉じたり開いたりできるそれは確かに拍子木に見えなくも無い。もしくは映画監督のあれ。カーットってやつ 布巾の端を火傷に気をつけて持ち上げて束ねて、その角材で挟み込む。頭の部分に付いた別の金具でワンタッチロック。これでよし 「じゃあその木の両側。しっかり押さえておいてくださいッスよ。火傷しないように鍋掴みつけてくださいッス。それ防水の奴なんで」 「がっちり押さえたプイ」 「っし。じゃあ、引っ張るッスよ」 「力比べプーイ」 プイ先輩が角材を下に押さえつけた状態で、上に布巾を引っ張り上げていく 液体の中の固形物が角材で絞り上げられて汁気がどんどん下に落ちていく。僅かに適度に開けられた隙間で布巾は通るが、中身が逃げることを許さない

2 22/03/12(土)23:14:49 No.905901570

「ぐぬぬぬぬぬ……」 「プキュキュキュキュキュ……」 ええい気が抜ける すっかり汁気が落ちきって固くなった布巾の中身。このくらいで大丈夫だろうか。ウマ娘のパワーでガッツリやったしいいとは思うけど 「ふぅ、オッケーッス。じゃあこれは別のボウルにあけて冷ましておくッスよ」 「わ、割と疲れたプイ」 布巾を開けると、そこに入っていたのは薄く黄色かかった白っぽいボロボロとしたなにか 上手く水分を絞り切れたらしい。これならあとでまた美味しく使えるはずだ そして大事な部分……絞り出したその汁は、ボウルの中にしっかりと集まっていた

3 22/03/12(土)23:15:08 No.905901675

「よっし。これで完成ッス。あとは土鍋にこれ入れてコタツの上で火にかけてでいいッス。小皿とお箸、それと調味料と薬味…」 「手伝うプイ。こっちはこのままでいいプイ?」 「蠅帳だけかけておいてくださいッス。あとで別の料理に使うんで」 できあがったそれらは、どちらも普段自作などしないものだ 白い液体は豆乳。固形物はいわゆる「おから」 「さて、もうすぐできるッスよ。自家製湯葉」 プイ先輩の目が、待ってましたとばかりにキラリと光った

4 22/03/12(土)23:15:30 No.905901792

● きっかけは珍しいことに、プイ先輩が大っ嫌いな外面モードでのお仕事だった お高いお店のお座敷に通されて、雑誌記者のいるところでURAのレース実行委員のお偉いさんとの対談収録 表情筋を酷使しすぎて筋肉痛になった、なんて言っていた。対談記事を見るのは割といろんな意味で楽しみだが、その苦労と、終わった後に癒やしを求めにプレハブに訪れた際の疲労困憊っぷりは久しぶりに見るレベルで酷いものだった ただそのお高いお店で、お手洗いから戻る際に見たもの。別のお座敷へ運ばれていくそれは、なんとも不思議で嗅ぎ慣れない香りを放っていたという 気になってしまって、お店の人にアレは何かと質問してみたところ……それは、いわゆる「汲み上げ湯葉」だったという 「むぅ。お仕事先で食べたいと本気で思ったのなんて久しぶりプイ」 「そんなに物珍しかったんスか」 「独特の匂いだったし、調べたら面白そうで夜中にお腹くーくー鳴らしちゃったプイ」

5 22/03/12(土)23:16:04 No.905901956

簡単に想像できるなぁ、なんて笑いを堪えて そして外面モードでの外交で極限まで心身共に疲れ果てたプイ先輩は、癒やしを求めにやってきたプレハブでその事を話して作れる?作って。作って!!と駄々っ子モードに 軽く調べたところ、無理ではなさそうだったので後日やるんでとりあえず休んでくださいとその日は帰して、翌日大豆を用意したというわけだ 市販の無調整豆乳でも作れるらしいしそっちの方が明らかにお手軽だったが……せっかくだ、と。こっちもちょっとばかり興味本位というか興が乗ってしまって、豆乳から作ることにしてしまった 「大豆を水で戻す時間がめたくそ長かったけどそっからは割とシンプルだったッスね。あ、入ってるガス缶中身大丈夫ッスか?」 「大丈夫そうプイ。むしろ大豆持って戻ってきた時のあの微妙な表情なんだったプイ?」 豆乳を入れた、普段より一回り小さい土鍋。それをカセットコンロで火にかけて二人対面にコタツに入る ああ、そういえばそうだった……実のところ、この大豆は買ったものでは無かったりする

