ここでは虹裏imgのかなり古い過去ログを閲覧することができます。
22/03/04(金)12:56:51 No.903156551
彼女サンデーサイレンスとの出会いはURA主催のパーティーだった。初めて会った時の彼女は病的に白い肌に黒いロングドレスを着ていて、まるで幽霊のように見えた。しかし、彼女の目はギラつき、鋭い視線が私を捉えていました。 「ハジメマシテ」 拙い日本語の挨拶の後、彼女は私の手を握るとその手に唇を落とした。突然の出来事に反射的にその頬を平手打ちしてしまった。その態度に彼女は笑いながら謝罪してきました。
1 22/03/04(金)12:57:12 No.903156647
サンデーサイレンス、理事長がアメリカから呼び寄せた米国レース会の黒い流星。テレビで見た彼女走りはまるで閃光のように早く、力強いものでした。 他のウマ娘では成し得ない異常なフットワークにより、速度を落とさずにカーブを曲がり加速して相手を抜き去る姿は美しく見えた。 パーティーの後も何度か話す機会があり、彼女がまだ日本の文化に慣れていない事もあり、私がサポートする事もあった。 彼女の指導するチームは一年目にしてG1ウマ娘を輩出。その後もGIウマ娘を出し続け、サンデーサイレンスは日本トレセン学園の誇る最強のチームの1つとなった。
2 22/03/04(金)12:57:41 No.903156805
「マックちゃ~ん飲み行こうぜ」 いつも通り練習後のミーティングを終えた後、サンデーサイレンスが私を飲みに誘う。 トレセン学園の近くにあるbarに入り、彼女はバーボンを使ったカクテルカウボーイを私はメロンリキュールを使ったメロンスペシャルを頼む。 グラスを傾けて喉の奥へ流し込むとアルコール特有の熱さが全身を巡る。サンデーサイレンスと二人で飲む時は大体こんな感じだ。仕事の愚痴を吐き出し合ったり、互いの担当について話したりもした。 彼女と過ごす時間は不思議と居心地が良く、いつしかそれが当たり前になっていました。 お互い担当ウマ娘が怪我により次のレースを棒に振った時は、つい深酒をしてしまい慰めあう事もありました。あの日もそうだった。
3 22/03/04(金)12:58:01 No.903156908
「……あの子の次のレースが延期にならなければ……」 カウンターテーブルに置かれたカクテルの氷を見つめながら呟いた言葉は静かな店内によく響いていた。グラスに残った液体を一気に煽り、マスターに追加注文をする。 どこかで心の深い場所が弱くなっていたのか。ついつい弱音を吐いてしまう自分が情けないと思いつつも、口から溢れ出る言葉を止められなかった。 「メジロ家の同期でレースに残ったのは私だけですが後悔はありません。しかし、別の道を選んでいたらとふと思ってしまうのです」 私の話を黙って聞いていたサンデーサイレンスはこう言った。
4 22/03/04(金)12:59:13 No.903157236
「オレには産まれた時からレースしかなかったんだ。それこそ、レースに出るまでの人生は泥水をすすり続けてるようなもんだったけど、レースに出た瞬間に全てが変わって見えた。オレは走る以外の生き方を知らないんだ」 彼女が脚を故障しレースを引退した時も少しでもレースに関わり続けたかった。しかし、アメリカのレース社会は彼女に冷たかった。家柄もろくなスポンサーもない彼女の指導を受けに来たウマ娘はいなかった…だから彼女は故郷を去りこの日本に来たのだ。 「オレは走る事以外何も知らない。だけど、マックちゃんはどうだい?」 そう言って私の肩に手を置いてくる。そして、私の目を真っ直ぐに見据えながら言う。 「私はメジロ家の令嬢として誇りを持っています。その誇りを私はレースで勝つ事で証明して来ました。それは…これからも変わることはありません」
5 22/03/04(金)12:59:41 No.903157359
そう言い切った私にサンデーサイレンスは満足そうに微笑む。 そうだ。例えどんな道を歩んでいても、メジロマックイーンというウマ娘は変わる事はない。ならば、自分の選んだ道に後悔はない。 そんな事を考えているうちにサンデーと目が合った。あの鋭い猛禽類の様な紅い瞳。互いに示し合わせたわけではなく自然と唇が重なっていた。 柔らかい唇からはカクテルの匂いが残っていたのか甘くミントの香りがした。
6 22/03/04(金)13:07:27 No.903159166
おわり