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22/03/01(火)22:49:54  ディ... のスレッド詳細

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22/03/01(火)22:49:54 No.902445637

 ディープインパクト――妹が足を血まみれにしながらも走ることを止めなかったあの事件からしばらくの月日が経った。  無事に妹の破れた足の裏は完治して、今では再び楽しそうにグラウンドを走っている。あの日見た吸い込まれそうな深い闇を宿した目は、それ以来一度も見かけることがなくて、ひょっとすれば私の見間違いだったのか、と思わざるを得ない至って“普通”の有様だ。  私もそうであったのだが、私達のスピードにはたとえウマ娘専用の品であっても子供用シューズでは耐久が足りないらしい。  そこでトゥインクルシリーズを走るウマ娘が使うような本格レース用のシューズを私と同じように仕立てて貰った。色とデザインは私が選んで、蹄鉄も自ら取り付けた。 「お姉ちゃんから貰ったこの靴、宝物にする。この靴と一緒に一生懸命頑張るから」  そのシューズを妹にプレゼントすれば、普段から大人しい妹には珍しく程非常に上機嫌に顔を綻ばせ喜んでくれて、私と両親も同じように笑顔になった。

1 22/03/01(火)22:50:07 No.902445699

 こんなにも愛らしい妹を一度でも気味が悪いなんて思ってしまった自らを恥じる。  あの時はただ負けん気が過ぎて少しばかり普通の精神状態じゃなくなっていただけに違いない。ランナーズハイなんてウマ娘ならよくあることだ。    しかしそれでも妹が初めて見せた走りへの激情。  負けず嫌いであることはレースに必要な適正である。ひょっとしたら、妹は競走バとしてやっていけるのかも知れない。  私は今までほとんど妹と一緒に走ることがなかった。  そもそも走ることに向いてないと思っていたし、小さく華奢で繊細な妹にクラスで…否、学校全部でだって誰にも負けない私の走りについてこれるとは露ほどにも考えてなかったから。

2 22/03/01(火)22:50:26 No.902445831

 併走に誘って見ようと、ホームルームが終わってから妹のクラスに行けば一人帰り支度を始めている妹の姿が見える。  妹は未だに友達ができていなかった。例の事件で元から浮き気味だった妹が更に引かれてしまったのも原因だろう。時間が解決してくれるとは思いたいが、いざとなれば私が一肌脱ごうと思っている。友達を作るなんて100メートル走より簡単だろ? 「インパクト。今日、一緒に走らない?」 「……うん、走る」  ――結論からいえば、妹の走行能力は私の想像を遥かに超えていた。  まだまだ私よりは遅いし、スタミナや力強さなど足りてない部分も多いが、トップスピードへ至る瞬発力、そしてそれを維持できる加速力が他のウマ娘に比べて桁違いなのだ。  まるで、あたかも空を飛んでいるような走り。そして何より――。

3 22/03/01(火)22:50:52 No.902445988

「はっ、はっ…一緒に走るの、楽しいね、お姉ちゃん」  妹の走る姿は、誰よりも楽しそうだった。走ることへの楽しさが顕現されたようなその姿が、美しかった。  その姿に、私は刹那の幻を見た。  スタンドを大歓声と共に埋め尽くす満員の観客。  バ群を抜ける二人のウマ娘。  興奮を言葉に変えて私と妹の名を繰り返しレースを彩る実況。  そして――。

4 22/03/01(火)22:51:13 No.902446113

 はっ、と意識が現実に舞い戻ってくる。  不意に、ふふっと私の口から歓喜が溢れた。ウマ娘の神様に愛されていないと思っていた妹が、レースに出ることなどないのだろうと思っていた妹が、本当はこんなにも才に溢れていた。  少し、ズキリと胸が痛むような思いもある。おそらくは、それが嫉妬と呼ばれるものであることはわかっている。  体を癒やす為に一年以上安静にしていた妹が、まだ及ばないとは言えどもいつか日本一のウマ娘になるという夢の為に日々努力していた私と競っているのだから。  でもそれ以上に私の心を満たしていたのは、姉妹で大レースの舞台で勝負する、というあまりにも素敵な未来への情景だった。  どちらが強いか、どちらが速いか。勝っても負けても悔いの残らないような戦いの末、ターフの上で健闘を称え合い二人で応援してくれたファンに向かってウイニングライブを踊る。  そんな光景が、私の胸を焦がす。 「…うん。走るの楽しいな、インパクト」