6 22/03/12(土)23:16:26 No.905902079

「これ買ったんじゃなくて差し入れなんスよ。日中に人にちょろっと話したのを聞きつけたらしくて持ってきて…」 「え、誰プイ?ていうかまた凄く微妙な顔になってるプイ」 はぁ、とため息をひとつ落として 「どこぞのぶえっとした田舎娘ッス。実家産だべっていって大袋で持ってきたッスよ」 「おぉう…そういうことだったプイ」 「国産産地直送の味を知るがいいべとかめっちゃ得意げだったッスけど、あれ多分自分が実家から送られてきたやつの処理に困ってたってパターンッスね」 いやまぁありがたいのは確かなのだが。あのぶえっとしたドヤ顔思い出すと、なんかこう、ね?というか 「っと、そろそろッスね。これ、小皿に入れておいてくださいッス。すぐ食べられるッスよ」 「え、もうプイ!?わっとと」

7 22/03/12(土)23:16:57 No.905902289

沸騰しないように気をつけつつ温めた豆乳の表面に僅かなシワが寄ったのがわかる。これならもういいだろう プイ先輩が言い出したことだし最初はプイ先輩に譲るとしよう。Umazonで見つけた湯葉醤油も用意できたみたいだし 「真ん中あたりを箸で摘んでください。そんで静かに上に上げて小皿に移して醤油つけて食べれば大丈夫ッスよ」 「そ、想像の数倍はシンプルだったプイ」 おっかなびっくり。だけど興味津々に、表面に張った豆乳の膜……湯葉を汲み上げる まぁ本当に無調整豆乳買ってきて温めれば割と普通に作れるのだが、なかなか実際に作ったことがあるという人は少ない料理だ 柚皮を少し散らした湯葉醤油につけて、それをじっと見つめるプイ先輩 なんかこう、そこまでキラキラした目をしてくれれば多少報われるというか 「い、いただきますプイ」 「ほい、どーぞ」

8 22/03/12(土)23:17:20 No.905902449

恐る恐る、やはり初めて食べる上に見慣れない食べ物だからか 念のため数回吹いて、意を決して口に放り込むと…… 「………っん!!!なんか、凄く不思議な味プイ!!」 目はキラキラと輝いている。どうやら、気に入ったらしい 「材料が豆乳100%だから結構青臭いかと思ったけどそんなことなかったプイ。むしろふわっと柔らかい香りで…あ、歯ごたえも意外とあったプイ」 「ホットミルクの膜なんかと比べると断然しっかりしてるんスよね。あ、次貰っていいッスか?」 「ん、どうぞプイ。意外としっかり…なんかこう、食べてるって感じがするプイ」 確かに、薄い膜をすくって食べるという行為のイメージに反して食感はわりかししっかり気味で面食らう人も多いかもしれない 素材が大豆だからだろうか。あと質の悪い豆乳で作ると青臭さが凄まじいことになるらしいが、今回はその失敗もなく上手くいったようだ。あの田舎娘には流石にお礼でも持っていかねば しょっぱすぎないように調整された旨味の多い湯葉醤油に柚子皮の香り、そこにシンプルだが力強い湯葉を絡ませることでほんのり漂う甘みをより味わうことができる そして、湯葉鍋の醍醐味といえば、だ