5 22/03/01(火)22:51:24 No.902446181

 この日、私にはもう一つの夢ができた。  いつかG1レースという大勝負の舞台で、姉妹で走るという夢が。  ――絶対に、夢を叶えて見せる。  それが夢で終わらないほどの才能を私達姉妹に与えてくれたことを、私は深くウマ娘の神様に感謝した。  その時の私は、神様とはとても優しい存在で、いつも笑顔で私を見守っていてくれるものだと信じていた。  神様が本当に見守っていたのは――。  私の、隣だったのにね。

6 22/03/01(火)22:51:59 No.902446373

 ■    それからさらに月日が流れて、トレセン学園に入学した私はまさに順風満帆だった。  才能と素質が認められ、かの日本総大将スペシャルウィークや平成三強の一角スーパークリークといった名バを育て上げた学園でも一二を争う名トレーナーに見定められことも当然だと思う反面やはり嬉しさは隠せない。  そんな栄光への約束が保証されたような輝かしいスタートを切っているものだから、この頃の私は少し――いや、かなり横暴で傲慢な性格になっていたと思う。  別に悪さをした覚えはないが態度は悪かった。自分でもそう感じているのだから、周りのウマ娘からは輪をかけてそう思われていたことだろう。  しかし同世代の中で言えば私のそんな気性などマシな方であることが後々判明していったので、別にそこまで浮いているわけでもなかったのだが。

7 22/03/01(火)22:52:11 No.902446428

 なんせ同期には相手が気に入らなければ胸ぐらを掴み上げ殺意の篭もった目で見つめてくるような、トレセン学園の前に所属していたトレーニングジムを「手に負えない」と放り出されたなどのやばい噂の耐えないヤンキー丸出しのダイワメジャー。  ゲート訓練中に「こんな狭いとこ入ってられないわよ!」とブチ切れゲートに入ることを拒み脱走するようなワガママ魔女っ子スイープトウショウ……といった両名を筆頭にかなり気性難に問題のあるメンバー揃いなのだから。  実力はあるのだろうが、こいつらは多分ろくな戦績も残せずトゥインクルシリーズを終えるのだろうな……と私は哀れみさえ向けていた。  現状、唯一私の敵になり得るのはただ一頭のウマ娘キングカメハメハくらいであろう。  メイクデビューに向けて練習と調整を続ける私達の中で、私に次いでクラシック候補に名乗りをあげているのが彼女だ。  およそ中学生離れした豊満さと同性から見ても色気を感じるようなボディを持つカメハメハの実力はその体に顔負けしていない速さを持っている。クラシックでぶつかればかなりの難敵になることは想像に容易い。

8 22/03/01(火)22:52:42 No.902446642

 ただ彼女は『そっちの気』でもあるのか、レースより恋と言わんばかりにいろんなウマ娘にアプローチをかけていた。  「あなたいい体してるわね…どう? このあと一緒に…❤」と言われて私も胸を揉まれたことがあったが当然殴った。ダイワメジャーやスイープともまたベクトルの違う困った奴だった。私の同期はこんな奴らしかいないのだろうか? ■  そうして、いよいよ私のメイクデビューの時が来た。  新バ戦であるし、そこまで目立ったライバルは居ない。強いて言えばフランスからやってきた名のあるトレーナーの元に所属しているスウィフトカレントくらいだろうが、私の敵じゃない。  レース場の観客席を見る。  そこには私の自慢の妹が見に来てくれていて、視線に気づいて手を振っていた。私も口元をあげて手を振り返す。

9 22/03/01(火)22:52:58 No.902446750

 あれから、妹はその素質を開花させるように成長していった。体つきは小さく華奢なまな板のままであったが…。  しかし来年に入学する頃には、きっと期待のウマ娘としてその名を轟かすことになるであろうという予感があった。そんな妹に負けてられない。  目標は当然無敗三冠。かの皇帝、そして今もトレセン学園会長を務めるシンボリルドルフだけが達成できた境地に挑む。  うぬぼれではなく、それを可能にするだけの実力が私にはきっとある。最強の日本一のウマ娘として頂で妹を待ち、そしてG1の大舞台で姉妹で勝負する為にもまずはこの初戦、ただ勝つだけじゃなく圧勝しなければ。  全員のゲートインが完了する。静寂が心地よい。  今か今かと緊張感がはち切れんばかりに溢れ出し、脚に力が籠もる。  夢への扉が開かれるようにゲートが広がり、私はターフへ飛び出した。