9 22/03/12(土)23:17:42 No.905902572

「……次のを待つ時間が、なんかゆっくりしてていいプイ」 ゆらりゆらりと揺れる豆乳を穏やかな目で見つめるプイ先輩 湯葉は一枚できた後、濃度や温度で多少上下するが少し時間がかかる。なので、ガツガツ食べるという鍋ではないのだ 「一人二人で一つの鍋で、こうしてゆっくりしながら過ごすには最適の鍋ッスよ」 「二人だと、こうして代わりばんこにのんびり食べてって、すごくのんびりできていいプイ」 「三人以上になるともう成立しないッスよねこれ」 いや二人でも危ない組み合わせはあるけど。どこぞのカサマツアシゲとか日本総大将とか 「待ちながら他のものつまむのもいいものッスよ。これ食べます?」 「プキュ?お漬物プイ?」 「姉貴が知り合いのお年寄りからカブ貰ってきたんで漬けたッス。上手くできたッスよ」 「なんだかここの日常が限界集落の寄合世帯みたいに思えてきたプイ」

10 22/03/12(土)23:17:59 No.905902661

あのちびっこ怪獣、変な方面に人気が出てて思わず笑ってしまいそうになるから危ないのだ でも本人もお年寄りたちのお手伝いとかは悪い気してないようなので、それはそれでやってもらおう。その優しさをほんの1オンスでも他に向けて欲しいというのが総員の意志だが 「んあ」 「……はいはい。ほら、どうぞ」 「んむ」 当たり前のように口を開けて待ってくる。最近もう慣れたが、二人だと特にこうして餌待ちの雛になることが多い気がする 見た目色々アレだし人目のあるところではやらないでくれと言うべきか そもそも受け入れてしまってる自分も……まぁ、うん 「んー、程よく漬かってて美味しいプイ」 「どうもッス。あ、次できてるッスよ」 「いただくプーイ」 「わさび醤油試してみるといいみたいッスよ。それと紫蘇ポン酢も」

11 22/03/12(土)23:18:13 No.905902749

湯葉はこうして出来立てを食べるのはもちろん美味しいのだが、作っておいて後で鍋に入れたりもできるし春巻きの皮のように使うこともできる また作っておいて他のみんなのいる時に使ってみよう。流石にこのスタイルで全員分は場所と土鍋とコンロが足りなすぎる 「あ、わさび入れすぎ…………ツーンプーイ!!!」 「はいはい、お茶お茶」 まだまだ寒い日が続く中で、ちょっとした贅沢な時間 プイ先輩と二人きりでぐだぐだするのもなんだか久しぶりな気がするが、まぁその、悪くはない くだらない話をしながら、鍋の水面を眺めて、交代で箸を伸ばす コタツの暖かさと湯葉の熱。お茶の温もりに漂う香り 「今度、これで包んで揚げ物やってみますかね。枝豆刻んで入れたり、ササミ入れたりしても美味しいらしいッス」 「おぉー。それならみんなで食べられるプイ」

12 22/03/12(土)23:18:27 No.905902821

もうすぐ春が来る中で、もう少しばかりこうして寒い日の楽しみを味わっておくのも…… 悪いことじゃないだろう

13 22/03/12(土)23:18:40 No.905902898

● 「さて、そろそろ締めいきますか」 「え?これ締めとかあるプイ?うどん?雑炊プイ?」 「流石に純度100%の豆乳でそれは勇気ないッスねぇ…」 二人してある程度食べて、満足感も出てきた頃に 残った豆乳を有効活用する締めをあらかじめ調べておいてよかったと思う。割と処分困るし 取り出したのは、透明な液体の入った小さいボトル 「これを入れて………少し熱して火を止めて……」 こんなもの、流石に買うのも使うのも初めてだ。分量調べたけど割とどこのレシピも曖昧気味なので実は自信がない いや、少なすぎないかこれ。まぁ豆乳の残量とかに左右されるから一概に決まった量言えないんだろけど

14 22/03/12(土)23:18:57 No.905902988

「そんな少なくていいプイ……あれ?なんか、変な感じに……」 「おー、成功したみたいッス。プルンプルンッスね」 鍋の中の豆乳が姿を変える。まるでゼリーの製作過程のように、纏まりのある柔らかな姿へと 普段四角いパックに入ったものくらいしか見ないからこの見た目ではなかなかわかりにくいが、この国に住んでいればほとんどの人が知っているし食べたことがあるものだろう 「もしかしてこれ……」 「豆腐ッス。さっき入れたのはにがりってやつッスね。はい、お椀とレンゲッス」 出来上がった柔らかめの豆腐を慎重に……いや形は崩れるけど。ゆっくりとお椀によそって、眺めてみれば漂ってくる濃厚な豆腐の匂い 普段より濃く感じるのは自家製だからか、豆の違いなのか、それはわからないけど美味そうなのは確かだ

15 22/03/12(土)23:19:12 No.905903082

「あむっ………んー!!!普段のお豆腐よりかなり柔らかいけど味が濃いプイ!!」 「あ、これ醤油とかいらないかもしれないッスね……少量だけ垂らして……あ、美味い」 「さっき使ってた湯葉醤油と柚子皮がよく合うプイ。お鍋に欲しいプイ」 「んー、形崩れてなくなっちゃうッスねこれは」 普段の湯豆腐よりも、ああ豆を使ってるんだなということがよくわかる濃厚な風味 これは、ちょっと病みつきになりそうだ。手間はかかるが、時々作ってみたくなる 人数分は………ちょっと手間過ぎるかもだが。不定期的にその時にいる人数分だけ作って…… いや、大豆戻すのが大変過ぎるなそれは 「大豆の提供者にも差し入れしてみるプイ?」 「いいッスね。豆乳少し残してあるんで、ルームメイトと食べるッスよって渡すッス」

16 22/03/12(土)23:19:32 No.905903198

はふはふと、火傷しそうな熱さに気をつけながらもそれを楽しんで 体の芯から温まる感覚が心地いい。胃が疲れてる時なんかにもよさそうだ 「プイ先輩の思いつきのわがままも、時にはこうしていい結果出すッスね」 「プップップーイ。さあ崇めるプイ♪」 まったく、この人ときたら 「おるちょーっぷ」 「プキュンッ」 でも、なんだかすごく得してしまったのは確かだろう 毎度毎度振り回されてばかりの日々だが、別に悪い気はしない。こういう時は、だ

17 22/03/12(土)23:19:55 No.905903345

「次は豆乳アイスでもデザートに作ってみますかね」 「豆乳の見方が変わったプイ。割と万能食材だったプイ」 桜が満開になるまで後少し。コタツはいつまで出てるだろう 年が明けてもう幾月か。寒さに震える季節はもうすぐ去っていく そしたら、みんなで花見でもしようか。きっと反対する人はいないだろうし 弁当作って、飲み物持って。せっかくの短い季節の風物詩を味わいに 「りんご剥いておいたッスけどデザートで食べます?」 「んあー」 「ええい、自分で食べればいいものを…はいはい」 でももうちょっと、寒い日が続くなら またこうして、この人とコタツでだらけて過ごすのも……きっと、悪いことではないと思うから

18 22/03/12(土)23:21:23 No.905903860

桜の花にも負けない、その笑顔を咲かせた先輩と過ごす次の季節が 「おかえしプイ。はい、あーん」 「………あー」 もうすぐ、春が来る。

19 22/03/12(土)23:21:59 No.905904070

以上。やっと酒が飲める程度に回復したので祝酒して舎弟した

20 22/03/12(土)23:22:25 No.905904230

あぁ…荒れた心に酒飲みのオルプイが染み渡る…

21 22/03/12(土)23:22:53 No.905904387

イチャイチャしてる

22 22/03/12(土)23:23:04 No.905904452

おお久しぶりの酒飲み舎弟だ 何があったか知らないが回復したなら何よりだ

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