10 22/03/01(火)22:53:39 No.902446997

『さあ外からブラックタイドが追い詰める! スウィフトカレントを一気に交わした! ブラックタイド先頭! ブラックタイド先頭! 二バ身から三バ身突き放した! スウィフトカレント二番手! 先頭はブラックタイド! ゴールイン!』  圧勝劇とはさすがにいかなかったけれ、しかし私は初戦を難なく制した。  ウイニングランと共に右手をあげる。朗らかに笑って拍手をする妹の姿につられて、私にも笑顔が浮かんでしまう。横で妹と同じように観戦していたトレーナーも同じように喜んでくれていた。  ここは単なる通過点。これから先の長い長いシリーズへの第一歩。  でも、その大いなる第一歩を、私は心の中でしっかりと、しっかりと、噛み締めていた。  それが、私の夢への第一歩。  そして。  ――私の悪夢の、一歩前だった。

11 <a href="mailto:おわり">22/03/01(火)22:55:24</a> [おわり] No.902447621

ディープインパクトとブラックタイド物語その2 そのうち続きます…あと本来ならこの姉妹にはもう一人妹がいるはずなのですがオンファイアまで出すとあまりにも話が長くなるのでこの話には出てこないんだ許してくれるだろうか許してくれるねグッドルッキング

12 <a href="mailto:s">22/03/01(火)22:56:11</a> [s] No.902447885

ついでに前の話も置いておきます fu850897.txt

13 22/03/01(火)22:56:12 No.902447892

読んでてつらい

14 22/03/01(火)22:56:15 No.902447911

ああ辛い……辛いけど読んじゃう…

15 22/03/01(火)22:56:53 No.902448128

おつらい…

16 22/03/01(火)22:58:17 No.902448616

なんだい今日はプイプイにクソデカ感情を抱くウマ娘をよく見るが…

17 22/03/01(火)22:58:42 No.902448741

キンカメはさぁ…

18 22/03/01(火)22:59:34 No.902449011

>スイーピーはさぁ…

19 22/03/01(火)23:00:33 No.902449362

メジャー兄さんそんな気性激しかったのか…

20 22/03/01(火)23:01:13 No.902449611

でも問題児達の描写挟まないと重すぎて耐えられんかもしれん…

21 22/03/01(火)23:02:15 No.902449942

>友達を作るなんて100メートル走より簡単だろ? そうッスね×1

22 22/03/01(火)23:03:25 No.902450356

>メジャー兄さんそんな気性激しかったのか… 五十嵐騎手にわからせさせられて少し大人しくなった

23 22/03/01(火)23:03:46 No.902450463

スイープはプイのラストランでもゲート入りごねてたなそういや

24 22/03/01(火)23:04:16 No.902450622

もう辛いな…

25 22/03/01(火)23:04:31 No.902450702

これから先の姉上のことを思うと俺は辛い耐えられない

26 22/03/01(火)23:06:21 No.902451349

キタちゃんーーー!早く来てくれーーー!!!

27 22/03/01(火)23:06:43 No.902451512

これに加えてハーツとかいるし姉上の世代濃いな…

28 22/03/01(火)23:08:38 No.902452174

姉上が幸せな夢を見れば見るほどどんどん辛さが積み重なっていく

29 22/03/01(火)23:11:53 No.902453262

死のダービーもこの世代だし04世代ってひょっとしてかなりお辛い…?

30 22/03/01(火)23:12:12 No.902453366

療養中に妹の活躍を眺める姉上いいよね…

31 22/03/01(火)23:13:10 No.902453707

性格以外自分にそっくりなキタちゃんに思いを託して救われるエンドは見えてるんだが そこまでが長い…

32 22/03/01(火)23:14:24 No.902454110

お労しい未来が待ち受けている…

33 22/03/01(火)23:14:41 No.902454200

皐月賞がお辛いでしょう…お辛い…

34 22/03/01(火)23:17:58 No.902455252

姉上から貰った靴履けなくなってもプイは大事に持ってるんだよね…

35 22/03/01(火)23:18:42 No.902455471

>キタちゃんーーー!早く来てくれーーー!!! キタちゃんの後にエブリワンブラックで自分を投影して曇ったりしそうで…

36 22/03/01(火)23:22:07 No.902456578

ハーツクライも同期にいるのよねブラックタイド兄

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